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第5章
86,相手
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ウィンドウショッピングのつもりが全員が服を1着ずつ購入して冒険者ギルドに戻ってきた時にちょうどアルから念話で相手が来たらしい連絡が入った。
本来なら個室で会う予定だったのだが、オレ達が見物……もとい、監視できなくなるので広いロビーで一旦落ち合ってもらう予定である。
ロビーで落ち合っている最中にアルのことをエリザベートさんの恋人として紹介し、相手に諦めてもらうというのが今回の作戦の全容だ。
細かい所はエリザベートさんがどうにかするらしいので特に打ち合わせらしい打ち合わせはその程度しかしていない。
掲示板を見る振りをして待っていると、ギルドのウェスタンドアが押し開かれて鈴の音が少しだけ響いた。
現れたのはすらっとした長身のエルフだった。
身につけている鎧は軽さを重視した軽鎧。だがその材質はミスリルでもなく、鉄でもない。
恐らくもっと質のいい素材なのだろう。明らかに格が違うとひと目みただけでわかる。
腰に長剣を吊るし、背中には折りたたまれた弓がある。矢筒はないようだがアイテムボックスにでも仕舞っているのだろうか。
盾は持っておらず、遠距離から弓で、近距離なら長剣を使うスタイルなのだろう。
顔はエルフ特有の美貌。
整った目鼻立ち。ただちょっと顎がシャープな感じでエッジがきいているが、それでも美青年という印象を与えるには十分だ。
髪は邪魔になるからだろうか、短く切り揃えている。
入ってきた時からその表情には感情の色はなく、クールというよりは冷たい印象を与えている。
「ギルドマスター、リオネットただいま参上いたしました」
「うむ。よく来てくれた。エリザベートももうすぐ来る。少し待っていてくれ」
あの筋骨隆々ピーピングエルフこと、エリザベートさんの祖父であるギルドマスターがリオネットと名乗る作戦の対象を迎えている。
ギルド内にはオレ達以外にも多少冒険者がいるので、皆そちらを注目している。
小さい声ながらもリオネットのことを噂している声が聞こえる。
「おい、あいつ確か破滅の牙のリオネットだろ? この間ランクSになったっていう」
「あぁ、何でもトレーゼ迷宮の150階層を突破してエリアボスを撃破してランクS昇格だとよ」
「そりゃぁすげぇな……」
エリザベートさんから事前に聞いていた情報と同じことを噂しているようだ。
彼はPT名『破滅の牙』のリーダーをしている。迷宮探索を主軸におく冒険者だ。
その破滅の牙はつい数日前にトレーゼ迷宮の150階層を突破してその階層のボスを倒すという快挙を成し遂げている。
エリザベートさん曰く、トレーゼ迷宮は13番目に見つかった大迷宮で現在は破滅の牙が最高到達者であり、150階層というのはランクSに相応しい難易度の階層だ。
その上エリアボスとは一定階層毎に登場する強力な魔物の事をいい、その強さは名前に恥じない凶悪なものとなっている。
しばらく始めて見るランクSを眺めていると、エリザベートさんがアルを伴って現れた。
リオネットがエリザベートさんを視界に収めるとその顔は先ほどまでの冷たい印象がどこにいったのかというように明るい華やかなものになった。
「やぁエリザベート! 今日も君は美しいね。まさに華が咲き乱れているような、いや君の前では満開に咲き誇る花々では到底太刀打ちできない。
君の美しさを言い表す事ができないことが悔しいよ。あぁ神よ、なんという苦悩を与えてくれるのだ。私はエリザベート……君の美しさを言葉にすることができない!」
一気に捲くし立てるような声がギルド内に響き渡る。
エリザベートさんどころかギルド内にいる全員の顔が引きつるのがよくわかる。
だが当のリオネットはそんなものなどどこ吹く風というように、エリザベートさんの美しさを尚も延々と言葉にしようと気障なセリフを吐き続けている。
【なんかすごいのがきたなぁ……】
【……びっくりしました……】
呟くように念話で本音を漏らすと、完全に停止していたレーネさんが何か不思議な生物を見るような瞳と口調でそれに追随する。
ネーシャに至っては目をぱちくりさせたまま、まだ停止している。
「リオネットよ、その辺にしておけ。エリザベートも困っている」
「おっと、これは失礼致しました。私としたことがエリザベートのあまりの美しさに我を忘れてしまいました。お許しを、我が姫君」
ゾワゾワ、と体中に気持ちの悪い何かが這い上がるような気がしたが、言われている本人であるエリザベートさんも同じなのかぶるっと体を震わせている。
言ってる本人はその様子を自分の言葉に感動したのかとでも思っているのか、なにやら満足げだ。
「ここではなんだ。移動を」
「待ってください、お爺様」
ギルドマスターが移動しようと声をかけたのを見計らい、遮るようにエリザベートさんが言葉を挟む。
ここがギルド内の人目のつく場所だからか、祖父を様付けで呼んでいるのが違和感ありまくりだが突っ込んではいけない。
「ふむ。そちらの彼のことかね?」
「はい。まずは私の話を聞いてください」
「よかろう。リオネットもよいな?」
「私は構いません。姫君が私の元へ来るのは変わりませんから」
ギルドマスターは片眉を上げてあまり興味がなさそうに。
リオネットは自信満々といった表情を浮かべてエリザベートさんに続きを促す。
「彼は私の恋人でアル君です。私には彼がいますのでリオネットとは結婚できません」
背筋を伸ばし、何憚ることなく堂々とした態度で言い切るエリザベートさんの横にはアルがいる。
いつもはオレの影となり、時には盾となり、いつでも支えてくれる確かな存在がその存在感を解き放つかのように存在している。
その堂々たる様はまるでエリザベートさんを守る騎士のように雄雄しく、だが柔らかい雰囲気と決して冷たくないクールさが内在した美しいものだった。
リオネットの見た目だけのものとは明らかに違い、内面からあふれ出すようなそんなオーラのようなものが見える気がする。
「ふ……。何を言うのかと思ったら……。
エリザベート、君に相応しいのはこの私だ。そのようなみすぼらしいガキではない」
は?
今こいつはなんと言った?
ミスボラシイ? 何語だ?
ガキ? アルが?
いつでも優しくていつでも頼りになって、いつでも……。
意味が分からない。
小首を傾げ、未だ何か言っている気持ち悪い存在以外の全てが消失する。
あの気持ち悪い顔から、癇に障る声が一言でも漏れるたびにオレの中にある何かがふつふつと温度をあげるのがわかる。
隣で大きな気配が緊張するのがわかる。でも今は構っていられない。
オレの中の何か獰猛なものがアイツは敵だとはっきり告げている。
今この場で、その気持ち悪い言葉を紡ぐ口を叩き潰せと訴えている。
床板がミシリ、と音を立てた。
沸騰寸前のように煮えたぎった脳内でやけに大きく響いたその音は一瞬で後方に置き去りにされた。
代わりに響いたのは盛大に床板を砕き、その破片すらも粉々に粉砕する破砕音。
敵が居たはずの空間は床板が根こそぎ消滅し、下に設置されている石材も土が見えるほどに抉り飛ばされている。
「子供。どういうつもりだ」
まだ気持ち悪いアイツの声が聞こえる。
一撃では殺せないとは思ったが、壁際近くまで離れた敵はどうやら無傷のようだ。
アルとエリザベートさんには被害が及ばないように最短距離でグレートコーンを振ったから威力も速度もしょぼかった。
ギルドマスターは巻き込まれる位置にいたが放置した。彼はギルドマスターとしての実力が垣間見えるほどのスピードで完全に回避していたので問題もない。
「その気持ち悪い口を閉じろ。オレの家族を侮辱するヤツはみんな死ねばいい」
オレの言葉に冷たい表情になっていた敵が更に温度を下げる。
すでに抜かれている長剣を構えるといつでも動ける体勢になっている。
特殊進化個体を単独で撃破しているとはいっても油断する気は毛頭ない。
相手は成り立てとはいえ、ランクSだ。
レーネさん以上の実力を持っている前提で事を運んだ方がいい。
本来なら先ほどの不意打ちで一撃で仕留めるべきだったが、アルとエリザベートさんの位置が悪すぎた。
全力で打ち込んだら巻き込んでしまう。
あんな気持ち悪いヤツの為に2人が傷つくのでは本末転倒もいいところだ。意味がなさすぎる。
「ふむ、これはどう」
「ワタリちゃんが私を家族っていってくれたー!」
緊迫した空気を引き裂くように歓喜に彩られた叫びが響き、オレの煮えたぎった脳内がちょっと温度を下げたように感じた。
本来なら個室で会う予定だったのだが、オレ達が見物……もとい、監視できなくなるので広いロビーで一旦落ち合ってもらう予定である。
ロビーで落ち合っている最中にアルのことをエリザベートさんの恋人として紹介し、相手に諦めてもらうというのが今回の作戦の全容だ。
細かい所はエリザベートさんがどうにかするらしいので特に打ち合わせらしい打ち合わせはその程度しかしていない。
掲示板を見る振りをして待っていると、ギルドのウェスタンドアが押し開かれて鈴の音が少しだけ響いた。
現れたのはすらっとした長身のエルフだった。
身につけている鎧は軽さを重視した軽鎧。だがその材質はミスリルでもなく、鉄でもない。
恐らくもっと質のいい素材なのだろう。明らかに格が違うとひと目みただけでわかる。
腰に長剣を吊るし、背中には折りたたまれた弓がある。矢筒はないようだがアイテムボックスにでも仕舞っているのだろうか。
盾は持っておらず、遠距離から弓で、近距離なら長剣を使うスタイルなのだろう。
顔はエルフ特有の美貌。
整った目鼻立ち。ただちょっと顎がシャープな感じでエッジがきいているが、それでも美青年という印象を与えるには十分だ。
髪は邪魔になるからだろうか、短く切り揃えている。
入ってきた時からその表情には感情の色はなく、クールというよりは冷たい印象を与えている。
「ギルドマスター、リオネットただいま参上いたしました」
「うむ。よく来てくれた。エリザベートももうすぐ来る。少し待っていてくれ」
あの筋骨隆々ピーピングエルフこと、エリザベートさんの祖父であるギルドマスターがリオネットと名乗る作戦の対象を迎えている。
ギルド内にはオレ達以外にも多少冒険者がいるので、皆そちらを注目している。
小さい声ながらもリオネットのことを噂している声が聞こえる。
「おい、あいつ確か破滅の牙のリオネットだろ? この間ランクSになったっていう」
「あぁ、何でもトレーゼ迷宮の150階層を突破してエリアボスを撃破してランクS昇格だとよ」
「そりゃぁすげぇな……」
エリザベートさんから事前に聞いていた情報と同じことを噂しているようだ。
彼はPT名『破滅の牙』のリーダーをしている。迷宮探索を主軸におく冒険者だ。
その破滅の牙はつい数日前にトレーゼ迷宮の150階層を突破してその階層のボスを倒すという快挙を成し遂げている。
エリザベートさん曰く、トレーゼ迷宮は13番目に見つかった大迷宮で現在は破滅の牙が最高到達者であり、150階層というのはランクSに相応しい難易度の階層だ。
その上エリアボスとは一定階層毎に登場する強力な魔物の事をいい、その強さは名前に恥じない凶悪なものとなっている。
しばらく始めて見るランクSを眺めていると、エリザベートさんがアルを伴って現れた。
リオネットがエリザベートさんを視界に収めるとその顔は先ほどまでの冷たい印象がどこにいったのかというように明るい華やかなものになった。
「やぁエリザベート! 今日も君は美しいね。まさに華が咲き乱れているような、いや君の前では満開に咲き誇る花々では到底太刀打ちできない。
君の美しさを言い表す事ができないことが悔しいよ。あぁ神よ、なんという苦悩を与えてくれるのだ。私はエリザベート……君の美しさを言葉にすることができない!」
一気に捲くし立てるような声がギルド内に響き渡る。
エリザベートさんどころかギルド内にいる全員の顔が引きつるのがよくわかる。
だが当のリオネットはそんなものなどどこ吹く風というように、エリザベートさんの美しさを尚も延々と言葉にしようと気障なセリフを吐き続けている。
【なんかすごいのがきたなぁ……】
【……びっくりしました……】
呟くように念話で本音を漏らすと、完全に停止していたレーネさんが何か不思議な生物を見るような瞳と口調でそれに追随する。
ネーシャに至っては目をぱちくりさせたまま、まだ停止している。
「リオネットよ、その辺にしておけ。エリザベートも困っている」
「おっと、これは失礼致しました。私としたことがエリザベートのあまりの美しさに我を忘れてしまいました。お許しを、我が姫君」
ゾワゾワ、と体中に気持ちの悪い何かが這い上がるような気がしたが、言われている本人であるエリザベートさんも同じなのかぶるっと体を震わせている。
言ってる本人はその様子を自分の言葉に感動したのかとでも思っているのか、なにやら満足げだ。
「ここではなんだ。移動を」
「待ってください、お爺様」
ギルドマスターが移動しようと声をかけたのを見計らい、遮るようにエリザベートさんが言葉を挟む。
ここがギルド内の人目のつく場所だからか、祖父を様付けで呼んでいるのが違和感ありまくりだが突っ込んではいけない。
「ふむ。そちらの彼のことかね?」
「はい。まずは私の話を聞いてください」
「よかろう。リオネットもよいな?」
「私は構いません。姫君が私の元へ来るのは変わりませんから」
ギルドマスターは片眉を上げてあまり興味がなさそうに。
リオネットは自信満々といった表情を浮かべてエリザベートさんに続きを促す。
「彼は私の恋人でアル君です。私には彼がいますのでリオネットとは結婚できません」
背筋を伸ばし、何憚ることなく堂々とした態度で言い切るエリザベートさんの横にはアルがいる。
いつもはオレの影となり、時には盾となり、いつでも支えてくれる確かな存在がその存在感を解き放つかのように存在している。
その堂々たる様はまるでエリザベートさんを守る騎士のように雄雄しく、だが柔らかい雰囲気と決して冷たくないクールさが内在した美しいものだった。
リオネットの見た目だけのものとは明らかに違い、内面からあふれ出すようなそんなオーラのようなものが見える気がする。
「ふ……。何を言うのかと思ったら……。
エリザベート、君に相応しいのはこの私だ。そのようなみすぼらしいガキではない」
は?
今こいつはなんと言った?
ミスボラシイ? 何語だ?
ガキ? アルが?
いつでも優しくていつでも頼りになって、いつでも……。
意味が分からない。
小首を傾げ、未だ何か言っている気持ち悪い存在以外の全てが消失する。
あの気持ち悪い顔から、癇に障る声が一言でも漏れるたびにオレの中にある何かがふつふつと温度をあげるのがわかる。
隣で大きな気配が緊張するのがわかる。でも今は構っていられない。
オレの中の何か獰猛なものがアイツは敵だとはっきり告げている。
今この場で、その気持ち悪い言葉を紡ぐ口を叩き潰せと訴えている。
床板がミシリ、と音を立てた。
沸騰寸前のように煮えたぎった脳内でやけに大きく響いたその音は一瞬で後方に置き去りにされた。
代わりに響いたのは盛大に床板を砕き、その破片すらも粉々に粉砕する破砕音。
敵が居たはずの空間は床板が根こそぎ消滅し、下に設置されている石材も土が見えるほどに抉り飛ばされている。
「子供。どういうつもりだ」
まだ気持ち悪いアイツの声が聞こえる。
一撃では殺せないとは思ったが、壁際近くまで離れた敵はどうやら無傷のようだ。
アルとエリザベートさんには被害が及ばないように最短距離でグレートコーンを振ったから威力も速度もしょぼかった。
ギルドマスターは巻き込まれる位置にいたが放置した。彼はギルドマスターとしての実力が垣間見えるほどのスピードで完全に回避していたので問題もない。
「その気持ち悪い口を閉じろ。オレの家族を侮辱するヤツはみんな死ねばいい」
オレの言葉に冷たい表情になっていた敵が更に温度を下げる。
すでに抜かれている長剣を構えるといつでも動ける体勢になっている。
特殊進化個体を単独で撃破しているとはいっても油断する気は毛頭ない。
相手は成り立てとはいえ、ランクSだ。
レーネさん以上の実力を持っている前提で事を運んだ方がいい。
本来なら先ほどの不意打ちで一撃で仕留めるべきだったが、アルとエリザベートさんの位置が悪すぎた。
全力で打ち込んだら巻き込んでしまう。
あんな気持ち悪いヤツの為に2人が傷つくのでは本末転倒もいいところだ。意味がなさすぎる。
「ふむ、これはどう」
「ワタリちゃんが私を家族っていってくれたー!」
緊迫した空気を引き裂くように歓喜に彩られた叫びが響き、オレの煮えたぎった脳内がちょっと温度を下げたように感じた。
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