溺愛ダーリン

朝飛

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ふいに過ぎる彼の姿

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 受け持ったクラスの生徒の中でも、一際垢抜けていて、校則違反ぎりぎりの髪色と服装をした白井という少年が鈴に絡んできた。

 鈴自身もどこかだらっとしているせいかもしれないが、何故だか白井のような不良には好かれやすい。

 大抵は絡まれても適当に流すのだが、白井はどこか他の不良とは違ってもっと危うい何かを抱えているような気がして、悩みがあると言われたら無下にはできなかった。

「それで、悩みというのは何だ。言っとくが、俺は相談向きじゃないぞ。俺では無理だと思ったらすぐに保健の鍋山先生に回すからな」

「分かってる。けどルノワール先生に付け回されてる鈴ちゃんなら分かるんじゃねえかって」

 この際、呼び方についてはスルーすることにしたが、やはり生徒の間でも自分たちのことは有名になっていると思うと、頭を抱えたくなった。
 だが、咳払いをするだけに止めて先を促す。

「それが、白井の悩みとどう関係するんだ」
「あの、よ。……ぶっちゃけ、恋愛のことなんだけど」

 白井が年相応に照れながら話す内容は、こういうことだった。

 白井に対して分かりやすく好意を向けてくる相手がいるが、そこまで好きではなかったから今までは特に相手をしなかった。

 ところが、その相手が他の人と親しそうに下校しているところを偶然見かけると、心中穏やかではなくなった。

 何だよ、自分のことが好きだったのではないのか、と勝手に苛立ち、戸惑いながらも、はっきりと自分の気持ちに名前をつけられなかった。

 そんな時に、その相手と一緒に下校していた人物の二人が付き合っているのではないかという噂が立ち始めて、そこでようやく自分の気持ちに気が付いた、ということだった。

 話を聞きながら、ふいに鈴の脳裏に過ぎったのはあの王子様のような男の姿だ。

 もし、白井のような立場に置かれたら、あの男が他の人間の元へ行ってしまったら。それを想像すると、ふっと冷たいものが心臓を撫でたような気がして。

「鈴ちゃん先生、聞いてねえだろ」
 白井の拗ねたような声で我に返る。
「悪い。だが、やっぱり自分の気持ちに素直になるしかないんじゃないか?」

 そうだよなあ、と言いながら苦笑いを浮かべる白井を見ていると、そんなことはお前だってできないくせにという自分の声が心に響いた。
 
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