上 下
36 / 44

036,ポチ先輩

しおりを挟む


 巨大な砲弾のような何かが突如オレたちの戦闘に乱入し、戦況は一気に混乱の渦に叩き込まれた。
 皆の安否を心配するあまり、大声で確認をしてしまったオレに向かって、迫る三発のバスケットボールサイズの火球。
 一発でも大爆発を起こすあの火球が三発だ。
 このままではやばい。

 だから切り札を切る。
 今のオレのとっておきだ!

「リウル! 平気!?」
「はい! ありがとうございます! 主様!」

 オレのとっておき、それはオレたちを中心に輝くハニカム構造の魔法の盾――魔法障壁の魔道具だ。
 三発もの火球の大爆発を見事に防いでくれたこの障壁は、たった一個で五十万円もする超お高い秘密兵器だ。
 だが、買っておいてよかった。
 もし、買ってなかったら被害は甚大だったはずなのだから。

「げっ!? やっぱり負荷がきつい……。リーン! 予備を渡しておくから使うタイミングを間違えないで!」
「はい!」

 魔法障壁の魔道具は実は予備も含めてふたつ購入している。
 オレが使った魔法障壁の魔道具の残量を確認して、残りの一個をリーンに渡す。
 魔道具は使い捨てのアイテムだが、この魔法障壁の魔道具は残量制だ。
 残量が残っている限り、どんな攻撃でも防げるのがこの魔道具のいいところだが、一度魔法障壁を解いてしまうと、次展開するときに残量が減る。
 攻撃を加えられなければ減少する量は微々たるものだが、それでもやっぱり残量が減るので何十回もやればなくなってしまうだろう。
 展開中はもっと少ない量だが、残量を減らしてしまうが、もう一度展開するのに比べればまだマシだ。
 なので、今のところは魔法障壁を展開しっぱなしにしておいたほうがいい。

「リウル! ……えっと、これだ! これ使って!」
「ありがとうございます!」

 だが、念には念をいれておいたほうがいいだろう。
 タブレットを取り出し、慣れた手付きで検索をかける。
 そして、検索結果が表示された画面から今最適だと思われるものを選び購入する。
 次の瞬間には、目の前に大きな黒い盾が二枚出現し、そのうちの一枚をリウルに持たせる。

 購入した盾は、耐火の黒大盾という名前の盾で、外の世界で販売されている類の防具だ。
 どこぞの火に強い魔物の皮が使われているらしく、火ダメージを大幅に軽減してくれると書いてあった。
 形状はタワーシールドといったところだろう。
 すっぽりとリウルの体を隠せるサイズなので、あの火球攻撃でも即死はしないはずだ、たぶん。

 左腕は欠損してしまったが、この耐火の黒大盾は右腕一本でも扱えるように腕を通せるベルトがついているので、今のリウルでも大丈夫なはずだ。
 実際に、器用に腕を通してしっかりと固定できている。

 ちなみに、外の世界で通販アプリを使用すると、パッケージや梱包の有無やその場に出すか、部屋の玄関に届けるかを選べる。
 今回はその場に出して梱包もなしだ。
 外の世界の防具なので、そもそもパッケージはないしね。

「リーン、もうひとつは君が」
「はい! ソラ様!」

 残りのもうひとつの耐火の黒大盾はリーンの分だ。
 オレじゃ持てないしね。
 魔法障壁の魔道具を渡しているとはいっても、五十万円もする高級品だ。
 なるべくは使いたくない。

「よし! ふたりともオレをしっかり守ってね!」
「「はい!」」

 これで、一応オレたちの防御態勢は整った。
 あとは、今でも激しい戦闘を繰り広げいてるルトたちだ。
 ルトたちが激しく動いているため、すでに土煙は晴れて、あの砲弾が何ものだったのかが判明した。

 なんと、あれはもう一頭のフレイムリンクスだった。
 しかし、大きさがまるで違う。
 大型犬サイズだったアーマーリンクスを、三回りも大きくした最初のフレイムリンクスをさらに二回り大きくすればこのくらいになるだろうか。
 体高は三メートル近くあるんじゃないだろうか。

 そんな化け物とルトとディエゴ、ブラックオウルは互角に戦っている。
 振り下ろす前足の一撃が岩を砕き、巨大な火球が大きなクレーターを作り出す。
 火球の頻度は少ないが、それ以外にも火弾や火壁など、要所要所でルトたちの動きをうまく妨げている。
 もう一頭のフレイムリンクスも負けじと参戦しようとしているが、切り株お化けと三頭の狼が時間稼ぎをしているようで、なかなかルトたちに迫れない。

 オレたちに向けて放たれた三発の火球は、どうやら苦し紛れの攻撃だったみたいだ。
 だが、このままではまずい気がする。
 ルトたちも懸命に戦っているが、あの化け物相手では決定打が足りない。
 すでに魔式トンファー雷のカートリッジを使い切っているようで、最前線で交戦している彼女にはカートリッジを交換している余裕がない。
 最大火力の攻撃が封じられている以上、ディエゴとブラックオウルに頑張ってもらうしかないが、あちらはあちらで火魔法の使い方がものすごくうまい。
 伊達にあれだけ巨大に成長していないようだ。

「ぐぬぬ……。これ、まずくないか?」
「主様……」
「ソラ様……」

 最初のフレイムリンクスの時間稼ぎをしている自由意思なし組だって、結構ギリギリだ。
 いや、むしろあちらはかなり不利な状況になっている。
 今も狼の一頭が火球の直撃を受けて爆散してしまった。
 このままじゃ本格的にまずい。

 だが、どうしたら――

「? ポチ?」

 歯ぎしりしそうなほど奥歯を噛み締めていると、不意に服を引っ張られた。
 そこには常にオレの側にいて守ってくれているポチの姿がある。

 ……今なら魔法障壁がある。リーンとリウルには耐火の黒大盾も持たせた。
 ここは護衛にポチを置いておく場面じゃない。
 よし……!

「ポチ! アイツを倒せ!」

 オレの命令に、鳴き声の出せないはずのポチの渾身の遠吠えが聞こえた気がした。
 次の瞬間には目で追うのも難しいほどのスピードでポチが駆け出し、魔法障壁をすり抜ける。
 発動者が味方と判断しているものは魔法障壁をすり抜けることができる。
 魔道具ってかなりすごい。

 それよりも、すごいスピードで駆けるポチに向かって、小さい方のフレイムリンクスが火球を今までにないくらい連打し始めた。
 どうやら、ポチの脅威度を瞬時に判断したようだ。
 それこそ、切り株お化けや残った狼なんか完全に無視するほどに。

 だが、ポチとフレイムリンクスの中間地点に突如石の壁が複数枚一瞬にして出現し、火球は完全に防がれる。
 切り株お化けの仕事だ。
 あの完璧なタイミング。
 おそらく、ポチが自ら命令したのだろう。
 そして、石壁の下に一気に穴が空き、その穴にポチが突っ込んでいく。

 次の瞬間、小さい方のフレイムリンクスの首にはポチの牙がガッチリと食い込み、ひねりを加えて一瞬にして骨を砕いていた。

「やった!」

 石壁の下の土を土操作で掘り進め、道を作って奇襲したのだ。

 あの一瞬でそこまでやるなんて!
 やっぱりうちのポチはすごい!

 だが、その代償は大きく、切り株お化けが完全に魔力切れで倒れてしまった。
 土操作で一瞬にして穴を掘り進めたことで、残っていた魔力をすべて使い切ってしまったのだろう。
 しかし、そのかいはあった。
 小さい方とはいえ、残った片方のフレイムリンクスを討伐できたのだから。
 残りは大きい方だけだ。

「いっけー! ポチ!」
「ポチ先輩!」

 小さい方のフレイムリンクスを倒されたことに、大きい方のフレイムリンクスが激昂したようで、全身の毛を逆立たせてルトたちを無視し、ポチへと向かってくる。
 だが、さすがにポチとはいえ、あの巨体を相手に真っ向勝負をするのは分が悪い。
 ルトよりも早いスピードを活かして、左右のフットワークから急制動をかけて巨大なフレイムリンクスを翻弄する。
 ポチのあまりの早さに追いつけない化け物に、ディエゴとブラックオウルの追撃がクリーンヒットする。

 さすがに、彼らの魔法攻撃をまともに受けてしまえば、化け物といえど大ダメージは避けられない。
 そして――

「ルト!」
「さすが!」
「すごい!」

 そこへ、大地を削る凄まじい踏み込みとともに、ルトの魔式トンファー雷が打ち付けられる。
 化け物がポチに向かった一瞬の隙で換装が済んだカートリッジを惜しげもなく使った最高の一撃だ。
 視界を埋め尽くすほどの眩い光と雷の凄まじい音。
 打撃で与えた音とは思えないほどのお腹に響く重厚な音が重なり、三メートルもの巨体が宙に浮く。

 だが、やつはまだ死んでいない。
 その瞳の奥に燃える憎悪の炎がしっかりとルトに狙いをつけ――

 次の瞬間には、首に噛み付いたポチが高速で体を捻り、骨が一気に何度も折れる音が重なって最後には肉が裂け、引きちぎれる生々しい音が響き渡る。
 直前まで放とうとしていた巨大な火球が霧散すると同時に、ものすごい音を立てて地面に頭部を失った巨体のフレイムリンクスが落下する。

「ポチすげー!」

 やっぱりうちで最強なのはポチだわ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

死霊術師の人生日記

胡嶌要汰
ファンタジー
【死霊術師】… それは死んだ魔物や人を使役し戦わせるもの。 人々はそれを恐れ、迫害をした世界。 ある日、速峰陽平は母を亡くし、ついには父からも家を追い出されてしまう。 そんな時願ったのが「別の世界に行くこと」 住み込みのバイトの部屋から一変 そこは白い空間だった。 神様の適性検査を受け 現れた才能は【死霊術師】! 異世界【アベルニオン】にて速峰陽平はヨウ=ローフォルデとして転生した。 彼はこれからどう生きていくのだろうか。 追伸:書き直したものです。(色んな意味で)

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

都鳥
ファンタジー
~前世の記憶を持つ少女は、再び魔王討伐を目指す~  私には前世の記憶がある。  Sランクの冒険者だった前世の私は、あるダンジョンでうっかり死んでしまい、狼の耳と尾をもつ獣人として転生した。  生まれ変わっても前世のスキルをそのまま受け継いでいた私は、幼い頃からこっそり体を鍛えてきた。  15歳になった私は、前世で暮らしていたこの町で、再び冒険者となる。  そして今度こそ、前世で果たせなかった夢を叶えよう。 ====================  再び冒険者となったリリアンは、前世の知識と縁で手に入れた強さを隠しながら、新しい仲間たちと共にさらに上を目指す。そして前世の仲間との再会し、仲間たちのその後を知る。 リリアンの成長と共に、次第に明らかになっていく彼女の前世と世界の謎。。 その前世ではいったい何があったのか。そして彼女は何を成し遂げようとしているのか……  ケモ耳っ娘リリアンの新しい人生を辿りながら、並行して綴られる前世の物語。そして彼女と仲間たちの成長や少しずつ解かれる世界の真実を追う。そんな物語です。  -------------------  ※若干の残酷描写や性的な事を連想させる表現があります。  ※この作品は「小説家になろう」「ノベルアップ+」「カクヨム」にも掲載しております。 『HJ小説大賞2020後期』一次通過 『HJ小説大賞2021後期』一次通過 『第2回 一二三書房WEB小説大賞』一次通過 『ドリコムメディア大賞』中間予選通過 『マンガBANG×エイベックス・ピクチャーズ 第一回WEB小説大賞』一次通過 『第7回キネティックノベル大賞』一次通過

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

テイマーは死霊術師じゃありませんっ!

さんごさん
ファンタジー
異世界に転生することになった。 なんか「徳ポイント」的なのが貯まったらしい。 ついては好きなチートスキルがもらえるというので、もふもふに憧れて「テイム」のスキルをもらうことにした。 転生と言っても赤ちゃんになるわけではなく、神様が創った新しい肉体をもらうことに。いざ転生してみると、真っ暗な場所に歩く骸骨が! ひぃぃい!「テイム!テイム!テイム!」 なんで骸骨ばっかり!「テイム!テイムテイム!」 私は歩く。カタカタカタ。 振り返ると五十体のスケルトンが私に従ってついてくる。 どうしてこうなった!? 6/26一章完結しました この作品は、『三上珊瑚』名義で小説家になろうにも投稿しています

セカンドアース

三角 帝
ファンタジー
※本編は完結し、現在は『セカンドアース(修正版)』をアルファポリス様より投稿中です。修正版では内容が多少異なります。  先日、出版申請をさせていただきました。結果はどうであれ、これを機に更に自身の文章力を向上させていこうと思っております。  これからも応援、よろしくお願いします。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

処理中です...