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ⅩⅣ 復讐の追跡者たち編(2)

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第3章。追跡者の正体


 明日は帝都へと旅立つので、結構長い時間、アマトは湯船にいる。
遠くに、夜の魔鳥キルギリウスの鳴き声が聞こえる。

あのあと、ラティスとラファイアの双方から手ほどきを受け、
あの手この手で、力の発現を試してはみた。終日あれだけやれば、
初級妖精契約者でも、火花の一つも出ようというところだが、
全く何の発動もなかったのだ。

二人の妖精が、

「「私たち完全に妖精界の笑いものね。」」

と落ち込んでいるのを見て、それ以上にアマトは恥ずかしく、情けなかった。

お湯に浸かりながらも、自分の両手を、手のひら側・手の甲側と見て、
片手を水平に上げたりして、聖呪も唱えてみたのだが、何も起こらない。

『自分は本当に、ただ妖精契約をしているだけの奴なんだな。』

と、重い現実がのしかかる。

 自分の思いにとらわれていたせいで、気付くのが遅れたが、
湯面に奇妙な波紋が広っている。
アマトは前方に殺気を感じ、風呂から上がろうとする。体が動かない。
一重の魔法円ー結界呪縛ーが、アマトの周りに構築されていた。

「ほう、気付いたの、ゴミムシ君。」

聞いたことがある声が耳に届く。

「ロトル?街道で死んだんでは?」

「幽霊と思ってるの、受け~る。これだから無エーテルのゴミムシ君は。」

一つの月が雲間から現れ、まわりの景色を照らす。
露天風呂の向こうに、柿色の略式鎧に黒いインナーの、ロトルが姿を現す。
宙に浮かんでいる。だが、以前のロトルと雰囲気が違う。

「その鎧はコウニン王国の・・・。」

「おやおやゴミムシ君、この鎧の事を知ってるの。という事は、
カイムの先公を殺ったんは、やっぱりゴミムシ君達だったのね。
コウニン王国のゴキブリ共も、無駄足じゃなかったわけだ。」

「ひとり生き残って?けど、なぜコウニン王国の?」

「フッ。モブロ・ソノロの間抜けは、ゴキブリ共の最初の一撃目でボン!
ズーサ・スーマの奴らは、せっかくオレ様がゴキブリどもを制圧し、
取引してやったのに、『王国にはいきたくない。』なんて、
言っちゃったわけよ。」

「そんでゴキブリ共が、『我らの仲間になるなら、誠をみせろ』
なんて言いいやがったので、
まあ、オレがこの手で遠い国に送っちゃったわけ。
オレ様は地位と金をくれれば、帝国でも王国でも構わんし~。」

アマトは動こうとあがく、

「無理・無~理~。人生最後の贅沢が露天風呂の貸し切りというのも、
ゴミムシ君にはできすぎ。
あの妖精を待っているのなら、無駄・無~駄~。
ゴキブリ共が遠くに引き付けているからね。もう間に合わな~い。」

「ゴミムシ君の首を持参すれば、エリースちゃんも隙ができちゃうだろうから、
そこを一撃と。
お姉さんユウイとか言ったっけ、オレは年上が好みなんだ。
精神支配してオレの妾にしてやるから、心配しないでね、ゴミムシ君。」

「さあ、死ねや。」

ロトルの手から、4つの、緑に輝く真空刃迅がアマトの首に跳んでいく。
その瞬間に、アマトの前後左右に白金の光球が現れ、真空刃迅をかき消す。
ロトルは、間髪入れず、破壊振動音波を光球めがけて打ち出すが、何も起こらない。

「アマトさんは、馬鹿だとは思いますが、ゴミムシではないですね。」

「それに、私と契約した人です。」

アマトの前に、ラファイアが現れる。彼女も宙に浮かんでいる。
口調ははいつも通り軽いが、
後ろ姿には、怒りの背光が張り付いている。

「ラファイアさん!」

「アマトさん結界呪縛も消しました、けど動かないで下さい。」

次の瞬間アマトの視界は、緑色一色に変わり、周りの空間に雷光も輝いた。

「俺様の全力の緑電奔流も効かない。バケモンか、お前は。」

ロトルは叫ぶ。

「こんなに、美しくて優しい妖精をつかまえて、バケモンとは失礼ですね。
怖い化け物なら、ほらあなたの後ろに・・・。」

「誰が怖い化け物だって。ラファイア。」

いつの間にかロトルの後ろ上空に、怒り心頭の妖精が宙に浮いている。

「あら、そんなことは言ってませんよ。ラティスさん耳が遠くなったんですか?」

ラティスの柳眉が上がる。

次の瞬間アマトの視界は、橙色と橙黄色の2色に変わり、激しい雷光が煌めく、
眼を開けていられない。

『ラティスさん攻撃する相手が違うんじゃないですか?』

アマトは、目をかばいながらも思った。

ロトルは、何も言わず2人の妖精に、再び全力の緑電奔流を放ち、
隙をみて逃げにはいる。

「次はおぼえてろよ!」

薄笑いをうかべ、ロトルは呟く。渾身の高速移動状態に入る。
しかし、次の瞬間、彼は地面の上に叩きつけられていた。
全身に激痛が走り動けない。しばらくして、
彼のまわりを魔狼が取り囲んでいく。

アマトに手を出した人間を、暗黒の妖精ラティス・白光の妖精ラファイアが
見逃すはずはない。

☆☆☆☆

一人の男が、カクシーユに向かう街道の道端に焚火をたいて、休んでいる。

「この時間になっても帰ってこんか。上級妖精契約者といっても、
まだガキだからな。」

と、その男、コウニン王国クリル大公国方面工作部支配人のグ・ルーは、
カクシーユ方向をみながら、一人呟いて、考えていた。

< 作戦は失敗したが、オレの心は晴れ晴れとしている。
オレは才気ある配下が嫌いだ。
講師としてクリルに潜り込ませたカイムなどはその筆頭だ。
奴は、潜入工作員の仮面にしかすぎないはずの、講師という仕事でさえ、
周囲の耳目を集めていた。

だからオレは、本国の指令の意図を挿げ替えた。
今回の指令は、以下の2点だった。
①潜入工作員たるカイムの速やかなる回収
②上級妖精契約者の勧誘或いは暗殺。
だがオレは②の暗殺の部分が最も本国が望んでいるかのようにふるまった。
カイムは死んだ。

今、配下共も、ロトルとかいうガキも、この時間にも帰らない、死んだか。
ま、仕方ない事だ。

オレは、今の地位を掴むまで、上司いや同僚にでも
世辞・追従を重ね続けた、気分のいい奴だと
思われるのに苦労したのだ。
オレの配下になる奴が、オレの靴の下を舌で舐めるくらい、
オレを敬わなければならない。
それができない配下は擦り潰されるのは当然。

あとの事は、副支配のセ・ルーに、『いったよな。』て押し付けて終わり。
念を入れてもう少し、いたぶって、責任を押し付けるか。>

「こいつ屑ですよね。これでもこの辺を統括している男なんですよね、
ラティスさん。」

「ま、組織にいる人間に、こういう奴は多いわ、ラファイア。
こういう奴だから私の精神支配で簡単に、
ベラベラしやべってくれたんだけどね。」

 2人の物凄く美しいものが、自分を見下ろしている。ここはどこだ?
グ・ルーは焦った。いつのまにかオレは、いまの事をしゃべっていのか。
最後の記憶は・・・。
・・・まだガキだからな。』と言ったあと、
何か恐ろしいものが2つ、焚火の反対にあらわれた。
そうだ、そうだった、思い出した。それから記憶がなくなっている。
グ・ルーは体を動かし逃げようとする、ピクリとも動かない。

「さて、あんたはやってはいけないことをした。
私の契約者のアマトに手を出した。」

「その報いは受けないとね。今からあんたがやる事を、教えといて上げる。
あんたはこの件はこれ以上追いかけても損害が大きいから中止をと、
文字通り体を張って、本国に主張する。」

「それが終わったら、あんたの敵対する組織に、
あんたの組織の内部情報を流し続ける。
あんたは、それが絶対の正義だと疑いもしないわ。」

グ・ルーは背中に冷や汗を流した。そういう裏切りものの最後を聞きもしたが、
実際その目で見てもきたのだ。

「あらあら楽しそうね。じゃあんたの今の記憶を眠らせてあげる・・・・。」

と、ラティスは右手をグ・ルーの額にあてる、黒い魔法円が現れる。
グ・ルーの首がガックと折れる。それを見ていたラファイアが、

「わ~、ラティスさんえぐいです。アマトさんが見てないと、
昔のラティスさんみたいな事をしますね。」

「は、ラファイア、どの口が言うのよ。この男のいまわの瞬間に、
今の記憶を取り戻す魔力を、こっそり行使したくせに。」

「ハハハ、気付いてましたか。さすが、ラティスさん。」

2人の妖精の姿がかき消すようにきえる。

グ・ルーの目が光を取り戻す。何もなかったように、
最後の考えの部分をなぞりだす。

あとの事は、副支配のセ・ルーに、『いったよな。』て押し付けて終わり。
念を入れてもう少し、いたぶって、責任を押し付けるか。
オレはこんなところで終わるはずが、ないのだから・・・・・・。

アマトに手を出した人間を、暗黒の妖精ラティス・白光の妖精ラファイアは
見逃すはずがない。


第4章。妖精たちの心情


 アマトには、昨日の襲撃で、しばらくは暗殺者の再度の襲撃は
ないように思った。
『戦力の逐次投入は愚者のやる事』という真理は、暗殺という卑怯な事でも
当てはまるのではなかろうかと考えたからだ。
昨日は、ここいらで動員可能なすべての人間をつぎ込んだと。

しかし、ロトル。強大な力を手に入れ、プロの暗殺者を退けたことから、
血に酔いしれ溺れてしまったのだろう。あの歪んだ顔と表情に、
今更ながらアマトは恐怖を感じていた。

 そのような事をアマトが考えているときに、エリースは、
温泉での事など頭から消えて、義兄アマトと義姉ユウイの心配をしていた。
アマトからロトルが言っていたことを聞いて、エリースには、どうしても、
コウニン王国の暗殺者達が襲ってきたのは、任務の完遂というより、
復讐の意味合いが大きいのではなかろうか、という思いにとらわれたからだ。

自分だけなら、超上級妖精の力も発動できるし、それにリーエもいる。
義兄アマトも2人の妖精がいるといっても、
もし隙をつかれれば昨日の事のようになるかもしれない。
ましてや義姉ユウイは、何の護りもないし、
いつまでも自分が一緒にいれるわけでもない。

一方的に仕掛けられた理不尽なのに、
結果、復讐の連鎖に巻き込まれることになった。
エリースは、激しい怒りと同時に、底知れぬ恐怖に襲われていた。

「エリース!」

ラティスが、悩んでいたエリースに声をかける。

「もうしばらくの間は、昨日のような事はおこらないわ。心配しなくていい。
私とラファイアで、キッチリ型にはめてきたからね。」

「ありがとう、ラティス。けどまた・・・。」

「まああんたは、超上級妖精の力があるとしても。
アマトとユウイの事でしょう。
妖精にとって契約者は大事な人。アマトが心から大事にしている、
あんたもユウイも、私とラファイアにとって大事な人よ。」

「昨日の言い訳をいわせてもらうと、奴らが街に入る前から、
奴らの事は感知してたわ。けどね、
私たちは契約してしまうと、契約者の人格に影響されてしまうの。」

「あんたには言うけど、私もラファイアも本来の私たちなら、
アマトの安全のために、街の一つ、消し去ることに
なんの躊躇もしないわ。」

「けどアマトの人格は、魔狼を殺す事さえ厭う、やさしいもの。
だから、ギリギリまで手を出すのを控えていたの。
けど、それが心配させちゃったみたいね。」

「今度から、あんたもアマトもユウイも知らないうちに、
処置してやるからね。」

「「ごめんなさいエリース」」

美しく優しい声が重なる。

「な、ラファイア!」

「なんですか、ラティスさん自分だけいい子ぶって。」

光折迷彩を解いて、ラファイアが現れる。

「聞いてたの?」

「『・・・契約者は大事な人。・・』あたりから。」

「お前一遍、マジ殺す。」

「だから、ラティスさん、お互いアマトさんと契約してる時は、
無理ですって。」

「なんなのよもう、この不条理は。」

ラファイアは、自分を睨んでいるラティスを無視して、
エリースに語りかける。

「エリースさん、ラティスさんが言っている事は、私もそうですよ。
あなた方は大事な人。2度と今回のような事はさせません。」

「ありがとう。ありがとう。ラファイアさん、ラティスさん。・・・」

「エリース。いざとなったら、コウニン王国の王を〆に行くよ。
そんな奴らは他人の首がいくつ飛ぼうが、全くなんとも思わないけど、
自分の指先が怪我したぐらいで、大騒ぎをするような
カスに違いない。」

「あんたが将軍でいい、私はあんたの剣になってあげる。
これをラティス、妖精の名誉にかけて誓うわ。」

「わたしもですよ、やりましょう、わたしはエリースさんの
矛になりますので。わたしラファイア、妖精の名誉にかけて誓いますから。」

エリースは、自分の肩にかかる重圧を、2人の妖精の、
『あなたの重圧を少しでも軽くしてやる』という気持ちを聞いて、笑ってみせた。
けど心の中は嬉しさに泣いていた。
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