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022,ポーション

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 土だらけで服をものすごく汚しているアホのために、運動用の丈夫で安くて洗濯しやすいジャージを数着購入しておいた。
 リウルだけではなく、リーンの分もある。
 料理やオレの身の回りの世話も大事だが、今よりもっと強くなってもらわないとそのうち迷宮に連れて行くことができなくなる。
 なので、料理が終わったらリーンもあの土塗れアスレチック大会に参加させるつもりだ。

 三袋あった魔石を換金した結果、本日の収益は合計金額79,270円となった。
 上下セットのジャージを四着買ったので、9,200円引いても70,070円も残っている。
 ぶっちゃけ、ネズミの王国とは比べ物にならないくらいの金額を叩き出しているので、笑いが止まらない。
 やはり全フロア殲滅したのがきいているのだろうね。

 半日かからずこれだけ稼げるのなら、近い内に玄関ドアを庭に移動させることができるだろう。
 ぞろぞろと部屋の中を移動させなくてよくなるのは本当に助かる。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 リーンの手料理に舌鼓を打ち、食休みも兼ねて午後の移動のための準備を進める。
 迷宮都市へ向かって移動を開始するのだ。
 とはいっても、徒歩では何週間もかかる道のりだ。
 そんなに悠長に移動するつもりはさらさらないので、幼女の小さな体を活かして、狼の背中に乗って移動しようと思う。
 狼はアンデッドなので疲れることはない。
 もちろん、酷使しすぎればダメージを負うことになるけど、ある程度は休ませるか食事をとらせれば回復することができる。
 オレを乗せて、数時間移動し続けるくらいなら、やってやれないことはないだろう。

 だが、当然乗っているオレにだって負担はかかる。
 むしろ、オレの体力のなさのほうが問題だろう。
 あと、狼にのって移動なんてしたことないので、どのくらいで疲労するのかがわからないのも難点だ。
 だから出来る限りの準備をすることにした。

 まず、狼用の鞍なんて売ってないので、馬用の簡易的な鞍をフリーサイズ(魔法)で購入する。
 本格的な乗馬用の鞍はちょっと手がでない値段なのでスルーだ。
 購入した鞍を狼に装着すると、勝手にぴったりのサイズになってくれるので、これで多少マシになるはずだ。
 試しに乗って走らせてみたが、あまり速度が出ていなければいけるかなと思える程度にはいい感触だ。

 次は、もしものための安全対策だ。
 落下防止のための固定ベルトや、それでも落ちた場合に備えて防具をいくつか購入しておく。
 あまり重くなりすぎても狼に負担がかかりすぎてしまうので、基本的に革装備で揃えてみた。
 値段もリーズナブルでありがたい。

 それでも一式で、総額20,000円近くかかったけど。
 リウルとリーンが装備している革装備よりもいいものだから仕方ない。
 あと風避けのゴーグルなんかも購入しておいた。

 狼への命令は、特に声に出さなくても簡単にできるので、鞭とかそういうのは必要ない。
 移動の際に同行するメンバーは、オレ、狼、ポチ、ブラックオウルのひとりプラス二頭プラス一羽だ。
 狼は移動用だし、ポチとブラックオウルは護衛役。
 ブラックオウルにはもうひとつ役目として、落下した場合に備えて風操作をしてもらう。
 風操作は、土操作の風バージョンで、もし落下しても風を操作して勢いを弱めたりしてもらう。
 命令はポチにまかせるので、咄嗟のことでも大丈夫だろう。

 ルトやディエゴ、リーンとリウルには留守番をしていてもらう。
 ある程度速度を出して移動しようと思っているので、ついてこれなくなるはずだからだ。
 披露しないとはいえ、狼や犬の移動速度についてこれるかは微妙もいいところだし。
 ルトは、あっさりついてきそうだけど、負担がかかって骨が折れたりしたら明日も行う迷宮探索に支障が出かねない。

 準備が完了したので、さっそく狼に跨って玄関から出る。

「リウル、あっちの方角に道なりでいいんだね?」
「はい! ずっと道なりに進むと大きな川に突き当りますので、そのまま川沿いに道が続いていきます。途中で橋がありますので、そこを渡って頂いて、さらに道なり進みますと、巨大な岩がある場所で二股に道が別れています。そこを東に進むと、村があるはずです」
「了解了解。一先ずそこまで進んだら戻ってくるよ」

 迷宮都市がある大体の方角と道はわかっているリウルだが、実際に行ったことはない。
 なので、ある程度進んで村や街についたらそこで道を確認することにした。

 やっとリウルが役に立つ場面が出てきたので、存分に頑張ってもらおう。
 オレの興味は、外の世界の人々の生活には向いていないので、道中の村とかどうでもいい。
 せいぜい大きな街だったらちょっと観光してもいいかな、といった程度だ。
 それも、街中で異臭がしたりするレベルの場所だと遠慮したい。
 なので、ミサドの街は寄らずに通り過ぎる予定だ。

 では、今度こそしゅっぱーつ。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「無理」

 狼に乗って移動する。
 幼女が犬に乗って移動するシチュエーションととてもよく似ているので、とても憧れる情景だろう。
 だが、実際にはものすごくしんどい。
 とことこと散歩させるレベルで歩いているくらいならばいいかもしれない。
 だが、かなりの速さで走らせた場合はやばい。

 まず、股とお尻がやばい。
 普段使わない筋肉が酷使され、ただでさえ体力もなく、ぷにょぷにょの触り心地の大変よろしい肉体が擦れるのだ。
 小一時間も頑張った自分を褒めてあげたい。
 むしろその前にやめろと説得したい。

 オレのバカ。

 そして、股とお尻もそうだが、揺れによる酔いも辛い。
 最初は大丈夫だったが、時間が経つにつれてだんだんと気持ち悪くなってきたのだ。
 痛いわ、気持ち悪いわで、完全にへばってしまったオレは、部屋に戻るなりギブアップだ。

 今はリーンとルトに介抱してもらっている。
 いつもなら庭で盛大に遊んでいるだろうに、今はじっと床に正座をして微動だにしない。
 心配している感じが下級下僕使役のおかげでひしひしと伝わってくる。
 ディエゴとリウルもベランダの窓から心配そうにしているが、部屋の中に押しかけてはこない。
 最初はみんな部屋の中に入ってきていたが、ルトが追い出したからだ。
 あまり、集まられても落ち着けない。
 それをちゃんと理解しているルトの気遣いだ。

 ルトは本当に優秀だなぁ。
 これで回復魔法とか使えたら最高なのに。
 骨だからダメージ食らっちゃうかな? わかんないや。

 ……回復魔法? あー……。冷蔵庫にポーションあったな。青汁かもしれないけど。

「ルト。冷蔵庫の青汁持ってきて」

 オレの言葉に首を傾げたルトだったが、手のひらに手の骨をポンとぶつけて思い出したようだ。
 オレもすっかり忘れてたからね。
 ルトが忘れてても仕方ない。

「ソラ様、青汁、ですか?」
「うん。ポーションかもしれないのを迷宮で手に入れてたんだよね。見た目が完全に青汁なんだけど」
「あ、あたしポーションを前にみたことがあります。緑色の液体で確かに飲んだら苦そうな見た目でした」
「お? ほんと? じゃあちょっと確認してみて。ちょうどルトが持ってきたから」
「はい!」

 冷蔵庫に死蔵していた青汁をルトから受け取ったリーンは、色んな角度から眺めたあと、蓋をあけて薬品の匂いを嗅ぐように瓶の上部から手で仰いで確認すると、蓋についた青汁を少量舐める。
 もし毒だったりしたら危険だから、念の為だろう。

 ……アンデッドに毒が効くのかわからないけど。あと本物のポーションだったら、アンデッドにダメージとかあるのだろうか?

「本物だと思います。冒険者ギルドにあった資料に載っていた通りの匂いと味ですし」

 冒険者ギルドには、そんな資料があるのか。
 ちょっと行ってみたい気はする。
 でも、迷宮都市にだって冒険者ギルドはあるそうだし、そっちの方が規模は大きいはずだから資料の揃えもいいはずだろう。

「ほほー……。じゃあ、ちょっとだけ飲んでみようかな? あ、患部に直接かけた方がいい?」
「いえ、飲んだ方がいいはずです。ただ、すごく苦いです」

 やはりポーションは飲み薬であっているようだ。
 ただ、患部にかけるタイプの方がよかったな。
 リーンの表情からもすごく苦そうな感じが伝わってくる。

 リーンから青汁、もといポーションを受け取り、ちょぴっと舐めるように口に含む。
 ものすごいエグい苦味が口の中に充満して、鼻から抜ける匂いがかなりきつい。
 一瞬にして顔が渋面を作るのを感じながら、少しだけ痛みがひいたような気がした。

 ……これは効いてるっぽい。すごいな、本当に即効性だ。

 我慢してもう少し飲んでみると明らかに痛みが引いていく。
 ズボンの中を確認すると、皮が剥けて真っ赤になっていた患部に新しい皮が張り、かなり治っているのが確認できた。

 ゲームや漫画でお馴染みのポーションだけど、実際に効果の程を体験すると感動するなんてもんじゃない。
 日本にこれがあったら、本当に医者いらずだ。
 ただ、ポーション自体は結構なレアアイテムなので、この世界でも医者は医者でちゃんと需要があるみたいだけど。

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