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第7章
160,解体
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オレが引き起こした惨状のあとを見ると、まず巨大な3本の柱が全て倒れて壁にめり込んでいた。
めり込んだ柱は当然無事じゃない。その巨体のために被った被害は尋常じゃない。
円柱だった見た目は最早残っていないくらいに抉られ、削られ、変形している。
3本中2本は3つか4つくらいに砕け、それぞれが壁にめり込み被害を増大させている。
残りの1本はどうやらオレが最後に隠れた青いクリスタルがあった柱のようだ。その柱だけは砕ける事はなく壁に突き刺さっている。
この柱が砕けていたらオレも無事では済まなかっただろう。
なんとも不幸中の幸いだ。もしかしたら青いクリスタルがある柱だから、他の柱とは別物だったのかもしれない。
それでも壁に突き刺さっているくらいには被害を受けている。
巨大な柱が3本なくなったということはそれに支えられていたと思われる天井はどうなったかというと……明らかに高くなっていた。
それでも別の空間が見えたり、上の階が見えたりすることはないようだ。
ただやはりどうみても高くなっているし、天井が落ちてくることもないみたいだ。
もちろん均一に高さが増えているわけではなく、ところどころぼこぼこだ。
それこそ床の舞いあがった破片やなんかが当たって崩壊したような跡だ。
天井だけじゃなくて柱がめり込んでいない壁も同じような状況だ。やっぱり少し広くなったような気もする。
さて1番の惨状と言っていいのはやはり床だろう。
床に敷かれていたタイル状の何かが剥がれに剥がれ、その下の台座のような床石? も捲れ上がって崩壊し酷い有様だ。
だがまだその辺はマシなくらいだった。
問題なのはオレがグレートコーンを振るった場所だ。
まさに爆心地といった状況なのだ。
要するにクレーターが出来ている。
しかも大きさが並じゃない。本当に爆弾でも爆発したかのような目測でも直径2~300mくらいはある。深さも相応だ。
ちなみに鬼刃は見当たらなかった。
恐らくオーバーキルで消滅したのだろう。そうじゃなければ相当な防御力だ。
迷宮をここまで崩壊させた一撃をもろに浴びたのだから。
「それにしても凄まじい威力でしたわね。さすがわたりんですわ」
「……あはは」
まぁわかっていたけれどドリルさんにはこの惨状を引き起こしたのがオレだってちゃんとわかってるみたいだ。
なのに死に掛けたのを一切責めないというのもすごいな。
このドリルさんの事だからチクチク遠回りに責めるような事はしないだろう。責めるなら責めるで正々堂々と真正面から言って来るはずだ。
なのにそんな事は一言も言ってこない。むしろクレーターを眺めてその威力に感嘆の溜め息を零しているくらいだ。
……勇者の装備に認められていたり、本当に大物なのかもしれないな。
「……ん?」
「どうかしまして?」
「あ、いえ、この威力ならオーバーキルして死体は残っていないと思うんですけど……ほらあっち」
「……あら」
オレが指差す方に一瞬にしてドリルさんは移動する。
まだ勇者装備をつけたままだが、スキルを鬼刃戦前に戻しているので強化系スキルは全て効果を失っている。それでもかなりのスピードで移動しているのはさすが敏捷127と言ったところだろう。
指差しただけなのに正確にその場所に移動したのは彼女も見つけたからだろう。
ちなみに2人共完全に襤褸切れになり、用をなしていなかった服は各自アイテムボックスから替えを出して着替えている。ドリルさんがちゃんと着替えを持っていたことにちょっとだけ驚いたが淑女の嗜みらしい。
「腕、ですわね」
オレの敏捷はドリルさんに比べたら大分少ない。けれどそこそこの速さで動ける程度にはあるので巨大なクレーターを少し助走をつけた程度で飛び越えてドリルさんに追いついた。
まぁ1番遠いところを飛んだわけでもないのでこのくらいならわけない。
「……よっと。残ってたのか、とんでもないな」
鬼刃の腕をぷらぷらさせているドリルさんを見上げながら溜め息と共にそう呟く。
あの威力で死体が残るってのは凄まじい。一体どういう構造をしているのか非常に気になる。
ちなみに完全に死んでいるようで気配察知に引っかかっている気配は徐々に薄れていっている。
とはいってもまだまだ消えるには時間がかかるだろうけれど。
気配察知は死んでも気配を察知できる。
しかしその気配も死んでからある程度時間が経つと消える。この消えるというのが徐々に気配――というか魔力?――が減少していっているからだと言われている。
その間に解体を使うことによって素材を得ることができるのだが、腕は肘から先の部分だけだ。
解体はある程度の大きさを一塊として使わないと素材が残らない。
肘より先しかない場合は解体できない場合がほとんどだ。しかしあの威力で残っていたのがこの腕だけなら解体は可能かもしれない。
まぁ普通はオーバーキルとなり、全部消滅するはずだからありえないんだけどね。
「他の部分もきっと残っていますわ。探しますわよ」
「了解です」
消滅せずに残っているという事はつまりは他にも大きなパーツとして死体が残っているという可能性が多少はあるということだ。
見つかれば解体できる。つまりはアレだけの強さの特殊進化個体の素材をゲットできるということだ。実に楽しみだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局のところ見つかったのは膝よりちょっとしたの部分の足が1本だけだった。
床や天井や柱の瓦礫で酷い有様のフロアをオレの気配察知の広さを利用して隅々まで調べた結果なのだからこれ以上は残っていないと思われる。
コレが事実ならば鬼刃に対してのオーバーキルは体を全て消滅させるくらいのダメージを与える必要があるということだ。恐ろしい。
まぁ倒した後の話となるし、意味はないけれど。
それよりも超火力で鬼刃を仕留めた際に素材ゲットのチャンスが増大するということの方が強い意味を持つ。
そういえば8つ持ちを倒した際にも超再生を止めるために魔法で焼いてかなりのダメージを与えたのにオーバーキルにはならなかったな。
もしかすると特殊進化個体の中でもかなり強い固体にはこういった事があるのかもしれない。元々が強いのだから死体になってもその強さが大幅に減るということはないのだろう。
「どうします? もうちょっと探してみますか?」
「いえ、わたりんの事を信じていますわ。これで解体しましょう」
解体はある程度の大きさの死体がなければ出来ない。
これは単純に解体が機能しないだけでなく、解体対象を消滅させてしまうというデメリットもある。
しかしバラバラになってしまった死体でもある程度の体積を確保できれば解体が有効に機能する。
だからこそ腕に解体を試さず探したのだ。
しかし見つかったのは足と腕だけ。
普通はこれしか残らなかったらオーバーキルで消滅しているものだ。
やってみる価値はあるけれど、失敗する確率も大きい。
しかしそこそこ広かったフロアを虱潰しに気配察知で探ってもこれしかなかったのだ。他のパーツを見つけるには床を掘り返したりしなければ無理だろう。
クレーターが出来ている場所から少し離れた壁近くには瓦礫が凄い量溜まっている。
それでもオレの気配察知はLv3なので床までしっかりと探れる。
あとは衝撃で吹っ飛んだパーツが床に深くめり込んで埋まってしまっているか、天井にでも埋まっているかしかないわけだ。
それもないわけではないがかなり低い確率だろう。
「まぁこれ以上は探すのも大変ですしね、解体!」
ドリルさんのよくわからない信頼の言葉で言質もとったし、とっとと解体することにした。
迷宮の特殊進化個体はその性質上特化タイプになるのでかなりの強さでも外の特殊進化個体よりも魔結晶の数が少なくなる。
だから正直魔結晶に関してはあまり期待してはいない。
8つ持ちのような即死の危険があるようなものでもなかったし。
腕と足が消滅してその場には魔結晶と素材が残っていた。
どうやらあの少ない体積でも解体可能な量として判断されたみたいだ。よかったよかった。
「魔結晶が7つですわ! わたりん、わたくし達7つ持ちという伝説級の化け物を倒してしまったようですわ!」
残った魔結晶は7つ。
期待していなかっただけにちょっと驚きだ。
もしかしたらもっと段階的に強くなるタイプだったのかもしれない。
私の変身はまだ3回残っているのですよ、的なタイプだったのかも。
きっと戦闘力は53万だったのだろう。変身される前に倒せてよかった。まぁそれでも被害は大きかったけど。
「それにしてもこの素材は一体何ですの? 花?」
「ちょっと見せてください」
「はい、どうぞ。というかコレはわたりんのですわ。魔結晶も」
「え?」
ドリルさんが紫色の硬質な花と一緒に魔結晶も渡してくる。
1つ1つが小さいとはいえ、さすがに魔結晶7つとオレの掌くらいの大きさのある花まで渡されてはちょっと多い。
というか全部オレの?
