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019,リウルとリーン
しおりを挟む森の死神の使役も無事に終わり、これで使役すべき対象は全部終わりだ。
森の死神が自由意思持ちではなかったのは残念だけど、それはそれで仕方ない。
でも、確実な戦力アップにはなるのだから、とりあえずはよしとしよう。
森の死神は、虚ろな瞳のまま一切微動だにしない。
この辺は狼ズ同様完全に命令待ちだ。
ルトなんて、やることが終わったので遊びたくてそわそわしているし、リウルとリーンの人間組はキラキラした目でこちらをみている。
「ルト、もうやることないから遊んでていいよ。リウルとリーンはこっちで話を聞かせて」
「「はい!」」
オレの言葉を聞いた瞬間には、ルトはもうディエゴたちと駆け出して行った。
よほど遊びたかったのだろうか。いや、実際遊びたいのだろう。
ボールの種類も増えたし、ディエゴの魔法でアスレチック的なものも簡単に作れるから、遊びの幅もかなり広がったみたいだからね。
今も、さっそくディエゴが様々な石のオブジェを庭に作り出している。
ボールと石のオブジェを使った新感覚スポーツを作り出しそうな勢いだね。
オレはやらないけど。
「さて、まずはふたりとも汚いから順番にシャワーを浴びて。着替えも新しいのを用意してあげよう。今着てるのはボロボロだし、汚いし、もう捨てようか」
「よ、よろしいのですか!?」
「ありがとうございます! ソラ様!」
森の死神と戦ってボロボロになっているふたりの服は、まだ一応服として機能しているが、正直言ってみすぼらしい外見だ。
装備についても新しいものを用意する必要があるだろうし、一緒に行動する以上はそのままというのはオレが気になる。
この辺は必要経費だろう。
武器についてはルトとの模擬戦時に購入したもので一先ずはいいだろうし。
大体、このふたりに戦闘方面は期待していないのだから。
この世界にも、レディーファーストという言葉があるのか知らないが、リーンが最初にシャワーを浴びている間に着替えを見繕う。
資金もぼちぼち減ってきたが、ふたり分の着替えを買う分くらいはなんとかなる。
当然安くて見た目もマシなものを選んだが、リーンは女の子なのでちゃんとした下着なども必要だろう。
ただ、サイズなどがよくわからなかったので、これだけはフリーサイズ(魔法)で対応した。
購入した服を、リーンの分は声をかけて脱衣所に置き、リウルにも手渡す。
ふたりともいたく感激していたが、全部あわせて5000円もかかっていない安物だ。
ちゃんと役に立ったら、着替えも含めてもっといいものを買ってあげよう。
役立つのか微妙だけど。
ちなみに、靴に関しては丈夫そうな革靴ふたりとも履いていて、こちらは無事だったのでそのままだ。
しかし、これも外の世界の品で、丈夫そうではあってもあまりものとしてはよくはなさそうだ。
「リウルたちの装備はとりあえず、間に合わせでいいよね。戦闘は基本的にルトたちに任せておけば問題ないはずだから」
「先輩たちにはとてもではないですが敵いませんが、微力を尽くします!」
「まあ、無理しない程度にね。君たちには基本的に戦闘以外で貢献してもらうつもりだから」
「はい! 主様!」
ルトとの模擬戦で瞬殺されているし、ディエゴや森の死神みたいに魔法も使えない。
自分たちが戦闘ではほとんど貢献できないだろうことは、リウルもちゃんと理解している。
使役時に流れ込んだという知識もあるし、意思疎通も楽にできる。
人間ということもあって、オレの身の回りの世話や、ルトたちじゃあまりできないことをやらせるべきだろう。
あとはやっぱり、外の世界の情報だ。
「じゃあ、リウル。さっそくだけど、外の世界のことを教えてくれる? まずは君らはなんであんなところにいたの?」
「はい! 私たちがあの森に冒険者ギルドの依頼を受けて薬草を採取しに来ていました。あの森は、少し入った浅い場所に薬草がそれなりに生えているので――」
リウルに話を聞いていくと、彼らは冒険者ギルドという、いわゆる何でも屋を生業とした組織に所属し、そのギルドの依頼をこなして生計を立てていたそうだ。
冒険者ギルド。
実に心躍る名称ではないだろうか。
異世界といったらやっぱり冒険者ギルドだよね。
オレも街に行ったら登録して、ガラの悪い先輩冒険者に因縁をつけられて、ルトたちがフルボッコにする流れを体験してみたい。
オレの見た目は可愛らしいダークエルフの幼女だし、どうみたって戦闘力は皆無だ。
そんなオレが荒事も依頼として多いという冒険者になろうとすれば、当然そういう流れもあるだろう。
いや、きっとある!
面倒事はいらないけど、そういうお約束はちょっと楽しみだ。
まあ、実際に街まで行くかどうかはまだわからないけど。
リウルたちは三人でパーティを組んで様々な依頼をこなしていたそうだ。
冒険者には階級が存在し、銅証→青銅証→鉄証→黒鉄証→銀証→魔法銀証の順に階級が上がっていく。
鉄証で、一人前と言われるそうで、なんとリウルたちは鉄証だった。
ルトに瞬殺されるレベルで一人前だと言われると、ちょっと首を傾げたくなるが、それだけルトが規格外だといえるのかもしれない。ちょっとうれしい。
リウルたちは、あの森から四日ほどの距離にあるミサドの街を拠点としており、ふたりはそこの出身でもあるそうだ。
赤髪の少年は別の村の出身だそうだが、三人とも冒険者ギルドに登録してある程度活動してから知り合った間柄らしい。
そこまで聞き出したところで、リーンがようやく浴室からでてきたのでリウルと交代する。
時間がかかった理由は、基本的に外の世界ではお風呂やシャワーは富裕層以上しか使っておらず、水やお湯で体を拭く程度なので、垢や髪の汚れなどすごいことになっていたからだそうだ。
当然、シャンプーも石鹸もない環境だし、いくら綺麗にしていても限界というものがある。
さらには、四日間も水浴びすらできない状態で森まで来ていて、森の死神戦でボロボロにされれば時間もかかるというものだ。
おかげで、現代日本の高品質なシャンプーや石鹸をたっぷり使って綺麗になったリーンは見違えるほど可愛らしくなった。
とはいっても、アイドル並に可愛いわけでもなければ、道行く人が何人も振り返るようなものでもない。
ボクのような完璧な容姿というわけではないからね。
それでも可愛いのには変わりないし、結構印象も変わるものだ。
「うん。見違えたよ、リーン。可愛くなった」
「あ、ありがとうございます! 知識ではわかっていても、シャンプーやリンス、石鹸はすごいですね……。あとお風呂もすごく気持ちよかったです!」
お風呂に入ったことがないリーンには、かなり衝撃的なものだったようで、それはもう満面の笑みでの発言だ。
流れ込んだ知識で知ってはいても、実際に体験してみないことにはわからないことも多いみたいで、これから色々と驚くこともたくさんありそうだ。
「まあ、これからは毎日入って綺麗にしててね。特にリーンにはオレの身の回りのお世話とかやってもらうから」
「はい! わかりました、ソラ様!」
元気に返事をするリーンに適当に座ってもらい、ホカホカの彼女からもリウル同様話を聞く。
ただ、同じことを聞いても仕方ないので、ミサドの街のことや、ほかの冒険者や、魔物について色々と聞いていく。
特に強力な魔物が出現する地域については重要だ。
この辺の情報は、街の外で仕事をすることが多い冒険者たちも重要な情報だと認識しているみたいで、魔物の生息域に関することは広く共有されている。
おかげで、強力な魔物や厄介な魔法を使う魔物の情報が結構簡単に手に入れることができた。
ただ、ミサドの街周辺で一番強いとされる魔物は、森の死神――ブラックオウルだそうだ。
周辺の森の奥地に生息しているそうだが、稀に森の浅い層にも姿を現すことから、森自体が危険な場所となっている。
ほかにも森は魔物の生息数が格段に多いので、危険な場所だが、ブラックオウルのせいで依頼の難易度がほかよりも二段階は高いそうな。
その分収入もいいので、鉄証くらいになると、リスクと引き換えに森へ入る冒険者も多い。
そして、リウルたちのように不運にもブラックオウルに遭遇して死ぬそうだ。
まあ、ほとんどの場合、浅い層では遭遇しないので滅多なことではそういった事態にはならないそうだけど。
つまり、オレたちは運がよかったということだ。
森の奥にまで行かなければ出会うことがない強力な魔物に遭遇し、倒すことができた上に、外の世界の情報も一緒にゲットできた。
ルトとポチ、ディエゴといい、オレの死霊術師としの運はなかなか極まっていると思う。
まあ、その分オレは弱いままだし、うっかり死なないように気をつけなければいけない。
ところで、外の世界の街なんだが、リウルやリーンの不潔な感じといい、話を聞いた感想としては、正直行きたくない。
街中に糞尿が垂れ流しになっているレベルではないらしいが、宿のベッドはマットレスの代わりに藁だし、気をつけないとノミやシラミもたくさんいるそうだ。
リウルたちは、幸いなことにブラックオウルの魔法で散々ふっとばされていたのでその辺もふるい落とされていてラッキーだったみたいだ。
まあ、あんな魔法を食らいまくっていたら、ノミやシラミも逃げ出すってもんだ。
それに、彼らは一応それなりには普段から身ぎれいにしていたみたいなので、ほかの無頓着な冒険者よりはマシな方らしい。
食事に関しても、調味料の類が乏しく、砂糖や胡椒は高価で、調理の種類も少ない。
必然的に料理の幅が狭まり、煮る焼くといった程度のものが主流で、味付けも素材の味をそのままとか、かなり残念な印象だ。
高級店にいけば、それなりのものが食べられるという話だが、彼女たちは行ったことがないので、又聞き情報らしい。
これだけでは外の世界の街へ行くメリットがまったくないと言ってもいい。
ただ、迷宮都市と呼ばれる場所にはちょっと惹かれた。
オレたちが駆除対象としている迷宮とは違い、ある程度外の人間たちが頑張って管理している迷宮があるのは知っている。
そういった場所の近くには、迷宮でとれる魔石を目当てにたくさんの人が集まり、大きな街が作られている。
その街のことを迷宮都市といい、魔石を利用した便利な道具――魔道具などがたくさんあるという。
リウルたちも、ミサドの街で経験と実績を積んで、いい装備を購入したら一番近い迷宮都市に行く予定だったそうだ。
ただ、一人前の冒険者と呼ばれる鉄証でも、迷宮都市で活動するには足りないらしく、最低でももうひとつ上のランクの黒鉄証になってからの話だったそうだ。
まあ、確かにルトに瞬殺されている程度の腕では管理されている迷宮とはいえ、かなり無謀だろう。
それに、迷宮都市は魔道具のほかにも各地から色々な物が集まってくる場所なので、ほかの街よりも様々なものが発達している。
もちろん、香辛料や調味料の類もたくさん集まってくるので、安価ではないが、それなりに安く手に入るそうだ。
そうなると当然料理なども発達しているそうで、迷宮都市は別名美食都市などとも呼ばれるそうだ。
どういうわけか、迷宮にいる魔物の肉なども迷宮都市では食べられるという。
倒すと魔石を残して消滅してしまうはずだが、何かしらの手段があるのだろう。
そうなると、俄然興味が湧いてくる。
どんな味がするのか……ではもちろんない。
肉が食べられるということは死体が残るということだ。
つまりは使役が可能なのだ。
これは死霊術師であるオレにとっては、知っておかなければいけない重大な情報なのは間違いない。
決して、美味しい料理に心惹かれているわけではない……!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「美味しい……」
「ありがとうございます! こんなにたくさん調味料や香辛料を買っていただいたのですから、頑張りました!」
「うん。一緒に買った料理本を参考にして、もっと美味しいのたくさん作ってね。そのためならある程度の出費は許容するよ」
「はい! ソラ様! 精進致します!」
そんなわけで、まずはリーンに料理を作ってもらった。
自動補充されるもの以外にも、様々な香辛料や調味料などを購入し、さらにレパートリーを増やすためにも料理本も与えてみた結果、リーンの料理の腕は確かだと判明したのだ。
リーンの腕が悪くても、料理本があればオレだって色々作れるので無駄になることはないしね。
ちなみに、料理のできないリウルは庭でルトたちに特訓されてボロボロで転がっている。
オレの世話や料理はリーンひとりいれば十分だから、彼にはほかのことで頑張ってもらうしかない。
それができないなら……まあ、ぶっちゃけいらないよね。
使役枠も余ってないんだし。
がんばれ、リウル。期待はしていない!
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