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そんなこんなで、放課後がやってくる。
今日は顧問の先生がいないとかなんとかで、野球部の活動はない。代わりの先生はと訊かれたら、いるにはいるんだが誰もやる気がない、と答えておこう。部活に力を入れている学校の人間から見たら、うちの学校は異常なほど部活に関心がなく、だらけきっているように見えるだろう。
そして実際そうだから反論の余地はない。みんながみんな、楽しければそれでいいという考えで、誰も不満を持った試しがないから今もこんな状態になっている。俺もその方針に不満はない。
もちろん部活はないのだから、部室に入る人がいるはずがない。俺のように特別な用事がない限りは。
従って、今の部室はリンチしようと思えば簡単にできるし、襲うことだって可能だ。そういうことをするにはうってつけの場所と時間となる、今の部室。そこへ呼ぶということは、よほど人に知られたくないことを言うか、するかのどちらかだ。
そして、成沢はそこへ俺を呼び出した。もっとも、部活が休みだという今日を選んだのは偶然かもしれないのだが、その可能性は低いと俺は思う。一体何を意味するのか。
あらゆる可能性を想像したが、どれにしろ深い意味が含まれること、そして良からぬことしか思い浮かばない。しかし、俺は悩んだ末、行くことにした。
一人ではなく、琉賀を連れて。
流石の俺でもそこまで無防備にはなれなかったし、琉賀のせいでそんな目に遭うのはもうこりごりだったからだ。あれを読んだからには、俺に言われなくても琉賀はついて来たに違いないのだが。当然、別の理由で。
「行かなきゃいいじゃん。それとも俺だけで行ってもいいんだぞ?」
琉賀は俺と並んで歩きながら、奴にしては珍しくもっともなことを言う。
「……ああ。けどあいつ、俺にとって、なんていうか友達に近い存在だし。一応俺宛ての手紙だったし。俺が行かなくてお前だけ行かせるなんて、なんか逃げるみたいで……」
複雑な表情を浮かべる俺を、琉賀は黙って見つめる。そして、告げた。
「……幹仁、着いたぞ」
琉賀の微かに緊張を帯びた声に、ハッと顔を上げる。そこには、暗い部室がそびえていた。
そっと部室のドアを開けると、成沢ともう一人が待っていた。
「神楽坂先輩……」
その人と対峙しているというだけで、俺の体が天敵に出くわした小動物のように強張る。神楽坂先輩に会うと、いつも怖いと思う。それが単純に外見を見て思うのか、もっと根深い意味があるのかは俺にも分からないのだが、恐らく後者だ。
本能が告げている。近づいたら駄目だと。
「……っ」
無意識のうちに拳を震わせ、手のひらに爪を食い込ませていた。認めたくないが、それも全て恐怖のせいだ。
「!」
そんな俺の手を、より大きくて温かい手が包み込む。驚いて顔を上げると、静かに見下ろす琉賀の視線とぶつかった。
「震えてる。やっぱり姫ってか~わい」
「うっせえ!」
図星を刺されて、恐怖も忘れて怒鳴る。気が付くと、緊張が解れているのを感じた。琉賀はこれを見越してわざと言ったのだろうか。
「やっぱ無理なんじゃないですか?手なんか繋いじゃってるし」
成沢の声にはっとして、俺は今の状況を思い出した。そして耳たぶまで真っ赤にしながら琉賀の手を離す。
「でも遊んでみる価値はある。俺のタイプだし」
神楽坂先輩の言葉は不穏な響きを放ち、彼らは視線を交わして合図した。そして、成沢は軽く溜息をついて立ち上がる。
「ちゃんと来てくれたんだね、田辺君」
天王寺先輩と同じく眼鏡男子である成沢の、レンズ越しの眼が笑みで垂れた。
「成沢、あの手紙は一体どういう意味だ?」
「僕はね、神楽坂先輩に強制的に書かされたんだ。先輩が君に何やら大事な用があるらしくて」
言いながら、やれやれと大げさなジェスチャーをする成沢。
「強制的にって、どうしてそんな……」
「俺が書くよりも、功が書く方が田辺君は来ると思いましてね。現にこうして君は来ていますし?」
のそりと大柄な体躯を動かし、神楽坂先輩が俺の方に歩み寄る。がっしりとした体格はキャッチャーだから当然なのだが、それは余計に俺の恐怖を掻き立てる。
後ずさって琉賀の後ろに隠れたいという衝動を抑え込み、なんとか踏みとどまる俺。情けなくも、目に涙が滲んでしまった。
成沢といとこ同士だからか、穏やかな雰囲気が似ているというのに、俺からすれば全く別物だ。威圧感やらなんやら、得体の知れない何かを隠していると思えてならない。
「ちょうどいいですね。琉賀君もいることですし」
その微笑に、俺は悪寒を覚えた。そう、不自然な笑みに。
次の瞬間、ついに神楽坂先輩が仮面をはぎ取り、正体を現す。
「田辺、そんな奴と別れて俺のものになれ。もし断れば、お前を野球部から外す」
敬語から命令口調へ変わり、微笑も掻き消された。
「たかだか一部員にそんな権限があるわけがないと言いたいだろうが、俺はお前が辞めざるを得ない状況を作り出すこともできる。辞めさせられてもいいんなら、断っていいが?」
嘲笑を浮かべながら立ち去る神楽坂先輩に、俺は何も言うことができず、ただただ呆然と立ち尽くす。そもそも琉賀とは付き合っていないのだが、それを訂正すれば神楽坂先輩に付け入る隙を与えてしまうだろう。
「ざけんな神楽坂」とか、「俺の姫だ。お前にはやんねぇぞ」とか叫んでいる琉賀の声が聞こえた気がしたが、その声は俺の耳を素通りしていく。
「幹仁……?」
やがて俺の様子がおかしいことに気が付いたのか、琉賀は心配そうに声をかけてくる。
「冗談……だろ?こんなの夢だ。いくらここが特殊な学校だからって、俺は一度だって」
そういう対象として見られたことがないのにと続けようとして、琉賀を見て気付いた。いつになく真剣な表情をしている琉賀こそ、軽い調子ではあり、直接的な言い方をしてきたことはないが、俺に真っ直ぐな好意を寄せている。実は案外本気なのかもしれない。
「まさか、あいのものになるつもりか?」
「……分からねえ」
本当は死んでもそんなのはごめんだったが、断れば神楽坂先輩に何をされるか分からなかった。その恐怖が俺に曖昧な言葉を出させる。
すると、不意に琉賀の手が伸びてきて、俺の顎を掴んで上向かせた。
「泣きそうな目をしている」
「……っ」
いつの間にか目が潤んでいたらしく、琉賀の指摘に後押しされるように涙が零れ落ちた。そんな俺を琉賀は抱き寄せる。今回ばかりは俺も拒まない。琉賀の温かな腕のなか、優しさが流れ込んできた。
「俺、野球部を辞めたくねえよ」
そこまで部活そのものに思い入れがあったわけではないが、野球部でできた仲間のことを思い浮かべると自然とその言葉が出てきた。
すると琉賀は突然、俺の顔に自分の顔を近づけてきた。
「なっ……んむ……」
不意打ちのことで避けきれず、いつもより簡単に受け入れてしまう。突き放してやめろと口にすることもできないまま、強引に舌を絡めとられ、そして。琉賀の手が不穏な動きをして、俺の胸元をまさぐった。
「っん……やっ」
辛うじて隙間ができた時、ようやく声を出せたのだが、琉賀の手の動きを封じることもできず、やがて夏服の薄い生地の上から探り当てられてしまう。
「……んぁ……っ」
そして直に触られているのと変わらない感触を味わいながら、俺は明らかに感じていると分かる声を上げてしまった。それで余計にやる気を出してしまったらしい琉賀は、執拗にいじり続けたと思えば、次第に下へ下へと手が降りていき……。
「てめぇ、調子に乗るな!」
鳩尾に俺の怒りやら焦りやら、とにかく収拾のつかない思いのたけをぶつけてやった。
「キスならまだしも、変なところ触るんじゃねえ!」
「へ~?キスならいいんだ」
力加減したつもりはなかったのに、琉賀は全く痛がっている様子を見せない。いつもながらに、なんて頑丈な奴だ。俺の力が弱いかもしれないという可能性には、この際目をつぶる。
「うっせえ!んなわけあるか!この変態セクハラ猥褻野郎!」
俺が息を乱れさせて怒鳴ったというのに、琉賀は笑っている。それも心底嬉しそうに。
「なんだよ。実はSのふりしてМだったとか言うなよ?」
