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023,馬車

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 股とお尻の痛みが完全に引く頃には、青汁……もとい、ポーションを五分の一ほど飲んでいた。
 エグみと苦味で頭痛がするレベルの酷さとはいえ、その回復力には感激すら覚える。
 ただ、やはりまずいものはまずいので、今後はなるべくお世話にならないように行動すべきだろう。

 あと、冷蔵庫で保存してどのくらいもつのだろうか?
 冷凍とかしたら長持ちするのだろうか?
 その辺のことはリーンも知らないようだった。
 資料には常温で一ヶ月程度はもつと書かれていたようだが、それだけだ。
 外の世界には冷蔵庫なんかないし、冷凍しておける環境というのも限られているわけだからそんなものだろう。

 冷凍して効果がなくなっても困るので、蓋をしっかりと閉めて冷蔵庫に仕舞っておく。

「とりあえず、怪我が治ってよかった。心配かけてごめんね、ルト。みんなも」

 ポーションを飲んで怪我がすべて治ったので、ずっと床に正座して心配していたルトや、ベランダの窓から顔を出していたみんなにも声をかけておく。
 ルトは頭骨をぶんぶん縦に振っていたし、リウルやリーンは若干涙目だ。
 ディエゴも枝の手をわちゃわちゃ動かして謎の踊りを披露しているし、ポチはおすわりして骨の尻尾をゆっくり振っている。

 ああ、やっぱり自由意思があるのっていいな。
 使役者と下僕という関係ではあるが、こうも心配して、そして怪我が治ったことを喜んでくれるのだから。

 狼やブラックオウルは庭で微動だにしていないのも、そう思うのに拍車をかけている。

 オレにはこうして心配したり喜んでくれる下僕がいるが、ほかの人たちはどうなんだろう。
 たったひとりでずっと迷宮駆除を続けるのは、精神的に辛くなったりするのではないだろうか。
 そういうときは外の世界の街とかに行ったりするのだろうか。
 そう考えると、外の世界へ行けるというのも、オレ以外にも利点があるのだと思えてくる。
 まあ、出会うことは早々ないし、出会うとしても相当数の迷宮を駆除した段階になるだろうから当分はあとの話だ。
 今はどうやって迷宮都市まで行くかを検討することにしよう。

 ……もう、狼に乗っては行きたくないからね。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「これかなぁ……。しかし、くっそ高いなぁ……」

 通販アプリで色々と検索してみると、なんと普通に馬車が売っていた。
 もちろんピンきりで、安いものは外の世界で作られているもののようだ。
 おそらくものすごく揺れて大変なやつだろう。
 漫画や小説でよくあるやつだ。

 そして、高いものは現代の技術が惜しげもなく使われたものだ。
 揺れを抑えるための技術がふんだんに使われ、乗り心地をよくするために様々な技術が使われている。
 本体価格は最低でも三十万から。
 現代技術が使われている中でも、本当に最低限のものだ。
 高いものでは装飾や機能、大きさなどどれもすごいもので、一千万を余裕で超えるのだから、ちょっと頭が痛い。

 眉間に皺をよせながら眺めていたが、馬車は高くて手を出せないのは変わらない。
 いや、迷宮駆除を頑張ればそう遠くないうちに一番安いやつくらいは買えるだろう。
 今日だって半日で結構な額を稼いでいる。
 というか、一週間くらいで買えちゃうよね。

 そう考えると、別に悩む必要はないような気がしてきた。
 どっちにしろ、すぐに迷宮都市には行けないわけだし、まずは楽に移動できる手段を確保することから始めるとしよう。

 馬車本体は通販アプリで購入するとして、それを引くためには当然馬が必要になる。
 これはもちろん、通販アプリでは買えない。
 というか、生きた馬である必要はない。
 むしろ、オレは死霊術師なんだからアンデッドの馬の方が何かと都合がいい。
 疲れないし、食料も必要ない。
 意思疎通も命令すればなんとでもなる。
 もし自由意思持ちになったとしたらどうなるのかちょっと不安はあるが、基本的にはポチやディエゴをみる分には問題ないような気がする。

 まあ、使役すればその分だけ枠を潰してしまうが、騎馬として運用できなくもないだろう。
 乗馬の腕がなくとも、命令すれば言うことを聞いてくれるのだ。
 案外いいんじゃないだろうか。

 問題は、馬の死体をどこで調達するか。

「ふたりは知らない? 馬のお墓とか」
「馬の墓、ですか? 申し訳ありません。私は存じ上げません」
「すみません。あたしも知らないです……」

 ミサドの街でも、馬車などは運用されている。
 行商人や乗り合い馬車など、現代の車のように一家に一台以上というほどではないが、大きな商家では必ず持っているし、馬の種類や年齢にもよるが、行商人なども自分の馬車を持っているものは割といる。
 そのほかにも、軍馬などは騎士や軍などで運用されているらしい。
 リウルとリーンは騎士が馬に乗っているところを数回みたことはあっても、軍で運用されている馬はみたことがないらしい。
 でも、知識としては知っている。

 馬も当然生きているので、最終的には死ぬ。
 死んだ馬は食料となるのか、どこかに埋められるのかはわからないが、もし馬の埋葬地があるなら骨の調達は可能だろう。
 できれば綺麗な死体がほしいところだが、別に骨の馬でも構わない。
 妹神の幻術魔法があるのだから、使役さえしてしまえば外の世界では普通の馬にみえるはずだし。

 そうと決まれば、情報収集といこう。

「リウル。ちょっとお願いがあるんだけど」
「はい! 何なりと!」
「うん、さっき言った馬のお墓のことなんだけど――」

 リウルは現状では、迷宮駆除でいてもいなくても大して変わらない。
 部屋に戻ってきてからもルトたちに特訓してもらってボロボロになっているだけだ。
 リーンはオレの食事を作ったり、身の回りの世話とか、魔石の袋持ちとか色々やることがある。
 なので、頼むなら彼だろう。

 ミサドの街で馬が運用されている以上、馬が死んだ場合も何かしらの対処方法が存在しているはずだ。
 うまくいけば新鮮な死体が手に入るかもしれないし、だめでも埋まっている骨をゲットできればいい。馬だけに。

 リウルにとっては地元だし、調べるのもそれほど苦労はしないはずだ。
 役に立つことができて、オレも嬉しい彼も嬉しい。
 まさにウィンウィンの関係だね。
 まあ、使役を解除しないための実績作りのようなものだ。
 なんだかんだ言って、リウルの使役は解除したくない。
 でも、そのためには役に立っているという後押しがほしいというのが本音だ。
 本人もオレの役に立っているという実感がほしいだろうしね。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 狼に乗って移動した距離分があるので、ミサドの街まで徒歩で一日かからない程度の距離にドアを開くことができる。
 一応戻ってくるときに、人目につかないところでドアを開いたので問題なくリウルを送り出すことができた。
 リウルはこの部屋へのドアを開くことは当然できないので、戻ってくる日を予め決めてある。
 緊急連絡が必要な場合の合図も決めてあるので、たまにドアの覗き穴は確認しなければいけないけど。

 あとはリウルが情報を持ち帰ってくるのを待つだけだが、当然ながら待っているだけじゃない。
 迷宮駆除を続けて、馬車購入資金を貯めなければいけない。
 ほかにも、馬車を購入しても玄関からはでれないので、庭にドアを移設しなければいけない。
 その分も合わせると、五十万円くらいは貯めないとだめだろう。
 屋外シャワーについては、さらに先延ばしになるのことが決定されたけど、今のところ大きな問題はないし、大丈夫だろう。

 というわけで、本日二度目の迷宮駆除を行うため、夕暮れの花園へやってきた。
 やはり、リウルが抜けても殲滅力自体は変わらないので、さくさくフロアを殲滅できている。
 リウルにつけていた狼をルトに戻したで、逆に殲滅スピードが早くなっているくらいだ。
 やっぱり、戦闘面では役に立ってなかったなぁ。
 それどころか、マイナスか。

 まあ、外の街での単独での情報収集ができるんだから補って余りある……かも?
 いやどうだろう……。

 とりあえず、今はそのことは置いておいて、やることがないとはいえ、ぼーっとするのはまずいだろう。
 オレのところまで魔物が来ることはまずないが、絶対はないのだから。
 ポーションがあるからある程度の怪我は大丈夫だろうけど、死んでしまったら終わりだ。
 オレが死んでしまえば使役している下僕たちはどうなるのだろうか。
 使役者が死ぬんだから、当然下僕も道連れになる可能性は高い。
 つまり、オレの死は全員の死となるわけだ。
 まあ、いまさらだろう。
 それ以前に彼らはもう死んでいるわけだしね。

 さあ、なんだかんだで夕飯の時間まではそうない。
 ご飯を食べたら、また迷宮に来るつもりではあるが、いけるところまで殲滅は続ける。
 一日でも早く目標金額を貯めるためにも、今まで迷宮に入らなかった時間も駆除にあてることにしているのだ。
 ルトたちの遊ぶ時間が減ってしまうが、馬車を手に入れるまでは少しだけ我慢してもらおう。
 馬車を手に入れたら、迷宮駆除の時間を減らして、外の世界での移動の時間を多めにすれば遊ぶ時間は増えるだろうしね。

 それまでは少しの間頑張ってほしい。
 オレには見守ってあげることしかできないけど。

 あ、今のルトの攻撃かなりすごかったんじゃない?

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