3 / 4
3
しおりを挟む亜佳梨が処女じゃなかった――。
そのことが蒼真の脳裏からこびりついて離れなかった。
亜佳梨が処女じゃなかった。亜佳梨が処女じゃなかった。亜佳梨が処女じゃなかった。亜佳梨が処女じゃなかった。亜佳梨が処女じゃなかった。亜佳梨が処女じゃなかった。亜佳梨が処女じゃなかった。亜佳梨が処女じゃなかった。亜佳梨が処女じゃなかった。
いつからだ?
いつ亜佳梨は処女じゃなくなったんだ?
そして、誰だ?
誰が亜佳梨の処女を奪ったんだ?
わからない。
何もわからない。
亜佳梨はもう処女じゃない。
亜佳梨はもう男を知っている。
そんなことも知らずに亜佳梨に恋心を抱いていたのかと思うと、それまでの自分が情けなくなる。
まるで道化師じゃないか。
俺だけ空回りしていたのか。
しかし。
まったく気づかなかった。
ずっと亜佳梨のことは見ていたつもりだった。
なのに気づかなかった。
亜佳梨が誰かと付き合っていたということに。
誰だ?
亜佳梨はいつ、誰と付き合っていたんだ?
蒼真の頭の中に亜佳梨とかかわりがありそうだった男を順に思い浮かべてみる。
部活か? クラスメイトか?
同級生か? 先輩か?
いるのか?
亜佳梨と付き合っていたような男が――?
自分よりも距離が近かった男はまったく思い当たらない。
ずっと自分が亜佳梨のいちばんそばにいた。
その自信はある。
だったらなぜ初体験の相手、光友祥太の二人の男に先を越されているんだ?
わからない。
なぜ亜佳梨は俺以外の男を選んだんだ?
俺のことが嫌いだったのか?
わからない。
亜佳梨が何を考えているのかわからない。
とにかく亜佳梨はもう処女じゃなく、今も光友祥太という彼氏がいるということだ。
皮肉なことだが、これまで以上に蒼真は亜佳梨を異性として意識するようになった。男の目で亜佳梨のことを見るようになっていた。亜佳梨の女の部分ばかりに目が行くようになっていた。
亜佳梨のやつ、あんなに胸が大きかったんだ……。
あんなに丸みのあるお尻をしていたんだ……。
亜佳梨はもう祥太のものになっているというのに、祥太から亜佳梨にちょっかいを出すなと釘を刺されているというのに、亜佳梨のことが気になってしょうがなかった。
正直なことを言えば、亜佳梨が祥太の彼女となって、亜佳梨が処女でないと知ってから、蒼真は亜佳梨のことをオカズにするようになった。
亜佳梨は処女じゃなかった――。
祥太がそういうことを言うということは、つまり、祥太も亜佳梨とそういうことをしたということだ。
祥太と亜佳梨はもう恋人同士なのだから、そういうこともするだろう。
しかしまだ、蒼真の心のどこかで、その現実を受け入れられないでいる。そんなことをするわけがないと思うことを諦められないでいる。
わかっている。
冷静に考えれば、祥太と亜佳梨は肉体関係にあるのは確実なのはわかっている。すべての状況が証拠になっているからだ。
それでも祥太が亜佳梨の胸を揉んでいるなんて考えられない。祥太が亜佳梨のパンツを脱がせているなんてありえない。祥太が亜佳梨と裸で抱き合っているなんて信じられない。
蒼真がどう思おうと現実は変わらない。けれども、蒼真はひたすらに現実を受け入れることを拒んだ。
それだけが蒼真の精神を破綻から守る唯一の方法だった。
だから、祥太から「亜佳梨の初体験の相手がわかったぜ」と言われたときは、それが誰か知りたいと思う反面、それを知ってしまったら自分を形成する核となるものが崩れてしまいような気がしていた。
ある日の放課後、以前と同じように蒼真は祥太に屋上に呼び出された。
頭上には腹立たしいほど晴れ渡った青空が広がっている。
校庭からは部活の活気のある声が聞こえてくる。
「誰なんだよ」
蒼真はストレートに祥太に訊いた。
もう興味のないふりをするのはやめた。
もし興味のないふりをして教えてもらえなかったら、これからの人生、ずっとそのことが気になることになる。聞かなかったことを後悔することになる。
実際はそんなことを考えている余裕はなかった。
ただただ知りたかった。亜佳梨の初体験の相手が誰なのか知りたかった。
「知りたいか?」
祥太はもったいぶるように訊いてくる。
「ああ、知りたい」
率直にうなずく。
もうプライドも何もなかった。
「誰にも言うなよ」
「ああ、言わない」
祥太は一度周りを見渡す。
屋上には蒼真と祥太以外は誰もいない。
誰にも聞かれていないことを確認した祥太はゆっくりと口を開いてこう言った。
「チュウサンノトキ、アイテハジュクコウノダイガクセイダッテヨ」
一瞬、祥太の言った言葉が蒼真の中で意味を形成しなかった。
チュウサン?
