liberation

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彼女――朝井愛美(えみ)と付き合うようになったのは、大学二年の夏だった。学友との飲み会は頻繁に行われ、龍前も誘われるままに何度も参加した。そこには必ずと言っていいほど、朝井も来ていた。
 朝井は、大学内に留まらず、他の大学でも有名な美女で、男遊びがすごいという意味でも噂が多かった。しかし朝井と関係を持つまで、その噂の真相を知らなかった。確かめようとすればできたはずだが、それをしなかったのが最初の間違いだったように思う。
 龍前もまだ子どもだった。飲酒の量において、自分の溺れない範囲というものをまだ把握しきれておらず、その飲み会でもそれを超えてしまったに違いない。
気がつけば、ベッドの上で女と共に朝を迎えていた、というありふれた展開に陥っていたのだった。
「龍前くん、よかったよ。もっとしようよ」
女の正体が朝井だと気づいた時には、そうやって絡み付かれて煽られる。逃げようというまともな思考さえ霧散し、いつの間にか組み敷いてその豊満な乳房を口に含んでいた。
そのまま、なし崩しで付き合うことになったのだが、最初の一ヶ月ほどは何も問題なく過ごした。
朝井が知らない男と腕を組んで歩くところを見るまでは。
「愛美、どういうことだよ」
すぐに問い詰めると、彼女は煩わしそうに顔をしかめ、とんでもないことを口にした。
「うるさいわね。私と付き合うことになるなら、そんなこと承知の上でしょう」
「そんなことってなんだよ、俺は何も知らないぞ」
そう言い募ると、朝井は一瞬きょとんとした顔をして、笑い出す。
「私は何又もするのが普通なの。噂で聞いてない？知らないでこの一ヶ月、付き合ってたの？」
目の前が暗くなる。朝井が男慣れしていて、龍前もまた弄ばれた一人だという気がしていたのは事実だが、浮気を平気でするような女だとは考えてもいなかった。
「じゃあ、別れるの？私はそれでも構わないけど、でもあなた……」
朝井は龍前の腕を取り、絡めて下から見上げてくる。甘えたようにする仕草が、完全に龍前を捉えて離さない。
「もう私から逃れられないわよね」
その通りだった。ぞっとするほど美しい笑顔を浮かべながら囁く朝井を、振り解く術を龍前は知らない。
そんな彼を見ながら、朝井は付き合い続けるための条件を突きつけてきた。それは、朝井が他の男と関係を持っても口を出さないこと。束縛を何より嫌う朝井は、それに対して口を出されたら即刻別れる、というのだ。つまり、浮気を容認しなければ、龍前など相手にされない。
それでようやく龍前は噂の真相を知ったのだが、目が覚めることはなかった。

彼女は蝶のように自由に、男たちの間を周り続ける。きっと死ぬまで回り続ける。一生、そんな朝井に付き合い続けるのだろうか――？
そう思った時、同時に夏木の後姿が浮かんでくる。夏木も自分に呆れてしまったのかもしれない。