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 亜佳梨の上半身裸の画像を見て以来、蒼真は今まで以上にさらに亜佳梨のことを女として見るようになっていた。

 亜佳梨のことは小学生の時から知っている。だから、亜佳梨の胸があんなに立派に成長していることが、なんだか不思議な感じだった。

 亜佳梨の身体は、もう子どもではなかった。
 乳房も乳首も乳輪も、ほとんど大人の女のそれだった。

 あの亜佳梨が……、こんなに?

 蒼真は戸惑いを隠せなかった。

 だから、祥太がその画像を見せてきたとき、蒼真は完全に落ち着きを失った。

 亜佳梨が祥太に裸を撮影されていることに動揺していた。
 亜佳梨の身体が想像以上に大人であることにも動揺していた。

 そんな蒼真のリアクションが愉快だったのだろう。
 それから祥太はたびたび亜佳梨との情事について話し、蒼真の動揺する反応を楽しむようになった。

「亜佳梨と三回もヤッたよ。親が隣りの部屋にいるのに」
「昨日は親がいなかったんで、亜佳梨と一緒に風呂に入ってヤッた」

 そう語るときの祥太は明らかに蒼真に対して優越感に浸っている顔をしていた。

「そ、そりゃよかったな……」

 蒼真は努めて素っ気なく振る舞うが、内心の悔しさは隠しきれておらず、滲み出てしまっていたようだった。
 
 蒼真の反応を面白がっている祥太の報告が、どんどんきわどくなっていったのだ。

「この週末、亜佳梨とラブホ行ってきた。めちゃくちゃおもちゃ使うたった」
「昨日、やっと亜佳梨が俺のを飲んでくれたっつーの」
「聞いてくれよ、ついに生でやったぜ。生サイコーだな」

 祥太から亜佳梨との情事に関する報告を聞かされるたび、蒼真には亜佳梨が穢されていくようにしか思えなかった。恋人同士の仲睦まじいノロケ話には到底聞こえなかった。

 むちゃくちゃ腹立たしかった。
 むかついてしょうがなかった。

 けれども蒼真は祥太から亜佳梨とのことを聞くのをやめられなかった。

 聞けば聞くほど腹が立ち、いらつき、むかつく話を、なぜ聞くのをやめられなかったのかわからない。しかし蒼真の中で、怖いもの見たさのような矛盾した奇妙な感情が蠢いているのは確かだった。

 ある日曜日のことだった――。

 蒼真のスマホに祥太からメッセージが届いた。

「今亜佳梨とやってる最中w」

 祥太から届いたその文字に蒼真の胸がギュウッと掴まれる。

 今。
 まさに今。
 祥太と亜佳梨が繋がっている……。

 蒼真はそのスマホの画面の文字から目が離せない。
 ただの文字なのにその向こうに二人の行為が透けて見えてきそうな気分だった。

「体位は?www」

 蒼真は茶化す感じで祥太に返信する。
 もちろん茶化してなどいない。真剣に知りたかった。今祥太が亜佳梨とどのような格好で繋がっているのか、咽喉から手が出るほど知りたかった。

 しばらくして着信の電子音が鳴った。
 蒼真はすぐにスマホを手に取ってみる。

「立ちバックww」

 無性にスマホを投げつけたくなった。

 日曜日の昼間からあいつら何やってんだよ!
 ふざけんじゃねぇぞ!

 自分で訊いておきながら、蒼真は怒り心頭していた。
 自分の太ももを思い切り殴った。
 そうでもしていないと心の中の何かが爆発しそうだった。

 また着信が鳴る。
 見ればむかつくのがわかっているのに、たちどころに蒼真はスマホを手に取る。

「おまえの部屋、ここからむっちゃ見えるw」

 え?

 蒼真の心臓が一瞬止まった。

 おずおずと窓のカーテンを開ける。
 亜佳梨の部屋が見える。
 その窓に祥太の上半身だけが見えた。
 祥太は裸だった。
 下半身は窓枠の下で見えなかった。

 ということは、窓の下に祥太にやられている最中の亜佳梨がいるということだ。

 祥太は蒼真が見ているの気づいて笑顔で手を振った。

 そしてその次の瞬間だった。

 祥太が亜佳梨の身体を無理やり起こさせたのだ。

 祥太に立ちバックで犯されている上半身裸の亜佳梨が窓枠の中に現れた。
 後ろからズンズン突かれているせいで亜佳梨のバストが揺れている。

 亜佳梨は蒼真が見ていることに気づいていない。
 恥ずかしそうに首を横に振っている。

 祥太はそんな亜佳梨のバストを後ろからもみもみと揉みあげる。
 遠目から見ていても亜佳梨の胸が柔らかそうなのがわかる。

 マジかよ……。
 ヤッてるよ、あの二人……。
 マジでやってるよ……。

 蒼真は女子と肉体関係を持ったことはない。
 だから、祥太が亜佳梨にしていることは、蒼真には未知の行為だ。
 どんな感触なのかわからない。

 完敗だ。
 完全なる負けだった。

 祥太はそれを蒼真に思い知らせたくて、見せつけているのだろう。

 勝ち誇った顔だった。
 誰が勝者で誰が敗者なのかを確定させたような顔だった。

 祥太は蒼真に向かって勝者の笑みで手を振ると、二人の姿は窓枠から消えた。
 ここからは亜佳梨としっぽりと楽しむつもりなのだろう。

 それからカーテンの隙間からずっと亜佳梨の部屋を監視していたが、もう二度と二人が窓枠のところに来ることはなかった。

 見えなければ見えないで、もんもんとする。
 あの部屋で祥太と亜佳梨がセックスをしている。
 なのに、見えない。

 生殺しだ。

 次から次へと頭の中に浮かんでくる最悪の妄想に呑みこまれて何も手につかない。

 思い余った蒼真はついにスマホを手に取り、

「もっと見せろやwww」

 と祥太にメッセージを送った。

 しばらくすると、祥太から答えがあった。

「亜佳梨のあえぎ声聞かせてやんよw」
「今からそっちに電話するから出ろww」

 おい、マジかよ……。

 心の整理もつかないうちに祥太から電話がかかってきた。
 通話にする。

「電話?」

 と、亜佳梨の声。

「ミスった。もう切った」

 と、祥太の声。

「また動画撮ろうとしてる?」
「撮らねぇって。ほら、スマホ置いとくから」
「絶対にみんなに見せないでよ」
「どうしよっかな」
「ねぇ~、見せないでって言ってんの」
「誰に見せたら怒る?」
「誰でも怒るよ」
「誰に見せたらいちばん怒る?」
「誰に見せても怒るってば」
「蒼真は?」

 自分の名前が出て全身に冷や汗が流れる。

「なんで蒼真が出てくんのよ」
「蒼真の名前出すと亜佳梨のあそこがキュッと締まって気持ちいいから。ああ、気持ちいいぇぇ」

 それで祥太は腰を振ったのか――、

「あっ……、やっ……、やだっ……、あぁっ……」

 亜佳梨の色っぽい声が聞こえてきた。

「ああ~、この亜佳梨の声、蒼真に聞かせてやりてぇ~」
「やだっ……、絶対に嫌だからっ……」
「もし聞かせたらどうする?」
「別れる……、あっ……、だめぇっ……」
「俺と別れて蒼真と付き合う?」
「あぁっ……、やだっ……、そこそんなにしないで……」
「答えろよ」
「いっ……、だめぇっ……」
「なんで首を横に振んだよ?」
「やだっ……、もういいからっ……」
「蒼真のこと好きなんだろ?」
「あっ……、もう言わないでって……、やだっ……、気持ちいいっ」
「蒼真と付き合えばいいじゃん」
「はぁっ……、だって蒼真はあたしのこと好きじゃないもんっ……」

 何言ってるんだ亜佳梨?
 好きに決まってるじゃないか。
 好きじゃなかったらあんなにちょっかい出したりしないだろ普通。

「蒼真はあたしのこと恋愛対象じゃないって、男子のみんなに言ってたもん」

 いや、言ったかもしれないけど、それはその場のなんていうか、みんなに冷やかされて言わされたノリのようなもので、本心じゃないのは明らかだろ。わかれよ。察しろよ、それくらい。そんなこと真に受けてんじゃねぇよ。だから、祥太と付き合ったのかよ。だから、黒川に処女を奪われたのかよ。おかしいだろそんなの。俺が亜佳梨のこと好きなのは言葉にしなくたって態度で明らかだろ。おかしいだろそんなの。小さい頃からずっと好きだったのに。おかしいだろそんなの。なんでだよ。なんでなんだよ……。

「あたしのこと好きって言って、祥太」
「好きだよ、亜佳梨」
「ちゅーして」
「ん……」

 二人が唇を重ねるかすかな音が聞こえてくる。

 蒼真はスマホを投げつけた――。




 おわり



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みんなの感想(1件)

たなとる
2024.01.30 たなとる

コレそのうち寝取るヤツやな

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1 / 3

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