2 / 4
2
しおりを挟む「俺、山岸亜佳梨と付き合い始めたから――」
光友祥太からそう言われたとき、小畑蒼真の頭の中は真っ白になった。
「……嘘だろ?」
今朝、亜佳梨に会って話をしたとき、そんな素振りは一切見せなかった。いつもの亜佳梨だった。
だが、いつもの亜佳梨だと思っていたのは蒼真だけで、亜佳梨はもういつもの亜佳梨ではなくなっていた。
すでに祥太のものになっていたのだ。
そんなことも知らずに蒼真は亜佳梨とくだらない会話をして楽しいと思っていた。心をときめかせていた。
もう他の男のものになっていることも知らずに――。
「いや、マジで。昨日亜佳梨に告白して、オッケーもらった」
祥太は気持ちの悪いにやけた顔で答える。
本当に気持ちの悪い顔をしている。
腹が立つ顔をしている。
「あ、そうなんだ」
蒼真はことさらに落ち着いたふりをして素っ気なく答える。
「いいんだよな?」
「何が?」
「俺が亜佳梨と付き合っても」
「いいも何も、俺は関係ねぇだろ?」
「そうだよな。別に蒼真は亜佳梨のことはどうでもいいもんな」
祥太にそう言われ、蒼真はイラっとした。
どうでもいいわけないだろ!
今まで一度だって亜佳梨のことをどうでもいいなんて思ったことねぇよ!
心の中ではそう思っていた。
だが、表情には出さなかった。無表情であることを努めた。感情を表に出すべきではなかった。感情を露わにしたら負けだと思った。
「幼馴染みなだけだしな」
蒼真は強がって言う。
自虐的であったかもしれない。
幼馴染みという最高のスタートラインを手にしながら、そのことに安心し、祥太に先を越された。蒼真が幼馴染みという地位でまごついているうちに、祥太は亜佳梨の恋人という地位を手に入れたのだ。
蒼真は亜佳梨の恋人にはなれなかった。
みすみすチャンスをふいにしたかもしれなかったが、結果は恋人になれなかったという事実だけが残った。
蒼真は亜佳梨の幼馴染みでしかないのだ。
これまでも、そしてこれからも――。
「そのことなんだけどさ」
祥太は言いにくそうな表情でそう言いながらも、そこには優越感が滲み出ている。
「何だよ?」
「これからもう亜佳梨にちょっかいをかけないでくれるか?」
祥太にそう言われて蒼真はキレそうになった。
は? いつ俺が亜佳梨にちょっかいをかけたよ?
そう言いそうになった。
しかし、これまでの蒼真の亜佳梨に対する行動は、祥太からすれば、蒼真が亜佳梨にちょっかいをかけているようにしか見えなかったということだ。祥太の言い方には問題があると思うが、言いたいことはわからないでもなかった。
とはいえ、蒼真のいらだちは収まらない。
「わかった。金輪際、亜佳梨とは絶対に口をきかねぇよ」
蒼真は「絶対に」のところに力をこめて言った。
俺と話ができなくなったら亜佳梨は絶対に悲しむ。それが祥太のせいだとわかったら、亜佳梨は絶対に祥太を恨むだろう。亜佳梨に恨まれればいいんだ――。
蒼真はそんなことを思いながら、亜佳梨と絶交することを確約した。
それから蒼真は亜佳梨と疎遠になった。
家は近所なのに動線すら交わることもなくなった。
蒼真の目論みは外れた。
亜佳梨はいつまで経っても蒼真と距離ができたことに嘆くことはなかった。
逆に日に日に祥太と亜佳梨がアツアツのカップルになっていくのが目に見えてわかった。
蒼真は亜佳梨の幼馴染みの地位さえ失ってしまった――。
そんなある日のことだった。
祥太に聞きたいことがあると言われ、放課後に屋上に呼び出された。
「何だよ、聞きたいことって?」
蒼真はふてくされたように言う。
正直なところ、亜佳梨の恋人となった祥太との接し方がわからなかった。だから、祥太が亜佳梨と付き合い始めてから、蒼真は祥太のことを避けていた。
「正直に答えろよ」
祥太は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「はぁ?」
蒼真は祥太を睨む。
質問する前から「正直に答えろ」とは言いがかりにもほどがある。
「何をだよ?」
蒼真は逆に質問をして祥太を促す。
そうでも言わなけれなば話は進まない。
「何をって、それは……」
言い淀む祥太はどこか憔悴したような顔をしていた。
「蒼真……。おまえ、亜佳梨とヤッたのか?」
「は?」
蒼真は訊き返す。
意味がわからない。
「だから、亜佳梨とセックスしたのかって訊いてるんだよ」
「どういうことだよ?」
「だから、言った通りだよ。おまえらずっと仲良かっただろ? 亜佳梨の初体験の相手はおまえだったのかって訊いてるんだよ」
え?
どういうことだ?
今度は蒼真のほうが憔悴する番だった。
「……お、俺じゃねぇよ。あいつとは何もなかったよ」
蒼真はそう答えながら、なぜ祥太はそんなこと訊くんだ――という疑念が頭の中でぐるぐる回っていた。
背中に大粒の汗が流れた。
虫が這いまわっているような不快な感触だった。
「な、なんでそんなこと俺に訊くんだよ?」
蒼真は呼吸困難に陥りそうになりながらも祥太に訊く。
咽喉の奥のほうが痛かった。そして、胸が痛かった。
祥太は亜佳梨の問題の相手が蒼真ではなかったことにホッとしつつも、搾り出すような声でこう言った。
「亜佳梨は処女じゃなかった――」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
高校デビューを果たした幼馴染みが俺を裏切り、親友に全てを奪われるまで
みっちゃん
恋愛
小さい頃、僕は虐められていた幼馴染みの女の子、サユが好きだった
勇気を持って助けるとサユは僕に懐くようになり、次第に仲が良くなっていった
中学生になったある日、
サユから俺は告白される、俺は勿論OKした、その日から俺達は恋人同士になったんだ
しかし高校生になり彼女が所謂高校生デビューをはたしてから、俺の大切な人は変わっていき
そして
俺は彼女が陽キャグループのリーダーとホテルに向かうの見てしまった、しかも俺といるよりも随分と嬉しそうに…
そんな絶望の中、元いじめっ子のチサトが俺に話しかけてくる
そして俺はチサトと共にサユを忘れ立ち直る為に前を向く
彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い
うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。
浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。
裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。
■一行あらすじ
浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
君と僕の一周年記念日に君がラブホテルで寝取らていた件について~ドロドロの日々~
ねんごろ
恋愛
一周年記念は地獄へと変わった。
僕はどうしていけばいいんだろう。
どうやってこの日々を生きていけばいいんだろう。
悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。
ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。
寝取られた義妹がグラドルになって俺の所へ帰って来て色々と仕掛けて来るのだが?(♡N≠T⇔R♡)
小鳥遊凛音
恋愛
寝取られた義妹がグラドルになって俺の所へ帰って来て色々と仕掛けて来るのだが?(♡N≠T⇔R♡)
あらすじ
七条鷹矢と七条菜々子は義理の兄妹。
幼少期、七条家に来た母娘は平穏な生活を送っていた。
一方、厳格ある七条家は鷹矢の母親が若くして亡くなった後
勢力を弱め、鷹矢の父親は落ち着きを取り戻すと、
生前、鷹矢の母親が残した意志を汲み取り再婚。
相手は菜々子の母親である。
どちらも子持ちで、年齢が同じ鷹矢と菜々子は仲も良く
自他共に認めていた。
二人が中学生だったある日、菜々子は鷹矢へ告白した。
菜々子は仲の良さが恋心である事を自覚していた。
一方、鷹矢は義理とは言え、妹に告白を受け戸惑いつつも本心は菜々子に
恋心を寄せており無事、付き合う事になった。
両親に悟られない淡い恋の行方・・・
ずっと二人一緒に・・・そう考えていた鷹矢が絶望の淵へと立たされてしまう事態に。
寮生活をする事になった菜々子は、自宅を出ると戻って来ない事を告げる。
高校生になり、別々の道を歩む事となった二人だが心は繋がっていると信じていた。
だが、その後連絡が取れなくなってしまい鷹矢は菜々子が通う学園へ向かった。
しかし、そこで見た光景は・・・
そして、菜々子からメールで一方的に別れを告げられてしまう。
絶望する鷹矢を懸命に慰め続けた幼馴染の莉子が彼女となり順風満帆になったのだが・・・
2年後、鷹矢のクラスに転入生が来た。
グラビアアイドルの一之瀬美亜である。
鷹矢は直ぐに一之瀬美亜が菜々子であると気付いた。
その日以降、菜々子は自宅へ戻り鷹矢に様々な淫らな悪戯を仕掛けて来る様になった。
時には妖しく夜這いを、また学校内でも・・・
菜々子が仕掛ける性的悪戯は留まる事を知らない。
ようやく失恋の傷が癒え、莉子という幼馴染と恋人同士になったはずなのに。
古傷を抉って来る菜々子の振る舞いに鷹矢は再び境地へ・・・
そして彼女はそれだけではなく、淫らな振る舞いや性格といった以前の菜々子からは想像を絶する豹変ぶりを見せた。
菜々子の異変に違和感をだらけの鷹矢、そして周囲にいる信頼出来る人物達の助言や推測・・・
鷹矢自身も菜々子の異変をただ寝取られてしまった事が原因だとは思えず、隠された菜々子の秘密を暴く事を決意する。
変わり果ててしまった菜々子だが、時折見せる切なくも悲しげな様子。
一体どちらが本当の菜々子なのか?
鷹矢は、菜々子の秘密を知る事が出来るのだろうか?
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる