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6話 つないであげる
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由梨の手を握った瞬間、目の前の景色が変わった。
先ほどまで目の前にあった古いマンションの姿が消え、代わりに視界に入ってきたのは毎日見つめている背中だった。
場所は、おそらく先ほどのマンションの非常階段なんだと思う。
一応人が落ちないように柵が設けられてはいたけど、その柵は高さも構造も十分ではなく、乗り越えようと思えばいくらでも乗り越えることができる申し訳程度のものだった。
そして清沢くんは、今にもその柵を乗り越えそうな感じで夜景を見つめながら物思いに耽っていた。
「ごめん…本当にごめん……!」
何かに取り憑かれたような様子でまたしても謝罪の言葉をつぶやく清沢くん。
もういろいろと意味が分からない。誰に謝ってるの?何を謝ってるの?
「あの子はあなたのこと、責めてないよ」
「……!?」
突然後ろから声をかけられ、驚いた顔でこちらに振り向く清沢くん。
その顔は相変わらず息が止まるほど美しかったけど、その目は虚ろで、表情にはまるで生気がなかった。
「それどころか今もあなたのことが大好きで、ずっとあなたのことを見守ってる」
由梨の言葉を聞いた清沢くんの顔が、なぜか怒りに染まった。
「……勝手なことを言うな!なんでお前にそれが分かる!」
「本人がそう言ってるから」
「お前、ふざけるのもいい加減に…!」
一度も見たことがないような鬼の形相で、さらに怒りを爆発させる清沢くん。
猛獣のような鋭い視線が由梨を貫く。その視線は由梨だけをとらえていて、あまりの怒りで由梨のとなりにいる私の姿は視界にも入っていないようだった。
でも由梨はそんな清沢くんの姿を見ても全く動じることなく、静かに自分の右手を彼に差し伸べた。
「つないであげる」
「は?」
「会わせてあげるって言ってんの、あの子に」
「……お前、頭のおかしいやつだったんだな」
清沢くんの表情が怒りから呆れに変わった。
「もし私の言葉が嘘だったら、すぐにでも私を突き放していいよ。あっちに」
そう言いながら由梨が視線を向けた「あっち」は、非常階段の柵の外側だった。
そして由梨は同時に「早く」と催促するようにさらに自分の手を清沢くんの方に近づけた。
その様子を見た清沢くんの表情は疑問と不信感が半分ずつ混ざった何とも言えない表情になった。
確かに意味わかんないよね。私も由梨が言ってることが全く理解できてないし。
でも一つだけ伝わってくるのは、由梨が清沢くんに求めている行動は「目の前にある由梨の右手を握ること」だということだった。
そして由梨のその意図は清沢くんにもちゃんと伝わったようで、彼は不信感に満ちた視線を由梨に浴びせながらも渋々彼女の手に自分の手を重ねた。
先ほどまで目の前にあった古いマンションの姿が消え、代わりに視界に入ってきたのは毎日見つめている背中だった。
場所は、おそらく先ほどのマンションの非常階段なんだと思う。
一応人が落ちないように柵が設けられてはいたけど、その柵は高さも構造も十分ではなく、乗り越えようと思えばいくらでも乗り越えることができる申し訳程度のものだった。
そして清沢くんは、今にもその柵を乗り越えそうな感じで夜景を見つめながら物思いに耽っていた。
「ごめん…本当にごめん……!」
何かに取り憑かれたような様子でまたしても謝罪の言葉をつぶやく清沢くん。
もういろいろと意味が分からない。誰に謝ってるの?何を謝ってるの?
「あの子はあなたのこと、責めてないよ」
「……!?」
突然後ろから声をかけられ、驚いた顔でこちらに振り向く清沢くん。
その顔は相変わらず息が止まるほど美しかったけど、その目は虚ろで、表情にはまるで生気がなかった。
「それどころか今もあなたのことが大好きで、ずっとあなたのことを見守ってる」
由梨の言葉を聞いた清沢くんの顔が、なぜか怒りに染まった。
「……勝手なことを言うな!なんでお前にそれが分かる!」
「本人がそう言ってるから」
「お前、ふざけるのもいい加減に…!」
一度も見たことがないような鬼の形相で、さらに怒りを爆発させる清沢くん。
猛獣のような鋭い視線が由梨を貫く。その視線は由梨だけをとらえていて、あまりの怒りで由梨のとなりにいる私の姿は視界にも入っていないようだった。
でも由梨はそんな清沢くんの姿を見ても全く動じることなく、静かに自分の右手を彼に差し伸べた。
「つないであげる」
「は?」
「会わせてあげるって言ってんの、あの子に」
「……お前、頭のおかしいやつだったんだな」
清沢くんの表情が怒りから呆れに変わった。
「もし私の言葉が嘘だったら、すぐにでも私を突き放していいよ。あっちに」
そう言いながら由梨が視線を向けた「あっち」は、非常階段の柵の外側だった。
そして由梨は同時に「早く」と催促するようにさらに自分の手を清沢くんの方に近づけた。
その様子を見た清沢くんの表情は疑問と不信感が半分ずつ混ざった何とも言えない表情になった。
確かに意味わかんないよね。私も由梨が言ってることが全く理解できてないし。
でも一つだけ伝わってくるのは、由梨が清沢くんに求めている行動は「目の前にある由梨の右手を握ること」だということだった。
そして由梨のその意図は清沢くんにもちゃんと伝わったようで、彼は不信感に満ちた視線を由梨に浴びせながらも渋々彼女の手に自分の手を重ねた。
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