まぁ確かに倒せたのはオレの功績が大きいだろう。
それでもドリルさんの取り分がなくなるほどではない。彼女が足止めに徹してくれなければアレほど簡単には隙を突けなかっただろう。
「わかっていますわ。わたくしは速さだけですから。
わたくしだけでは到底鬼刃を倒す事はできませんでしたわ。
ですがわたりんは違いますわ。わたりんならば1人でも鬼刃を圧倒できたはずですわ。
だからこの素材は全てわたりんの物なのですわ」
ドリルさんの言いたい事もわかる。
確かにオレ1人でも倒せただろう。それでもドリルさんが何の報酬ももらえないほど役立たずだったとは言わせない。
「それはちょっとダメですね。
アリアローゼさんがしっかりと足止めして隙を作ってくれたからあれだけ楽に狩れたんです。
なので……そうですね。じゃあこの魔結晶はアリアローゼさんの物です。
私はこっちの固有素材っぽいのを貰いますから。
あ、貰わないっていうのは無しですよ? 受け取らないなら私の見る目を疑うってことですからね?」
驚いたあとに満面の笑みを浮かべたドリルさんはオレの手から大事そうに魔結晶を受け取って胸に抱いて感無量といった感じだ。
建前的には綺麗に言ってるが、このままドリルさんと報酬を山分けにしなかったら後で問題になりそうだからだ。
何せ彼女はあのエリアと繋がっているのだ。
魔結晶7つ持ちでしかも迷宮の噂のボスクラスから得られた素材なのだ。何かしらのちょっかいがありうる。
それでも固有素材を逃すつもりはない。なので残りの魔結晶を全部渡してチャラにするのだ。
魔結晶の中にはかなり有用なヤツもいくつか混ざっていたし、これならイチャモンは付けづらいはずだ。
ドリルさんもオレに少しでも認められたと思ったのだろう。実に良い表情をしている。
あ、でもこれやばい? もしかして彼女の中のアルに求婚的なことをする条件を満たした?
いやいやまだ大丈夫なはずだ。オレを倒さないとダメなはずだし。
素材の山分けも終わったのであとは帰るだけなのだが……。
一応青いクリスタルがあった柱は壁に突き刺さっているだけだから他よりはマシだ。
しかしだからといって青いクリスタルが無事かと言われると首を傾げる。
「悩んでいても仕方ないか」
「そうですわ、わたりん! きっとクリスタルは無事ですわ! さぁ帰りますわよ!」
やっぱりドリルさんはドリルさんだなぁ、と思いながら、上機嫌で空でも飛んでいきそうなほどのドリルさんと共に瓦礫の山を登り、柱へと向かうのだった。
めり込んだ柱は当然無事じゃない。その巨体のために被った被害は尋常じゃない。
円柱だった見た目は最早残っていないくらいに抉られ、削られ、変形している。
3本中2本は3つか4つくらいに砕け、それぞれが壁にめり込み被害を増大させている。
残りの1本はどうやらオレが最後に隠れた青いクリスタルがあった柱のようだ。その柱だけは砕ける事はなく壁に突き刺さっている。
この柱が砕けていたらオレも無事では済まなかっただろう。
なんとも不幸中の幸いだ。もしかしたら青いクリスタルがある柱だから、他の柱とは別物だったのかもしれない。
それでも壁に突き刺さっているくらいには被害を受けている。
巨大な柱が3本なくなったということはそれに支えられていたと思われる天井はどうなったかというと……明らかに高くなっていた。
それでも別の空間が見えたり、上の階が見えたりすることはないようだ。
ただやはりどうみても高くなっているし、天井が落ちてくることもないみたいだ。
もちろん均一に高さが増えているわけではなく、ところどころぼこぼこだ。
それこそ床の舞いあがった破片やなんかが当たって崩壊したような跡だ。
天井だけじゃなくて柱がめり込んでいない壁も同じような状況だ。やっぱり少し広くなったような気もする。
さて1番の惨状と言っていいのはやはり床だろう。
床に敷かれていたタイル状の何かが剥がれに剥がれ、その下の台座のような床石? も捲れ上がって崩壊し酷い有様だ。
だがまだその辺はマシなくらいだった。
問題なのはオレがグレートコーンを振るった場所だ。
まさに爆心地といった状況なのだ。
要するにクレーターが出来ている。
しかも大きさが並じゃない。本当に爆弾でも爆発したかのような目測でも直径2~300mくらいはある。深さも相応だ。
ちなみに鬼刃は見当たらなかった。
恐らくオーバーキルで消滅したのだろう。そうじゃなければ相当な防御力だ。
迷宮をここまで崩壊させた一撃をもろに浴びたのだから。
「それにしても凄まじい威力でしたわね。さすがわたりんですわ」
「……あはは」
まぁわかっていたけれどドリルさんにはこの惨状を引き起こしたのがオレだってちゃんとわかってるみたいだ。
なのに死に掛けたのを一切責めないというのもすごいな。
このドリルさんの事だからチクチク遠回りに責めるような事はしないだろう。責めるなら責めるで正々堂々と真正面から言って来るはずだ。
なのにそんな事は一言も言ってこない。むしろクレーターを眺めてその威力に感嘆の溜め息を零しているくらいだ。
……勇者の装備に認められていたり、本当に大物なのかもしれないな。
「……ん?」
「どうかしまして?」
「あ、いえ、この威力ならオーバーキルして死体は残っていないと思うんですけど……ほらあっち」
「……あら」
オレが指差す方に一瞬にしてドリルさんは移動する。
まだ勇者装備をつけたままだが、スキルを鬼刃戦前に戻しているので強化系スキルは全て効果を失っている。それでもかなりのスピードで移動しているのはさすが敏捷127と言ったところだろう。
指差しただけなのに正確にその場所に移動したのは彼女も見つけたからだろう。
ちなみに2人共完全に襤褸切れになり、用をなしていなかった服は各自アイテムボックスから替えを出して着替えている。ドリルさんがちゃんと着替えを持っていたことにちょっとだけ驚いたが淑女の嗜みらしい。
「腕、ですわね」
オレの敏捷はドリルさんに比べたら大分少ない。けれどそこそこの速さで動ける程度にはあるので巨大なクレーターを少し助走をつけた程度で飛び越えてドリルさんに追いついた。
まぁ1番遠いところを飛んだわけでもないのでこのくらいならわけない。
「……よっと。残ってたのか、とんでもないな」
鬼刃の腕をぷらぷらさせているドリルさんを見上げながら溜め息と共にそう呟く。
あの威力で死体が残るってのは凄まじい。一体どういう構造をしているのか非常に気になる。
ちなみに完全に死んでいるようで気配察知に引っかかっている気配は徐々に薄れていっている。
とはいってもまだまだ消えるには時間がかかるだろうけれど。
気配察知は死んでも気配を察知できる。
しかしその気配も死んでからある程度時間が経つと消える。この消えるというのが徐々に気配――というか魔力?――が減少していっているからだと言われている。
その間に解体を使うことによって素材を得ることができるのだが、腕は肘から先の部分だけだ。
解体はある程度の大きさを一塊として使わないと素材が残らない。
肘より先しかない場合は解体できない場合がほとんどだ。しかしあの威力で残っていたのがこの腕だけなら解体は可能かもしれない。
まぁ普通はオーバーキルとなり、全部消滅するはずだからありえないんだけどね。
「他の部分もきっと残っていますわ。探しますわよ」
「了解です」
消滅せずに残っているという事はつまりは他にも大きなパーツとして死体が残っているという可能性が多少はあるということだ。
見つかれば解体できる。つまりはアレだけの強さの特殊進化個体の素材をゲットできるということだ。実に楽しみだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局のところ見つかったのは膝よりちょっとしたの部分の足が1本だけだった。
床や天井や柱の瓦礫で酷い有様のフロアをオレの気配察知の広さを利用して隅々まで調べた結果なのだからこれ以上は残っていないと思われる。
コレが事実ならば鬼刃に対してのオーバーキルは体を全て消滅させるくらいのダメージを与える必要があるということだ。恐ろしい。
まぁ倒した後の話となるし、意味はないけれど。
それよりも超火力で鬼刃を仕留めた際に素材ゲットのチャンスが増大するということの方が強い意味を持つ。
そういえば8つ持ちを倒した際にも超再生を止めるために魔法で焼いてかなりのダメージを与えたのにオーバーキルにはならなかったな。
もしかすると特殊進化個体の中でもかなり強い固体にはこういった事があるのかもしれない。元々が強いのだから死体になってもその強さが大幅に減るということはないのだろう。
「どうします? もうちょっと探してみますか?」
「いえ、わたりんの事を信じていますわ。これで解体しましょう」
解体はある程度の大きさの死体がなければ出来ない。
これは単純に解体が機能しないだけでなく、解体対象を消滅させてしまうというデメリットもある。
しかしバラバラになってしまった死体でもある程度の体積を確保できれば解体が有効に機能する。
だからこそ腕に解体を試さず探したのだ。
しかし見つかったのは足と腕だけ。
普通はこれしか残らなかったらオーバーキルで消滅しているものだ。
やってみる価値はあるけれど、失敗する確率も大きい。
しかしそこそこ広かったフロアを虱潰しに気配察知で探ってもこれしかなかったのだ。他のパーツを見つけるには床を掘り返したりしなければ無理だろう。
クレーターが出来ている場所から少し離れた壁近くには瓦礫が凄い量溜まっている。
それでもオレの気配察知はLv3なので床までしっかりと探れる。
あとは衝撃で吹っ飛んだパーツが床に深くめり込んで埋まってしまっているか、天井にでも埋まっているかしかないわけだ。
それもないわけではないがかなり低い確率だろう。
「まぁこれ以上は探すのも大変ですしね、解体!」
ドリルさんのよくわからない信頼の言葉で言質もとったし、とっとと解体することにした。
迷宮の特殊進化個体はその性質上特化タイプになるのでかなりの強さでも外の特殊進化個体よりも魔結晶の数が少なくなる。
だから正直魔結晶に関してはあまり期待してはいない。
8つ持ちのような即死の危険があるようなものでもなかったし。
腕と足が消滅してその場には魔結晶と素材が残っていた。
どうやらあの少ない体積でも解体可能な量として判断されたみたいだ。よかったよかった。
「魔結晶が7つですわ! わたりん、わたくし達7つ持ちという伝説級の化け物を倒してしまったようですわ!」
残った魔結晶は7つ。
期待していなかっただけにちょっと驚きだ。
もしかしたらもっと段階的に強くなるタイプだったのかもしれない。
私の変身はまだ3回残っているのですよ、的なタイプだったのかも。
きっと戦闘力は53万だったのだろう。変身される前に倒せてよかった。まぁそれでも被害は大きかったけど。
「それにしてもこの素材は一体何ですの? 花?」
「ちょっと見せてください」
「はい、どうぞ。というかコレはわたりんのですわ。魔結晶も」
「え?」
ドリルさんが紫色の硬質な花と一緒に魔結晶も渡してくる。
1つ1つが小さいとはいえ、さすがに魔結晶7つとオレの掌くらいの大きさのある花まで渡されてはちょっと多い。
というか全部オレの?
まぁ確かに倒せたのはオレの功績が大きいだろう。
それでもドリルさんの取り分がなくなるほどではない。彼女が足止めに徹してくれなければアレほど簡単には隙を突けなかっただろう。
「わかっていますわ。わたくしは速さだけですから。
わたくしだけでは到底鬼刃を倒す事はできませんでしたわ。
ですがわたりんは違いますわ。わたりんならば1人でも鬼刃を圧倒できたはずですわ。
だからこの素材は全てわたりんの物なのですわ」
ドリルさんの言いたい事もわかる。
確かにオレ1人でも倒せただろう。それでもドリルさんが何の報酬ももらえないほど役立たずだったとは言わせない。
「それはちょっとダメですね。
アリアローゼさんがしっかりと足止めして隙を作ってくれたからあれだけ楽に狩れたんです。
なので……そうですね。じゃあこの魔結晶はアリアローゼさんの物です。
私はこっちの固有素材っぽいのを貰いますから。
あ、貰わないっていうのは無しですよ? 受け取らないなら私の見る目を疑うってことですからね?」
驚いたあとに満面の笑みを浮かべたドリルさんはオレの手から大事そうに魔結晶を受け取って胸に抱いて感無量といった感じだ。
建前的には綺麗に言ってるが、このままドリルさんと報酬を山分けにしなかったら後で問題になりそうだからだ。
何せ彼女はあのエリアと繋がっているのだ。
魔結晶7つ持ちでしかも迷宮の噂のボスクラスから得られた素材なのだ。何かしらのちょっかいがありうる。
それでも固有素材を逃すつもりはない。なので残りの魔結晶を全部渡してチャラにするのだ。
魔結晶の中にはかなり有用なヤツもいくつか混ざっていたし、これならイチャモンは付けづらいはずだ。
ドリルさんもオレに少しでも認められたと思ったのだろう。実に良い表情をしている。
あ、でもこれやばい? もしかして彼女の中のアルに求婚的なことをする条件を満たした?
いやいやまだ大丈夫なはずだ。オレを倒さないとダメなはずだし。
素材の山分けも終わったのであとは帰るだけなのだが……。
一応青いクリスタルがあった柱は壁に突き刺さっているだけだから他よりはマシだ。
しかしだからといって青いクリスタルが無事かと言われると首を傾げる。
「悩んでいても仕方ないか」
「そうですわ、わたりん! きっとクリスタルは無事ですわ! さぁ帰りますわよ!」
やっぱりドリルさんはドリルさんだなぁ、と思いながら、上機嫌で空でも飛んでいきそうなほどのドリルさんと共に瓦礫の山を登り、柱へと向かうのだった。
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