幼女と執事が異世界で

天界

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第2章

31,お買い物 Part,6

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 たくさんの美しい装飾に目を惹かれる篭手を一通り見終わると、老店員は張り付かせた営業スマイルのままこちらに問いかけてきた。


「いかがでしょうか? お気に入り頂ける物はございましたでしょうか?」

「んー……アルはどれがよかった?」

「ワタリ様が選んだ物こそが」

「あーはいはい、わかったわかった」


 またアルの新興宗教が始まってしまったのでどれにするか考える。
 あ、でもまずは値段が問題じゃないか? 高すぎたら買えんし。


「これはいくらになるんですか?」

「こちらの品ですと、銀貨60枚になります」

「ふむ。そんなもんか」


 一番最初の防御力重視の篭手を指差して聞いてみると予想よりは少ない金額だった。てっきり金貨単位なのかと思っていた。装飾もさることながら、使われている素材も希少っていってたし。
 オレが事も無げに言ったのを老店員は少し驚いていたようだが、すぐに表情を元の営業スマイルに戻していた。


【アル、この値段は適正だと思う?】

【答えは是。他の商品にも目を配っておりましたが、材質、装飾などから見ても適正価格かと存じます】

【そっか。篭手1個に銀貨60枚……生命線となる防具だからありかと思うけど……】

「こっちのは?」

「そちらは――」


 見せてもらった篭手から数種類選んで金額を訊ねていったが、あまり値段は変わらなかった。
 オレの行動が貴族の放蕩者ではなく、金銭感覚がしっかりある貴族と映れば儲け物だ。まぁそう思われればこの後のアルの交渉がやり易くなるってだけだけど。
 最悪定価で買っても問題はないしな。

 付与されている魔法も最大で2種類ずつのようだ。片手ずつ違う付与魔法の物を装備したらどうなるんだろうか。
 もしありならそっちのがいい。最悪なのは打消しあうとかだろうか。


「片手ずつにそれぞれ違う魔法抵抗の篭手を装備したらどうなるんですか?」

「篭手は通常両手に装備してこそ効果を発揮するものです。片手だけで装備すると効果も半減すると思っていただければよろしいかと」

「なるほど。ちなみにこの魔法抵抗って篭手だけなんですか?」

「いいえ、装備している最中ならば体全体に及びます」

「ふむ……じゃぁ他の装備で補えばいいのか」

「その通りでございます。お決まりにならないのでしたら、他の部位をご案内致しますがいかがですか?」

「そうですね。じゃぁ違うのをお願いします」


 老店員に案内されて部位毎にたくさんの装備を見せてもらっていく。
 付与できる魔法は篭手のところで見せてもらっただけではなく、状態異常系の抵抗もあるようだ。
 付与できる魔法の数は部位毎に違うわけではなく、装備品の主材料と魔法の種類と強さに応じて変わるようだ。
 つまり魔法を付与しやすい材質をふんだんに使った装備品なら、弱い魔法ならばたくさん付与できるということだ。
 といっても一番弱い魔法を数多く付与するより、強い魔法を1つ付与した方が効率は遥かにいいそうだ。

 ユーラシア武具店ではもっとも付与材料として適しているミスリルを用いてLv5の魔法を2つから3つ付与するのが最上品らしい。
 付与される魔法の種類や施されている装飾や使用される材料にもよるが、同系統の装備品で大きさや材質が同じ物の場合、付与魔法2個より1個の場合は半額以下に値段が落ちる。

 各部位を試着しながら試してみた結果、篭手、靴、小さな胸当て、ベルトの4つに決まった。
 それ以外の部位に関しては色々試した結果着心地的にもあまりよろしくないので却下となった。
 全身鎧なんてもってのほかだった。あれはもっと大きく体が成長してから着るべきものだとわかった。幼女に着せるものではない。

