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Ⅷ アピス!?誰それ。わたしはラティス!編(2)

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第4章。ノープル学院入学式


 あれほど制服にデザインが合わないとか、私の髪に色が合わないとか、
言ってたのに、エリースは、しっかりと僕が選んだ髪飾りをつけている。
顔だけみれば、もう子供じゃないんだけどな。

服がエリースに奉仕している。ユウイ義姉に言わせれば、
いい大人の女の条件らしい。

 今日の入学式は、午前中は通常の式が学院の関係者と貴族のみで行われる。
午後は、招待者の前で、公開武闘式が行われる。
入学生と在校生の手合わせである。

先々代の大公の時から行われており、
実力者は、年次関係なく優遇と尊敬を受けるらしい。
毎年、新入生の腕自慢が、在校生に挑み、叩きのめされるのが恒例行事らしく、
通過儀礼的なものかとも思える。

 今年は、ガルスーノープル間の街道で、あんな事件が起こったので、
例年とは違い入学式を早めに行い、僕が受ける補欠試験は、相当後になった。
街道では通行制限がおこなわれており、
ユウイ義姉さんは入校式に間に合わなくなり、
代わりに僕が、関係者枠で行くこととなった。

暗黒の妖精ラティスさんが行けば、ものすごい事になるのは見えているし、
空席にするのは最大の無礼になるので、
こちらに知り合いのない僕らは、僕が行くしかなかったのだ。

しかし、補欠試験を受ける学院の入学式を見せられるというのは、
どんな罰課題なんだよ。

「義兄ィ、じゃまたあとでね。」

エリースが式場へ向かっていく。
多くの男子学生の視線が、エリースを追いかけていくのがよくわかる。
視線は僕のことは無視だ、敵視ですらない。
僕は、改めて自分の残念な容姿を意識する。


・・・・・・・・


「アマトさんですよね?」

いつのまにか そこに、ガルスの街の同級生のハルトが立っていた。
女性たちの視線が痛い。
いい引き立て役だなと僕は自虐じぎゃくする。

「今日はエリースさんの入学式に?」

笑いながら優等生が話しかける。返事を返さないのが、自分へのねたみと察したのか
勝手に話を続けられる。

「ロトル君達の事は残念でした。
僕は祖父母の家に寄るため、間道を通っていたんで、無事でしたが。」

「知ってますか、カイム先生も行方不明だそうです。
公式な発表はまだですが。 ガルスの初等学校の教育の最大の功労者ですし、
工作員がほおっておくなんてことは、当然ないでしょうから。」

そういう話になっているのか、アマトは不思議に少しホッとする。

「ではまた。」

その瞳には、周りの人々が礼服・礼装なか、
略礼服でもなく幾何学模様もよう柄の平服で来ているアマトに対し、
侮蔑ぶべつの色が浮かんでいた。


☆☆☆☆


 午前中の入学式は、今年はトリヤヌス大公子が参列されるという事で、
会場には厳重な警備がされ、下級帝国民のアマトは、
当然会場には近寄れない、遠くから白亜の建物をながめるだけだった。

 午後の公開武闘式は場所をかえ、学院の闘技場で行われる。
闘技場は、地面をくり抜いて作ってあり、地面に闘技会場、
南面が貴賓きひん席、残り三面が普通席だ。
天井は透明な水晶らしきものでおおってあり、太陽の光が全面を照らしていた。

貴賓きひん席の右側、東面は在校生席で制服の色から
下の方が2回生・上の方が3回生らしい。
既に着席しており、西面の学校関係者並びに特別招待者、北面の一般招待者、
新入生の入場待ちらしい。
(アマトが試験を受ける聴講生は、制服の色からは一人も確認できなかった。)

 一般席も上層部は貴族席・中層部は騎士席・下層席は下級帝国民の席だ。
下層席は席順が決まっているわけではなかったのだが、そこにも身分の順を感じ、
アマトは最前列の一番端に座る、最前列だけは、ほとんど空いていた。

