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第5章
106,訓練する騎士見習い
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屋敷に戻ってきてまずは毎度お馴染みのエンタッシュの出迎えを受け、彼にすぐに指示を出す。
ラッシュの街は北西エリアが通称職人街と呼ばれるエリアになっている。
職人街には鍛冶、薬、錬金、裁縫など様々な職人達が集まっている。
ラッシュの街は規模が大きいので職人街にはピンからキリまで様々な腕の職人達がひしめき合っているので粗悪品を掴まされない様にレーネさんお奨めの職人のところでスタミナ回復ポーションを仕入れてきてもらう。
その他にも屋敷にある在庫の確認と確保、MPタンクも運び出しておいて貰う。
精霊の少女――ユーウイトさんの結界が数日もつとはいえ、ぎりぎりまで物資集めをして戦うのではなく、まずは様子見である程度集まったら戦ってみて作戦を詰めるつもりだ。
もちろんそのままいけそうなら倒してしまってもいいだろう。
だが当たり前の事だが油断は出来ない。
簡単に立てられた作戦は、離れた位置にレーネさんとオレが同時に結界に侵入し遠距離攻撃を行う。
レーネさんとの位置を離すのは接近されたら結界の外にすぐ出て回避し、どちらかの攻撃を継続実行させるためだ。
攻撃を受けている状態では手の届かない結界の外に逃げた相手をいつまでも追うこともないだろう。もしそのまま動かないならいい的だし。
結界の中にいる攻撃者にターゲットを変更して移動し始め、ある程度距離が離れたら結界に入り攻撃を再開する。
転移などの一瞬で距離を詰められるスキルがなければ有利に攻められる作戦だ。
結界の大きさもユーウイトさんに聞いて把握しているし、オレ達の出入りが自由なので成り立つ作戦だろう。
接近されたらすぐに結界の外に出るので防御の必要性がないのが尚いい。
今回アルは当然参加させない。
マッドベアーの攻撃を軽くいなせるとはいえ、4つ持ちの攻撃を防御しきれるかどうかはわからない。
そんな賭けのような状況に参加させたくはない。
そもそもオレ達に攻撃が届くということは作戦の失敗を意味している。
アルはダメージを受けると知識を損傷する。
図書館でかなりの量の知識を吸収しているから相当なダメージを受けなければ問題ないだろうが、損傷する知識はランダムなので油断は出来ない。
記憶すら知識の対象となっているので、もしかしたらオレ達との記憶を損傷する可能性があるのだ。
アルの防御技術はとんでもないの一言だが、正直な話出来れば盾役なんてして欲しくない。
盾役を頼んだのだってアルを大事な家族だと思うずっと前だ。
何よりアル自身が望んでいることだから好きにさせているが、やはりこういった強敵相手だとどうしても最悪の状況を考えてしまい参加させられない。
「お嬢様、バーンシュタイン様がおいでになられております」
「バーンシュタイン? だれそれ」
「騎士見習いのエイド・バーンシュタイン様と名乗っておられました。
お嬢様からの手紙ももっておりましたので訓練場にお通ししましたが問題ありましたでしょうか?」
「あぁ、エイド君か。うん、おっけー。エイド君はこれからも通ってくると思うから好きに訓練施設と浴場とかは使わせてあげて」
「畏まりました」
ギルドの受付の人にPT参加へのお返事をエイド君宛てに渡してあったのだが、PTに入りたかったらうちの訓練場で腕を磨きなさい、と書いておいた。
今の状態ではとにかくレーネさんの人見知りが発動しまくりでPTとして機能しなくなってしまう恐れがあるし、何よりエイド君がレーネさんに師事したいのは強くなって騎士の試験に受かる為だ。
騎士団詰め所にも訓練施設は併設されているけれど、正騎士に優先権があるのでエイド君はそうそう使えない。
なのでとりあえずうちの訓練施設を提供してあげることにした。
そしてレーネさんにも少しずつエイド君になれていってもらうことにしたのだ。
エイド君も訓練する場所を確保できて、レーネさんも人見知り克服のいい練習になる。
まさにウィンウィンの関係ってやつだね。
【あ、あの……ワタリさん……?】
【むふふ~。レーネさんは少しずつでいいからエイド君に慣れていってください。
まずは訓練場などで遠目から慣れていく感じで、最終的にはPTに入れてあげたいと思っています】
【そ、そうですか……。そういうことなら……が、がんばります……】
今までが今までだっただけに自信なさげだがエイド君はいい子なので大丈夫だろう。
まずはエイド君の印象をよくするためにエイド君お奨めのお店にレーネさんと行こう。もちろんエイド君は同伴しないけど。
「さてじゃあ物資の確保はエンタッシュたちに任せて、訓練場の方に行きましょうか」
エンタッシュの指示を受けた使用人達が馬車を走らせて買い付けに行き始めたのでオレ達はエイド君に会いに行く為に訓練場に向かうことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
構えた木盾を斜めにして大木剣を受け流し、返す刀で反撃を行うが冷静に相手に距離を取られてしまい木剣が空を切る。
再度木盾を構え半身の体を隠すようにジリジリと接近する。
間合いに入っても仕掛けてこない相手に焦れながらも隙を伺う表情は真剣そのものだ。
意を決したように木盾を構えて突進し、そのままシールドバッシュで相手を吹き飛ばそうとするがそれほど突進力もなかったのかあっさりと受け流されてしまい、背中にいいのを貰ってしまった。
「あ~……」
【まだまだですね】
痛みのあまり地面を転げまわっていたエイド君だが、なんとか立ち上がると相手の戦闘奴隷に礼を言って休憩するためにトボトボ、とベンチがあるところに歩いていく。
オレ達が来たことはまだ気づいていないようだ。模擬戦中だったので無理もない。
その上その模擬戦はほぼ完敗といっていい内容だったし。
それにしても相手をしていた戦闘奴隷はかなりの高レベルで戦闘経験も豊富だから仕方ないにしてもエイド君は結構弱いようだ。
これはうちのPTに入るには相当訓練してもらわないとだめかもしれない。
まぁまずはレーネさんに慣れてもらう事が先決だし、強さに関してはレベルアップすれば多少はマシになるだろう。たぶん。
「エイド君」
「あ、ワタリちゃ……す、ストリングスさん! 初めまして!
僕はエイド・バーンシュタイン。騎士見習いです!
今度からこの訓練施設を使わせてもらうことになりました! よろしくお願いします!」
「は、はぃ……ょろしくおねがいします……」
ベンチで項垂れていたエイドに声をかければのろのろと顔をあげたエイド君だけど、レーネさんがいるとわかってからは痛むだろうに背筋をピン、と伸ばして元気よく自己紹介している。
まぁ師事したい相手なわけだし、ちょっとくらい痛くても我慢だろう。
「はいはい、自己紹介はその辺で~……ちょっと痛むよ~」
「うぐっ! あ、もう痛くないや。さすがワタリちゃんだねぇ。ほんとに体力回復使えるんだ」
「疑ってたんですか? エイド君は酷い子ですね」
「いやぁ~だってワタリちゃんまだこんなに小さいからさ~」
「小さいは余計ですよー。エイド君だってさっき簡単に負けてたじゃないですか」
「うぐっ……。だ、だって相手の人すごく強いんだよ……。
あ! そうじゃなくて!
ワタリちゃんすごいお金持ちだったんだね! あんな強い奴隷やこんなすごい屋敷をもってるなんて」
「あーまぁ色々あるんですよ、私にも」
「そ、そうなの? うーん、聞かない方がいい?」
「めんどくさいのでそうしてください。
それより治癒師の人もいるんだから怪我したらすぐにそっちで治して貰うようにしないとだめですよ?」
「あ、うん……そうなんだけど……。なんていうか……ね?」
「言い訳は必要ありません。ちゃんと怪我を治さないならここは使わせません、約束ですよ?」
「……はい」
力の差を見せ付けられてしょんぼりしてしまったのはわかるけど、治癒師をちゃんと用意してあるんだからきちんと治して貰わないと困る。
軽い打撲でも長引けば思わぬ怪我になるんだから。
オレに言われてまたしょんぼりしてしまったエイド君だけど、これだけ言えば次からはしょんぼりする前に怪我を治しにいくだろう。
「わかればいいんです。
それよりエイド君。お奨めの美味しいお店ありませんか?」
「んー最近だと南門付近に新しく出来た食堂のランチセットがいい感じかな。でもちょっと量が大目だからワタリちゃんだと残しちゃうかも?」
「ふむ、ランチセットですか。もう今日はやってないですよね?」
「そうだねぇ~。明日辺り行ってみたら?」
「そうしますか。
じゃあエイド君、訓練が終わったら屋敷の浴場を使ってちゃんと綺麗にしてから帰るんですよ?」
「うん、ありがたく使わせてもらうよ。
そして早く強くなってワタリちゃんのPTに入れるくらいになってみせるよ!」
「楽しみにしていますね」
「任せて! さてもう1本いってくる!」
「がんばってねぇ~」
やる気漲るエイド君を送り出す。
まぁあっという間にボコられて治癒師の下に直行していたけれど。
その後、何度も何度もボコられるエイド君をしばらく眺めてから訓練場を後にした。
ラッシュの街は北西エリアが通称職人街と呼ばれるエリアになっている。
職人街には鍛冶、薬、錬金、裁縫など様々な職人達が集まっている。
ラッシュの街は規模が大きいので職人街にはピンからキリまで様々な腕の職人達がひしめき合っているので粗悪品を掴まされない様にレーネさんお奨めの職人のところでスタミナ回復ポーションを仕入れてきてもらう。
その他にも屋敷にある在庫の確認と確保、MPタンクも運び出しておいて貰う。
精霊の少女――ユーウイトさんの結界が数日もつとはいえ、ぎりぎりまで物資集めをして戦うのではなく、まずは様子見である程度集まったら戦ってみて作戦を詰めるつもりだ。
もちろんそのままいけそうなら倒してしまってもいいだろう。
だが当たり前の事だが油断は出来ない。
簡単に立てられた作戦は、離れた位置にレーネさんとオレが同時に結界に侵入し遠距離攻撃を行う。
レーネさんとの位置を離すのは接近されたら結界の外にすぐ出て回避し、どちらかの攻撃を継続実行させるためだ。
攻撃を受けている状態では手の届かない結界の外に逃げた相手をいつまでも追うこともないだろう。もしそのまま動かないならいい的だし。
結界の中にいる攻撃者にターゲットを変更して移動し始め、ある程度距離が離れたら結界に入り攻撃を再開する。
転移などの一瞬で距離を詰められるスキルがなければ有利に攻められる作戦だ。
結界の大きさもユーウイトさんに聞いて把握しているし、オレ達の出入りが自由なので成り立つ作戦だろう。
接近されたらすぐに結界の外に出るので防御の必要性がないのが尚いい。
今回アルは当然参加させない。
マッドベアーの攻撃を軽くいなせるとはいえ、4つ持ちの攻撃を防御しきれるかどうかはわからない。
そんな賭けのような状況に参加させたくはない。
そもそもオレ達に攻撃が届くということは作戦の失敗を意味している。
アルはダメージを受けると知識を損傷する。
図書館でかなりの量の知識を吸収しているから相当なダメージを受けなければ問題ないだろうが、損傷する知識はランダムなので油断は出来ない。
記憶すら知識の対象となっているので、もしかしたらオレ達との記憶を損傷する可能性があるのだ。
アルの防御技術はとんでもないの一言だが、正直な話出来れば盾役なんてして欲しくない。
盾役を頼んだのだってアルを大事な家族だと思うずっと前だ。
何よりアル自身が望んでいることだから好きにさせているが、やはりこういった強敵相手だとどうしても最悪の状況を考えてしまい参加させられない。
「お嬢様、バーンシュタイン様がおいでになられております」
「バーンシュタイン? だれそれ」
「騎士見習いのエイド・バーンシュタイン様と名乗っておられました。
お嬢様からの手紙ももっておりましたので訓練場にお通ししましたが問題ありましたでしょうか?」
「あぁ、エイド君か。うん、おっけー。エイド君はこれからも通ってくると思うから好きに訓練施設と浴場とかは使わせてあげて」
「畏まりました」
ギルドの受付の人にPT参加へのお返事をエイド君宛てに渡してあったのだが、PTに入りたかったらうちの訓練場で腕を磨きなさい、と書いておいた。
今の状態ではとにかくレーネさんの人見知りが発動しまくりでPTとして機能しなくなってしまう恐れがあるし、何よりエイド君がレーネさんに師事したいのは強くなって騎士の試験に受かる為だ。
騎士団詰め所にも訓練施設は併設されているけれど、正騎士に優先権があるのでエイド君はそうそう使えない。
なのでとりあえずうちの訓練施設を提供してあげることにした。
そしてレーネさんにも少しずつエイド君になれていってもらうことにしたのだ。
エイド君も訓練する場所を確保できて、レーネさんも人見知り克服のいい練習になる。
まさにウィンウィンの関係ってやつだね。
【あ、あの……ワタリさん……?】
【むふふ~。レーネさんは少しずつでいいからエイド君に慣れていってください。
まずは訓練場などで遠目から慣れていく感じで、最終的にはPTに入れてあげたいと思っています】
【そ、そうですか……。そういうことなら……が、がんばります……】
今までが今までだっただけに自信なさげだがエイド君はいい子なので大丈夫だろう。
まずはエイド君の印象をよくするためにエイド君お奨めのお店にレーネさんと行こう。もちろんエイド君は同伴しないけど。
「さてじゃあ物資の確保はエンタッシュたちに任せて、訓練場の方に行きましょうか」
エンタッシュの指示を受けた使用人達が馬車を走らせて買い付けに行き始めたのでオレ達はエイド君に会いに行く為に訓練場に向かうことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
構えた木盾を斜めにして大木剣を受け流し、返す刀で反撃を行うが冷静に相手に距離を取られてしまい木剣が空を切る。
再度木盾を構え半身の体を隠すようにジリジリと接近する。
間合いに入っても仕掛けてこない相手に焦れながらも隙を伺う表情は真剣そのものだ。
意を決したように木盾を構えて突進し、そのままシールドバッシュで相手を吹き飛ばそうとするがそれほど突進力もなかったのかあっさりと受け流されてしまい、背中にいいのを貰ってしまった。
「あ~……」
【まだまだですね】
痛みのあまり地面を転げまわっていたエイド君だが、なんとか立ち上がると相手の戦闘奴隷に礼を言って休憩するためにトボトボ、とベンチがあるところに歩いていく。
オレ達が来たことはまだ気づいていないようだ。模擬戦中だったので無理もない。
その上その模擬戦はほぼ完敗といっていい内容だったし。
それにしても相手をしていた戦闘奴隷はかなりの高レベルで戦闘経験も豊富だから仕方ないにしてもエイド君は結構弱いようだ。
これはうちのPTに入るには相当訓練してもらわないとだめかもしれない。
まぁまずはレーネさんに慣れてもらう事が先決だし、強さに関してはレベルアップすれば多少はマシになるだろう。たぶん。
「エイド君」
「あ、ワタリちゃ……す、ストリングスさん! 初めまして!
僕はエイド・バーンシュタイン。騎士見習いです!
今度からこの訓練施設を使わせてもらうことになりました! よろしくお願いします!」
「は、はぃ……ょろしくおねがいします……」
ベンチで項垂れていたエイドに声をかければのろのろと顔をあげたエイド君だけど、レーネさんがいるとわかってからは痛むだろうに背筋をピン、と伸ばして元気よく自己紹介している。
まぁ師事したい相手なわけだし、ちょっとくらい痛くても我慢だろう。
「はいはい、自己紹介はその辺で~……ちょっと痛むよ~」
「うぐっ! あ、もう痛くないや。さすがワタリちゃんだねぇ。ほんとに体力回復使えるんだ」
「疑ってたんですか? エイド君は酷い子ですね」
「いやぁ~だってワタリちゃんまだこんなに小さいからさ~」
「小さいは余計ですよー。エイド君だってさっき簡単に負けてたじゃないですか」
「うぐっ……。だ、だって相手の人すごく強いんだよ……。
あ! そうじゃなくて!
ワタリちゃんすごいお金持ちだったんだね! あんな強い奴隷やこんなすごい屋敷をもってるなんて」
「あーまぁ色々あるんですよ、私にも」
「そ、そうなの? うーん、聞かない方がいい?」
「めんどくさいのでそうしてください。
それより治癒師の人もいるんだから怪我したらすぐにそっちで治して貰うようにしないとだめですよ?」
「あ、うん……そうなんだけど……。なんていうか……ね?」
「言い訳は必要ありません。ちゃんと怪我を治さないならここは使わせません、約束ですよ?」
「……はい」
力の差を見せ付けられてしょんぼりしてしまったのはわかるけど、治癒師をちゃんと用意してあるんだからきちんと治して貰わないと困る。
軽い打撲でも長引けば思わぬ怪我になるんだから。
オレに言われてまたしょんぼりしてしまったエイド君だけど、これだけ言えば次からはしょんぼりする前に怪我を治しにいくだろう。
「わかればいいんです。
それよりエイド君。お奨めの美味しいお店ありませんか?」
「んー最近だと南門付近に新しく出来た食堂のランチセットがいい感じかな。でもちょっと量が大目だからワタリちゃんだと残しちゃうかも?」
「ふむ、ランチセットですか。もう今日はやってないですよね?」
「そうだねぇ~。明日辺り行ってみたら?」
「そうしますか。
じゃあエイド君、訓練が終わったら屋敷の浴場を使ってちゃんと綺麗にしてから帰るんですよ?」
「うん、ありがたく使わせてもらうよ。
そして早く強くなってワタリちゃんのPTに入れるくらいになってみせるよ!」
「楽しみにしていますね」
「任せて! さてもう1本いってくる!」
「がんばってねぇ~」
やる気漲るエイド君を送り出す。
まぁあっという間にボコられて治癒師の下に直行していたけれど。
その後、何度も何度もボコられるエイド君をしばらく眺めてから訓練場を後にした。
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