37 / 44
037,イリー
しおりを挟む化け物としか表現できない巨大なフレイムリンクスを見事撃破することに成功した。
ただ、こちらにも今までにないほどの被害が出ている。
まず、リウルの腕だ。
肘から先がなくなってしまっている。
アンデッドなので痛みはないが、人間だった頃の習慣で痛いように感じてしまっているのは仕方ない。
だが、それも少し時間をおいたことで幻痛と認識し始めたのか、最初の頃よりはずっとマシになっているみたいだ。
ただ、時折痛そうに顔を顰めているので完全には痛みはなくなっていないようだけど。
ほかにも、とっておきの魔法障壁の魔道具を使わされてしまったし、火球攻撃の負荷で残量がだいぶ減ってしまった。
ひとつで五十万円もする高級品なので、これはだいぶ痛い。
だが、そのおかげでリウルたちのダメージは腕だけで済んでもいる。
それを考えたらまだマシと思うべきだろうね。
アンデッドといえど、一定以上の損傷を受けてしまうと使役が強制的に解除されて灰になってしまうのだ。
ただ、ブラックオウル戦で狼が行動不能なほどにダメージを受けていても使役が解除されていなかったのをみると、相当なダメージじゃなければ大丈夫っぽい。
それでも、炭化してしまうような攻撃は要注意だろう。
なぜなら、狼三頭の使役が強制解除されているのだ。
おそらく、巻き添えを食って火球攻撃で消し飛んでしまったのだろう。
タブレットで確認すると、確かに狼三頭がオレの使役対象から消えている。
「あれ?」
「どうしました? ソラ様」
「あ、いや、狼がやられて使役解除されちゃったのを確認したんだけど、なんかそれ以上に使役可能数が増えてる」
「それはおめでとうございます!」
狼については完全に捨て駒扱いだったので別に使役が解除されていても問題はない。
アーマーリンクスの死骸が大量にあるし、狼よりもあちらのほうが強そうだ。
しかし、問題は残りの使役可能数が三体ではなく、八体になっていることだ。
「もしかして……」
===
Name:ソラ
Class:死霊術師Lv4
Skill:下級下僕使役Lv2 使役数増加Lv2
===
やはり、使役数増加のLvが上がっている。
使役する以外でもLvが上がるらしい。
というか、Lv1からLv2で一気に五体も増えるのか!
さすがは全然上がらないだけあって、増えるときは数が多い。
いいぞもっとやれ!
フレイムリンクス二頭は使役するのは確定だが、さらにアーマーリンクスが六頭も使役できるのはかなり嬉しい。
数は力だよ、兄貴!
まあ、その数も魔法の圧倒的殲滅力の前には無駄だったのだけど。
ともかく、嬉しいことには変わりない。
「ふふん。ふふー。ふふーんふんふん」
「あ、ソラ様。ブラックオウルが何か持ってきたみたいです」
上機嫌で下手くそな鼻歌を歌いながら、リウルたちが激しい戦闘で散らばった死骸を集めているのを眺めていると、双眼鏡を片手に周囲の警戒をしていたリーンが報告してくれる。
「おや? 人、だよねあれ」
「はい。ですが、すでに死んでいるようです」
言われてオレも確認してみると、ブラックオウルが大きな足の爪でがっちりと掴んで運んできたのは、人間の死体のようだ。
片腕と片足が真っ黒になって欠けている。
おそらくだが、フレイムリンクスにやられたのだろう。
フレイムリンクスたちは、交戦していたはずの鋼要塞を無視してこちらを襲ってきたとは思えない。
つまり戦闘を終わらせて、新手のオレたちを襲ったと考えるのが妥当だ。
ということは、あれは鋼要塞の誰か、ということになる。
そこへ、もうふたり分の死体を担いだルトとリウルもやってきた。
「主様。あちらの岩場の奥に戦闘跡があり、鋼要塞の死体を発見しました。六人中三人の死体は丸焦げになっておりましたが、どうしますか?」
リウルたちが運んできた死体は、損傷の比較的少ない者たちだったようだ。
残っているのは丸焦げで顔の判別すらつかないひどいものらしい。
骨だけでも使役できるので、丸焦げでも使役は可能だろう。
だが、そのままの状態で使役されるのか、修復されて使役されるのかまではわからない。
正直、骨ならまだしも、丸焦げの状態で使役するのは遠慮したい。
使役して即解除でも経験値を稼ぐにはいいかもしれないが、あいにくとアーマーリンクスの死骸が百頭近くある。
どう考えてもオレの魔力のほうが先に尽きるし、すべての死骸を使役し終わるまで確保しておくというのは、微妙だ。
大きな冷蔵庫でもなければ、庭に置いておいても腐敗し始めそうだし。
こういうときに氷系の魔法が使える下僕がいれば助かるのに。
……あ、でも、適当に庭を掘って、その中に氷をたくさん入れておけばそれだけで氷室として使えるか?
冷蔵庫を買うよりも、氷を買う方が安くあがるだろうし。
「一応、持ってきておいてくれる? あと、装備とか道具とか? そういうのもできる限り回収して」
「かしこまりました!」
百頭の死骸とはいえ、数日もあれば使役する魔力は問題ないだろう。
丸焦げの方は最初に使役してしまおう。
丸焦げのままで自由意思があったりしたらどうしたらいいのかわからないけど、まあ、そのときはそのときだ。
リーンに後の指示を出し、ディエゴと一緒に部屋に戻って氷室作製を行うことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「氷室にどんどん運んじゃってー」
「はい!」
集めたアーマーリンクスの大量の死骸を、即席の氷室に運び込む作業を任せると、その間にオレは新たな下僕の使役にかかる。
お待ちかねの新戦力たちだ。
しかも、ルトですら苦戦を強いられたあの巨大なフレイムリンクスとそれよりは小さいが、なかなかの強さを誇ったもう片方も一緒だ。
それに、鋼要塞のメンバーが六人。
うち三人は丸焦げなので、ちょっと直視するのがきついし、臭いもやばい。
人間の焼ける臭いってなんともいえない嫌な感じだ。
使役数増加がLv2になったおかげで、残り使役数は八体。
まずは、戦力として確定しているフレイムリンクスたちからいこうか。
「下級下僕使役!」
気合も高らかに頭部が分離した巨大なフレイムリンクスに向かって下級下僕使役を行使する。
その巨体を範囲に収める、大きな魔法陣が展開され、分離していた頭部が追加徴収された魔力によって結合される。
「なーお」
「可愛いかよ!」
使役が完了すると、横たわっていた体を起こした巨大なフレイムリンクスがなんとも可愛らしい鳴き声をあげる。
というか、鳴き声を発したということは、自由意思持ちか!
「瞳も虚ろじゃないし、自由意思持ちっぽい」
「なー。ゴロゴロ」
「ふむ。剛毛だにゃー。これは洗い甲斐がありそうだよ、ルト!」
オレが手を出すと、見上げるほどの高さにあった頭をちゃんと下げて、というか地面に顎をつけてくれる。
大きさを無視すると、完全に猫なので、顎に腕を突っ込んでグリグリしてあげると気持ちよさそうな鳴き声をあげる。
だが、その毛はかなり堅く、臭いもあまりよろしくない。
ノミ取りシャンプーが何本いるかなぁ。
だが、ルトはアーマーリンクスの死骸運びで忙しいので、フレイムリンクスの洗浄は後回しだ。
お次は小さい方のフレイムリンクスだ。
小さいとはいっても、大型犬サイズのアーマーリンクスよりも遥かに大きい。
オレどころか、リウルが乗っても問題ないほどのサイズなのだから、大きさだけみれば十分に巨体だ。
同種の比較対象が規格外なだけなのだ。
さくっとこちらにも使役を行使するが、残念なことに完了しても鳴き声ひとつあげない。
瞳は虚ろだし、近寄ってきた大きい方のフレイムリンクスが毛づくろいをし始めても微動だにしなかった。
こちらは自由意思がなさそうだ。
「なー……」
「おまえたちもしかして、番とかだったの?」
「なー」
毛づくろいをしても反応がないことに悲しそうな鳴き声をあげる大きい方。
その鳴き声と伝わってくる感情に、二頭の関係性を朧気ながら理解してしまった。
……うーん。でも自由意思持ちになるかどうかは、条件がまったくわかってないし、使役を解いちゃうと灰になっちゃうしなぁ。
「ごめんな。今のオレにはどうすることもできないんだ」
「なー」
悲しげな鳴き声ではなく、なんとなく「わかっている」といった感情と鳴き声をあげる大きい方。
……いつまでも大きい方じゃやりにくいな。
「んーと。あ、メスだったのか。じゃあ、おまえは今からイリーだ」
「なー」
大きい方――イリーに名前をつける。
小さい方はたとえ番であっても、自由意思持ちではない以上は名前はつけない。
これは、オレの小さな拘りだ。
でも、小さい方のフレイムリンクスも十分に戦力として通用するだろうから、捨て駒扱いはまずないだろう。
期待してるぞ、二頭とも。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
おっさんの俺が美少女になって高校生からやり直したら人生クッソチョロかった件
司真 緋水銀
恋愛
※鋭意更新中
本タイトルは
【おっさんだった俺が美少女になって高校生からやり直してみたら人生クッソチョロかった~あの時イジめてきた奴がお近づきになりたいらしいけど気持ち悪いから消えなさい~】ですが、長すぎて入らないので変更しています。
【あらすじ】
ある日、冴えない小説家でサラリーマンの【波澄(はずみ)阿修羅(あしゅら)】(37)の人生は巻き戻る。
気がつくと高校生、女の子になっていた。しかも超美少女、名前は【波澄 阿修凪(あしゅな)】(16)
どうやら女の子になってやり直せるらしい。
今度は後悔しないように、色々やり直してみたけど……こんな難易度チョロかったっけ?
あの時俺をいじめてきた奴らは近づいてくるし、陰キャの友人は親衛隊になるし、書いた小説には書籍化アニメ化の話がくるし、おまけに難攻不落だった学校一の金持ちクールイケメンは俺のストーカーみたくなるし!?
けど悪くはない。
あの時できなかった事、やりたかった事、叶えさせてもらおう。
【美少女×中身おっさん×逆ハーレム×百合×人生イージーモード】の妄想詰め込みドタバタラブコメディーー毒舌気味で計算高い思考まるまるおっさんが美少女女子高生として高校時代からやり直す。
イージーモードでやり直しーー開始。
----------------------------
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※この小説はなろうさんでも掲載しています。
https://ncode.syosetu.com/n0949ha/
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
エーリュシオンでお取りよせ?
ミスター愛妻
ファンタジー
ある男が寿命を迎え死んだ。
と、輪廻のまえに信心していた聖天様に呼び出された。
話とは、解脱できないので六道輪廻に入ることになるが、『名をはばかる方』の御指図で、異世界に転移できるというのだ。
TSと引き換えに不老不死、絶対不可侵の加護の上に、『お取り寄せ能力』という変な能力までいただいた主人公。
納得して転移した異世界は……
のんびりと憧れの『心静かな日々』を送るはずが……
気が付けば異世界で通販生活、まんざらでもない日々だが……『心静かな日々』はどうなるのか……こんなことでは聖天様に怒られそう……
本作は作者が別の表題で公開していた物を、追加修正させていただいたものです。その為に作品名もそぐわなくなり、今回『エーリュシオンでお取りよせ?』といたしました。
作者の前作である『惑星エラムシリーズ』を踏まえておりますので、かなり似たようなところがあります。
前作はストーリーを重視しておりますが、これについては単なる異世界漫遊記、主人公はのほほんと日々を送る予定? です。
なにも考えず、筆に任せて書いております上に、作者は文章力も皆無です、句読点さえ定かではありません、作者、とてもメンタルが弱いのでそのあたりのご批判はご勘弁くださいね。
本作は随所に意味の無い蘊蓄や説明があります。かなりのヒンシュクを受けましたが、そのあたりの部分は読み飛ばしていただければ幸いです。
表紙はゲルダ・ヴィークナー 手で刺繍したフリル付のカーバディーンドレス
パブリックドメインの物です。
新人領主は死霊術師
タタクラリ
ファンタジー
クローデン・ヨウ・ブラッドフォードは、死霊術師である。
死霊術師とは、死者を蘇らせ、それらを魔術を用いて支配し意のままに操る魔術師であり、その醜く惨い特性から迫害の対象となっている。
平和な街を襲撃し、民を虐殺し、蘇生し、強制的に隷属させる──というのが一般的な死霊術師のイメージだ。
クローデンは迫害を免れ隠れ里に潜む生活に満足できず、死霊術師の風評を改めたいという夢を持った。
二十歳になったのを機にクローデンは、周辺地域を治める『帝国』で発言力を持つため、死霊術師を長とする死者の都市──ネクロポリス──を創設し、拡大する旅に出ることを決意した。
小説家になろう様で同時投稿
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる