22 / 44
022,ポーション
しおりを挟む土だらけで服をものすごく汚しているアホのために、運動用の丈夫で安くて洗濯しやすいジャージを数着購入しておいた。
リウルだけではなく、リーンの分もある。
料理やオレの身の回りの世話も大事だが、今よりもっと強くなってもらわないとそのうち迷宮に連れて行くことができなくなる。
なので、料理が終わったらリーンもあの土塗れアスレチック大会に参加させるつもりだ。
三袋あった魔石を換金した結果、本日の収益は合計金額79,270円となった。
上下セットのジャージを四着買ったので、9,200円引いても70,070円も残っている。
ぶっちゃけ、ネズミの王国とは比べ物にならないくらいの金額を叩き出しているので、笑いが止まらない。
やはり全フロア殲滅したのがきいているのだろうね。
半日かからずこれだけ稼げるのなら、近い内に玄関ドアを庭に移動させることができるだろう。
ぞろぞろと部屋の中を移動させなくてよくなるのは本当に助かる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リーンの手料理に舌鼓を打ち、食休みも兼ねて午後の移動のための準備を進める。
迷宮都市へ向かって移動を開始するのだ。
とはいっても、徒歩では何週間もかかる道のりだ。
そんなに悠長に移動するつもりはさらさらないので、幼女の小さな体を活かして、狼の背中に乗って移動しようと思う。
狼はアンデッドなので疲れることはない。
もちろん、酷使しすぎればダメージを負うことになるけど、ある程度は休ませるか食事をとらせれば回復することができる。
オレを乗せて、数時間移動し続けるくらいなら、やってやれないことはないだろう。
だが、当然乗っているオレにだって負担はかかる。
むしろ、オレの体力のなさのほうが問題だろう。
あと、狼にのって移動なんてしたことないので、どのくらいで疲労するのかがわからないのも難点だ。
だから出来る限りの準備をすることにした。
まず、狼用の鞍なんて売ってないので、馬用の簡易的な鞍をフリーサイズ(魔法)で購入する。
本格的な乗馬用の鞍はちょっと手がでない値段なのでスルーだ。
購入した鞍を狼に装着すると、勝手にぴったりのサイズになってくれるので、これで多少マシになるはずだ。
試しに乗って走らせてみたが、あまり速度が出ていなければいけるかなと思える程度にはいい感触だ。
次は、もしものための安全対策だ。
落下防止のための固定ベルトや、それでも落ちた場合に備えて防具をいくつか購入しておく。
あまり重くなりすぎても狼に負担がかかりすぎてしまうので、基本的に革装備で揃えてみた。
値段もリーズナブルでありがたい。
それでも一式で、総額20,000円近くかかったけど。
リウルとリーンが装備している革装備よりもいいものだから仕方ない。
あと風避けのゴーグルなんかも購入しておいた。
狼への命令は、特に声に出さなくても簡単にできるので、鞭とかそういうのは必要ない。
移動の際に同行するメンバーは、オレ、狼、ポチ、ブラックオウルのひとりプラス二頭プラス一羽だ。
狼は移動用だし、ポチとブラックオウルは護衛役。
ブラックオウルにはもうひとつ役目として、落下した場合に備えて風操作をしてもらう。
風操作は、土操作の風バージョンで、もし落下しても風を操作して勢いを弱めたりしてもらう。
命令はポチにまかせるので、咄嗟のことでも大丈夫だろう。
ルトやディエゴ、リーンとリウルには留守番をしていてもらう。
ある程度速度を出して移動しようと思っているので、ついてこれなくなるはずだからだ。
披露しないとはいえ、狼や犬の移動速度についてこれるかは微妙もいいところだし。
ルトは、あっさりついてきそうだけど、負担がかかって骨が折れたりしたら明日も行う迷宮探索に支障が出かねない。
準備が完了したので、さっそく狼に跨って玄関から出る。
「リウル、あっちの方角に道なりでいいんだね?」
「はい! ずっと道なりに進むと大きな川に突き当りますので、そのまま川沿いに道が続いていきます。途中で橋がありますので、そこを渡って頂いて、さらに道なり進みますと、巨大な岩がある場所で二股に道が別れています。そこを東に進むと、村があるはずです」
「了解了解。一先ずそこまで進んだら戻ってくるよ」
迷宮都市がある大体の方角と道はわかっているリウルだが、実際に行ったことはない。
なので、ある程度進んで村や街についたらそこで道を確認することにした。
やっとリウルが役に立つ場面が出てきたので、存分に頑張ってもらおう。
オレの興味は、外の世界の人々の生活には向いていないので、道中の村とかどうでもいい。
せいぜい大きな街だったらちょっと観光してもいいかな、といった程度だ。
それも、街中で異臭がしたりするレベルの場所だと遠慮したい。
なので、ミサドの街は寄らずに通り過ぎる予定だ。
では、今度こそしゅっぱーつ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「無理」
狼に乗って移動する。
幼女が犬に乗って移動するシチュエーションととてもよく似ているので、とても憧れる情景だろう。
だが、実際にはものすごくしんどい。
とことこと散歩させるレベルで歩いているくらいならばいいかもしれない。
だが、かなりの速さで走らせた場合はやばい。
まず、股とお尻がやばい。
普段使わない筋肉が酷使され、ただでさえ体力もなく、ぷにょぷにょの触り心地の大変よろしい肉体が擦れるのだ。
小一時間も頑張った自分を褒めてあげたい。
むしろその前にやめろと説得したい。
オレのバカ。
そして、股とお尻もそうだが、揺れによる酔いも辛い。
最初は大丈夫だったが、時間が経つにつれてだんだんと気持ち悪くなってきたのだ。
痛いわ、気持ち悪いわで、完全にへばってしまったオレは、部屋に戻るなりギブアップだ。
今はリーンとルトに介抱してもらっている。
いつもなら庭で盛大に遊んでいるだろうに、今はじっと床に正座をして微動だにしない。
心配している感じが下級下僕使役のおかげでひしひしと伝わってくる。
ディエゴとリウルもベランダの窓から心配そうにしているが、部屋の中に押しかけてはこない。
最初はみんな部屋の中に入ってきていたが、ルトが追い出したからだ。
あまり、集まられても落ち着けない。
それをちゃんと理解しているルトの気遣いだ。
ルトは本当に優秀だなぁ。
これで回復魔法とか使えたら最高なのに。
骨だからダメージ食らっちゃうかな? わかんないや。
……回復魔法? あー……。冷蔵庫にポーションあったな。青汁かもしれないけど。
「ルト。冷蔵庫の青汁持ってきて」
オレの言葉に首を傾げたルトだったが、手のひらに手の骨をポンとぶつけて思い出したようだ。
オレもすっかり忘れてたからね。
ルトが忘れてても仕方ない。
「ソラ様、青汁、ですか?」
「うん。ポーションかもしれないのを迷宮で手に入れてたんだよね。見た目が完全に青汁なんだけど」
「あ、あたしポーションを前にみたことがあります。緑色の液体で確かに飲んだら苦そうな見た目でした」
「お? ほんと? じゃあちょっと確認してみて。ちょうどルトが持ってきたから」
「はい!」
冷蔵庫に死蔵していた青汁をルトから受け取ったリーンは、色んな角度から眺めたあと、蓋をあけて薬品の匂いを嗅ぐように瓶の上部から手で仰いで確認すると、蓋についた青汁を少量舐める。
もし毒だったりしたら危険だから、念の為だろう。
……アンデッドに毒が効くのかわからないけど。あと本物のポーションだったら、アンデッドにダメージとかあるのだろうか?
「本物だと思います。冒険者ギルドにあった資料に載っていた通りの匂いと味ですし」
冒険者ギルドには、そんな資料があるのか。
ちょっと行ってみたい気はする。
でも、迷宮都市にだって冒険者ギルドはあるそうだし、そっちの方が規模は大きいはずだから資料の揃えもいいはずだろう。
「ほほー……。じゃあ、ちょっとだけ飲んでみようかな? あ、患部に直接かけた方がいい?」
「いえ、飲んだ方がいいはずです。ただ、すごく苦いです」
やはりポーションは飲み薬であっているようだ。
ただ、患部にかけるタイプの方がよかったな。
リーンの表情からもすごく苦そうな感じが伝わってくる。
リーンから青汁、もといポーションを受け取り、ちょぴっと舐めるように口に含む。
ものすごいエグい苦味が口の中に充満して、鼻から抜ける匂いがかなりきつい。
一瞬にして顔が渋面を作るのを感じながら、少しだけ痛みがひいたような気がした。
……これは効いてるっぽい。すごいな、本当に即効性だ。
我慢してもう少し飲んでみると明らかに痛みが引いていく。
ズボンの中を確認すると、皮が剥けて真っ赤になっていた患部に新しい皮が張り、かなり治っているのが確認できた。
ゲームや漫画でお馴染みのポーションだけど、実際に効果の程を体験すると感動するなんてもんじゃない。
日本にこれがあったら、本当に医者いらずだ。
ただ、ポーション自体は結構なレアアイテムなので、この世界でも医者は医者でちゃんと需要があるみたいだけど。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
美少女エルフ隊長へ転生した俺は、無能な指揮官に愛想がついたので軍隊を抜けました ~可愛い部下たちとスキル【ダンジョン管理】で生きのびます~
二野宮伊織
ファンタジー
ブラック企業で働いていた俺は、なぜか30歳になった瞬間、異世界に転生してしまう。
しかも、転生先はカルロス帝国第7特殊魔法中隊という、エルフのみで編成された亜人部隊の十人隊隊長だった。
その名はアレー。前世の姿とは似ても似つかない19歳の巨乳で美しい女エルフだ。
最初はその容姿に喜んだ俺だったが、この世界の亜人の立場はかなり低く、無能な人間の指揮官に振り回される日々を過ごしていた。
そんなある日、俺たちは進軍の休憩中に敵の襲撃にあってしまう。その戦力十倍差という圧倒的不利な戦いにも関わらず、無謀な作戦を実行する指揮官。
それを見て俺たちは愛想をつかし、軍を脱走し敵兵から逃げる事にした。
必死に逃亡して逃げ込んだ洞窟で主人公は神様に出会い、【ダンジョン管理】というスキルを与えられる。これは、洞窟を自分の意のままに変えられるという能力だ。
主人公はこのスキルを使って、仲間たちと共にダンジョンで生き残ることを決意する。敵兵や帝国の追っ手に脅えながらも、俺は美少女エルフの仲間たちと共に異世界でサバイバルを始めたのだった。
※誤字、脱字等がありましたら、感想欄等で報告していただければありがたいです。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
TS調教施設 ~敵国に捕らえられ女体化ナノマシンで快楽調教されました~
エルトリア
SF
世界有数の大国ロタール連邦の軍人アルフ・エーベルバッハ。彼は敵国アウライ帝国との戦争で数え切れぬ武勲をあげ、僅か四年で少佐にまで昇進し、救国の英雄となる道を歩んでいた。
しかし、所属している基地が突如大規模な攻撃を受け、捕虜になったことにより、アルフの人生は一変する。
「さっさと殺すことだな」
そう鋭く静かに言い放った彼に待ち受けていたものは死よりも残酷で屈辱的な扱いだった。
「こ、これは。私の身体なのか…!?」
ナノマシンによる肉体改造によりアルフの身体は年端もいかない少女へと変容してしまう。
怒りに震えるアルフ。調教師と呼ばれる男はそれを見ながら言い放つ。
「お前は食事ではなく精液でしか栄養を摂取出来ない身体になったんだよ」
こうしてアルフは089という囚人番号を与えられ、雌奴隷として調教される第二の人生を歩み始めた。
※個人制作でコミカライズ版を配信しました。作品下部バナーでご検索ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる