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ⅩⅩⅦ アバウト学院編 中編(2)

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第2章。退学上申書


 ラファイアの変化したアマトが、開講時間間際に教室に現れ、席へついている。
男子学院生からは、
『きのうあれだけの恥をさらしたのに、よく来られたな』という目で
みられているのだが、一方女子学院生からは、
『今日のあいつどうしたの、透明感が半端ないんじゃない』と思われたようで、
チラ、チラ、と盗み見られている。

無論本来のアマトも、女性の目に写らないという意味での透明感は
半端ないのであるが、ラファイアの変化したアマトは、人間にあるまじき
静謐せいひつ感が半端ないのである。
 
講義はつつがなく終了していく。休憩時間に、フレイア・アストレア・エルナへの
お礼とおびを、アマト(ラファイア)はなめらかにこなす。
その残念すぎる容貌から、昨日まで感じられなかった品格が感じられる事に
3人は、打ちどころが悪かったんではないのかと、
本気でアマトを心配した。

・・・・・・・・

午後からの、エリース達の魔力結界学の準備を終えるアマト(ラファイア)、

『アマトさんのこととなれば、怖いですねユウイさんは。』

と思いながら、契約者アマトへに向けられる愛情に対しては、無条件に嬉しい
ラファイアである。

『それにしても、セプティさんは遅いですね。何か問題でも?
ここは、慈悲と博愛の白光の妖精は迎えに行くべきでしょう。』

鼻歌がでるような機嫌の良さで、セプティが講義の用意している教室へ足を向ける
ラファイアであった。

☆☆☆


 ジンバラは、講義時間の最後で一人ずつ自ら相手をする事により、
学院生の魔力剣使用の長所・短所をあぶり出す講義を行っている。
正規生には自らが受太刀(防御側)・聴講生には仕太刀(攻撃側)となる。
今は4巡目に入っている。

正規生は、入学前から、最低のたしなみとして、魔力剣を学習しているものも多い。
なかには、エリースのように強大な魔力を有しているが、魔法剣に関しては
全くの素人もいるが・・・。

 その中で、全くどうしようもない学院生がいた。アマトである。
剣筋自体はいい師匠に手ほどき受けたようで、くせはあるが、
見込みはかろうじてある。
しかし、打突の最後で無意識に、相手の急所を外してしまうのである。

 これは、個人としても、部隊の一人としても、
致命的な欠点であった。また商人としても、街の外に出れば、
盗賊・魔獣・妖魔が跋扈ばっこしている現実を考えれば、
相当な危険があるだろう。

万が一に期待をかけて、秘太刀を彼に振ったのである。生命の危機を感じれば
彼の硬く固まった無意識の壁を破る事ができるかもしれないと。

しかし、その思いは無残な形で裏切られた。

ジンバラ老は、断腸の思いで、ロンメル代理理事長に、アマトの退学上申書を
したためる決意をした。

・・・・・・・・
 
 ロンメル代理理事長は、ジンバラ老が提出した上申書に頭を抱えている。
無論、実力主義をとる、新アバウト学院の方針としては、アマトに対して
退学通知を出せば済む話である。学院生の一部に発生してる、復古主義を
抑制するためにも、有効な措置だろう。

アマト個人に対する処置としては、すご穏当おんとうなものに思える。若ければ
若いほどやり直しがきくのだ。自分達が悪者になればいい。

しかし、暗黒の妖精の契約者のアマトとしてはどうなのか?
もはや自分の判断できることわりを超えている。
2人の御老体を、代理理事長室に呼ぶことにしたロンメルであった。

☆☆☆


 ガラッと講義室のドアを開けるアマト(ラファイア)、セプティが黒板の前で
媒介ばいかい石を持って固まっている。

『媒介石?エーテルは十分に感じます。点ける消すは確かアマトさんのような
無エーテルの人でもできましたよね?』

不思議に思うラファイア。一群の学院生が、セプティに声を浴びせる。

「早く点けろよ。黒板が見えないだろう。」

慌てて、媒介石を光らせるセプティ。別の一群の学院生が声を浴びせる。

「なんで点けるんだ。黒板がまぶしくて見えないだろう。」

媒介石を消すセプティ。

「何回言わせるんだ。暗くて見えないだろうが。」

両方の一群の学院生は、ニヤニヤと笑っている。

『そういう事ですか!』

セプティ=聴講生・初級妖精契約者・魔力なし・実家の力なし・残念な容貌、
いたぶるには充分な理由なんでしょう。おそらく自分達より力を持つ者が来れば、
手の平を返して、

【僕たちは真面目で正義感あふれる人間です】
という態度をとるに違いない。


「セプティさん、次の用意があります。いきましょう。」

セプティの手を握り外へ連れ出そうとするアマト(ラファイア)。

「ちょっと待てよ。正規生が心地よく授業を受けられる環境をつくるのが、
君達、聴講生の役割だろ。規定にも書いてあるだろう。」

と、片方の一群の中心に座る正規生(名前はヌスト)が
いやらしい笑みを浮かべながらアマト達をとがめる。

「規定には急ぎの事案があったら、それを最優先せよ、
との規定もあったはずです。」

ラファイアは、契約者であるアマトの記憶から、その一文を拾う。

「自分達で相談して、媒介石を光らせるなり、消すなりして下さい。」

媒介石をセプティの手からもらい、講師の教卓に置いて、
セプティと出て行こうアマト(ラファイア)。

「待てよ、それをそこに置いていくなよ。」

と、片方の一群の中心に座るにこやかな顔の正規生(名前はスリト)が
声をあげる。

「あなたが、取りにきたら、いかがです。」

アマト(ラファイア)は半分切れかかっている。

「なんで僕が?僕は講義を受ける準備をして座っているんだ、
何で立たないといけないんです。」

向こうから飛び込んできたネズミだ逃がさんぞというネコのように、
見かけは極めて上質の笑いを浮かべる正規生(名前はスリト)。

「ラ、アマトさん、あの人たちは、準侯爵家や伯爵家・子爵家・男爵家・
上級騎士の家柄の人達です。これ以上すると、アマトさんが学院で・・・・」

「私があやまりますから。」

「それは違いますよ、セプティ。あるじを裏切り降伏して尻尾をふって没落した
元準侯爵・元伯爵・元子爵・元男爵・元上級騎士の家に生まれただけの、
生物ですよ。」

正規生達のせせら笑いの中に、《少しは抵抗してくれないと、いたぶりがいがない
と思ってたら、無謀にも反抗しやがった。》
と面白がりと憤怒ふんぬの感情が入り混じる。

「貴様、僕たちを愚弄ぐろうするのは構わないが、生家を馬鹿にするのは許さん。
名誉にかけて、貴様に決闘を申し込む。」

棒読みで物語る正規生(名前はスリト)。

双方の一群より大爆笑が起こる。

「さすがスリト君、貴族の鏡。」

と合の手を入れる正規生(名前はゴウト)。

「いいでしょう、受けましょう。古礼にのっとって。明日朝7時闘技場で、
双方武器は自由、そちらの助太刀は無制限。
立会人は、当校最高顧問暗黒の妖精ラティスさんに
お願いしましょう。」

アマト(ラファイア)が良く通る声で宣言する。

☆☆☆


 夕方、事務長室を訪れるジンバラ、その品のいいドアを開くと、
代理理事長兼事務長のロンメル以外に、見知った2人の老人が、
彼を待っていた。ジンバラが席に座るないなや、

「ジンバラ老、午前中にいただいた、アマト学院生の退学上申書の件だが・・・。」

とロンメルが話し出す。

「撤回せよというなら、ワシを首にして下さい。」

ジンバラは、覚悟を決めてきたせいか、そっけない。
次の言葉に詰まるロンメルに、

「そう言うなジンバラ。ロンメル坊主が困っているじゃないか。」

と、魔法攻撃学の大家バレン老がいさめる。

「アマト学院生が、単なる重症のヘタレと言うだけならワシもバレンも
ここにはおらんさ。ロンメル、早く3人を集めた理由を、ジンバラに言わんか。」

「はい、ハイヤーン老。」

「ジンバラ老、アマト学院生はの契約者なのです。」

「馬鹿な!あの学院生からは、エーテルの欠片かけらも感じんぞ。」

ジンバラ老も、ロンメルのその言葉に、日頃の冷静さを失い声を荒げる。

「暗黒の妖精ラティス殿にとって、エーテルの入手に人間の仲介は必要ない
という事だろう。」

「ワシは生涯にわたって妖精を研究してきた。その結論は超上級妖精以上の力を
持つ妖精などおらんという事だった。」

吟遊ぎんゆう詩人がうたうサーガの中に出てくる、極上級や伝説級と言われる妖精など
虚構よ とな。だが、あの暗黒の妖精がこの学院を一夜でなした事、バレン老、
どの程度の力があれば、できると考える?」

「ハイヤーン老には悪いが、一夜にして行うとしたら、最上級妖精の頂上クラス
4体。余裕を見れば5体ですかな。」

「単独でなしたとすれば、極上級、伝説級の妖精は、いるという事でしょう。」

「無論ラティス殿が、命令できる妖精を従えているというのなら、
力の有無から計れば、やはりラティス殿が
超上級妖精以上の力を持たれているのは、間違いないですな。」

「そうよ、つまりは、ワシの生涯をかけた研究の結論は間違いじゃった。」

「ワシは若い頃、帝国の最後の超上級妖精契約者、矛の英雄ギウス伯に
お会いしたことがある。極めて穏やかな方だった。
それを思い出したのじゃ。」

「どんな巨大な力を持つ妖精でも、妖精契約者が力を求めん者だったら、
その力を具現させることはないという事を。それは、一見格下の力しか
持ち合わせておらんように、周囲には見える。」

「もし、アマト学院生が普通に急所を打突だとつできる人間になったら、
高い確率で、我らは超強大な破壊者を帝都に誕生させる事となる。
それこそ、オフトレ並みの血にまみれる妖精契約者に
なるかもしれぬ。」

「で、退校の件は我等も同意する。ジンバラ老の顔をつぶすことになるが、
アマト学院生をワシの内弟子として、拾いたい。」

「そのような事なら、何回でもわが顔をお潰し下さい。」

と、ジンバラも同意する。

その時であった。ノックもそこそこに、ノリアが飛び込んでくる。

「代理理事長、ああ良かった御三方もいらっしゃいましたか。」

「なんだ、ノリア。失礼だぞ。」

「非礼は承知です。決闘のための、闘技場の使用許可の申請書が
古式礼法にのっとって出ています。」

「決闘はアマト学院生と、ヌスト・スリト・ゴウト他10人以上の学院生、
後者の方は、助太刀ができるというので、まだまだ増えるかもしれません!」
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