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最終章
172,決戦 Part,1
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PTが揃ったその日の深夜、顎が帰って来た。
アンカーの設置は無事終わったそうな。ちなみに顎も同行することになっている。
一応元ランクSだし、奴隷だからメンバー枠には収まる。
何の役に立つのかと言われれば単純に150階層までの道案内だ。
アンカーの設置された場所が145階層なので5階層分の道案内。それ以降は状況を見ながらだが恐らく連れて行く事になるだろう。
元ランクSとはいえ、装備品と奴隷を使い潰して手に入れた地位だ。顎単体では装備品があっても大した事はないのではないかと思われるが、そこらにいる冒険者や騎士よりもよっぽど強い。
オレ達に比べるとかなり劣ってしまうがランクSというのは装備品や奴隷の使い潰しだけでなれるような地位ではないということだ。
エリア姫は姫という高い身分だから騎士団を動かす事は可能だが、いくら騎士でもすぐに動かせる存在はランクSには遠く及ばないのが実情だ。
騎士の中でも団長などをやっている存在は確かに強い。だがそれだけにすぐに動かせるような存在ではないのだ。
メンバー枠が空いている以上埋めておきたいのは強敵が相手なのだから当然だ。
だがただ埋めるだけでは意味が無い。足手まといを連れて行っても仕方ないのだから。それどころか本当に足を引っ張られたら壊滅に繋がる。
だがある程度の強さ――ランクSクラス――がそんなに簡単に見つかるわけが無い。
今回はかなり運が良い方なのだろう。
オレ達やエリア姫など十分な戦力が存在するんだから。
しかし相手は強敵だ。やはり埋められるならメンバー枠は埋めた方がいい。
そういうこともあり、元ランクSであり奴隷の顎が選ばれたというわけだ。
ちなみにもう1つ枠があるので戦闘奴隷さんのトップを連れて行くことになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日から始まった探索ははっきりいって順調を通り越している。
トレーゼの迷宮145階層という場所はカトルゼの迷宮とはレベルが違った。
しかしこちらの戦力はまさに桁が違った。
出てくる魔物は障害にすらならない。
勇者の装備を纏ったレーネさんとドリルさんが肩慣らしも兼ねて一瞬で片付けてしまうのだ。
魔物単体の戦力がかなり高いために出てくる量が少ないので戦闘回数自体はそれほど多くないのだが、それ以上にレーネさん達の戦闘力が桁違いだ。
たまに交代してアイトさんやグレーさんが戦うが、一瞬で戦闘が終了してしまうレーネさん達と比べると多少時間がかかる。
しかしそれでも一顧だにしない働きを見せる。
アイトさんのユニークスキルは覇焔神剣。
ものすごい中二くさいがその威力は絶大だ。
真っ白に輝く炎の剣が凄まじい硬度を誇る魔物を抵抗なく切り裂き消し炭にする様は見てて眩しい。目に痛い。サングラス欲しい。
グレーさんは以前オークロードと戦ったときにも見せた結界系のスキルで足止めなどの妨害をするのが得意らしく、避けようとする魔物の足を一瞬で止めてしまう。
そのおかげでアイトさんの攻撃は容易く魔物を捉える事が出来ている。
アイトさんの実力からいって足止めがないともう少し時間がかかるだろう。
だがグレーさんと組む事によって強さが何倍にもなっている。
これがランクSの実力。
実際の戦闘力はそれほどではない――オレ達に比べて――が得意分野に関しては右に出る物がいないといっても過言ではないのだろう。
事実その働きは優秀を通り越して卓越しているといえる。
敵を殲滅する力は大事だ。
だがそれ以上に相手を妨害し、味方が有利な状況になるというのは生き残る上で優先される。
なぜならこの世界――ウイユベールでは怪我の回復に危険が付きまとうからだ。
魔法やポーションで回復できるといってもデメリットがしっかり存在する。
魔法は回復する際に痛みが伴う。それも怪我の度合いにより非常に大きな痛みとなり、その痛みでショック死するほどだ。
ポーションは痛みはないが怪我に応じた物を使わねば効果が薄いし、例え適切な物を選んでも即効性ではない。即効性のものは非常に高価だ。
怪我をするというのは戦力低下に直結する。
故に被害を少なくするというのは戦闘に於いて必須事項となる。
しかしそういったことはただ戦うだけでは難しい。
実力差があれば問題にもならないが、拮抗していけば怪我は当然増える。
そういった問題に対処するのがグレーさんのような立ち位置のメンバーということだ。
それに正直痛いのは誰だっていやだろう。怪我をしないに越した事はないのだ。
ちなみに戦闘で直接魔物を妨害したり誘導したりするだけがそういったメンバーの仕事ではない。
グレーさんが直接魔物を妨害誘導する係なら、ライリさんは味方の補助をする係だ。
オレも度々使う強化系のスキル。
アレの強化版をユニークスキルとして所持している。
さすがはユニークスキルというべきか、その能力はやはりすごい。
強化系スキルが一点集中型のスキルだとすれば彼女の持つユニークスキルは全体を満遍なく強化し、さらに防御支援まで行えるというかなり万能なものだ。
強化系Lv3は対象とするステータスを2倍にする。
ライリさんのユニークスキルはさすがに全体を満遍なく強化するためにそこまでの上昇はない。しかし単一のスキルでステータス全てを同時に上昇させるのは凄まじい。
上昇率は割合的に言えば1,5倍。強化系Lv2と同等だ。
全てのステータスを対象とする上に防御支援まである。
防御支援は同程度の耐性上昇ということらしいが、これらはステータス上には記載されていないので詳しくは知らない。
防具なんかでよくついている効果だけど、正直アルという完璧な盾がいるオレとしては攻撃を受ける事自体がほとんどないから実感することが出来なかったやつだ。
ここまで見ると凄まじい能力だが、弱点もある。
それは自分自身には効果がないという、完全な他者を対象とした支援能力ということ。
効果時間の制限がない代わりにライリさんと一定以上離れると効果がなくなること。
まぁオレと一緒にアルに守られている状態なら大したデメリットにもならないだろう。
本人もBaseLvを上げて自身の能力も高めているそうだし。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さてそんな感じに探索はすこぶる順調に進んでいく。
むしろこのメンバーで苦戦するならトレーゼは難攻不落になってしまうだろうけどね。
150階層まで降りるのに1日かからないというのは最短記録だろう。
道案内がいるのといないのとではやはりかなり違ったようだ。
150階層はフロアボスのいる階層だ。
149階層には転移用の魔法陣と合言葉がある石版があり、その上に乗って合言葉を唱えると唱えた者の所属するPTごとボスのところに転移するというものだ。
「では皆、準備はいいか?」
代表してグレーさんが合言葉を言うために魔法陣の中に居る。
フロアボスもレーネさんとドリルさんの勇者ペアを前面に押し出してのごり押しでとっとと倒してしまう予定なので問題はない。
顎からの情報でフロアボスについては知っているし、それで問題もないだろうという結論になっている。
全員が頷いてグレーさんが合言葉を妙に響く太い声で唱える。
この人地味に美声なんだよね。なんかこう腹の奥にズンと響くと言うか。
レーネさんなんかうっとりしちゃってるし。……その人あなたのお兄さんですよ? わかってますかー?
レーネさんほどじゃないけどエリア姫もグレーさんをじっと見ている。
でもその瞳にはレーネさんみたいなうっとりとした陶酔するようなものはない。エリア姫は公私をしっかり分ける人なんだろう。
今現在は仕事ということだ。
グレーさんがそこそこ長い合言葉を唱え終わるのと同時に視界が切り替わり……全てが黒く染まった。
「レーネ!」
一瞬で状況判断を下したエリア姫が叫ぶ。
しかし遅かった。
遅すぎた。
アルがオレをかばうためにアイギスの盾を構え防御態勢を取る。
かばえたのはオレとすぐ近くに居たライリさんだけ。
他の全員はアルの防御圏外。自力でなんとかするしかない。
――それは黒い炎。
全てを焼き尽くし、灰すら残さないような。
しかし温度は絶対零度という奇妙な炎。
炎に焼かれる激痛に悲鳴をあげる暇さえなく、直撃を受けたものの体が燃え上がり……消滅する。
刹那の間で起こった暴虐に優先度を瞬時に判断する。
加速した思考の中でオレが動き出すのと同時に爆発音が連鎖して起こり、暴虐の限りを尽くそうとした存在が遥か彼方まで吹き飛ぼうとしている。
まずはレーネさん。
勇者の装備で全身をカバーしているために黒い炎によるダメージは軽微。
これなら優先度は低。
次にグレーさん。
さすがはランクS。あの一瞬で使える手段は全て使って防御したのだろう。魔道具ではない防具で黒い炎を遮断し、両足を焼き尽くされるだけで済んでいる。
優先度は中。両足から出血が無いことから黒い炎に焼かれて出血は止まっているのだろう。優先度変更、低。
次にエリア姫。
胸から下がない。何が起こったのか完全に理解しているのか悔しそうな表情が胸に痛い。
最優先と判断、転移。
すでに王族の不文律は発動済み。何度も行ったためか膨大なMPを瞬時に治癒の魔法へと変換する作業は瞬き1つ以下の刹那の間で可能となっている。
死へと向かう一瞬の絶望を奇跡が塗り替える。
燃え尽きてなくなってしまった防具や服、下着なんかはどうしようもない。
だがその下にあった綺麗な染み1つ無い肌。引き締まった、だが女性らしい丸みを帯びた肉体が一瞬にして再構築された。
骨が伸び、筋肉や神経が絡みつくような光景は早すぎて視認できないレベルとなっている。
これも慣れのようだ。人間と言うのは恐ろしい。オレは一体どこに向かっているのだろうな。
絶望と苦痛の表情が驚愕へと変わり、好戦的な不敵な笑みに切り替わった。
……やはりこの人は狂人の類だ。死への絶望から歓喜よりも先に敵を倒す事を優先できる。自身の生死よりも結果を優先させるのだ。狂人以外の何者でもない。
死への絶望から生還したのに安堵ではなく、次を見据えている。
人として何か抜け落ちている。だが今はそんな事どうでもいいことだ。
次はドリルさん。
彼女は無傷だった。ありえねぇ!
いくら勇者の装備で敏捷があがり、ライリさんの能力でさらに増えているとはいえ無傷はやりすぎだ。
しかもすでに反撃に出ている。
黒い炎をかいくぐり、アルが起こした震爆に追随するように攻撃を加えていやがる。なんだこいつ……。
ただ黒い世界の中にいるためか魔道具である剣が機能を停止している。
ダメージはまったく与えられていないのが1撃目の攻撃で判断できた。
……もうドリルさんはいいや。次。
アイトさんは確認できなかった。
恐らく即死だろう。非情なようだが今は仕方ない、次だ。
次は1人だけ連れてきた戦闘奴隷さん。
彼は一応ライリさんの盾として連れてきたのだがアルの防御範囲がめちゃくちゃ広いので少し離れていた。
それが仇となった。
残っていたのは彼の2本の足だけ。どうみても即死だ。クソッ!
最後は顎。
アイツは中衛として戦闘奴隷さんに近い位置にいたはず。
あ、しぶとい。片腕がないが生き残ってる。
現状で見捨てるわけにもいかないからグレーさんを治したら治すか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
遠くで壁に激突した上で何重もの硬質な金属のぶつかり合う音が聞こえる。
ドリルさんがその速さで一方的に攻撃を仕掛け、縫い付けているのだろう。時折黒い炎が広がっているが金属音が途切れる事はない。
……ドリルさんすげー。
「初手で全滅寸前か……」
「アイトがやられたのは痛すぎるのじゃ! くそ!」
新たな服と装備に着替えたエリア姫が悔しそうに吐き捨てる。
軽症のレーネさんはもちろん、グレーさんも顎も治療は完了している。
即死したアイトさんと戦闘奴隷さん以外は怪我1つない状態に復帰している。
オレの治療を受けたメンバーから命拾いをしたと深く感謝されたが今はそんな時ではないので皆すぐに切り替えた。
レーネさんが発動させた女神の祈りによって魔道具も復旧しているが遥か遠くで戦闘を今現在も続行しているドリルさんには届かないようだ。
不意を打たれたとはいえ、2人も犠牲を出してしまったのは痛恨の極みだ。
特にアイトさんは戦力としてそれなりに期待されていたのででかい。戦闘奴隷さんだってオレ達には遥かに劣るとはいえ、選ばれただけあって期待されていないわけではなかった。
即死した2人のアイテムボックスに入っていた予備の装備が散らばっているが今は回収している暇はない。
すぐにドリルさんの加勢に行かねばならない。
だが問題はあの黒い炎だ。
今行っても、ドリルさん並の敏捷値を持っていなければ回避できないだろう。
アルクラスの使い手になれば防御できるが、不意打ちとはいえグレーさんですら完全には防げなかったほどだ。
不意打ちではなくても戦闘中に完全に回避するのは難しいレベルの攻撃だとすぐにわかる。
しかしだからといって立ち止まっているわけにはいかない。
オレ達はアレを倒しに来たんだから。
グレーさんがすぐに判断を下し、レーネさんとグレーさんだけが加勢に向かう事に決まった。
オレ達はアルの防御圏内に隠れて近づき、女神の祈りの範囲内で支援をする。
「行動開始だ!」
グレーさんの声と共に全員が走りだした。
アンカーの設置は無事終わったそうな。ちなみに顎も同行することになっている。
一応元ランクSだし、奴隷だからメンバー枠には収まる。
何の役に立つのかと言われれば単純に150階層までの道案内だ。
アンカーの設置された場所が145階層なので5階層分の道案内。それ以降は状況を見ながらだが恐らく連れて行く事になるだろう。
元ランクSとはいえ、装備品と奴隷を使い潰して手に入れた地位だ。顎単体では装備品があっても大した事はないのではないかと思われるが、そこらにいる冒険者や騎士よりもよっぽど強い。
オレ達に比べるとかなり劣ってしまうがランクSというのは装備品や奴隷の使い潰しだけでなれるような地位ではないということだ。
エリア姫は姫という高い身分だから騎士団を動かす事は可能だが、いくら騎士でもすぐに動かせる存在はランクSには遠く及ばないのが実情だ。
騎士の中でも団長などをやっている存在は確かに強い。だがそれだけにすぐに動かせるような存在ではないのだ。
メンバー枠が空いている以上埋めておきたいのは強敵が相手なのだから当然だ。
だがただ埋めるだけでは意味が無い。足手まといを連れて行っても仕方ないのだから。それどころか本当に足を引っ張られたら壊滅に繋がる。
だがある程度の強さ――ランクSクラス――がそんなに簡単に見つかるわけが無い。
今回はかなり運が良い方なのだろう。
オレ達やエリア姫など十分な戦力が存在するんだから。
しかし相手は強敵だ。やはり埋められるならメンバー枠は埋めた方がいい。
そういうこともあり、元ランクSであり奴隷の顎が選ばれたというわけだ。
ちなみにもう1つ枠があるので戦闘奴隷さんのトップを連れて行くことになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日から始まった探索ははっきりいって順調を通り越している。
トレーゼの迷宮145階層という場所はカトルゼの迷宮とはレベルが違った。
しかしこちらの戦力はまさに桁が違った。
出てくる魔物は障害にすらならない。
勇者の装備を纏ったレーネさんとドリルさんが肩慣らしも兼ねて一瞬で片付けてしまうのだ。
魔物単体の戦力がかなり高いために出てくる量が少ないので戦闘回数自体はそれほど多くないのだが、それ以上にレーネさん達の戦闘力が桁違いだ。
たまに交代してアイトさんやグレーさんが戦うが、一瞬で戦闘が終了してしまうレーネさん達と比べると多少時間がかかる。
しかしそれでも一顧だにしない働きを見せる。
アイトさんのユニークスキルは覇焔神剣。
ものすごい中二くさいがその威力は絶大だ。
真っ白に輝く炎の剣が凄まじい硬度を誇る魔物を抵抗なく切り裂き消し炭にする様は見てて眩しい。目に痛い。サングラス欲しい。
グレーさんは以前オークロードと戦ったときにも見せた結界系のスキルで足止めなどの妨害をするのが得意らしく、避けようとする魔物の足を一瞬で止めてしまう。
そのおかげでアイトさんの攻撃は容易く魔物を捉える事が出来ている。
アイトさんの実力からいって足止めがないともう少し時間がかかるだろう。
だがグレーさんと組む事によって強さが何倍にもなっている。
これがランクSの実力。
実際の戦闘力はそれほどではない――オレ達に比べて――が得意分野に関しては右に出る物がいないといっても過言ではないのだろう。
事実その働きは優秀を通り越して卓越しているといえる。
敵を殲滅する力は大事だ。
だがそれ以上に相手を妨害し、味方が有利な状況になるというのは生き残る上で優先される。
なぜならこの世界――ウイユベールでは怪我の回復に危険が付きまとうからだ。
魔法やポーションで回復できるといってもデメリットがしっかり存在する。
魔法は回復する際に痛みが伴う。それも怪我の度合いにより非常に大きな痛みとなり、その痛みでショック死するほどだ。
ポーションは痛みはないが怪我に応じた物を使わねば効果が薄いし、例え適切な物を選んでも即効性ではない。即効性のものは非常に高価だ。
怪我をするというのは戦力低下に直結する。
故に被害を少なくするというのは戦闘に於いて必須事項となる。
しかしそういったことはただ戦うだけでは難しい。
実力差があれば問題にもならないが、拮抗していけば怪我は当然増える。
そういった問題に対処するのがグレーさんのような立ち位置のメンバーということだ。
それに正直痛いのは誰だっていやだろう。怪我をしないに越した事はないのだ。
ちなみに戦闘で直接魔物を妨害したり誘導したりするだけがそういったメンバーの仕事ではない。
グレーさんが直接魔物を妨害誘導する係なら、ライリさんは味方の補助をする係だ。
オレも度々使う強化系のスキル。
アレの強化版をユニークスキルとして所持している。
さすがはユニークスキルというべきか、その能力はやはりすごい。
強化系スキルが一点集中型のスキルだとすれば彼女の持つユニークスキルは全体を満遍なく強化し、さらに防御支援まで行えるというかなり万能なものだ。
強化系Lv3は対象とするステータスを2倍にする。
ライリさんのユニークスキルはさすがに全体を満遍なく強化するためにそこまでの上昇はない。しかし単一のスキルでステータス全てを同時に上昇させるのは凄まじい。
上昇率は割合的に言えば1,5倍。強化系Lv2と同等だ。
全てのステータスを対象とする上に防御支援まである。
防御支援は同程度の耐性上昇ということらしいが、これらはステータス上には記載されていないので詳しくは知らない。
防具なんかでよくついている効果だけど、正直アルという完璧な盾がいるオレとしては攻撃を受ける事自体がほとんどないから実感することが出来なかったやつだ。
ここまで見ると凄まじい能力だが、弱点もある。
それは自分自身には効果がないという、完全な他者を対象とした支援能力ということ。
効果時間の制限がない代わりにライリさんと一定以上離れると効果がなくなること。
まぁオレと一緒にアルに守られている状態なら大したデメリットにもならないだろう。
本人もBaseLvを上げて自身の能力も高めているそうだし。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さてそんな感じに探索はすこぶる順調に進んでいく。
むしろこのメンバーで苦戦するならトレーゼは難攻不落になってしまうだろうけどね。
150階層まで降りるのに1日かからないというのは最短記録だろう。
道案内がいるのといないのとではやはりかなり違ったようだ。
150階層はフロアボスのいる階層だ。
149階層には転移用の魔法陣と合言葉がある石版があり、その上に乗って合言葉を唱えると唱えた者の所属するPTごとボスのところに転移するというものだ。
「では皆、準備はいいか?」
代表してグレーさんが合言葉を言うために魔法陣の中に居る。
フロアボスもレーネさんとドリルさんの勇者ペアを前面に押し出してのごり押しでとっとと倒してしまう予定なので問題はない。
顎からの情報でフロアボスについては知っているし、それで問題もないだろうという結論になっている。
全員が頷いてグレーさんが合言葉を妙に響く太い声で唱える。
この人地味に美声なんだよね。なんかこう腹の奥にズンと響くと言うか。
レーネさんなんかうっとりしちゃってるし。……その人あなたのお兄さんですよ? わかってますかー?
レーネさんほどじゃないけどエリア姫もグレーさんをじっと見ている。
でもその瞳にはレーネさんみたいなうっとりとした陶酔するようなものはない。エリア姫は公私をしっかり分ける人なんだろう。
今現在は仕事ということだ。
グレーさんがそこそこ長い合言葉を唱え終わるのと同時に視界が切り替わり……全てが黒く染まった。
「レーネ!」
一瞬で状況判断を下したエリア姫が叫ぶ。
しかし遅かった。
遅すぎた。
アルがオレをかばうためにアイギスの盾を構え防御態勢を取る。
かばえたのはオレとすぐ近くに居たライリさんだけ。
他の全員はアルの防御圏外。自力でなんとかするしかない。
――それは黒い炎。
全てを焼き尽くし、灰すら残さないような。
しかし温度は絶対零度という奇妙な炎。
炎に焼かれる激痛に悲鳴をあげる暇さえなく、直撃を受けたものの体が燃え上がり……消滅する。
刹那の間で起こった暴虐に優先度を瞬時に判断する。
加速した思考の中でオレが動き出すのと同時に爆発音が連鎖して起こり、暴虐の限りを尽くそうとした存在が遥か彼方まで吹き飛ぼうとしている。
まずはレーネさん。
勇者の装備で全身をカバーしているために黒い炎によるダメージは軽微。
これなら優先度は低。
次にグレーさん。
さすがはランクS。あの一瞬で使える手段は全て使って防御したのだろう。魔道具ではない防具で黒い炎を遮断し、両足を焼き尽くされるだけで済んでいる。
優先度は中。両足から出血が無いことから黒い炎に焼かれて出血は止まっているのだろう。優先度変更、低。
次にエリア姫。
胸から下がない。何が起こったのか完全に理解しているのか悔しそうな表情が胸に痛い。
最優先と判断、転移。
すでに王族の不文律は発動済み。何度も行ったためか膨大なMPを瞬時に治癒の魔法へと変換する作業は瞬き1つ以下の刹那の間で可能となっている。
死へと向かう一瞬の絶望を奇跡が塗り替える。
燃え尽きてなくなってしまった防具や服、下着なんかはどうしようもない。
だがその下にあった綺麗な染み1つ無い肌。引き締まった、だが女性らしい丸みを帯びた肉体が一瞬にして再構築された。
骨が伸び、筋肉や神経が絡みつくような光景は早すぎて視認できないレベルとなっている。
これも慣れのようだ。人間と言うのは恐ろしい。オレは一体どこに向かっているのだろうな。
絶望と苦痛の表情が驚愕へと変わり、好戦的な不敵な笑みに切り替わった。
……やはりこの人は狂人の類だ。死への絶望から歓喜よりも先に敵を倒す事を優先できる。自身の生死よりも結果を優先させるのだ。狂人以外の何者でもない。
死への絶望から生還したのに安堵ではなく、次を見据えている。
人として何か抜け落ちている。だが今はそんな事どうでもいいことだ。
次はドリルさん。
彼女は無傷だった。ありえねぇ!
いくら勇者の装備で敏捷があがり、ライリさんの能力でさらに増えているとはいえ無傷はやりすぎだ。
しかもすでに反撃に出ている。
黒い炎をかいくぐり、アルが起こした震爆に追随するように攻撃を加えていやがる。なんだこいつ……。
ただ黒い世界の中にいるためか魔道具である剣が機能を停止している。
ダメージはまったく与えられていないのが1撃目の攻撃で判断できた。
……もうドリルさんはいいや。次。
アイトさんは確認できなかった。
恐らく即死だろう。非情なようだが今は仕方ない、次だ。
次は1人だけ連れてきた戦闘奴隷さん。
彼は一応ライリさんの盾として連れてきたのだがアルの防御範囲がめちゃくちゃ広いので少し離れていた。
それが仇となった。
残っていたのは彼の2本の足だけ。どうみても即死だ。クソッ!
最後は顎。
アイツは中衛として戦闘奴隷さんに近い位置にいたはず。
あ、しぶとい。片腕がないが生き残ってる。
現状で見捨てるわけにもいかないからグレーさんを治したら治すか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
遠くで壁に激突した上で何重もの硬質な金属のぶつかり合う音が聞こえる。
ドリルさんがその速さで一方的に攻撃を仕掛け、縫い付けているのだろう。時折黒い炎が広がっているが金属音が途切れる事はない。
……ドリルさんすげー。
「初手で全滅寸前か……」
「アイトがやられたのは痛すぎるのじゃ! くそ!」
新たな服と装備に着替えたエリア姫が悔しそうに吐き捨てる。
軽症のレーネさんはもちろん、グレーさんも顎も治療は完了している。
即死したアイトさんと戦闘奴隷さん以外は怪我1つない状態に復帰している。
オレの治療を受けたメンバーから命拾いをしたと深く感謝されたが今はそんな時ではないので皆すぐに切り替えた。
レーネさんが発動させた女神の祈りによって魔道具も復旧しているが遥か遠くで戦闘を今現在も続行しているドリルさんには届かないようだ。
不意を打たれたとはいえ、2人も犠牲を出してしまったのは痛恨の極みだ。
特にアイトさんは戦力としてそれなりに期待されていたのででかい。戦闘奴隷さんだってオレ達には遥かに劣るとはいえ、選ばれただけあって期待されていないわけではなかった。
即死した2人のアイテムボックスに入っていた予備の装備が散らばっているが今は回収している暇はない。
すぐにドリルさんの加勢に行かねばならない。
だが問題はあの黒い炎だ。
今行っても、ドリルさん並の敏捷値を持っていなければ回避できないだろう。
アルクラスの使い手になれば防御できるが、不意打ちとはいえグレーさんですら完全には防げなかったほどだ。
不意打ちではなくても戦闘中に完全に回避するのは難しいレベルの攻撃だとすぐにわかる。
しかしだからといって立ち止まっているわけにはいかない。
オレ達はアレを倒しに来たんだから。
グレーさんがすぐに判断を下し、レーネさんとグレーさんだけが加勢に向かう事に決まった。
オレ達はアルの防御圏内に隠れて近づき、女神の祈りの範囲内で支援をする。
「行動開始だ!」
グレーさんの声と共に全員が走りだした。
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