貴賓きひん席側から合図があり、担当の講師により、式の説明がはじまる。

「この度は、えある当学院の公開武闘式に、大公国将軍ウーノ伯爵をはじめ、
数多くの方々に参列いただき、まことに感謝の念にえません。」

「当学院は、我が学院の教育方針を皆様に、開陳かいちんするため、
例年、公開武闘式を行っております。」

「新入生で希望者が、2回生の能力の上位者10人を除いたなかから、
くじ引きで対戦相手を選びます。
さらに、新入生が勝った場合は、2回生上位10名の中から、
次の対戦者を選ぶ権利があります。
過去には、みずら3回生の上位者を指名した者もおります。」

「付け加えまして、今年から在校生は1回生に負けたら、その時点で、
1回生に落第させることに、相成あいなりました。」

南・北面の席と西面の一部の席から、どよめきが起こる。

「勝敗のつけ方は、
どちらかが意識を失うなど戦闘不能になるか、左手をあげて、
降伏の意思表示をするかです。
これによって、審判が判断いたします・・・・。」

在校生には、あんまりおいしい話ではないな、と他人事のようにアマトは思う。

 上の席から大人たちの声が聞こえてくる。
「10年程前、まず最初の手合わせに勝利し、
次に3回生の最上位者を指名し撃破した天才がいた。」とか。
「この時のために、家庭教師をやとって、訓練をさせてきた。」とか。
貴賓きひん席に将軍がきている。将軍の目に止まらば、
出世は間違いない。」などとか。

その会話は、アマトにとっては、全く別の世界の話に聞こえていた。


第5章。美しき獅子の咆哮ほうこう


「新入生入場!」

拍手のなか、新入生が入場して来て、闘技場の脇に設置されたイスに着席する。

「手合わせの、希望者はいるか?」

共に入場してきた講師から声がかかる。10人が手をあげ、闘技場に向かう。
その中にエリースはいない。こんな見世物にでる必要はないよと、アマトは思う。

「たったこれだけか。君達はえあるノープル高等学院に
入校する意味がわかっているのか。」

「他には、我こそはと思うものはおらんのか?」

 ハルトが手をあげて立ち上がる。その姿に、女性の席から、ため息がれる。
ハルトもゆっくりと闘技場へ向かう。

「以上の11人だな。例年30人は挑戦するのだぞ。」

だれも、後には続かない。

仕方なく、希望者のみ順次、略鎧をまとい、手合わせが始まる。
一番目の新入生希望者が前方に進み、箱の中に手を入れ、一枚の紙を取り出す。

「対戦相手は33位。すぐに闘技場に降りてくること。」

と、審判役の講師が、引かれた紙を開け、大声で在校生席に声をかける。
在校生席の一角で歓声がおこり、一人の2回生が闘技場へ降りてくる。
その間に二番目の新入生がくじを引く。

・・・・・・・・・

 しかし、どの試合も一方的だった。新入生の攻撃は、
魔法円で受けられ、体のさばきでかわされ、逆に2回生の攻撃は面白いように
新入生をとらえた。

さっき家庭教師云々いってた人のご子息は、攻撃もしないうちから、
居合のような一撃で倒された。
2回生は女性徒とはいえ、順位も11位だったから仕方はなかったが。

上級妖精契約者と思われた新入生も、関係なく翻弄ほんろうされる。
2回生の攻撃に意識を失った新入生が、次々と治癒ヒールの部屋に運ばれる。
2回生席や3回生席から、ため息や失笑が相次いでおこる。

 最終闘技者はハルトだった。相手の2回生の方は最下位の生徒だ。

「あいつは、相変わらず悪運が強いな。」

アマトはつぶやく。女性の観客から番狂わせ期待の視線が熱い。

「はじめ。」

審判の号令がかかる。赤色の火球や橙色の火柱が2回生を襲う。
その激しさは、まさしく上級妖精契約者の力であった。

「あいつ、カイム先生の話を無視して、火の妖精と契約したのか。」

その現実に驚き、アマトはつぶやく。
しかし、2回生はヒラリ、ヒラリとこれをかわす。
防御の魔法盾を使おうとさえせぬ、たくみな、速度差と時間差を混ぜた高速移動。
完全に遊ばれているなと、アマトは思う。

急に、カイム先生の授業を思い出す。

「君たちの中では、帝国軍人となるものいよう。
例えば、君達が中級妖精契約者だったとして、
上位の妖精契約者の戦士と対峙したとする。
相手の攻撃はすごく激しい。その時、君たちが生き残れる
魔法の言葉を教えておく。」

「〖あたらなけれは、どうということはない。〗以上だ。」

 相手はよくわかっているなと、アマトは思う。
ハルトの奴、カムイ先生の実技の授業を、
皮膚感覚で理解していなかったんだろうな。
実技で生かされてない。

2回生の、すきをついた定石通りの緑色の電撃がハルトの防御の魔法盾を破壊、
右手にかすり、ハルトは左手を挙げた。

激しい打音が東面の2回生席・3回生席から起こる。
多くの在校生が足で床を踏み鳴らしてる。

「まだできるはずだ。手合わせを放棄するな。真剣にやれ。」

明らかに、手合わせから逃げたハルトへの痛烈な抗議であった。


☆☆☆☆


 大柄のいかにもと思われる人物が、闘技場へ上がる。

「本年度の入学生はなさけない。手合わせ希望自体が例年の3分1だ。
そして、手合わせに出てきたものも、
例年の平均の3分の1の程度の時間で、倒されている。
なかには、途中で逃げたとしか思えない者までいる。」

イスにすわっている新入生はほとんどが下を向いている。

「これは、君たちだけの問題ではない。
それ以上に、諸君らを教えてきた者が、如何いかに無能で、
心構えの何たるかも生徒に教える事さえできなかった情けない教師
だったかという事だろう。これからは、えある当学院の教師が・・・。」

「「「ひぃー。」」」

新入生席の女生徒から、悲鳴があがる。
そら美しい、冷たい緑色の光に包まれた一人の少女が、
イスから立ち上がっている。

「取り消せ。今の言葉を取り消せ!」

静かに声を発しながら、少女は闘技場へあゆみを進める。

「今年の新入生は、礼儀もわきまえんのか!」

先ほど大きな口をきいてた男は、かろうじて踏み止まり、威厳いげんを保とうとする。
彼はいつものように、誰かが止めてくれるものと、甘く考えていた。

しかしその立ち昇る緑光は、上級妖精契約者が放つレベルをはるかに超え、
最上級妖精契約者のレベルを超えるるかもしれぬと、
周囲に感じさせるほど大きい。

圧倒的な強者の出す怒りに、渦巻く緑光の大きさに、
そのなんたるかを察知できる、西面席の教師達は金縛り状態だった。

その少女が、軽く水平に右手をのばす。

闘技場にいた男が、本能的な恐怖にられ、後ろに座り込む。
その男の頭のスレスレのところを、緑色の雷光の豪流ごうりゅう疾走しっそうし、
幾重いくえにも張られている魔力障壁・結界を苦もなくみ砕き、
闘技場の後ろの壁・屋根ごと破壊し、天空へ消えていく。

その一撃は、魔法陣・詠唱によらず、少女の力の脈動さえなく、
放たれたものであった。

 そのようなときの対処法があったのか、そこまで黙ってみていた、
3回生の上位者10名が同時に、最上階の自分の席から宙を飛び、
それぞれが持つ、地・火・風・水の魔力を少女に放とうとして、
自分の前方に魔法円を描く。
自分以外に9人いるという安心が、迅速じんそくな魔力ではなく、
ときが必要な、強力な魔力の使用を選択させる。

しかし、視線一閃いっせん、緑電の輝きが彼らの魔法円をつぶし、
彼ら自身をも東面席へ吹き飛ばす。

「私の名前はエーリス。私の先生カイムの名をけがすものは、
何人なんぴとであっても、許さない!」

美しき若い獅子の咆哮ほうこうであった。
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