幼女と執事が異世界で

天界

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「当たったああぁぁぁっ!!!!」


 手に持った一枚の紙切れ。これがオレの人生を大きく変える事になる物だ。
 偶々の偶然の気紛れのなんとなくで、購入したのがついこの間。当選日が毎週2回で65個の数字から8つを選び、ビンゴ形式で選ばれる数字を当てるという宝くじの一種だ。
 前回と前々回の一等当選がなかったためにキャリーオーバーして、次回――つまり今回の一等当選に賞金が上乗せされていたのも購入の一因だろう。
 誰もが夢見たことがあるはずだ。宝くじの一等が当たって億万長者。ウッハウハのグッヘグヘだ。

 まさかと思われるだろうが、こんな話をしているんだ。当然一等が当たった。そう、当たったのだ。当たってしまったのだ。当たったよ! イヤッホー!


「まじかよ! まじかよ!!? オレ当たっちゃった!? 当たっちゃったよ!
 コレ何億よ何億なのよ! 確かキャリーオーバーしてたから、9億ちょい?!」


 9億という金額は平均的サラリーマンの生涯年収を大きく上回っている。オレこと――霧埼亘キリサキワタリの勤務している会社での生涯年収も、当然遥かに上回っている。


「まてまてまて落ち着けオレ! オレ! オレだよ! オレオレ詐欺かよ!
 ……落ち着けオレ! 確かこういうのって1等が一人とかありえないはずだ! でも多くても2人か3人ってところだろうから……4億5千万……いや3億か? 3億なのか!?」


 9億からは大きく減って3分の1になるが、3億あれば今まで我慢してきたありとあらゆることが可能だ。広がっていく夢が、妄想ではなく現実となる興奮に打ち震えてしまうのは当然なことだろう。


 だからだろうか。オレはこの時、興奮しすぎてしまったのだろうか。あとから聞いたら違うということが分かるのだが、今のオレにはまったくそんなことわかるわけがなかった。


「っ!? あ…ぇ…っ」


 一瞬で視界が反転した。何かにぶつかった衝撃と平衡感覚の消失。
 息苦しさを瞬時に通り越した何かに、欲望と歓喜で占められていた心が一瞬で霧散した。


 そこでオレの33年の人生はあっけなく終わってしまった。


 最後に思ったことは、オレの3億……。それだけだった。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 気が付くとそこは全てが白い世界。上も下も右も左も全てが真っ白だった。
 室内なのか屋外なのか、そもそも現実なのか夢なのか。全てがわからない。なぜオレはこんなところにいるんだ。オレの3億はどこにいったんだ。


 3億。


「そうだ! 3億だ! オレの3億はどこにいったんだ!」

「3億は残念ながら、もう君のものではなくなってしまったよ」

「だ……れだ……?」


 思ったことをそのまま口にしたら、誰もいないと思っていたのに返事を返された。
 目の前にはいつの間に現れたのか真っ白いローブのような物を着た、真っ白い髭の老人が立っていた。


「ボクは所謂創造神っていうやつかな。君はキリサキワタリ君だよ。思い出したかい?」

「……いや、自分の名前くらい覚えてるけど、創造神ってアレ? ビックバンしちゃう前の前提作ったっぽいやつ? 所謂この世界ボクが作っちゃいました的な?」

「うん、大体それで合ってるよ。ワタリ君は中々博識だね」


 外見にはとても似合わない若々しい声で答える自称――創造神様。本人に聞いてもどうやら世界作っちゃった人らしい。
 思ったことをそのまま言ってしまえば、胡散臭い。その一言に尽きた。


「確かに胡散臭いだろうけど、まぁちょっとボクの話を聞いてくれないかな?」

「……アレ? オレ今声に出してた?」

「いや? ボクは心が読めるから、それに答えただけだよ」


 心……が読める……だと……!? そんな馬鹿な! 神様みたいじゃないか! ありえない!


「いやいや、みたいじゃなくてほんとに神様なんだよボク。
 ありえないといわれても実際ありえちゃってるんだから、まぁ認めてくれとは言わないけどさ」

「……百歩譲ってアンタが神様だとして、オレはなんでこんなところにいるんだ? オレの3億どうしたって?」


 そうだった。自称神もどきのことなどどうでもいい。なぜオレがこんなところにいて、オレの3億はどうなったのか。それが重要だ。


「まぁ初めから話すからさ。ちょっと聞いてくれるかな?」

「分かりやすく3行で頼む」

「いやぁそれはちょっと難しいかなー、でもまぁ聞いてよ」


 神のくせに3行でまとめられないとは、所詮自称神ということか。最初から胡散臭いからもうどうでもいいや。さっさと話とやらを聞いて家に戻って豪遊したい。


「まぁ……その、ほんとに神なんだけどなぁ……はぁ、この際いいか。じゃぁ話すからよく聞いてね?」


 たっぷりと溜め息を吐いた自称神は大きく肩を落としたが、それでもなんとか持ち直したようだ。
 話……長くないといいけどな。長いと眠くなっちゃうんだよオレ。


「じゃぁまず君の状態なんだけど、今君は輪廻の輪に乗る直前なんだ。なんで直前かって言うと実は君は今、輪廻の輪に乗るはずじゃなかったんだ。
 だからボクがそれを一旦中止して今ここにいる。それが君が現在ここにいる理由」