 オレが全身鎧を着たときのアルの表情もかなり見物だったが、兜系の物を試した時も同じような反応だった。
 ただ一応貴族のご令嬢用のティアラとかなんかよくわからないとにかく綺麗な頭に装備する類の物もあったのだが、オレが全力で拒否したので試してすらいない。
 あの時のアルの落胆は結構すごかった。おまえの主は元男なんだよ……。着せ替えはその辺のマネキンでやってくれたまえ。

 結局のところ付与魔法の構成は状態異常耐性をメインとすることにした。
 かかったらやばそうな麻痺、鈍化、石化、幻覚。割りと多くの敵が使ってくる毒の5つ。
 魔法抵抗で火、水、風、土の4属性を押さえて終わりだ。

 内訳は――

 笹百合のミスリルの篭手[火耐Lv5 風耐Lv5]
 鬼百合のミスリルの靴[麻痺耐Lv5 毒耐Lv5]
 鈴蘭のミスリルの胸当て[鈍化耐Lv5 石化耐Lv5 幻覚耐Lv5]
 黄百合のミスリルベルト[土耐Lv5 水耐Lv5]

 胸当てだけ百合じゃないのは百合の装飾が施された品がなかったからだ。
 鈴蘭は幸福を運ぶという花言葉があったので、胸当てに採用した。きっと弾丸も止めてくれるに違いない。
 百合の花言葉はあまり覚えていなかったが、大体が綺麗な感じだったと思う。
 まぁ別に花言葉で選んだわけじゃない。なんとなくだ。何種類かつけてみてアルの印象がよかったってのもある。

 会計時にアルの必殺の値切りが炸裂したのは言うまでも無く。
 合計で24000ラードだったのを18000ラードまで値切っていた。アル半端ない。
 ちなみに値切った分でアル用の盾を買った。他にも防具を買おうと思ったら盾だけで十分にございます、と言われてしまったのでとりあえずよしとした。必要になったら買いに来よう。
 盾だけで10000ラードというちょっとびっくりな値段だったが、値切って6000ラードに出来たからよし。
 会計は別の店員さんが行ったがかなり顔が引きつっていたのは面白かった。何か必要になったらまたここにこよう。反応が楽しみだ。

 アルの盾は支払いを済ませてから店内でアルのアイテムボックスに収納。
 オレの装備は分厚い紙で梱包してもらった。4種類でサイズ調整が発動していない状態でも結構小さいサイズなのでそんなに嵩張らない。
 リュックに仕舞っても半分もいかないくらいだ。

 防具はこれで十分なので次は武器だ。
 黒狼石の短剣があるが基本的には短剣だ。攻撃範囲も狭いし刃物なので殺傷目的ならいいとしても、非殺傷目的の場合扱いづらい。殺さないなら素手でもいい気がするが、それならせめてナックルガードがほしい。
 篭手は手首までをガードするタイプだったのでこれでは殴れない。

 今度は店員を伴わないで1階の武器コーナーを物色する。
 たくさんの種類の武器が置いてあるが、飛び道具は弓か投擲用の小さい刃物がメインのようだ。当然銃なんかは売ってない。そもそもあるのかすらわからないが。

 小石だけでもものすごい威力が出るのは知っているので投擲用の刃物を見ていく。
 投擲用の刃物も投げナイフの種類に入るようだ。壁にかけられた武器種の看板にそう書いてあった。
 2階の高い防具のところもそうだったが、ポップが貼ってあったりはしない。結構お高めの品が多いので店員が直接接客するのがメインなんだろう。すぐに寄ってきたしな。
 そんなことを思いながら投げナイフを眺めていると、やはりというかなんというか店員が寄ってきた。
 かなり値切ったとはいえ、結構高い品を買ったオレ達だ。値切った分を取り戻そうという気概が透けて見える。


「お客様、こちらの投げナイフなど意匠も凝っておりまして素晴らしい一品にございます」

「あー……使い捨てのつもりなので、もっと安くて数があるのがいいです」

「そ、そうでございますか……では、こちらの品などいかがでしょう」


 めげずにすぐに次の物を勧めて来る辺り商売人って感じがするが、やはり高い物を重点的に勧めて来ている。


「話聞いてました? 使い捨てのつもりなんですが?」

「は、はいッ! すみませんすみません!」


 ちょっと睨みを効かせただけで店員は青ざめて冷や汗を流し始める。やはりオレの恫喝力は相当な物なようだ。

 幼女に睨まれてぷるぷる震えている大人。

 結構酷い構図だと思うがこの店で結構時間を食っている。あまり時間をかけていると日が落ちてしまいそうだ。
 ショーウィンドウから入ってくる陽の光も大分赤味を帯びている。
 店員のお勧めをいちいち聞いていては時間がいくらあっても足りない。


「武器は自分で決めますので、口出ししないでもらえますか?」

「は、ハイ! 申し訳ありませんでした!」


 90度以上の角度で頭が下がったが、時間もないので無視して投げナイフを見ていく。
 使い捨て前提なので一番安いのでもいいかと思ったが、一番安いのだとなんだかすごく脆そうだった。
 何か混ぜ込んであるのか粗雑な感じのする刃に柄の小さなナイフがいくつも木箱に入ってる。さすがにこれは見た目的にも微妙だ。
 その次に安いのとなると銅製の投げナイフのようだ。
 鉄製の投げナイフもあったが微妙に銅の方が安い。まぁほとんど変わらないけど。
 どちらの見た目も結構綺麗なのでこの2種類を買っておくことにしよう。使ってみたら微妙ってこともあるかもしれない。
 他にも青銅製の物や鋼鉄製の物、玉鋼なんてのもあった。確か日本刀に使ったりするヤツだったはずだ。砂鉄をたたら吹きとかで不純物を抜いていった工具鋼だったと思う。
 詳しくは知らないが鑑定してみてもあまり有用な情報は出てこない。投げナイフなので材料は書いてあってもそれをどういう工程で云々とは書いてない。

 値段から考えると混ぜ物→銅→鉄→青銅→鋼鉄→玉鋼といった具合か。鉱石の産出量や製造技術、経済状況でも値段は違うだろうから生前の世界の基準がどこまで当てはまるかわからない。

 青銅以上になると値段もちょっと上がって使い捨てにするには微妙な高さになっているので銅と鉄の2種類だけでいいだろう。

 2種類の投げナイフをまとめて50本ずつ購入しておくことにする。投げナイフなので10本セットで販売されているので5セットずつってことだ。


「ワタリ様、お預かりいたします」

「ん。よろしくっていうか、こういうときこそ店員の出番じゃない?」


 冷や汗びっしょりで下がっていった店員は見当たらなかったが、近場にいた店員を捕まえて取り置きしてもらうことにする。

 他にも武器を適当に見ていくと、鈍器のコーナーに行き着いた。
 手ごろな棍棒サイズでもオレにとっては結構大きいが、ハンマー系なら殺さずに使えるんじゃないだろうか。まぁ結局は腕次第だとは思うが、オレには成長率増加Lv10というチートスキルがある。
 だったら黒狼石の短剣でも同じじゃないかと、チラっと思うがハンマーにもう心惹かれてしまったのでゴミ箱にポイしておいた。

 鈍器も棍棒から始まり、釘バットみたいな物からトンカチの大きなサイズの物などたくさんの種類がある。


「アル、どれがいいと思う?」

「ワタリ様がお使いになるには少々」

「はいはい、そういうのはいいからどれがいい?」

「ではこちらなどいかがでしょうか?」

「ふむ。グレートコーン? コーン……? まぁ名前はいいや」


 すぐに鑑定してみると魔法が付与されたハンマーだというのがわかった。


        ■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 グレートコーン [水Lv4 鈍化Lv4] [空] [空]
 武器種:鈍器
 中央部に埋め込まれた宝玉に水魔法と鈍化を付与してある破城槌。
 超重量のため必要筋力がかなり高い。

        ■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 スロットが2個空いている上に水魔法と鈍化の状態異常を付与できるハンマーだ。
 装備したら鈍化するとかそういうのではあるまい。普通に考えればぶっ叩いたら鈍化が一定確率でかかるとかそんなんだろう。

 なかなかいいかもしれない。さすがアルだ。


「うん、いいかも。ちょっと持ってみようかな。アル、取って」

「畏まりました」


 だが、アルが手に取ろうとしても持ち上がらなかった。説明文通りに相当な重量があるらしい。よく壁にかけておけるもんだ。
 だがよく見たら壁にかかっている金具部分が相当補強されていて、それでも重量に耐え切れずにかなり曲がっている。

 仕方なかったので店員を呼んでみると奥の方から筋骨隆々としたお兄さんが出てきた。見た目でオレパワーあるっすよ、とわかる。

 マッスルお兄さんがなんとか持ち上げたグレートコーンを床に置くとみしみしいっていた。


「お嬢ちゃん。君には無理だと思うよ?」

「お兄さん大変そうだったしねー」

「悪いことは言わないから、こっちの方を使ったらどうだい?」


 そう言ってお兄さんが指し示したのは比較的小さめのハンマーというより杖だろうか。
 先端に青いクリスタルのような物もついていてアレで叩いたら割れちゃうんじゃないだろうか。


「んーまぁそうかもしれないなぁ」

【アル、周りの目から隠せるかな?】

【答えは是。可能にございます】

「そうだろう……じゃぁほらこっちのを」


 マッスルお兄さんがお勧めするクリスタルの杖を取ろうと視線を逸らしたところでアルが動く。
 客はもうすでにかなり少なくなっていて店員もまばらだ。こちらに視線を向けていた店員との間に自然に移動したアルにより今なら持ち上げてもばれなさそう。
 いつもながらさり気無くやってのけるこの従者君は有能だなぁ。

 時間もないので床をみしみし言わせている超重量の物体の柄を片手で掴んで持ち上げる。割りと重いが使えないことは無い。片手でもてたし。
 体全体で遠心力を稼ぎつつ振り回せば十分扱えそうだ。でもこれで叩いたら潰れて即死しちゃうかもしれない。やっぱり腕次第ということだろう。
 マッスルお兄さんがお勧めの杖を取って戻ってくる前には床にそっと戻しておいた。

「ほらやっぱりこっちの方がいいと思うよ?」

「いえ、やっぱりこれください」

「え……いいのかい?」

「はい」

「そ、そうかい……? ぬぐおおおお」


 笑顔でにっこりと返すとお兄さんは驚いていたけどすぐに杖を戻して額に青筋立てて必死に会計カウンターまで運んでいった。

 魔法付与品だったが、その重量から買い手が全然つかなかったようで結構安く買えた。とはいってもオレの防具と比べての話だけど。
 もちろんアルがうまいこと交渉したのもある。かなり安くなったのに店員さんの顔は引きつっていなかったのを見ると相当売れないで処分に困っていたのだろうか。

 会計を終えるとさすがに会計用のカウンターの上には乗せられなかったグレートコーンを頑張って持ち上げてもらった。
 しゃがんで目の前にしか出ないアイテムボックスの位置まで誘導して、柄に手を添えて押し込む。
 事前にアルに聞いたところ、誰かが持っていても拒否の意思がなければアイテムボックスの所有者が触れてさえいれば入れることができる。
 汗だくで必死に持ち上げているお兄さんが辛そうだったのでさくっとアイテムボックスに突っ込むと一緒に会計した投げナイフはアルのリュックに仕舞って店を後にする。

 背後で大きな声で数人の店員がありがとうございました! またのご来店お待ちしております、と言っていた。
 よほど売れなかったのだろうあのハンマー。処分できて逆に嬉しいって感じだった。
 まぁ重すぎるしでかいし場所も取るしで、設置していた金具がかなりやばい感じにはなっていたしな。
 オレとしてはいい買い物をしたから問題ない。店側も処分できて嬉しい。winwinの関係ってやつだ。
 防具を値切りまくった分も帳消しにできてたようだし万事オッケーだ。

 2つの太陽がずいぶんと傾き、町並みが真っ赤に染まっている。
 予定していた買い物はなんとか今日中に終えることが出来たようだ。
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