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036,ポチ先輩

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 巨大な砲弾のような何かが突如オレたちの戦闘に乱入し、戦況は一気に混乱の渦に叩き込まれた。
 皆の安否を心配するあまり、大声で確認をしてしまったオレに向かって、迫る三発のバスケットボールサイズの火球。
 一発でも大爆発を起こすあの火球が三発だ。
 このままではやばい。

 だから切り札を切る。
 今のオレのとっておきだ!

「リウル! 平気!?」
「はい! ありがとうございます! 主様!」

 オレのとっておき、それはオレたちを中心に輝くハニカム構造の魔法の盾――魔法障壁の魔道具だ。
 三発もの火球の大爆発を見事に防いでくれたこの障壁は、たった一個で五十万円もする超お高い秘密兵器だ。
 だが、買っておいてよかった。
 もし、買ってなかったら被害は甚大だったはずなのだから。

「げっ!? やっぱり負荷がきつい……。リーン! 予備を渡しておくから使うタイミングを間違えないで!」
「はい!」

 魔法障壁の魔道具は実は予備も含めてふたつ購入している。
 オレが使った魔法障壁の魔道具の残量を確認して、残りの一個をリーンに渡す。
 魔道具は使い捨てのアイテムだが、この魔法障壁の魔道具は残量制だ。
 残量が残っている限り、どんな攻撃でも防げるのがこの魔道具のいいところだが、一度魔法障壁を解いてしまうと、次展開するときに残量が減る。
 攻撃を加えられなければ減少する量は微々たるものだが、それでもやっぱり残量が減るので何十回もやればなくなってしまうだろう。
 展開中はもっと少ない量だが、残量を減らしてしまうが、もう一度展開するのに比べればまだマシだ。
 なので、今のところは魔法障壁を展開しっぱなしにしておいたほうがいい。

「リウル! ……えっと、これだ! これ使って!」
「ありがとうございます!」

 だが、念には念をいれておいたほうがいいだろう。
 タブレットを取り出し、慣れた手付きで検索をかける。
 そして、検索結果が表示された画面から今最適だと思われるものを選び購入する。
 次の瞬間には、目の前に大きな黒い盾が二枚出現し、そのうちの一枚をリウルに持たせる。

 購入した盾は、耐火の黒大盾という名前の盾で、外の世界で販売されている類の防具だ。
 どこぞの火に強い魔物の皮が使われているらしく、火ダメージを大幅に軽減してくれると書いてあった。
 形状はタワーシールドといったところだろう。
 すっぽりとリウルの体を隠せるサイズなので、あの火球攻撃でも即死はしないはずだ、たぶん。

 左腕は欠損してしまったが、この耐火の黒大盾は右腕一本でも扱えるように腕を通せるベルトがついているので、今のリウルでも大丈夫なはずだ。
 実際に、器用に腕を通してしっかりと固定できている。

 ちなみに、外の世界で通販アプリを使用すると、パッケージや梱包の有無やその場に出すか、部屋の玄関に届けるかを選べる。
 今回はその場に出して梱包もなしだ。
 外の世界の防具なので、そもそもパッケージはないしね。

「リーン、もうひとつは君が」
「はい! ソラ様!」

 残りのもうひとつの耐火の黒大盾はリーンの分だ。
 オレじゃ持てないしね。
 魔法障壁の魔道具を渡しているとはいっても、五十万円もする高級品だ。
 なるべくは使いたくない。

「よし! ふたりともオレをしっかり守ってね!」
「「はい!」」

 これで、一応オレたちの防御態勢は整った。
 あとは、今でも激しい戦闘を繰り広げいてるルトたちだ。
 ルトたちが激しく動いているため、すでに土煙は晴れて、あの砲弾が何ものだったのかが判明した。

 なんと、あれはもう一頭のフレイムリンクスだった。
 しかし、大きさがまるで違う。
 大型犬サイズだったアーマーリンクスを、三回りも大きくした最初のフレイムリンクスをさらに二回り大きくすればこのくらいになるだろうか。
 体高は三メートル近くあるんじゃないだろうか。

 そんな化け物とルトとディエゴ、ブラックオウルは互角に戦っている。
 振り下ろす前足の一撃が岩を砕き、巨大な火球が大きなクレーターを作り出す。
 火球の頻度は少ないが、それ以外にも火弾や火壁など、要所要所でルトたちの動きをうまく妨げている。
 もう一頭のフレイムリンクスも負けじと参戦しようとしているが、切り株お化けと三頭の狼が時間稼ぎをしているようで、なかなかルトたちに迫れない。

 オレたちに向けて放たれた三発の火球は、どうやら苦し紛れの攻撃だったみたいだ。
 だが、このままではまずい気がする。
 ルトたちも懸命に戦っているが、あの化け物相手では決定打が足りない。
 すでに魔式トンファー雷のカートリッジを使い切っているようで、最前線で交戦している彼女にはカートリッジを交換している余裕がない。
 最大火力の攻撃が封じられている以上、ディエゴとブラックオウルに頑張ってもらうしかないが、あちらはあちらで火魔法の使い方がものすごくうまい。
 伊達にあれだけ巨大に成長していないようだ。

「ぐぬぬ……。これ、まずくないか?」
「主様……」
「ソラ様……」

 最初のフレイムリンクスの時間稼ぎをしている自由意思なし組だって、結構ギリギリだ。
 いや、むしろあちらはかなり不利な状況になっている。
 今も狼の一頭が火球の直撃を受けて爆散してしまった。
 このままじゃ本格的にまずい。

 だが、どうしたら――

「? ポチ?」

 歯ぎしりしそうなほど奥歯を噛み締めていると、不意に服を引っ張られた。
 そこには常にオレの側にいて守ってくれているポチの姿がある。

 ……今なら魔法障壁がある。リーンとリウルには耐火の黒大盾も持たせた。
 ここは護衛にポチを置いておく場面じゃない。
 よし……!

「ポチ! アイツを倒せ!」

 オレの命令に、鳴き声の出せないはずのポチの渾身の遠吠えが聞こえた気がした。
 次の瞬間には目で追うのも難しいほどのスピードでポチが駆け出し、魔法障壁をすり抜ける。
 発動者が味方と判断しているものは魔法障壁をすり抜けることができる。
 魔道具ってかなりすごい。

 それよりも、すごいスピードで駆けるポチに向かって、小さい方のフレイムリンクスが火球を今までにないくらい連打し始めた。
 どうやら、ポチの脅威度を瞬時に判断したようだ。
 それこそ、切り株お化けや残った狼なんか完全に無視するほどに。

 だが、ポチとフレイムリンクスの中間地点に突如石の壁が複数枚一瞬にして出現し、火球は完全に防がれる。
 切り株お化けの仕事だ。
 あの完璧なタイミング。
 おそらく、ポチが自ら命令したのだろう。
 そして、石壁の下に一気に穴が空き、その穴にポチが突っ込んでいく。

 次の瞬間、小さい方のフレイムリンクスの首にはポチの牙がガッチリと食い込み、ひねりを加えて一瞬にして骨を砕いていた。

「やった!」

 石壁の下の土を土操作で掘り進め、道を作って奇襲したのだ。

 あの一瞬でそこまでやるなんて!
 やっぱりうちのポチはすごい!

 だが、その代償は大きく、切り株お化けが完全に魔力切れで倒れてしまった。
 土操作で一瞬にして穴を掘り進めたことで、残っていた魔力をすべて使い切ってしまったのだろう。
 しかし、そのかいはあった。
 小さい方とはいえ、残った片方のフレイムリンクスを討伐できたのだから。
 残りは大きい方だけだ。

「いっけー! ポチ!」
「ポチ先輩!」

 小さい方のフレイムリンクスを倒されたことに、大きい方のフレイムリンクスが激昂したようで、全身の毛を逆立たせてルトたちを無視し、ポチへと向かってくる。
 だが、さすがにポチとはいえ、あの巨体を相手に真っ向勝負をするのは分が悪い。
 ルトよりも早いスピードを活かして、左右のフットワークから急制動をかけて巨大なフレイムリンクスを翻弄する。
 ポチのあまりの早さに追いつけない化け物に、ディエゴとブラックオウルの追撃がクリーンヒットする。

 さすがに、彼らの魔法攻撃をまともに受けてしまえば、化け物といえど大ダメージは避けられない。
 そして――

「ルト!」
「さすが!」
「すごい!」

 そこへ、大地を削る凄まじい踏み込みとともに、ルトの魔式トンファー雷が打ち付けられる。
 化け物がポチに向かった一瞬の隙で換装が済んだカートリッジを惜しげもなく使った最高の一撃だ。
 視界を埋め尽くすほどの眩い光と雷の凄まじい音。
 打撃で与えた音とは思えないほどのお腹に響く重厚な音が重なり、三メートルもの巨体が宙に浮く。

 だが、やつはまだ死んでいない。
 その瞳の奥に燃える憎悪の炎がしっかりとルトに狙いをつけ――

 次の瞬間には、首に噛み付いたポチが高速で体を捻り、骨が一気に何度も折れる音が重なって最後には肉が裂け、引きちぎれる生々しい音が響き渡る。
 直前まで放とうとしていた巨大な火球が霧散すると同時に、ものすごい音を立てて地面に頭部を失った巨体のフレイムリンクスが落下する。

「ポチすげー!」

 やっぱりうちで最強なのはポチだわ。

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