幼女と執事が異世界で

天界

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第1章

13,草原を歩こう

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 戦士Lv1を職業にしたことで、回復力が41になってしまった。
 なので、ステータス還元を使って1ポイント戻して、MPに振りなおすことにした。


 (ステータス還元!)


 念じると新たにウィンドウが出現する。


      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 MP:25/131#(+1) △▽
 回復力:41#(+5) △▽

 残りポイント:0

      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ステータス割り振りした能力値だけが表示されている。変なところで親切設計なのはここでも健在のようだ。ステータス割り振りしていない能力値は、当然表示されていない。
 能力値の後ろに表示されている " △▽ " が、なんともわかりやすい。
 つまり、これを使って上げたり下げたり調節しろということか。
 試しに回復力の▽を一回タッチすると、回復力:40#(+4)と残りポイント:1となった。
 ステータスウィンドウの方も同様だ。

 フォーカスしても変化がなかったので、こっちもタッチのようだ。

 残りポイントが増えたのでそのままMPに振ってみようと、ステータス還元ウィンドウの方のMPの△をタッチしてみたが……変化はなかった。
 また変なところで不親切な設計だ。ほんとにかゆいところに手が届いていない。
 むしろなんかもやもやしてくるよ!

 ステータスウィンドウの方でMPに割り振りを行うと、ステータス還元ウィンドウの方にも同様の変化が起きている。
 試しにステータス還元ウィンドウの方で、MPを1下げてみたら普通に下がり、上げてみると普通に上がった。
 つまり……ステータス還元ウィンドウでは、減らした分を減らした能力値にしか加算できない。残りポイントがあっても、他の能力値に加算はできないということだ。
 リアルタイムでウィンドウが更新されているのはいいんだが、やはりなんとも歯がゆい。


 もやもやが止まらない! 改善要求を送ってやりたい!


 ステータスの調整を済ませて、もやもやが一旦治まるまで深呼吸を繰り返すと、ポーチの中に突っ込んだままだった金貨のことを思い出した。
 あの時はアイテムボックスに空きがなかったのでポーチに突っ込んだが、今は空きが大量にある。
 そういえば、硬貨は3種類ある。もし、3種類入れたらお金という一括りではなく3種類なのだろうか?
 もし、1種類とカウントされるなら、個数指定して取り出すときに硬貨別に分かれて取り出せるのだろうか?
 変なところが親切設計なだけに微妙だ。
 とりあえず、実験のためにポーチから巾着袋を取り出し、金貨20枚を取り出すとアイテムボックスを念じて穴に突っ込んでみた。
 メニューを出してアイテムをフォーカスし、アイテムウィンドウを表示させると、ラード金貨x20と表示されていた。
 200,000ラードの表示ではなく、ラード金貨x20。
 詰まるところこれはお金という一括りではなく、3種類の枠が必要ということだろう。
 まぁ考えてもみれば、収納限界個数は99だ。当然かもしれない。
 答え合わせの意味合いも含めて、アルに聞いてみることにした。


「アル、質問だ。お金は金貨、銀貨、銅貨で3種類の枠をアイテムボックスに確保しないといけないのか?」

「答えは是。3種類の硬貨を一まとめにして収納することはできません」


 どうやら正解のようだ。
 収納限界数も99だから、硬貨の数が多くなると枠を圧迫しやすいということか。
 こういう世界って両替とかどうなってんだろうな。手数料取られるなら少し考えなきゃいけない。

 まぁ、それもまたラッシュの街を見て回る時にでも、ついでに調べればいいことだろうか。
 アルに聞けばすぐわかるかもしれないが、全部聞いてしまうのは味気ない。改善もしなきゃいけないし、ちょうどいい。
 両替はラッシュの街で調べる。決まりだ!


 残りポイントも0で、必要なスキルも取得し、ステータス割り振りも終了した。
 職業も変更したし、お金もアイテムボックスに収納済みだ。
 もうここに留まってやることもないだろう。そろそろ出発した方がいい。
 ラッシュの街まで北東に30kmと言っていたし、そろそろ2つの太陽が真上にきそうだ。
 転移と徒歩で30kmを移動できなければ、野宿と言うことになる。それだけは出来れば避けたい。
 異世界に来て初めての宿泊地が大草原。そんなの絶対にいやだ。なんとしてもラッシュの街に今日中に着きたい。


 そうと決まれば行動開始だ!


「アル、ラッシュの街に向けて出発する。北東はどっちだ!」

「北東はこちらにございます」


 太陽が真上近くに来てしまい方角がわからなかったので、有能な便利君に方角を教えてもらえた。
 そういえば、方角ってどうやって測るんだろうなぁ……時計があれば短針を使って大体の方角を測れるんだが、今は当然ない。
 日の出だったらわかりやすいが、今は太陽は真上近く。まぁ東から太陽が昇るならの話だが。
 星座は当然みえないし、見えたとしてもここは異世界。前世の世界と同じ星座の並びではないだろう。
 ラッシュの街で方位磁石が売っていればいいが……。

 そんなことを思いながら、アルの指し示した方に向かって歩き始めた。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 歩き始めてやはりというかなんというか。腰の位置まで伸びている草が邪魔で歩きづらい。そうそうに転移で距離を稼ぐべきだろうか?
 だが、MPが少ない状態で気配察知を掻い潜る様なやつに囲まれたら危ない。
 1,2回分はMPを温存しながら、回復したら転移を繰り返すのがベストか。

 ステータスと念じて、MPを確認してみる。
 表示ではMP:81/131#(+1)となっていた。ずいぶん回復したな。
 そういえば複数転移の消費MPを測ってなかった。81もあれば十分残るだろう。
 実験も兼ねて距離を稼ぐことにする。


「アル、飛ぶぞ。いいか?」

「答えは是。問題ありません、ワタリ様。いつでも大丈夫にございます」


 アルに一声掛けて、複数転移Lv1を念じて出来るだけ遠くをターゲッティングする。
 どうやら、最大距離以上をターゲッティングしようとすると、方角をそのままに最大距離が自動でターゲッティングされ、ウィンドウが出現するようだ。
 特に問題もないので、Limit!!の赤い文字が表示されている草の海――ウィンドウをフォーカスして選択。
 次の瞬間にはターゲッティングした場所に転移が完了する。いつやっても便利なスキルだ。これは癖になる。もっとMPが欲しいぜ!

 すぐにステータスを確認すると、MPが56になっていた。消費MPは25のようだ。
 単独転移が15だっただけに、倍近い量の消費だ。これは結構きついかもしれない。

 30秒で4回復するから、一回使うのに3分半かかる。
 前言撤回だな、そんなにきつくないかもしれない。
 少し歩けばすぐに3分なんて過ぎるだろうし、ステータスウィンドウを出しっぱなしで確認しながら行くか。
 最低でも50以上は残しておくことにしよう。

 しばらく周りの気配を感じながら、魔物のいるところを避けつつ進んでいると、3分たったはずなのに予定の半分もMPが回復していなかった。
 30秒で4回復すると思ったのだが、違うのだろうか?

 ステータスウィンドウを見ながらしばし歩くと、どうやら歩いている状態では自然回復に1分かかるようだ。
 そういえば30秒で回復したのは立ち止まっている時だった。
 つまり自然回復は行動によって時間が変化するということか。
 歩いている状態で1分ってことは、走ったりしたらもっとかかるのだろう。ましてや戦闘中となったら……自然回復に頼ったMP回復も限界があるかもしれない。
 街に着いたらMP回復手段も探さねばならない。おそらくポーション系であるだろう。高いかもしれないけど。

 そんなことを思いながら、緑で埋め尽くされた大草原を見渡しながら歩いていく。
 緑しかないけど、景色としては悪くない。丘にでもなっているのか、若干坂道になっているので地平線は緑から急に青になっている。
 のんびり魔物を回避しながら歩いているので、MPもすぐに回復する。
 回復したらすぐに複数転移Lv1で距離を稼ぎ、また歩く。
 魔物との戦闘はラッシュの街に今日中に着くために、全部回避するつもりだ。

 戦闘もなく、ただただ歩いて転移をする。
 長閑な周りの景色と暖かい日差し。太陽が2つあるとはとても思えない春のような陽気に、ピクニックにでも来たような気分になってくる。


「いい天気だなー弁当でもあったら、ほんとにピクニックの気分だ」

「誠に同感にございます。材料さえあれば私の腕を奮えるのですが、残念です」

「へーアルは料理得意なの?」

「主の体調管理も私の大事な仕事にございます。
 体調を正常に保つ為には、料理も私が作るのがもっとも管理しやすいのです」

「なるほどなー。じゃぁ街に着いたら材料買って、台所でも借りて作ってよ」

「畏まりました。不肖アル、持てる限りの力を尽くしワタリ様を満足させてご覧にいれます」

「はは、そんな高いのは買えないから、ほどほどになー」


 こんな感じにのほほんとピクニック気分で草原を移動し続けた。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 2つの太陽が中天を大きく過ぎ、時間的には午後2時くらいになっただろうか。
 まだ目的地のラッシュの街は影も形も見えない。
 だが、お腹は減る。
 結構な距離を歩いたり、転移したりして移動したので、お腹が結構空いてしまった。
 ビッグマウスを倒す時に草の中を移動した時よりは、ステータスが上昇しているからかかなり距離を稼ぐことが出来ているはいるが、スタミナはあまり減っていないように感じる。疲れとか足が痛いとかそういったことがほとんどない。

 アイテムボックスには、ビッグマウスの肉がある。
 ネズミの肉なんてあまり食いたくないが、ここまで戦闘を一切せずに来たので食料はこれしかない。
 近くに魔物の気配を感じるので、ウサギを探して狩って肉を確保するという手もある。
 だが、問題は解体したら素材として肉が残るのかということだ。
 スキルの解体を使わずに、自分の手で解体したらどうなるんだろう?
 牛の解体をしたことがあるオレなら、ウサギの解体程度なら問題はない。
 もし自分の手で解体しようとすると、スキルの解体を使った時のように一瞬で消滅するとかあるかもしれない。その時に素材も何も残らないならくたびれもうけだ。
 一応考えたし、アルに答えを聞いてみよう。


「アル、質問だ。魔物を倒してスキルの方の解体を使わずに、自分の手で解体は出来るのか?」

「答えは否。魔物の死体に一定以上のダメージを与えると消滅してしまいます」

「そうかーじゃぁ自分の手で解体しようとすると、消滅して素材もアイテムも手に入らない?」

「答えは是。死体がダメージにより消滅した場合は何も残りません」

「ってことは、倒したらすぐ解体しちゃった方がいいのか。放置してたら戦闘に巻き込まれてダメージを受けて消滅、ってこともありうるってことか」

「答えは是。そういった状況を回避するために、解体と荷物持ちを兼任するポーターと呼ばれる職業がございます」

「へー……確かにアイテムボックスが初期状態では使えない子だから、ポイント使いまくって確保すれば荷物持ちとして十分職業になるってことか。
 ついでに倒した魔物で戦闘が阻害されないっていうメリットもあるな。
 うん、アル。ポーターやろうぜ?」

「畏まりました。ですが、私はあくまでワタリ様の従者。ポーターにはなれませんが、ポーター同様の働きはご期待ください。
 尚、アイテムボックスは初期の2種類2個まででございます、ご注意くださいませ」


 結局のところ肉は素材として確保する以外無理そうだな。
 アルがポーター兼任してくれるらしいので、そっちは任せよう。
 ポイントが確保できたらアイテムボックスを拡張してやらないとな。


「じゃぁアルのポイントの使い道はまず、アイテムボックス拡張だな!」

「承りました。ポイントを使用する際には再度確認をさせて頂きます」


 さて、これで決まった。

 今日のお昼はウサギの肉にしようか。


 狩りの時間の始まりだ!

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