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第2章
26,広場
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路地裏を抜けると暖かい日差しが柔らかく包み込んでくる。
空を見上げれば大小2つの太陽が真上に来ていた。
降り注ぐ光を小さな手を翳して遮りながら生前の世界ではありえなかった太陽を細めた目で見てみる。
2つも太陽があるのに砂漠地帯のような凶悪な暑さはない。
生前の世界の1つだけの太陽のような、それでいて春の日差しと代わらない暖かさ。
太陽が増えてもあまり変わらないのはとても不思議だった。
「ワタリ様、そろそろお昼にございます。いかが致しますか?」
「あー……そうだねぇ。朝食いっぱい食べたけど、小腹は空いてるね……ん、あっちの方からいい匂いがする!
露店でもあるのかもしれないね。あっち行ってみようか」
「畏まりました」
眩しそうに太陽をみていたオレに一礼して昼食の進言をしてくる従者君。
路地裏を抜けてからかすかにしていた美味しそうな匂いも相まって腹の虫がコーラスを奏でているのがわかる。とは言ってもまだまだ小声の範囲だ。
食べなくてももつだろうけど、この世界ではお昼は軽く摘む程度だとも言っていた。ならそれに倣って軽く食べてみよう。
いい匂いの正体も確かめたいし。
手を繋いでいるアルはオレの小さな歩幅にしっかりと合わせてくれる。
14歳くらいの少年の体躯のアルの歩幅と6歳の幼女のオレの歩幅では当然違う。さり気無くそれなりにある人の流れからも守ってくれるし、この執事君は本当にエスコートがうまい。
その仕草を欠片も見せることもないというのもテクニックの1つなのだろう。
爽やか系イケメンだし、気も利く。エスコートもうまい。おまけに料理まで出来るそうだ。
なんだろうなこの完璧系は……。あ、でも割と心配性で己の使命に熱意を燃やしすぎるし、妥協がうまくできないし、融通も利かない。完璧じゃなかったな。
だからこそ人間臭くて嫌いになれないどころか、もう大好きだ。
うん、いい従者をもらったな。アルでよかった。
「アルは何が食べたい? なんか色々あるみたいだよ?」
「私はワタリ様が食べたい物が食べとうございます」
「うーん……別にオレに気を使わなくていいんだぞ? 自分の食べたい物を食べなよ」
「ワタリ様の食べたい物こそが私の好物にございます」
「んー……じゃぁあの肉、行ってみようか。何の肉か知らないけど丸焼きにしててケバブっぽくて美味しそう」
「畏まりました」
少し進むと結構広めの広場に出た。そこにはぐるっと広場の周囲を埋め尽くすように食べ物系の露店が並んでいる。
中央には芝生が敷かれ少し大きめの木が立っている。
その周囲にはベンチがたくさんおかれており、フードコートのような様相になっている。
たくさんの人が思い思いの格好でそれぞれに食事を楽しんでいる。
お昼は軽く摘む程度なので、雑談しつつといった感じだ。食べている物もがっつり系ではなく本当に軽くおやつ程度の量ばかりのようだ。
「とりあえず軽くだから1人前買ってみようか」
「畏まりました」
目をつけた露店は木枠で作られた簡単な作りで、のぼりにラーズカットの薄焼きと書いてある。
露店の中で大きな肉の塊を回しながら焼いていて、焼けた部分を少しずつ切って木皿のようなものに注文分乗せて販売しているようだ。
驚いたことに露店が並ぶ中にポツポツと何軒か、木皿、串、コップ等回収しています。各種ポイント――と書かれているのぼりを出している店もあった。
それぞれの食器類にポイントが割り振ってあり、一定ポイントに達するとなにやらもらえるようだ。お金だったり、名産品だったり色々景品はあるようだ。
生前のどこかの外国でも同じようなエコ活動をしていたのを思い出す。紙皿やコップなんかも回収して再利用するっていう目的とゴミを出さないように出来るという一石二鳥のアイディアだったはずだ。
まさか異世界でも同じような物を見ることになるとは。世界が違っても考えることはあまり変わらないということだろうか。
「お待たせいたしました」
「うん、おかえり。1人前なのにずいぶん量あるねぇ。うん、美味しそうだ……はむ」
広場中央のベンチに座って木皿に割と大盛りのラーズカットの薄焼きを1枚食べる。
一緒に貰ってきた木の串っぽい物で刺して食べるスタイルらしい。もう1本あれば箸として使えたのにな。
薄くカットされた豚肉といった感じの味だ。胡椒が効いていてピリっと辛い。ご飯かパンが欲しくなるな。味はまぁまぁと言ったところだ。
木串は1つしかないので、交代で使う。アルも食べるがその表情は何かを蔑むかのような冷たい表情になっていく。
「うーん、それなりに……かな」
「ワタリ様が食すには相応しいとは言い難く……」
「うん、まぁ色々食べてみるのも悪くないじゃない」
「ワタリ様がそう仰るのであれば」
相変わらずアルの判定は厳しい。オレ的には別にそこそこ美味しければいいんだけどなー。まぁすごく美味しいのが食べられるならそっちの方がいいけど。
「そういえばさ、これいくらだったの?」
「1人前で2ラードにございます」
「これで1人前?」
「答えは是。1人前にございます」
「へぇ~ずいぶん多いねぇ。まぁ味がこんなもんだから量で勝負なのかな」
まぁ露店で売られているような物で値段よりも量勝負のような物に味云々いっても仕方あるまい。
うまい物が食いたいならきちんとしたお店にでも行けばいいんだしな。もしくはアルに作ってもらおう。うん、それがいい。今はとりあえず小腹を満たせればいい。
ちょうどいいのでこれも鑑定しておこう。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ラーズカットの薄焼き
ラーズカットの肉を丸焼きにして薄く切り盛り付けた料理。
安価で量は豊富だが味はそれなり。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
なんというか、そのまんまな情報だった。
味の評定もそれなり。まぁ確かにそれなりだったな。
まずいわけではないので、2人で少しずつラーズカットの薄焼きを食べていく。
でも2枚目の半分を食べたところでもう十分だった。
それでも木皿にはまだまだ残っている。木皿も別の物として鑑定できるのだろうか。
思いついたので実行してみる。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ニトの木皿
食器などの日用品の素材としても多用されるニトの木から作られた皿。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
しっかりと皿だけを意識して鑑定をかけた結果無事成功した。
ニトの木から作られた皿らしい。某上級職の木ですかね?
日用品の素材としても多用されているようだから、今日買った物の中にも同じような物があるかもしれない。1つ勉強になった。
鑑定の文章は少なかったが、何も知らないオレにとってはやはり有用だ。
ちょうどいいので串にも鑑定を使っておこう。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ニトの木串
食器などの日用品の素材としても多用されるニトの木から作られた串。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
皿が串になっただけだった。なんというコピペ。手抜きここに極まれりって感じがぷんぷんするぜ。
鑑定できるものもなくなったので木皿の上に盛られた肉を見つめてみるが、正直いらない。
半眼になってしまった瞳を背けてアルにそっと木皿を押し付ける。
「……もういらない……」
「ワタリ様、正直なところ私も遠慮したく存じます」
「どうしよう、これ……」
「非常食としてアイテムボックスに収納しておくのも1案かと愚考致します」
「ふーむ……まぁまずくはないしなぁ。入れとくか」
そう言うとアルがさり気無く外套を広げて周りの目から隠すように大分残っている肉が乗った木皿を包み込んでくれる。
さすが気の利く執事君。これならアイテムボックスに入れるだけなら怪しまれることもあるまい。
すぐにアイテムボックスに突っ込むと木皿と木串ごと収納された。
確認するとラーズカットの薄焼きx1とだけ表示されている。どれだけの量入れたらx2になるんだろうか。
そして木皿と木串はどうした。
念の為、ラーズカットの薄焼きを取り出してみると木皿と木串が一緒についてきた。
これで一纏めかよ!
本当に適当すぎる分類に天を仰ぎそうだ。
小腹にはまだかなり空き容量があるので、手軽に食べられて美味しい物を適当に眺めながら探してみることにした。
かなりの種類の露店が並んでいて、露店1つで大体1種類の料理を扱っているようだ。中には少し大きめの露店で複数種類の物を扱っている物もあるが、それは少数派だ。
この広場には飲食系の露店しかないようだ。お昼の時間帯ということもあり、それなりの賑わいを見せているが皆ゆっくりと食事と雑談を楽しんでいる。
わいわいと和やかな周りの喧騒を聞きながら散歩気分で露店を物色していると、何やら甘い匂いを漂わせる露店を発見した。
今まで見てきた露店は大体が香ばしい匂いか、それに準ずる類で甘い匂いはほとんどなかった。まぁつまりお菓子系の露店はここが初めてというわけだ。
気になったので見てみると少し大きめのクッキーのような物を売っている。
「いらっしゃいお嬢ちゃん。どうだい?」
「これはなんですか?」
「これはね~ラッシュの街の名物の1つで子供に大人気のお菓子、ラシッドパンケーキだよ」
「へぇ~」
【ラシッドパンケーキとはラシッドビーと呼ばれる魔物が残す素材のラシッドビーの蜜を使ったパンケーキにございます】
【クッキーみたいな感じなのにパンケーキなんだ】
【答えは是。見た目は堅そうに見えますが、中はふんわりとしております】
「じゃぁ2つください」
「おや、2つもかい? うちのは5個セットで1つだから10個になっちまうよ?」
「ありゃ、じゃぁ1つください」
「あいよ、2ラードだよ」
「アル、お願い」
「畏まりました」
近くで見ると割と大き目のラシッドパンケーキが5つで2ラード。絶対余るからあとでアイテムボックス行きかな。
美味しかったらアイテムボックスに溜め込んでおこう。
パンケーキの入った紙袋を受け取ったアルから1つ貰う。
表面はカリカリでやっぱりクッキーみたいだ。かぶりついてみるとほんのりと甘いのかと思ったら結構甘い。ふんわりとしていて飲み物が欲しくなるようなこともない。
これは確かに子供に人気がありそうだ。
カリカリとふわふわで食感も楽しい。大きさも手ごろでアンパンくらいのサイズはある。お昼に軽く食べるにはいいかもしれない。
「うん、美味しい。アル、やっぱりあと5つ買っておこうか!」
「畏まりました」
店員さんもにっこり笑顔でおまけだよ、と2個ほどサービスしてくれた。笑顔でありがとう、と言って手を振ると手を振り返してくれる。
そういえばアルが支払いをしている時に見たけれど、銅貨の大きさは金貨や銀貨と比べるとずいぶん小さかった。
金貨銀貨が生前の世界の100円玉サイズとすると、銅貨は1円玉よりも小さいくらいのサイズだった。
まぁ嵩張らないからいいんだろうけど。あとでちょっと見せてもらおうかな。
結構な量のラシッドパンケーキを購入したので、冷めないうちにアイテムボックスに入れてしまうことにした。
広場から少し離れたところにあった路地裏に入って、人目がないのを確認するとぱぱっと収納する。
アイテムボックスの扱いももう慣れたもんだ。
パンケーキは5つ25個+おまけ2個と1つ食べたので4つの31個。うち1つはアルにあげて30個を突っ込んでおいた。
1枠消費で個数はx30と表示されている。
ラシッドパンケーキは1個ずつなのか……。基準が今ひとつわからん。
皿が必要な物とか単体で大丈夫な物とかの分類なのだろうか。
スープとか飲み物とかだったらどの程度の量まで入れたらx2になるのか……。むしろ器なしにそのままぶち込んだらどうなるんだろう……。
ちょっと怖いので実験したくないな……。
そんなことを考察していると、広場の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
空を見上げれば大小2つの太陽が真上に来ていた。
降り注ぐ光を小さな手を翳して遮りながら生前の世界ではありえなかった太陽を細めた目で見てみる。
2つも太陽があるのに砂漠地帯のような凶悪な暑さはない。
生前の世界の1つだけの太陽のような、それでいて春の日差しと代わらない暖かさ。
太陽が増えてもあまり変わらないのはとても不思議だった。
「ワタリ様、そろそろお昼にございます。いかが致しますか?」
「あー……そうだねぇ。朝食いっぱい食べたけど、小腹は空いてるね……ん、あっちの方からいい匂いがする!
露店でもあるのかもしれないね。あっち行ってみようか」
「畏まりました」
眩しそうに太陽をみていたオレに一礼して昼食の進言をしてくる従者君。
路地裏を抜けてからかすかにしていた美味しそうな匂いも相まって腹の虫がコーラスを奏でているのがわかる。とは言ってもまだまだ小声の範囲だ。
食べなくてももつだろうけど、この世界ではお昼は軽く摘む程度だとも言っていた。ならそれに倣って軽く食べてみよう。
いい匂いの正体も確かめたいし。
手を繋いでいるアルはオレの小さな歩幅にしっかりと合わせてくれる。
14歳くらいの少年の体躯のアルの歩幅と6歳の幼女のオレの歩幅では当然違う。さり気無くそれなりにある人の流れからも守ってくれるし、この執事君は本当にエスコートがうまい。
その仕草を欠片も見せることもないというのもテクニックの1つなのだろう。
爽やか系イケメンだし、気も利く。エスコートもうまい。おまけに料理まで出来るそうだ。
なんだろうなこの完璧系は……。あ、でも割と心配性で己の使命に熱意を燃やしすぎるし、妥協がうまくできないし、融通も利かない。完璧じゃなかったな。
だからこそ人間臭くて嫌いになれないどころか、もう大好きだ。
うん、いい従者をもらったな。アルでよかった。
「アルは何が食べたい? なんか色々あるみたいだよ?」
「私はワタリ様が食べたい物が食べとうございます」
「うーん……別にオレに気を使わなくていいんだぞ? 自分の食べたい物を食べなよ」
「ワタリ様の食べたい物こそが私の好物にございます」
「んー……じゃぁあの肉、行ってみようか。何の肉か知らないけど丸焼きにしててケバブっぽくて美味しそう」
「畏まりました」
少し進むと結構広めの広場に出た。そこにはぐるっと広場の周囲を埋め尽くすように食べ物系の露店が並んでいる。
中央には芝生が敷かれ少し大きめの木が立っている。
その周囲にはベンチがたくさんおかれており、フードコートのような様相になっている。
たくさんの人が思い思いの格好でそれぞれに食事を楽しんでいる。
お昼は軽く摘む程度なので、雑談しつつといった感じだ。食べている物もがっつり系ではなく本当に軽くおやつ程度の量ばかりのようだ。
「とりあえず軽くだから1人前買ってみようか」
「畏まりました」
目をつけた露店は木枠で作られた簡単な作りで、のぼりにラーズカットの薄焼きと書いてある。
露店の中で大きな肉の塊を回しながら焼いていて、焼けた部分を少しずつ切って木皿のようなものに注文分乗せて販売しているようだ。
驚いたことに露店が並ぶ中にポツポツと何軒か、木皿、串、コップ等回収しています。各種ポイント――と書かれているのぼりを出している店もあった。
それぞれの食器類にポイントが割り振ってあり、一定ポイントに達するとなにやらもらえるようだ。お金だったり、名産品だったり色々景品はあるようだ。
生前のどこかの外国でも同じようなエコ活動をしていたのを思い出す。紙皿やコップなんかも回収して再利用するっていう目的とゴミを出さないように出来るという一石二鳥のアイディアだったはずだ。
まさか異世界でも同じような物を見ることになるとは。世界が違っても考えることはあまり変わらないということだろうか。
「お待たせいたしました」
「うん、おかえり。1人前なのにずいぶん量あるねぇ。うん、美味しそうだ……はむ」
広場中央のベンチに座って木皿に割と大盛りのラーズカットの薄焼きを1枚食べる。
一緒に貰ってきた木の串っぽい物で刺して食べるスタイルらしい。もう1本あれば箸として使えたのにな。
薄くカットされた豚肉といった感じの味だ。胡椒が効いていてピリっと辛い。ご飯かパンが欲しくなるな。味はまぁまぁと言ったところだ。
木串は1つしかないので、交代で使う。アルも食べるがその表情は何かを蔑むかのような冷たい表情になっていく。
「うーん、それなりに……かな」
「ワタリ様が食すには相応しいとは言い難く……」
「うん、まぁ色々食べてみるのも悪くないじゃない」
「ワタリ様がそう仰るのであれば」
相変わらずアルの判定は厳しい。オレ的には別にそこそこ美味しければいいんだけどなー。まぁすごく美味しいのが食べられるならそっちの方がいいけど。
「そういえばさ、これいくらだったの?」
「1人前で2ラードにございます」
「これで1人前?」
「答えは是。1人前にございます」
「へぇ~ずいぶん多いねぇ。まぁ味がこんなもんだから量で勝負なのかな」
まぁ露店で売られているような物で値段よりも量勝負のような物に味云々いっても仕方あるまい。
うまい物が食いたいならきちんとしたお店にでも行けばいいんだしな。もしくはアルに作ってもらおう。うん、それがいい。今はとりあえず小腹を満たせればいい。
ちょうどいいのでこれも鑑定しておこう。
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ラーズカットの薄焼き
ラーズカットの肉を丸焼きにして薄く切り盛り付けた料理。
安価で量は豊富だが味はそれなり。
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なんというか、そのまんまな情報だった。
味の評定もそれなり。まぁ確かにそれなりだったな。
まずいわけではないので、2人で少しずつラーズカットの薄焼きを食べていく。
でも2枚目の半分を食べたところでもう十分だった。
それでも木皿にはまだまだ残っている。木皿も別の物として鑑定できるのだろうか。
思いついたので実行してみる。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ニトの木皿
食器などの日用品の素材としても多用されるニトの木から作られた皿。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
しっかりと皿だけを意識して鑑定をかけた結果無事成功した。
ニトの木から作られた皿らしい。某上級職の木ですかね?
日用品の素材としても多用されているようだから、今日買った物の中にも同じような物があるかもしれない。1つ勉強になった。
鑑定の文章は少なかったが、何も知らないオレにとってはやはり有用だ。
ちょうどいいので串にも鑑定を使っておこう。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ニトの木串
食器などの日用品の素材としても多用されるニトの木から作られた串。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
皿が串になっただけだった。なんというコピペ。手抜きここに極まれりって感じがぷんぷんするぜ。
鑑定できるものもなくなったので木皿の上に盛られた肉を見つめてみるが、正直いらない。
半眼になってしまった瞳を背けてアルにそっと木皿を押し付ける。
「……もういらない……」
「ワタリ様、正直なところ私も遠慮したく存じます」
「どうしよう、これ……」
「非常食としてアイテムボックスに収納しておくのも1案かと愚考致します」
「ふーむ……まぁまずくはないしなぁ。入れとくか」
そう言うとアルがさり気無く外套を広げて周りの目から隠すように大分残っている肉が乗った木皿を包み込んでくれる。
さすが気の利く執事君。これならアイテムボックスに入れるだけなら怪しまれることもあるまい。
すぐにアイテムボックスに突っ込むと木皿と木串ごと収納された。
確認するとラーズカットの薄焼きx1とだけ表示されている。どれだけの量入れたらx2になるんだろうか。
そして木皿と木串はどうした。
念の為、ラーズカットの薄焼きを取り出してみると木皿と木串が一緒についてきた。
これで一纏めかよ!
本当に適当すぎる分類に天を仰ぎそうだ。
小腹にはまだかなり空き容量があるので、手軽に食べられて美味しい物を適当に眺めながら探してみることにした。
かなりの種類の露店が並んでいて、露店1つで大体1種類の料理を扱っているようだ。中には少し大きめの露店で複数種類の物を扱っている物もあるが、それは少数派だ。
この広場には飲食系の露店しかないようだ。お昼の時間帯ということもあり、それなりの賑わいを見せているが皆ゆっくりと食事と雑談を楽しんでいる。
わいわいと和やかな周りの喧騒を聞きながら散歩気分で露店を物色していると、何やら甘い匂いを漂わせる露店を発見した。
今まで見てきた露店は大体が香ばしい匂いか、それに準ずる類で甘い匂いはほとんどなかった。まぁつまりお菓子系の露店はここが初めてというわけだ。
気になったので見てみると少し大きめのクッキーのような物を売っている。
「いらっしゃいお嬢ちゃん。どうだい?」
「これはなんですか?」
「これはね~ラッシュの街の名物の1つで子供に大人気のお菓子、ラシッドパンケーキだよ」
「へぇ~」
【ラシッドパンケーキとはラシッドビーと呼ばれる魔物が残す素材のラシッドビーの蜜を使ったパンケーキにございます】
【クッキーみたいな感じなのにパンケーキなんだ】
【答えは是。見た目は堅そうに見えますが、中はふんわりとしております】
「じゃぁ2つください」
「おや、2つもかい? うちのは5個セットで1つだから10個になっちまうよ?」
「ありゃ、じゃぁ1つください」
「あいよ、2ラードだよ」
「アル、お願い」
「畏まりました」
近くで見ると割と大き目のラシッドパンケーキが5つで2ラード。絶対余るからあとでアイテムボックス行きかな。
美味しかったらアイテムボックスに溜め込んでおこう。
パンケーキの入った紙袋を受け取ったアルから1つ貰う。
表面はカリカリでやっぱりクッキーみたいだ。かぶりついてみるとほんのりと甘いのかと思ったら結構甘い。ふんわりとしていて飲み物が欲しくなるようなこともない。
これは確かに子供に人気がありそうだ。
カリカリとふわふわで食感も楽しい。大きさも手ごろでアンパンくらいのサイズはある。お昼に軽く食べるにはいいかもしれない。
「うん、美味しい。アル、やっぱりあと5つ買っておこうか!」
「畏まりました」
店員さんもにっこり笑顔でおまけだよ、と2個ほどサービスしてくれた。笑顔でありがとう、と言って手を振ると手を振り返してくれる。
そういえばアルが支払いをしている時に見たけれど、銅貨の大きさは金貨や銀貨と比べるとずいぶん小さかった。
金貨銀貨が生前の世界の100円玉サイズとすると、銅貨は1円玉よりも小さいくらいのサイズだった。
まぁ嵩張らないからいいんだろうけど。あとでちょっと見せてもらおうかな。
結構な量のラシッドパンケーキを購入したので、冷めないうちにアイテムボックスに入れてしまうことにした。
広場から少し離れたところにあった路地裏に入って、人目がないのを確認するとぱぱっと収納する。
アイテムボックスの扱いももう慣れたもんだ。
パンケーキは5つ25個+おまけ2個と1つ食べたので4つの31個。うち1つはアルにあげて30個を突っ込んでおいた。
1枠消費で個数はx30と表示されている。
ラシッドパンケーキは1個ずつなのか……。基準が今ひとつわからん。
皿が必要な物とか単体で大丈夫な物とかの分類なのだろうか。
スープとか飲み物とかだったらどの程度の量まで入れたらx2になるのか……。むしろ器なしにそのままぶち込んだらどうなるんだろう……。
ちょっと怖いので実験したくないな……。
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