幼女と執事が異世界で

天界

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第2章

40,誘拐

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 2件目、3件目の奴隷商でも同じような感じで確認作業を行っていく。
 アルは本当に頼りになる。堂々と何の気負いもなしに演技を完璧にこなしていく様は驚嘆の一言だ。
 まぁ口調が変わっただけでやってることは執事のそれとあまり変わりないのかもしれないが。
 見つからなければ次の奴隷商へ向かうという作業染みたことを繰り返す。
 1件にそう時間もかけられないためなるべく時間をかけずに行っているが、それでも急かすと見逃しにも繋がるためあまりスピードアップには繋がらない。


「アル、今何件目だっけ?」

「先ほどの所で5件目にございます」

「やっぱりこの広いラッシュの街で1人の奴隷を探そうっていうのは難しいものなんだね……」

「答えは是。ですが、焦らず1件1件こなすのが近道にございます」

「うん、そうだね。よし、次行こうか!
 ……次どっち?」

「こちらにございます」


 なかなか見つからないあの子に少々の焦りが募るが、アルの言葉で焦っても仕方ないと自分に言い聞かせることが出来た。
 アルがいてくれて本当によかった。


【ワタリちゃん、そっちの方はどうかな? 私は今7件目に着く所だよ】

【こっちは次で6件目になります。今向かっています】

【そっかー。やっぱりなかなか見つからないねぇ。
 ……って6件目? 確かそこって裏通りの?】

【アル、そうなの?】

【答えは是。次は裏通りにある奴隷商になります】

【そこは私が行こうか? 裏通りはワタリちゃんみたいな可愛い子が行くのはあんまりよくないよ】

【それだったらエリザベートさんみたいな美人さんが行くのもよくないような……】

【え! そ、そんな褒めても……あ、飴あげようか?】

【まだ貰った分がありますから大丈夫ですよ】

【そ、そっか、そうだよね……あは、あはは】


 美人さんだと褒めたら何やら挙動不審な言動になってしまった可愛いエルフさん。
 あの容姿に気さくな態度ならかなりもてるはずだろうから、いわれなれてると思ったのにそうでもないのかな?


【ごほん。と、とにかく、裏通りに入るなら気をつけてね?
 危険そうならすぐに逃げるんだよ?】

【はい、これでも冒険者ですから。大丈夫です】

【う、う~ん……。そうなんだけど……ほんとに気をつけてね?
 無理して戦ったりしないですぐ逃げるんだよ?】

【大丈夫ですよ。街中ですし、魔物が出るわけじゃないんですから】

【だめだよ、ワタリちゃん! 裏通りは魔物以上に厄介なヤツラがいっぱい居るんだから! しっかり気をつけて!】

【は、はい、わかりました。気をつけます】

【よしよし。ここが終わったらすぐそっちに合流するから、無茶はだめだからね】


 再三にわたり注意されるので裏通りは危険なところなのだろうか。
 でもエリザベートさんはオレのステータスを知らないし、非力な幼女だと思っているからこれほど注意を促すのだろう。
 アルもいるし大丈夫だろう。根拠は今日の頼もしい従者君だ。

 裏通りは暗く建物と建物の間にある通りのために、ゴミや資材が乱雑に積み重なっていて視界も悪い。
 ゴミが散乱しているためか匂いもきついし、道端には浮浪者が寝そべっていてその前にはぼろぼろの木皿が置いてある。物乞いの類だろうか。
 他にもいる人達は全員が影がある陰鬱とした表情で、目に生気がない人も多い。
 いやな感じだ。エリザベートさんが注意するのもわかる。

 事前に外套を羽織って目立つ服は隠してある。それでも向けられる視線は何か探るような舐__ねぶ__#るような……嫌な視線ばかりだ。


【エリザベートさん、無事到着しました】

【よかった。でも中に入っても気をつけてね?】

【はい、わかりました】


 裏通りにある奴隷商は裏通りの町並み通りの汚らしい店構え。
 ノッカーを叩いて出迎えた男もスキンヘッドに大きな傷の大男で言葉遣いも最低だった。
 ここではアルの威圧的な態度と実際に滲み出ていた威圧感により、終始相手側を圧倒し続け無事に確認は終了した。
 結局ここにもいなかった。

 残りはエリザベートさんの方が2件とオレ達が1件。
 最後の奴隷商は裏通りから出て、冒険者ギルドがあった南門通りからは反対方向の北門通りの端の方にあるそうだ。
 通りの名前はエリザベートさんに教えてもらってはじめて知った。
 オレ達が街に入った通りは南門通り。
 南にある大通りなので南門通り。そのまんまだ。
 逆方向にある大通りも北にあるから北門通り。


 日も傾いてきたので急いで裏通りを出ようと足を速める。
 この絡みつくような嫌な視線は早いところ裏通りを抜けてなんとかしたい。

 急いでいたし、前ばかり気にしていたからだろうか。
 ふいに目の前が真っ暗になり、繋いでいたアルとの手が衝撃と共に離れる。
 急に足が完全に宙に浮くと乱暴な振動が伝わってくる。


「な、なになになんだ!? アル! アル! どうなってんの!?」


 いきなりの暗転と大地から足が強制的に離れた不安から軽くパニックになってしまった。
 だがパニックになりながらも、硬い何かに金属がぶつかる音とたくさんの足音はしっかりと聞こえた。
 そして自分が抱え上げられて移動させられているのもわかった。


【ワタリ様! 申し訳ありません! 合図と共に私の元に転移を!】

【て、転移って言ってもアル見えないよ!?】

【私を思い浮かべてください。転移は視認せずとも確固としたイメージをもちさえすれば行えます】

【わ、わかった!】

 さっきの金属とぶつかる音が少しずつ離れていく。
 恐らくアルが交戦しているんだ。早くしないと転移範囲外に出てしまうんじゃ……。


【今です!】

【アルアルアル! 単独転移Lv1!】


 細部まではっきりとイメージできる頼もしい従者君を目を瞑ってしっかりと思い浮かべるとウィンドウにアルが表示される。
 まだLimit!!の文字がないからそんなに離れてはいないようだ。


「あいたっ」


 転移と共に暗闇から少し暗いあの裏通りに戻るが、抱え上げられた体勢だったので尻餅をついてしまった。


「な!? 転移だと!? くそ! どういうことだ!」

「し、しらねーよ! どうせ魔道具だろ! 魔道具なら脱出のために使っちまったんなら怖くねぇ!
 転移系の魔道具なら1回しか使えねぇからな!」


 周りからは驚愕の声と怒声。
 お尻がちょっと痛いけどそんなものには構っていられない。
 昨日買ったばかりの盾を構えたアルが頑張ったのだろう、周りを囲まれてはいるがそれなりに距離を取らせている。
 周りには汚い身形でフードを被った男が6人。手にはそれぞれ短剣やら先の欠けたショートソードを持っている。
 目測200mは離れた位置に袋の口を開いて中とこちらを何度も見ている男が1人。こちらもフードを被っていて何日も洗っていないような汚い服。武器は腰に短剣が見えるがまだ抜いていない。

 さっと確認できる範囲で7人か。
 オレを誘拐しようとはいい度胸だ。


【アル、怪我はない?】

【答えは是。無傷にございます】


 周囲の状況が確認できたのでアルの状況を確かめるが、さすがアルだ。6人に囲まれていても無傷とはさすがオレの盾君だ。


【もう少し待ってね。まずはあっちを片付ける。襲ってきたら防御に徹して怪我しないようにね】

【畏まりました】


 先ほどまでのパニックを誤魔化す様におどけて見せたが返って来たのはいつも通りの返事だ。

 さぁ色々考えてた戦法と新しい武器の試しも兼ねて行こうか。

 羽織っていた外套をさっと外して宙に舞わせる。その中に隠れるようにして、200mほど離れた場所にいるオレを誘拐した実行犯の男の後ろを選択して転移を実行。一瞬で指定と実行を行ったにも関わらずイメージ通りの場所に移動が完了する。
 アイテムボックスから取り出したグレートコーンを振り向き際に遠心力を稼ぎ、袋を持った男の足を掬い上げるように叩きつけた。
 スカートが遠心力で風を吸って膨らむが下はカボチャパンツだ問題は……ない。たぶん。

 現在のステータスは筋力増加Lv5などをしっかりつけた戦闘が可能な状態だ。
 この状態でグレートコーンを本気で振るうとどこにあたっても悲惨なことになることは想像に難くない。だから遠心力で稼いだ速度だけで力をあまりいれずに当てたのだが、骨が砕ける感触と凄まじい音。
 ひっくり返って後頭部を地面に減り込ませた男はその1発で泡を吹いて昏倒してしまった。位置的にスカートの中身が見える位置だがすでにひっくり返った目玉ではカボチャパンツは拝めないようだ。

 よく見なくてもグレートコーンが当たったところの反対側の腿から砕けた骨が簡素なズボンを突き破って飛び出ていてとんでもないことになってる。
 グレートコーンの凶悪な衝撃により、突然生えたかのように飛び出ている大腿骨。大量の出血がズボンに赤黒い染みを広げていく。


「うわぁ……えぐい」


 このままでは出血多量で死んでしまうだろう。誘拐犯だと言っても殺すのはちょっと忍びない。
 折れた骨が飛び出ているという目を逸らしたくなる光景に顔を顰めるけどまだたくさん残っているし、出血も酷いし時間はかけられない。
 でもこのまま複数転移を使ってしまうとエリザベートさんも引き寄せてしまう。


【エリザベートさん1度PTを解散します。詳しい事情はあとで】

【え? ちょ、ちょっとま】


 エリザベートさんの言葉を最後まで言わせることなくPTを解散する。PTを解散したとしても従者はPT状態を維持されるため問題ない。


【アル、お待たせ。転移するよ】

【畏まりました】


 複数転移Lv1で数cmずれたところを指定して飛ぶ。アルを引き寄せるだけなのでほとんど移動しない転移だ。
 舞わせた外套はアルがしっかり回収していたようだ。腕に引っ掛けてある外套を視界の端に捉えて、さすがはアルだ、と頬が少しだけ緩む。


【こいつ放って置いたら死んじゃいそうだから、止血しておいて】

【畏まりました】


 仲間が一瞬でやられ、アルまで自分達の囲みの中から消えて慌てふためいている6人の男達を視界に収めながら指示を出す。
 犯罪者でも死なれると目覚めが悪い。
 魔物と違って人間を殺すことを躊躇い無く実行できるような度胸はない。

 慌てふためく男達が冷静になる前に行動を開始することにしよう。
 戦闘状態になり、一気に鋭敏化した感覚に高速で飛来する何かを察知しグレートコーンを叩きつける。
 地面に接触する前に超重量のソレを片手1本で支え、飛来した何かを一瞥。
 ぐちゃぐちゃになった金属片だった。
 オーラシア武具店でも売っていた粗雑な混ぜ物をした投げナイフだ。ただしグレートコーンで叩き潰されてぐちゃぐちゃだったけど。

 飛来した投げナイフの軌道から投擲者をすぐさま確認し、転移する。
 転移前に体勢をさっと整え、転移した場所の足元をしっかり確認した上で今度は加減したスイングを叩きつける。今度はスカートが膨らまないように注意して片手で押さえているので大丈夫。カボチャパンツといえどここは高所だから下から見られたら簡単に見えてしまう。


「ぐっあああぁぁぁあ」


 しっかりと踏み込み加減された片手のスイングで打ち出された投擲者は、3階建ての建物の屋上から押し出されるように空中に悲鳴の尾を引きながら飛ばされる。

 今度は骨が飛び出るようなことになっていないのをしっかりと確認して、追いつくように屋上の端を蹴って飛ぶとすぐに空中の男に追いつく。もちろんスカートは膝裏に畳むようにしっかりと押さえてある。
 リボンがパタパタとその存在を主張するように揺れるがその程度で乱れるようなセットはしていない。さすがアルだ。完璧すぎるぜ。

 軽く肘を当てて落下方向を調整。
 軽く当てたが予想通りに真横になっていたベクトルが斜め下に切り替わったように急降下する。
 筋力増加の恩恵は凄まじい。
 相当手加減しないと打撃だけで人が簡単に死ぬだろう。

 急降下した男は放っておいたら地面にダイブして骨がぐしゃぐしゃになってさっきの男以上の悲惨なものになってしまう。
 単独転移Lv1で先回りし、男の服を掴むんで衝撃を殺してやるが殺しきれずに服が破けた。
 さすがにこれは予想外だったが、そのまま男は地面を盛大に削って減り込んで止まってくれた。
 びくんびくんと蠢く様に震えているから一応生きているようだ。なら問題ない。

 ごくりと唾を飲むような音がたくさん聞こえた気がした。
 200mは離れているのにそんな音が聞こえるなんておかしいとは思うが、気にしている暇はないようだ。
 完全に青ざめている男達。武器を持つ手が震えて足もがくがくいっている。
 でも逃がす気は無いよ?

 相手は6人いるのでさっとグレートコーンをアイテムボックスに仕舞い、代わりに黒狼石の短剣を取り出す。
 次の瞬間には6人の男のうちの一番遠くに居たショートソードを持った男の後ろに転移が完了。
 鞘に収めた状態で膝裏を叩き、強制的に跪かせると首筋にも軽く一撃。
 骨が折れるような感触はない。このくらいなら骨折させることもないようだ。
 短剣での手加減の確認と首を打たれた男が白目で仰向けに倒れてくるのを確認して、他の男達が振り返るのと同時に高速移動を開始する。

 オレの身長では飛び上がらないと1動作では頭を狙えない。
 腹や足ならそのまま狙えるが、意識を絶つなら腹だと正面から狙わないと案外難しい。
 顎か頚椎を狙って一定以上の衝撃を与えるのが近道だ。
 まぁ黒狼石の短剣を持った状態なら気づかれる前に接近し、鳩尾なり股間を一撃して離れるのは容易いだろう。
 だがこれは実験も含めている。ついでなのでやれるだけやりたい。
 スカートは意外と邪魔にならないようだ。片手でちょっと押さえておけば高速で動く反動で起こる風でめくりあがることもない。

 2人目の男もショートソードなので背後に回り膝裏を叩き跪かせると首筋に衝撃を与える。体の力が一瞬で抜けて意識を絶った感触が伝わってくる。
 2回も出来れば問題ない。ショートソード持ちもこれで排除できた。振り回されたらめんどくさい。オレに当たらなくても他のやつに当たる。
 自業自得で死んでも嫌な思いをするのはオレなんだからまず最初に範囲の広い獲物を潰したのだ。

 さぁ次だ。

 3人目は短剣持ち。オレから見たら完全に棒立ちになっていて隙だらけだったので正面から接近し、足の甲を踏み抜き骨を砕く。痛みに腰がくの字に曲がって、落ちてくる顎に一閃。
 もちろん鞘から刃は出していないので伝わるのは衝撃。
 脳を十分に揺するどころか、顎の骨が砕ける感触が伝わってくる。失敗。
 4人目も同じようにして足の甲を砕き、顎を打ち抜く。こいつも隙だらけだ。仲間がやられてるのに攻撃態勢すら取らないとか……いや単純にオレのスピードと攻撃力に度肝抜かれてるのか? なら好都合。

 手加減はしっかりできた。
 脳だけを揺すって骨は砕けていないようだ。ヒビは入っただろうけど。

 武器を持っているとはいえ、こいつらはオレのスピードにまったくついてこれていない。油断はするつもりはないが、少しアクロバティックな実験も交えることにした。
 3人目と4人目が地面とキスした瞬間には呆然としている5人目の男の膝を踏み砕く。
 服に合わないのと街中だと言う理由から鬼百合のミスリルの靴ではなく、リボンの付いた赤いローファーを履いていたので骨を砕く嫌な感触がダイレクトに伝わってくる。その感触に顔を顰めながらも宙返りと共に顎を蹴りぬく。
 宙返りの前にスカートをたくし上げて押さえた為、風で膨らむこともなく綺麗に回れたがちょっとはしたなかっただろうか。……いや今更か。

 しかし顎を砕く嫌な感触を残し結果は失敗。
 鞘で叩く感覚と肉体を使った時ではやはり違う。スカートも気にしたのでちょっと乱れたのもあるし。

 腰が抜けて尻餅をついている6人目は股が濡れて地面にちょっと染みが出来ていた。腰を蹴り上げて5人目と同じようにやろうかと思っていたけどプランを変更。そのままショートミドルを顎に当て脳を盛大に揺らした。
 最後の1人だったのでスカートが風で膨らむもの気にせずくるっと回ってカーテシーを決める。
 スカート姿に気を使った最終工程としてやってみたが……なんとも言えない微妙な感じしか残らなかった。
 靴もちょっと傷がついて少し表面が剥がれてしまっている。……直せるだろうか。

 背後で倒れる音が聞こえ、周囲からは呻き声1つ聞こえない。


 戦闘開始から1分経たずに8人全員の意識を刈り取ることに成功したようだ。
 鋭敏化した感覚によるとこちらに敵意を向けているような感じはもうない。8人で終わりのようだ。
 居たとしても逃げ出した後だろう。


 わかってはいたが、やはりこのステータスはとんでもないな。


「さすがにございます、ワタリ様」

「うん。ちゃっちゃと拘束しちゃおうか」


 足が悲惨なことになっている男の止血を終えたアルに全員を縛り上げるように指示してやっと一息つくことができた。

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