「ぷっ、言わない言わない。姫が喘ぎ声堪えて泣きそうになっているところ見たいもん。それが俺の手でそうなるなら、尚更いい。だから多分、俺はSだよ?」
「多分どころか、普通にSだろ」
呆れかえっていると、琉賀は真顔になって言った。
「その調子だよ。今みたいなことをされそうになったら、そうするんだぞ?一番はそんな状況 にならないことだけれど」
「は……え……ああ、うん。分かった」
真っ当なことを言われて、素直に頷く他ない。
「それでいい」
「って……うわ!?」
突然後頭部に手を添えられたかと思うと、部室の床に押し倒された。
「なにす……」
俺は言いかけて、琉賀のむかつくほど綺麗な顔が至近距離にあることに気が付き、口を閉ざす。この後の展開を想像できてしまうような危ない体勢だ。
「んう……」
そして暴れる間も与えずに、再び琉賀にキスを仕掛けられる。
「泣きたいほど嫌なら、あいつのものになる必要はない。というかそんなこと、俺が許さない」
唇を離して至近距離で言われたせいか、俺の鼓動が不自然に脈打つ。顔が熱い。甘すぎる吐息が頬に当たって、妙にくらくらした。
「けど、野球……」
もう自分が何を言いたいのか分からないほど、頭がぼんやりとしてしまっていた。
「大丈夫。俺がなんとかする。……ていうか、絶対誰にもやらん」
「ん……」
再び口付けられたかと思うと、その唇はやがて顎を伝い下り、鎖骨の辺りで止まった。そこで小さな痛みが走り、我に返る。
「今、何した?」
「ん?俺のって印。まあ後で見てみ」
「そもそもお前のになったつもりはないのだが」
「まあまあ、いいじゃないの」
「よくねえよ」
「ねえ姫、なんか今日は大人しいね。今めっちゃ理性が飛びそうなんだけど。襲っていい?姫 っていつも可愛いけどさ、さっきの顔は反則だよ?」
満面の笑みで琉賀は言う。それが俺の地雷を踏んでいることに気付かずに。
「……襲うとか姫とか可愛いとか、俺が腹を立てることをわざわざ満面の笑みで言うな!」
琉賀の厚い胸板を突き飛ばした後、脇腹に蹴りを食らわせた。
今日は顧問の先生がいないとかなんとかで、野球部の活動はない。代わりの先生はと訊かれたら、いるにはいるんだが誰もやる気がない、と答えておこう。部活に力を入れている学校の人間から見たら、うちの学校は異常なほど部活に関心がなく、だらけきっているように見えるだろう。
そして実際そうだから反論の余地はない。みんながみんな、楽しければそれでいいという考えで、誰も不満を持った試しがないから今もこんな状態になっている。俺もその方針に不満はない。
もちろん部活はないのだから、部室に入る人がいるはずがない。俺のように特別な用事がない限りは。
従って、今の部室はリンチしようと思えば簡単にできるし、襲うことだって可能だ。そういうことをするにはうってつけの場所と時間となる、今の部室。そこへ呼ぶということは、よほど人に知られたくないことを言うか、するかのどちらかだ。
そして、成沢はそこへ俺を呼び出した。もっとも、部活が休みだという今日を選んだのは偶然かもしれないのだが、その可能性は低いと俺は思う。一体何を意味するのか。
あらゆる可能性を想像したが、どれにしろ深い意味が含まれること、そして良からぬことしか思い浮かばない。しかし、俺は悩んだ末、行くことにした。
一人ではなく、琉賀を連れて。
流石の俺でもそこまで無防備にはなれなかったし、琉賀のせいでそんな目に遭うのはもうこりごりだったからだ。あれを読んだからには、俺に言われなくても琉賀はついて来たに違いないのだが。当然、別の理由で。
「行かなきゃいいじゃん。それとも俺だけで行ってもいいんだぞ?」
琉賀は俺と並んで歩きながら、奴にしては珍しくもっともなことを言う。
「……ああ。けどあいつ、俺にとって、なんていうか友達に近い存在だし。一応俺宛ての手紙だったし。俺が行かなくてお前だけ行かせるなんて、なんか逃げるみたいで……」
複雑な表情を浮かべる俺を、琉賀は黙って見つめる。そして、告げた。
「……幹仁、着いたぞ」
琉賀の微かに緊張を帯びた声に、ハッと顔を上げる。そこには、暗い部室がそびえていた。
そっと部室のドアを開けると、成沢ともう一人が待っていた。
「神楽坂先輩……」
その人と対峙しているというだけで、俺の体が天敵に出くわした小動物のように強張る。神楽坂先輩に会うと、いつも怖いと思う。それが単純に外見を見て思うのか、もっと根深い意味があるのかは俺にも分からないのだが、恐らく後者だ。
本能が告げている。近づいたら駄目だと。
「……っ」
無意識のうちに拳を震わせ、手のひらに爪を食い込ませていた。認めたくないが、それも全て恐怖のせいだ。
「!」
そんな俺の手を、より大きくて温かい手が包み込む。驚いて顔を上げると、静かに見下ろす琉賀の視線とぶつかった。
「震えてる。やっぱり姫ってか~わい」
「うっせえ!」
図星を刺されて、恐怖も忘れて怒鳴る。気が付くと、緊張が解れているのを感じた。琉賀はこれを見越してわざと言ったのだろうか。
「やっぱ無理なんじゃないですか?手なんか繋いじゃってるし」
成沢の声にはっとして、俺は今の状況を思い出した。そして耳たぶまで真っ赤にしながら琉賀の手を離す。
「でも遊んでみる価値はある。俺のタイプだし」
神楽坂先輩の言葉は不穏な響きを放ち、彼らは視線を交わして合図した。そして、成沢は軽く溜息をついて立ち上がる。
「ちゃんと来てくれたんだね、田辺君」
天王寺先輩と同じく眼鏡男子である成沢の、レンズ越しの眼が笑みで垂れた。
「成沢、あの手紙は一体どういう意味だ?」
「僕はね、神楽坂先輩に強制的に書かされたんだ。先輩が君に何やら大事な用があるらしくて」
言いながら、やれやれと大げさなジェスチャーをする成沢。
「強制的にって、どうしてそんな……」
「俺が書くよりも、功が書く方が田辺君は来ると思いましてね。現にこうして君は来ていますし?」
のそりと大柄な体躯を動かし、神楽坂先輩が俺の方に歩み寄る。がっしりとした体格はキャッチャーだから当然なのだが、それは余計に俺の恐怖を掻き立てる。
後ずさって琉賀の後ろに隠れたいという衝動を抑え込み、なんとか踏みとどまる俺。情けなくも、目に涙が滲んでしまった。
成沢といとこ同士だからか、穏やかな雰囲気が似ているというのに、俺からすれば全く別物だ。威圧感やらなんやら、得体の知れない何かを隠していると思えてならない。
「ちょうどいいですね。琉賀君もいることですし」
その微笑に、俺は悪寒を覚えた。そう、不自然な笑みに。
次の瞬間、ついに神楽坂先輩が仮面をはぎ取り、正体を現す。
「田辺、そんな奴と別れて俺のものになれ。もし断れば、お前を野球部から外す」
敬語から命令口調へ変わり、微笑も掻き消された。
「たかだか一部員にそんな権限があるわけがないと言いたいだろうが、俺はお前が辞めざるを得ない状況を作り出すこともできる。辞めさせられてもいいんなら、断っていいが?」
嘲笑を浮かべながら立ち去る神楽坂先輩に、俺は何も言うことができず、ただただ呆然と立ち尽くす。そもそも琉賀とは付き合っていないのだが、それを訂正すれば神楽坂先輩に付け入る隙を与えてしまうだろう。
「ざけんな神楽坂」とか、「俺の姫だ。お前にはやんねぇぞ」とか叫んでいる琉賀の声が聞こえた気がしたが、その声は俺の耳を素通りしていく。
「幹仁……?」
やがて俺の様子がおかしいことに気が付いたのか、琉賀は心配そうに声をかけてくる。
「冗談……だろ?こんなの夢だ。いくらここが特殊な学校だからって、俺は一度だって」
そういう対象として見られたことがないのにと続けようとして、琉賀を見て気付いた。いつになく真剣な表情をしている琉賀こそ、軽い調子ではあり、直接的な言い方をしてきたことはないが、俺に真っ直ぐな好意を寄せている。実は案外本気なのかもしれない。
「まさか、あいのものになるつもりか?」
「……分からねえ」
本当は死んでもそんなのはごめんだったが、断れば神楽坂先輩に何をされるか分からなかった。その恐怖が俺に曖昧な言葉を出させる。
すると、不意に琉賀の手が伸びてきて、俺の顎を掴んで上向かせた。
「泣きそうな目をしている」
「……っ」
いつの間にか目が潤んでいたらしく、琉賀の指摘に後押しされるように涙が零れ落ちた。そんな俺を琉賀は抱き寄せる。今回ばかりは俺も拒まない。琉賀の温かな腕のなか、優しさが流れ込んできた。
「俺、野球部を辞めたくねえよ」
そこまで部活そのものに思い入れがあったわけではないが、野球部でできた仲間のことを思い浮かべると自然とその言葉が出てきた。
すると琉賀は突然、俺の顔に自分の顔を近づけてきた。
「なっ……んむ……」
不意打ちのことで避けきれず、いつもより簡単に受け入れてしまう。突き放してやめろと口にすることもできないまま、強引に舌を絡めとられ、そして。琉賀の手が不穏な動きをして、俺の胸元をまさぐった。
「っん……やっ」
辛うじて隙間ができた時、ようやく声を出せたのだが、琉賀の手の動きを封じることもできず、やがて夏服の薄い生地の上から探り当てられてしまう。
「……んぁ……っ」
そして直に触られているのと変わらない感触を味わいながら、俺は明らかに感じていると分かる声を上げてしまった。それで余計にやる気を出してしまったらしい琉賀は、執拗にいじり続けたと思えば、次第に下へ下へと手が降りていき……。
「てめぇ、調子に乗るな!」
鳩尾に俺の怒りやら焦りやら、とにかく収拾のつかない思いのたけをぶつけてやった。
「キスならまだしも、変なところ触るんじゃねえ!」
「へ~?キスならいいんだ」
力加減したつもりはなかったのに、琉賀は全く痛がっている様子を見せない。いつもながらに、なんて頑丈な奴だ。俺の力が弱いかもしれないという可能性には、この際目をつぶる。
「うっせえ!んなわけあるか!この変態セクハラ猥褻野郎!」
俺が息を乱れさせて怒鳴ったというのに、琉賀は笑っている。それも心底嬉しそうに。
「なんだよ。実はSのふりしてМだったとか言うなよ?」
「ぷっ、言わない言わない。姫が喘ぎ声堪えて泣きそうになっているところ見たいもん。それが俺の手でそうなるなら、尚更いい。だから多分、俺はSだよ?」
「多分どころか、普通にSだろ」
呆れかえっていると、琉賀は真顔になって言った。
「その調子だよ。今みたいなことをされそうになったら、そうするんだぞ?一番はそんな状況 にならないことだけれど」
「は……え……ああ、うん。分かった」
真っ当なことを言われて、素直に頷く他ない。
「それでいい」
「って……うわ!?」
突然後頭部に手を添えられたかと思うと、部室の床に押し倒された。
「なにす……」
俺は言いかけて、琉賀のむかつくほど綺麗な顔が至近距離にあることに気が付き、口を閉ざす。この後の展開を想像できてしまうような危ない体勢だ。
「んう……」
そして暴れる間も与えずに、再び琉賀にキスを仕掛けられる。
「泣きたいほど嫌なら、あいつのものになる必要はない。というかそんなこと、俺が許さない」
唇を離して至近距離で言われたせいか、俺の鼓動が不自然に脈打つ。顔が熱い。甘すぎる吐息が頬に当たって、妙にくらくらした。
「けど、野球……」
もう自分が何を言いたいのか分からないほど、頭がぼんやりとしてしまっていた。
「大丈夫。俺がなんとかする。……ていうか、絶対誰にもやらん」
「ん……」
再び口付けられたかと思うと、その唇はやがて顎を伝い下り、鎖骨の辺りで止まった。そこで小さな痛みが走り、我に返る。
「今、何した?」
「ん?俺のって印。まあ後で見てみ」
「そもそもお前のになったつもりはないのだが」
「まあまあ、いいじゃないの」
「よくねえよ」
「ねえ姫、なんか今日は大人しいね。今めっちゃ理性が飛びそうなんだけど。襲っていい?姫 っていつも可愛いけどさ、さっきの顔は反則だよ?」
満面の笑みで琉賀は言う。それが俺の地雷を踏んでいることに気付かずに。
「……襲うとか姫とか可愛いとか、俺が腹を立てることをわざわざ満面の笑みで言うな!」
琉賀の厚い胸板を突き飛ばした後、脇腹に蹴りを食らわせた。
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