「はぁ、なんで中止?」


 自称神の話はやっぱり神を自称しているだけに、輪廻とかそういうオカルティックな話だった。
 オカルト話にまったく興味のないオレとしては、かなりどうでもいい。早いとこ話終わらせてくんないかね。


「うん、実はね。怒らないで欲しいんだけど、君は間違って死んじゃったんだ。まぁボクの過失ってやつかな? だから君には悪いことをしちゃったから、ここに来てもらったんだよ」

「……うん? オレ死んだの?」

「うん、ごめんね? だけど、輪廻転生じゃなくて代わりに違う世界に」

「まてまてまてまて! オレ死んだ!? なんで!?」


 意味がわからない。自称神の言ってることが意味不明だ。オレが死んだ? 死んだってなんだよ死んだって。死んだって所謂アレか? 脳の活動が完全停止したり、心臓の動きが止まって血液が回らなくて……あぁやっぱり脳の活動が停止か。


「あーうん、人体的な活動で言えば脳の活動が停止したからなんだけど、活動が停止した理由としては虚血性心疾患と急性冠症候群と間質性心筋炎と特発性心筋症……まぁ他にも病名だけなら20数個あるね」


 人の心を勝手に読む自称神から律儀に返答があるが、オレが聞きたいのはそんなことじゃない。いや質問の内容としては的確なんだろうが、そういうことを聞きたいんじゃない。行間読めよ神様よ。
 っていうかなんだよその病気の数の多さは、オレの体どうなっちゃってたのよ。


「あぁ、うん、ごめんね? えっとつまり、君は今死んでるんだ。でもこれだけは分かって欲しいんだけど、君の死を望んだわけじゃないんだ。偶然って言うかなんていうか、まぁ何を言ってもボクの責任には変わりないからアレなんだけどね」


 勝手に心を読む自称神の言葉がオレの心を大きく揺さぶる。突然こんなことを言われたら普通はまず脳の医者を紹介するか、黄色い救急車を呼んであげるべきだ。
 俺が死んだ? 死んだってなんだ……死んだ。視界が急激に狭まったような気がする。吐き気もする。死んでいるのに吐き気とか体はあるのか、とぐるぐると頭の中で大量の何かが跳ね回る。

 パチン。

 唐突に鳴り響いた指を弾く音で、いつの間にか俯いていた顔をあげると、自称神が指を鳴らしたポーズで止まっている。
 そして……なぜか、全てが事実だとはっきりとわかってしまった。


 この自称神は……いや本当に神様なのだろう……なぜか分かってしまった。だから神様なのだろうか。突然だったが、ソレを理解してしまった。まるで何かのスイッチが突然入ったかのように理解したのだ。


 彼が言っていることは全て真実であり、オレは死んでしまったのだ。


「えっとワタリ君。理解してくれて嬉しいんだけど、まずボクの話を聞いてくれないかな? ボクは君にいくつかの選択肢を用意できるんだ。それを聞いてから今後のことを考えて欲しいんだ」


 茫然自失となったオレの心に神様の声が静かに浸透するのがわかる。真っ黒になった水面に、一滴の白が落とされて……次第に全てが白くなっていくような。そんな感覚だった。


「選択肢……?」

「そう、選択肢だ。君は選ぶことができるんだ。なぜなら、君が死んでしまったのはボクの責任なんだからね。
 だから、君はボクを責めていいし、罵倒していい、でも選択して欲しい。いいかい?」


 代わらぬ声音。静かで静謐という言葉が似合うその声に、オレの心がゆっくりと事態を理解していった。


 オレは今死んでいる。しかし、死んだ原因は神に過失があるという。そして神はその責任を取る為にいくつかの選択肢を用意した。


 これが今のオレの全て……か。


「なんで死んだとか、アンタに責任がどうとか。そういうのは……なんかいいや。どうせ生き返ることはできないんだろう?」

「君が言いたいのは前に生きていた世界で生き返る、ということについてなんだね?」

「あぁ、その通りだ」


 なぜこんなことを確認するのか、心が読めるのなら分かりきっているはずなのだろうに。神は一体オレに何を言わせたいのか。


「残念ながら、君の思っている通りで死んだ世界で生き返ることはできないんだ。ごめんね、ボクの力不足云々じゃなくて、そういうものなんだ。創造神でも出来ることと出来ないことがあるんだ。ほんとうにごめんなさい」

「……いや、いいよ。なんかわかってたし、不思議だけどね。今オレの心が穏やかなのも不思議だけど、そういうものなんだろ?」


 そう、先ほどまであれほど慌てふためき驚いていた心は、不思議なくらいに穏やかだ。真っ白尽くめの彼――創造神を神だと理解した瞬間から全てを理解したかのような穏やかさだ。自暴自棄とはまるで違う。これこそ悟りというやつではないだろうか。いやちょっと違うかな?


「まぁ悟りとは全然違うね。心が壊れる前に安全装置を作動させたんだ。人間の心は案外脆いものだから。君が理解したのも安全装置が正常に作動して心の平穏を取り戻して、ついでにボクが気持ちばかりの理解力を与えたからなんだ。
 ……君に話の途中で心を壊されては困るんだ。ボクはまだ選択肢を提示していないし、君はまだ決めていない」

「そうか、なんか済まないな。ありがとう、じゃぁその選択肢ってのを聞かせてくれないか?」

「謝らないでほしいな。こちらこそありがとう。じゃぁボクの用意した選択肢を言うよ」



 オレの33年の人生は唐突に幕を閉じた。


 そして創造神により提示された選択肢。


 全てはそこから始まった。
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