幼女と執事が異世界で

天界

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第7章

135,オークション Part,4

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 熱気が激しく渦巻いていた会場が一瞬にして静寂に包まれた。
 たった一言がこの静寂を生み出したのだ。

 ここは正式なオークション会場だ。入札の取り消しは行えない。
 金額を提示してしまった時点で支払能力がなければ即奴隷に落とされる。
 全財産を処分して提示した金額の残りの額が自分を買い取る場合の金額となる。
 入札の発言は非常に重く、重要視される。
 それがオークションだ。

 そのオークションで発せられた一言。


「4000万」


 嘘でも冗談でもない。一度入札してしまった以上取り消しは不可能だ。
 4000万という、ランクSを身売りした場合の金額を遥かに超える額に会場に渦巻いていた熱気は一瞬にして消え、呑まれてしまった。


「どうしたのじゃ、オークショニア。続けよ」


 壇上のオークショニアすらも呆気に取られて一言も発することができないでいたところに幼い少女の声のようにも、妖艶な大人の女性の声にも聞こえる不思議な声がかけられる。
 その声にハッとした様に再起動を果たしたオークショニアがこれ以上の入札がないか会場に問いかける。
 しかし当然ながら4000万という金額を超える入札はない。


 ちなみに1000万スタートでいきなり4000万という金額を入札するのはマナーでいえば当然、違反だ。
 しかしこのマナーというのが曲者で、絶対遵守しなければいけない鉄の掟……というわけではない。
 なるべくなら守ってみんなでオークションを楽しみましょう、という程度のマナーでしかない。
 通常は入札は最低でも最高入札額の10分の1。最高の場合は最高入札額の1.5倍まで、となる。
 この場合最低額が1000万なので最高でも1500万がマナー上の最高入札額になる。
 最低でも100万単位での入札になるので普通に入札が始まっても相当盛り上がったと思うけど。

 しかし実際はマナーなど知ったことではない、という意思がひしひし、と伝わってくる空気をまったく読まない一刀両断の一言。
 最後の最後に持ってきたサプライズ中のサプライズで盛大に盛り上げてフィナーレとしようとしていたところにこれではオークショニアも唖然としてもしかたないだろう。


 結果的に4000万を超える入札はなく、あの不思議な声の人物がこのランドール史上初となる魔結晶を落札した。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 最後のサプライズ以外は特に問題もなくオークションは終了したのだが、どうもあの不思議な声を聞いたときからレーネさんの様子が若干おかしくなっていたのにオレは気づいている。
 他の皆は4000万発言に驚愕し、それどころではなかったので気づかなかったのは仕方ないかもしれない。
 いやきっとアルなら気づいていただろう。でもオレのことならともかくレーネさんなので特に何もアクションを起こさなかっただけだろう。

 レーネさんとはPTを組みっぱなしなので他の人に気づかれずに念話で内緒話が可能だ。
 今はもう割りと普通にしていることから大したことでもないかもしれないけれど一応聞いてみるだけ聞いてみよう。


【レーネさん、さっきの声に聞き覚えがあるんですか?】

【えっ……。さすがです、ワタリさん……。気づかれたのですね】

【もちろん言いたくなかったらいいですよ。
 でも話してすっきりすることもあるかもしれないですからね】


 強制する気はないし、ニッコリ微笑んでレーネさんを見上げるとレーネさんも微笑んでくれる。


【あの声には聞き覚えがあります。忘れようとしても忘れられません。
 あの声の人物は兄様が騎士団を辞める原因となった人物ですから……】

【グレーさんが……? そうだったんだ……】

【はい……。あの方はこの国の姫様です】

「はい?」

「うん? どうしたの、ワタリちゃん?」

「あ、えっとなんでもないです、よ?」

「そう? でも眠くなったりしたら私の胸を貸してあげるからいつでも言ってね?」

「あはは……」


 レーネさんの予想外の言葉に念話ではなく、素で声が出てしまった。
 しかしエリザベートさん、その場合は胸を貸してどうするんですか。そのロケットおっぱいを枕にしろというのですか。


【お姫様ですか……? まぁ確かにお姫様なら4000万ラードを払えてしまうのはわかりますけど……。
 ていうかお姫様が原因でグレーさんは騎士団辞めたんですか?】

【はい……。あの方は兄様に……その……とても御執心だったんです】


 ご執心……えぇと……つまり好きだったのかな? そうだよね? そういうのだよね?


【それでその……兄様に熱烈なアタックを繰り返して……次第に周りにも被害が及ぶようになりまして……】


 な、なんというかすごいお姫様もいたもんだ。
 周りに被害が出るような熱烈なアタックってどういうのだろう……。文字通りに物理的にアタックしてきたんだろうか……。


【さすがに持て余した兄様が王に直訴もしたんですが、王はとても姫様を可愛がっておいででして……。むしろ早く……その……孫の顔がみたいとまで仰っていたそうで……】

【お姫様を可愛がっているけど孫の顔もみたい、と……。グレーさんも相当気に入られていたんですね】

【はい……。なので逃げ道がなくなってしまう前に、ということで兄様は騎士団を辞めて冒険者に……。
 冒険者なら例え王といえど束縛はできません。
 もし束縛するのならば国を出てしまえばいいのですから】


 ……なんというか、もっとこうグレーさんの騎士団を辞めた理由は重い感じの暗い話かと思っていたのだが……なんだろうこの……どうでもいい感。


【あ、グレーさんが気に入られていたということは……。レーネさんは大丈夫だったんですか?
 ていうか大丈夫だったら騎士団に残ってたか】

【えっと……。私は何かがあったというわけではないです。
 兄様に憧れて入った騎士団ですので兄様がいなければ居る理由もありませんでしたし】


 レーネさんってグレーさん大好きだよね。
 でもそんなに大好きなグレーさんのPTに戻らずにオレのところに居続けてくれる。
 これは絶対グレーさんに勝ってるよね……ふふ。


【もしかしたら姫様が私達に接触してくる可能性があります】

【……へ? あ、そうか。そうだよね。熱烈アタックを繰り返してたような人が騎士団辞めて逃げたくらいで諦めるわけないよね。
 レーネさんも一緒に辞めてるし、何より家族だから居場所とか知ってるかもしれないと思うのも当然か。
 というか今まで接触なかったんですか?】

【えぇ、なぜかはわかりませんがありませんでした。
 たぶん兄様が色々と取り計らってくださっていたんだと思います】

【今まで色々してくれてたのに今回はもうないんですか?】

【その……ワタリさんに……全部任せるって……言ってました】


 ふむ……。今までは大事な妹をいろいろと影から守っていたけど、今はオレ達がいるから任せる、と。

 これはフラグ立ってるな……。

 熱烈アタックを繰り返すほど行動的なお姫様。
 オークションでその存在を認識。
 グレーさんの丸投げ発言。

 あぁ……。絶対フラグ立ってるよこれ……。







      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 落札した魔結晶の支払いはVIP席ことVIP部屋で出来た。
 アルがさくっと支払いを済ませて魔結晶を受け取り、エリザベートさんとユユさんがお菓子をお土産に包んでもらってから屋敷へと戻った。
 途中で件のお姫様からの何かしらの接触があるかと思ったが特にそんなことはなかった。
 だが気を抜いてはいけない。なぜなら絶対フラグ立っているからだ。
 以前のポーションお姉さんのときだって特殊進化個体モンスターを引き当てたし、ドリルさんの時もなぜか転送に巻き込まれてたし。

 あ、この2つどっちも特殊進化個体モンスター絡みか……。
 もしかしたら今度も特殊進化個体モンスターが絡むのだろうか。

 以前よりもずっと戦闘能力は向上しているし、特殊進化個体モンスターの素材は非常に有用だ。
 今なら歓迎してもいいかもしれない。
 でも危険なことには変わりないので油断は禁物だ。
 それに必ずしも特殊進化個体モンスター絡みというわけではないだろうし。

 とにかくお姫様のことは一応頭の隅に留めておいて気を取られすぎないようにしよう。


 無事に狙っていた魔結晶の入手も済み、オークションは幕を閉じた。
 平穏無事とは言いがたいが、まだ実害はないので注意レベルだ。

 レーネさんに降りかかる迷惑ならオレ達に降りかかるのと同義だ。
 例え相手が王族だろうと関係ない。
 降りかかる火の粉は払うまで、だ!


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