幼女と執事が異世界で

天界

文字の大きさ
上 下
100 / 183
第5章

99,野宿?

しおりを挟む
 馬車は猛スピードで走っているけれど、たまに魔物に襲われることがある。
 たまにな上に猛スピードで走っているので大抵は攻撃が届く前に引き離してしまうので戦闘にすらならない。
 アルの操車テクニックは予想通りにすごかった。本当になんでもできる子だ。
 レーネさんもさすがにアルほどとは行かないものの猛スピードの馬車を横転させることもなく、しっかりと制御している。
 オレもやってみたかったがさすがにこの猛スピードで走っている馬車を操縦するのは事故を起こす事請け合いすぎたので暇が出来たらやってみよう。


 目的地までは片道で4日の予定なので明るいうちに距離を稼ぎ、暗くなったら帰還用魔道具リリンの羽根で屋敷に馬車ごと戻る予定だ。
 でも最初の日だけは野宿する事になっている。
 ネーシャの事は一旦屋敷に戻って疲労度の高い馬――この子達も足が6本ある怪獣みたいな種類だが馬らしい――を交換するときにつれてくる予定だ。
 ほんとはエリザベートさんに預かってもらおうと思ったんだが、


「お嬢様が野宿するのにあたしだけがベッドで寝るわけにはいきません!」


 と言って聞かなかった。
 帰還用魔道具リリンの羽根がなかったら今回みたいな長めの依頼は毎回野宿になってしまうのだが……と思ったがネーシャの心意気に免じて言わないでおいた。
 野宿するためのポイントは街道沿いにいくつか点在している広めの空き地みたいなところや、簡単な小屋みたいなところがある場合もある。
 オレ達が通ってきた街道は鉱山街へ行くルートの1つで交通量はないわけではなくすれ違った人や追い抜いた人なんかもそれなりの数いた。
 大半は積荷を積んだ馬車と商人、その護衛だったが3割くらいは冒険者風の人達だけだった。
 冒険者風の人達は全員徒歩でオレ達みたいに移動に馬車などを使っている人はいないみたいだった。


「今日はここに泊まるのかな?」

「答えは是。この小屋は誰でも使っていいものでございます」

「他には人もいないみたいだし、追い抜いてきた人達も今日中には追いつけないだろうし、あっち側から来る人くらいかな?」

【もう大分暗くなってきましたので私達だけだと思います】

「じゃあ貸切だね!」


 小屋はそれほど大きなものでもなく、中にはベッドもなく中央に焚き火が出来そうな囲炉裏があるだけで寝る場合は雑魚寝が基本のような状況だ。
 まぁ外で寝るよりは大分ましだろう。

 レーネさんが先行して中をチェックし、次に入れ替わりにアルが入って浄化をかけて綺麗にする。
 オレは特にやることがないのでそんな2人を眺めているのだが、なんというか役立たず感がすごい。
 移動中も荷台で物理的にごろごろしてるかレーネさんの匂いを嗅いでいるかしかしていないし、食事はアルが事前に作った物をアイテムボックスに入れてあるし、作るにしてもアルが作る。
 掃除なんかもアルの浄化があるし、罠や待ち伏せの警戒もレーネさんの方が得意だ。
 戦闘がなければ役に立たない感じがぷんぷんする。


「ワタリ様は存在するだけで我々に幸福を齎してくれるのです」

「……なんかマスコットみたい……」


 オレの心を的確に読んだアルが恭しい態度でそう言ってくれるが、それってマスコットだよね。マスコットだよね!?
 それ以上何も言ってくれないアルにジト目をしていると小屋の周りを回ってきたレーネさんが問題ないことを告げてくる。

 とりあえず気を取り直してネーシャを迎えに行く為に馬車に乗り込むと帰還用魔道具リリンの羽根を起動する。

 レーネさんは小屋に残るそうなので戻ってくる為のマーキングアイテムを渡して戻った。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 視界が切り替わるとそこは改装中の屋敷の庭にある巨大な車庫。
 やっぱりエンタッシュがすでにいて深々と腰を折って出迎えてくれた。
 馬車や馬のことは専用の使用人奴隷に任せてエンタッシュがすでに用意していた違う馬車でネーシャのお迎えに行く。


「お嬢様ー!」

「お待たせ、ネーシャ」

「おかえり~」

「ただいまです、ユユさん」


 相変わらずランカスター家が自分の家みたいになっているが特に問題ない。
 でも今日はお喋りしている暇はないのでネーシャを引き取るとすぐに屋敷に取って返す。
 馬車の窓から乗り出して手を振っているネーシャがちょっと危なかった。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 屋敷に戻ると馬の交換はしっかり終わっていた。
 というか馬車自体が交換されていた。ハイスピードな移動だからどこか壊れたのかと聞いたら最初から丸ごと交換する予定でしたので、と返されてしまった。そうだったの?
 その辺は全部アルとレーネさんにお任せしていたのでよく知らなかったがまぁ別に問題ないだろう。
 馬車は巨大な車庫にたくさん用意されているし。


 交換した馬車に乗り込み、レーネさんの待つ小屋に戻る為にMPを充填した帰還用魔道具リリンの羽根を起動する。

 深々と頭を下げているエンタッシュと使用人達の代わりに夕闇に染まった街道に視界が切り替わると外で待っていたレーネさんが小走りに近寄ってきた。


【おかえりなさい、皆さん】

【ただいま、レーネさん。特に変わったことはなかったですか?】

【はい、大丈夫です。この辺は野営地としても使えるように魔物避けの柵が設置してありますので】

【あ、そうなんですか】


 そういえばリール村にもあったような柵が小屋が建っている空き地のようなところを囲むようにあったような気がする。
 あまり気にしていなかったから良く覚えてないけれど。

 馬車から馬を外して繋ぎなおしてアイテムボックスから飼葉や水を出しているアルをネーシャと眺める。
 手伝おうにもやり方がいまいちわからなかったのでまずは見学だ。
 ネーシャも真剣にアルの作業を見て覚えようとしている。多分ネーシャがやることはないと思うけれど出来るようになるのはいいことだ。
 馬も全頭交換したので疲れていないだろうが、食事はまだ与えていなかったようでガツガツ食べている。
 前世の馬はもうちょっとはもはもしながら食べていたように思うのだが、なんていうかすごいがっついている。
 そんなにお腹が減っていたのだろうか。それとも元々こういう食欲旺盛な感じなのがこっちの世界の馬なのだろうか。まぁ怪獣見たいな見た目だからありうる。
 その後は軽く馬達の背中などをどでかいブラシでマッサージして終わりだった。
 ネーシャも少しやらせてもらい手ごたえを感じたのか大分満足していた。

 さすがにその日はレーネさんもいるのでアルによる全身ふきふきは遠慮して浄化をかけただけで明日に備えて眠った。
 だがいくら魔物避けの柵があっても強い魔物なら無関係に入ってくるし、盗賊やなんかには無意味だ。
 ここで役に立つのが警報機型の魔道具。
 魔物や人など生命体が近づくと警報を鳴らして教えてくれる優れものだ。
 範囲も細かく設定できる高級品を持ってきているので柵内に侵入した場合警報がなるようにセットしてある。
 それでも念のためにレーネさんとアルが交代で不寝番をするといったのでオレもしようとしたところアルに食い気味に却下されてしまった。

 やっぱり役立たずすぎるオレ……。
 あぁ早く魔物と戦いたい。活躍したいよぅ。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 翌日。
 ネーシャを抱き枕にしていたつもりが抱き枕にされていた事にちょっとショックを覚えながらも、また屋敷に戻ってネーシャを送り、今日も昨日と同じように猛スピードでの移動が始まる。
 その間ずっとレーネさんかアルにホールドされて今日はアトラクションを楽しむことはできなかった。

 暗くなると屋敷に戻りネーシャのお迎えに行ってそのまま屋敷でお風呂に入って海鳥亭に戻る。
 昨日が特別なだけでこれからはこんな感じになるはずだ。
 ちなみにエリザベートさんが1日会えなかっただけでものすごい引っ付いてきてアルに鼻フックからの掬い投げをされていた。



 そんなこんなで移動に4日。
 順調に進み、魔物との戦闘も1度もなく目的地に到着した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...