幼女と執事が異世界で

天界

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第7章

153,油断大敵

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 アルの震爆の一撃で倒されたジャイアントグロッカスの分厚い鎧を引っぺがして見ると、はがしたところでも1番薄いところで40cm程の厚みがあった。
 しかもただの鉄の鎧というわけではなく、軽く魔法で作り出した氷をぶつけてみたところ波紋のようなものが薄っすらと一瞬だけ見えた後、明らかに氷の量が減っていた。どうやらこれが対魔法用の防御処理のようだ。


「この鎧全部引っぺがして持って帰ったら対魔法装甲として使えるんじゃ?」

「いえ、それがこの部屋を出るとアイテムボックスに入れていても消滅してしまうようなのです。ですが解体して残った物でした持って帰ることは可能なようです。
 そうなるととても少ない量になってしまいますが」

「やっぱりそんなうまいことはないかー」


 ジャイアントグロッカスは10mを超えるかなりの巨体だ。
 その全身を余すところ無く覆っているこの対魔法装甲は相当な重量になるだろう。ライオットシールドで減衰させられたとはいえ、オレの氷の螺旋槍を受けきったほどの性能だ。実にもったいない。

 対魔法装甲を引っぺがした中身はどうやら装甲と比べてかなり脆いようだ。
 筋肉の塊ではあるが、硬くは無くずいぶんと柔らかい。恐らく装甲を突破すればダメージを与え易いタイプなのだろう。
 アルの震爆は超人級の技術が必要とはいえ、任意の位置を爆破できる。
 内部がもろいのなら特にダメージを与える事が出来たのだろう。ただでさえ震爆の威力はかなり高いのだから。
 一撃で倒せたのも納得がいった。

 まぁそれでもアルは明らかにチートだけどね!






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 解体すると魔結晶が3つとレーネさんが言っていた魔法干渉金属――シルバーオニキスが5kgくらいの塊で残った。
 やはり特殊進化個体モンスターだったようだ。

 特定フロアを守る魔物はそのフロアから動かないか、それほど遠くまではいけない。
 今回のような個別のエリアに閉じ込められる形の場合は他の魔物から魔結晶を取り込む事が出来ないが、長期間迷宮の魔力を蓄える事によって魔結晶を生成する場合がある。
 これが1つなら他のエリアでも普通に発生する現象だ。
 だが2つ以上となるとかかる期間も桁違いになり、3つとなると100年以上かかることもざららしい。
 その上、他の魔物から魔結晶を取り込む場合よりも時間をかけて迷宮で魔結晶を複数生成した方が自身の特性にあう魔結晶を作り出すことが出来るので特殊進化個体モンスターとしての質も向上する。
 今回オレの螺旋槍を防ぎきったのはこのためらしい。
 迷宮以外の3つ持ちではオレの螺旋槍を防ぐ事などまず不可能だそうだ。残った魔結晶から見ても対魔法防御に特化した個体であった事がうかがえる。

 まったくもってオレとの相性が悪いやつだったということだ。
 逆にアルにとってはこの上ないほどに相性がよかったというわけだけど。


「さて謎が解けたところで先に行きましょうかね」

「はい。でも61階層に移動する前に赤いクリスタルの近くに小さな緑のクリスタルがあるはずですので、それを確保しましょう」

「61階層に直接飛べるって言うやつですね」

「はい。採取したらすぐに自分の魔力を通さないと効果がなくなってしまうので気をつけてください。
 私達には帰還用魔道具リリンの羽根があるので、一応念のためですが」


 小さな緑のクリスタルは1階の広間の赤いクリスタルから61階層に直接転移できるショートカットアイテムだ。
 ジャイアントグロッカスを1度倒してしまえば緑のクリスタルは手に入るのでほとんどの場合、1度しか戦わない。
 ここまでやってくるのにもかなり大変なのでジャイアントグロッカスが長期間残ってしまうのも頷けるというものだ。
 恐らくボス部屋はいくつもあると思われるのでその中でも運良く? 残ってしまったのがさっきのジャイアントグロッカスだったのだろう。

 100年物を引き当てるとは……すごい運だ。でも特殊進化個体モンスターの固有素材はゲットできなかったので微妙だ。
 シルバーオニキスは特殊進化個体モンスターの固有素材ではなく、ジャイアントグロッカスの固有素材なのが残念だ。

 まぁ3つ持ち程度じゃ手に入ってもネーシャの練習素材になっていたと思うけどね。
 8つ持ちクラスの素材ならアイギスの盾のような凶悪な性能の装備が作れそうなのに。


 緑のクリスタルは赤いクリスタルの近くにまるで囲むように生えていた。
 それを3人分取って各自それぞれの魔力を通す。
 すると緑のクリスタルの中に血管のようなものが薄っすらと浮かびあがる。これで通した魔力の持ち主以外では意味の無いものになるそうだ。
 緑のクリスタルはなぜかは分からないがこのフロアから出た瞬間にアイテムボックスに入っていようがいまいが関係なく、魔力を通さなくなるそうだ。その辺は解体前のジャイアントグロッカスの対魔法装甲と似たようなものだ。
 緑のクリスタルを大量に持って帰って61階層へのショートカットアイテムとして売りさばくという事はできないのだ。

 まぁ61階層以降はソレ未満の階層とはまた敵の強さが違ってくるので、実力が伴わなければ攻略などできない。
 それでも緑のクリスタルが使えるなら時間短縮にもなるので誰もが欲しがるだろう。

 まぁオレ達には帰還用魔道具リリンの羽根があるので緑のクリスタルを使うことはないだろうけれど。

 それでも念のため緑のクリスタルを確保し、アイテムボックスに突っ込むと61階層へと転移した。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 61階層は古代遺跡のような場所となる。
 何やら考古学者などが大喜びしそうな感じのぷんぷんする壁画や、謎の彫り物がしてある岩などが点在し、でもどこか朽ち果てた寂しい感じのする場所、それが61階層。

 ここから出てくる魔物もまた一変する。
 出てくる魔物は小型~中型サイズの魔物だけになる。
 大型サイズの魔物は遺跡のサイズからしても自由に動き回れないからか、まったく出てこなくなる。
 遺跡の通路もそれほど広くないために1度に遭遇する量も少なくなるが、その分質が高くなる。
 1体1体が強く、タフになり戦闘時間が飛躍的に延びる上に、ここから罠に新たなものが追加される。

 それは転移の罠だ。

 今までアルが全ての罠を発見してくれたので1つも引っかかることなく来れたが、この転移の罠は魔物にも効果がある。
 そのため突然近場に魔物が出てくるときもある。とはいっても転移はランダムなので魔物も狙って使ってくることは無い。
 しかし1度でも転移の罠に味方が引っかかってしまうと大変だ。
 遺跡とはいってもここはカトルゼ。
 超巨大迷宮であることには変わりないのだ。

 1度転移して味方と離れてしまったら合流するのは相当運がよくなければ無理だ。
 その場合は青いクリスタルを探して戻って61階層からやり直すのが定番となる。
 だが単独で青いクリスタルを探すのはかなり危険だ。強くタフになった魔物を単独で倒すのはかなりの実力が必要となるからだ。
 その上、広いので青いクリスタルを探すのも大変だ。


「――ですので、罠。特に転移の罠にはこれまで以上に注意していきましょう。
 よろしくお願いします、アルさん」

「アル、任せたよ!」

「畏まりました」


 通路の幅は広いところでは5mくらいはあるが、狭いところになると2mもないくらいになる。
 そのためレーネさんも背丈ほどもある大剣――朱珠白塵を、3分の2ほどの長さの長剣――金剛羅刹に持ち替えている。
 金剛羅刹はレーネさんが愛用している剣だけあり、魔道具だ。
 攻撃力では朱珠白塵には劣るものの、こういった狭い場所では使い勝手がいい。
 それに基本的に朱珠白塵はレーネさんが本気の時や気合が入っているときに専ら使われるもので、普段は金剛羅刹を愛用している。

 レーネさんが取得している武器スキルは大剣スキルと長剣スキルがあり、それぞれ使えるスキルが異なる。
 どちらもMAXレベルであるLv10まで鍛え上げられているのでレーネさんはどちらを使っても最大限に活かす事が出来る。

 ただレーネさんにとってのとっておきのスキルは大剣スキルの方にある。
 そのために朱珠白塵のような驚異的な性能を誇る大剣をゴーシュさんに特別に打ってもらったりもしている。オレ達が初めてレーネさんに会った時に受け取っていたのが朱珠白塵だ。

 朱珠白塵は特殊進化個体モンスターの固有素材と魔結晶をいくつか使って作られた特別製で、凄まじい耐久性を誇る大剣だ。
 切れ味などはそれほどでもないが、スキルを浸透させたときに刀身が赤く染まる様はとても美しい。スキルの浸透率が上がれば上がるほど刀身の赤みは増し、以前見せてくれた天翔竜翼などのトップクラスのスキルを使った場合は直視できないほどに赤熱してしまう。
 ある一定以上の浸透率を超えると刀身が伸びるという性質もあり、扱いが難しい武器でもある。

 金剛羅刹は朱珠白塵のような特異な武器ではないが、魔道具化された武器であり、ただの長剣とは一線を画す性能を誇っている。
 単純な切れ味でも鉄などバターのように切り裂いてしまうし、耐久性も朱珠白塵には及ばないが相当なものがある。

 そんな高性能な武器をレーネさんが使えば――。


 角を曲がって現れた鋼鉄を遥かに超える硬度を持つ灰色の鱗に覆われたグレーカスタムリザードが飛斬により一瞬で真っ二つになり、臓物をぶちまける。
 味方を盾にすることにより飛斬による致命傷を免れた個体もレーネさんの長い射程により、触れることも許されずに斬り捨てられる。

 オレの氷の矢の飛来する空気を裂く音はアルの震爆による爆破音に掻き消されるが、行動を起こせばその分だけ敵の数は減っていく。

 レーネさんがもう1振り、2振りすれば戦闘は完全に終結し、いつものように解体作業へと移る。
 61階層になり、出現する魔物の質が向上しても所詮ソレは61階層程度の魔物でしかない。
 まだまだオレやレーネさんが苦戦するものではない。
 ましてや今やアルもオレ達に匹敵するだけの攻撃力を身につけているのだ。今の段階で苦戦するようならば98階層まで探索が進むわけが無い。


「まだまだ余裕ですね!」

「そうですね。この程度ならばダメージを受ける事はまずないでしょう。ですが油断は禁物ですよ」

「もちろんですよー」


 一応の注意であるため、レーネさんの表情は明るい。
 それだけオレ達にとってはこの程度の階層では余裕なのだ。

 だが……。

 60階層のボスフロアで魔結晶3つ持ちを引き当てるように。

 オレはどうやらレアを引き当てる運命にあるらしい。


「「ワタ――」」


 アルの索敵をすり抜けた一匹の小さな小さな虫により、オレは……唐突に迷子になってしまったのだった。


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