ちゅうさん?
中さん?
中三?
中三のとき?
ジュクコウ?
熟考?
熟工?
塾講?
塾講の大学生?
!!
蒼真の脳内でその言葉が明確に意味をなしたとき、ひとりの男の顔が突如として浮かび上がってきた。
黒川昌隆だ。
中学生のとき、蒼真は亜佳梨と同じ塾に行っていた。そのとき亜佳梨の担当だった講師は一人しかいない。
確かに黒川は亜佳梨と親しくしていた。
だが、その親しさは講師と生徒の関係としてだ。
塾の中だけに限った健全な関係。
少なくとも蒼真はその認識だ。
だから、亜佳梨の恋愛の相手を考えたとき、黒川は候補にもあがらなかった。そもそも黒川はいかにも人畜無害そうな、いかにも真面目そうな大学生だった。そういう点でも、黒川を除外してしまった。完全に盲点だった。
まさかあの黒川がプライベートでも亜佳梨と親しくしていたとは……。
まったく遊び人という感じのしない、いたって真面目な大学生。
だが、その裏の顔は――。
くそっ。
黒川の野郎が亜佳梨のことをもてあそんでいたとは……。
「蒼真、知ってんの?」
「知ってる。この春大学卒業して今は名古屋にいるはずだ。名古屋で就職したって言ってたはずだからな」
そうか。
黒川は名古屋に行かなければならない。
だから、黒川は亜佳梨を捨てた。
そして、そんな亜佳梨の前に突如として祥太が現れた。
祥太はまんまと亜佳梨の心の隙間をついた。
すべてがつながったような気がした。
「そうそう。今名古屋にいるって言ってたわ。名古屋に行ったくせに、先月も亜佳梨に会いに来てたらしい」
先月も会いに来てた?
わざわざ名古屋から?
あの野郎、亜佳梨をもてあそびやがって!
蒼真は歯ぎしりをする。
「まあまあ、そう怒んなって。亜佳梨には彼氏ができたからって連絡とらせて、その大学生の連絡先も消させたからさ」
祥太は蒼真が憤りを感じているのを敏感に感じ取り、取りなすように笑って言う。
「怒ってねぇよ」
「そうか、なんか蒼真、わなわな震えてたからさ」
「だから怒ってねぇつーの!」
「いいもの見せてやるから落ち着けって。ほら――」
祥太がそう言って蒼真に見せたのは、スマホの画面に映された亜佳梨の上半身裸の写真だった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
高校デビューを果たした幼馴染みが俺を裏切り、親友に全てを奪われるまで
みっちゃん
恋愛
小さい頃、僕は虐められていた幼馴染みの女の子、サユが好きだった
勇気を持って助けるとサユは僕に懐くようになり、次第に仲が良くなっていった
中学生になったある日、
サユから俺は告白される、俺は勿論OKした、その日から俺達は恋人同士になったんだ
しかし高校生になり彼女が所謂高校生デビューをはたしてから、俺の大切な人は変わっていき
そして
俺は彼女が陽キャグループのリーダーとホテルに向かうの見てしまった、しかも俺といるよりも随分と嬉しそうに…
そんな絶望の中、元いじめっ子のチサトが俺に話しかけてくる
そして俺はチサトと共にサユを忘れ立ち直る為に前を向く
彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い
うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。
浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。
裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。
■一行あらすじ
浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
君と僕の一周年記念日に君がラブホテルで寝取らていた件について~ドロドロの日々~
ねんごろ
恋愛
一周年記念は地獄へと変わった。
僕はどうしていけばいいんだろう。
どうやってこの日々を生きていけばいいんだろう。
悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。
ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。
寝取られた義妹がグラドルになって俺の所へ帰って来て色々と仕掛けて来るのだが?(♡N≠T⇔R♡)
小鳥遊凛音
恋愛
寝取られた義妹がグラドルになって俺の所へ帰って来て色々と仕掛けて来るのだが?(♡N≠T⇔R♡)
あらすじ
七条鷹矢と七条菜々子は義理の兄妹。
幼少期、七条家に来た母娘は平穏な生活を送っていた。
一方、厳格ある七条家は鷹矢の母親が若くして亡くなった後
勢力を弱め、鷹矢の父親は落ち着きを取り戻すと、
生前、鷹矢の母親が残した意志を汲み取り再婚。
相手は菜々子の母親である。
どちらも子持ちで、年齢が同じ鷹矢と菜々子は仲も良く
自他共に認めていた。
二人が中学生だったある日、菜々子は鷹矢へ告白した。
菜々子は仲の良さが恋心である事を自覚していた。
一方、鷹矢は義理とは言え、妹に告白を受け戸惑いつつも本心は菜々子に
恋心を寄せており無事、付き合う事になった。
両親に悟られない淡い恋の行方・・・
ずっと二人一緒に・・・そう考えていた鷹矢が絶望の淵へと立たされてしまう事態に。
寮生活をする事になった菜々子は、自宅を出ると戻って来ない事を告げる。
高校生になり、別々の道を歩む事となった二人だが心は繋がっていると信じていた。
だが、その後連絡が取れなくなってしまい鷹矢は菜々子が通う学園へ向かった。
しかし、そこで見た光景は・・・
そして、菜々子からメールで一方的に別れを告げられてしまう。
絶望する鷹矢を懸命に慰め続けた幼馴染の莉子が彼女となり順風満帆になったのだが・・・
2年後、鷹矢のクラスに転入生が来た。
グラビアアイドルの一之瀬美亜である。
鷹矢は直ぐに一之瀬美亜が菜々子であると気付いた。
その日以降、菜々子は自宅へ戻り鷹矢に様々な淫らな悪戯を仕掛けて来る様になった。
時には妖しく夜這いを、また学校内でも・・・
菜々子が仕掛ける性的悪戯は留まる事を知らない。
ようやく失恋の傷が癒え、莉子という幼馴染と恋人同士になったはずなのに。
古傷を抉って来る菜々子の振る舞いに鷹矢は再び境地へ・・・
そして彼女はそれだけではなく、淫らな振る舞いや性格といった以前の菜々子からは想像を絶する豹変ぶりを見せた。
菜々子の異変に違和感をだらけの鷹矢、そして周囲にいる信頼出来る人物達の助言や推測・・・
鷹矢自身も菜々子の異変をただ寝取られてしまった事が原因だとは思えず、隠された菜々子の秘密を暴く事を決意する。
変わり果ててしまった菜々子だが、時折見せる切なくも悲しげな様子。
一体どちらが本当の菜々子なのか?
鷹矢は、菜々子の秘密を知る事が出来るのだろうか?
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる