ラビリンス・シード

天界

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008 みんなで生産

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 『ピタ』に帰還する途中、周りがだんだんと赤く染まり始めゲーム内での時間が夜になろうとしていた。
 『ラビリンス・シード』にはしっかりと時間設定があり、現実世界と同じ24時間周期で動いている。
 だがもちろん現実世界とは時間の流れが違うのでゲーム内の時間はゲーム内の時間だ。
 18時から6時までは夜の時間となり、出現するMOBが変化したりNPC達が店を畳んだりする。
 ちなみに総合ギルドは24時間営業で、他にも夜遅くまでやっている店もある。
 プレイヤー達はVR内では肉体的な疲れを感じないため、延々と活動し続けられる。それもあっての『クロノス』の1日の利用制限だったりする。

 『ピタ』周辺のフィールドは夜の時間になるとMOBの強さが1段階引き上げられるので林フィールドで無双をしてきた双子にとっては絶好の狩り時間になるのだが、今回はパスすることにした。
 なぜなら色々とやることがあるし、いくら疲れないVR内とはいえボクとしては延々戦闘し続けるのはどうかと思うからだ。
 じゃあ休憩するのかと言われるとそれも少しばかり違うんだけどね。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 『ピタ』に帰ってくると完全に日は沈み、街の中も随所で灯りが点ってなかなか幻想的な光景になっている。
 そんな中を北の総合ギルドに向かって歩いていく。
 相変わらず『認識阻害/C+』がいい仕事してくれているのでボク達をボク達だと認識するプレイヤーはいないようだ。
 総合ギルドではクエストの報告と稼ぎまくったドロップアイテムの一部の売却を行い、そそくさと後にする。
 買取カウンターにドロップ品を山積みするような事はシステム的にありえないので何を売却しているかは他のプレイヤーには知られない。
 なのであまりプレイヤーが進出していない林フィールドのドロップを売っていたとしても問題ないのだ。
 まぁそこまで神経質になるほど希少というほどの素材でもないんだけどね。

 売却金額とクエスト報酬で懐が潤ったところで食材や足りない素材を露店やNPCの店で購入していく。
 露店も狩りに出る前よりも大分増えていて、すでにプレイヤーメイドの装備品もいくつか売られ始めていた。
 でも性能はやっぱりお察しレベルというか、双子に持たせている物と比べるとどうしても見劣りするものばかりだ。
 この辺は予想通りだし、ボクの作った装備よりも性能のいいものが普通に売っていたらそれはそれでびっくりだけどね。

 前回使った生産施設とは別の場所で個別スペースをレンタルする。
 さっそく中に入ると生産開始……ではなく、実はその前にやることがある。
 実は『スキル』枠は合計『スキル』Lvアップ数が50を超えると1つ増加するのだ。
 狩りに出る前にパワーレベリングのおかげでボクの『スキル』枠は1つ増加していたのだけど、双子コンビの枠は増加していなかった。まぁ当たり前なんだけど。
 でも新しい装備もあってすぐに条件を満たすだろうと思って一時保留しておいたのだ。
 どうせなら最初の増加した『スキル』枠くらい一緒に埋めたいじゃない?
 特にボクは生産系『スキル』しか取らないだろうから狩りの間は『スキル』を増やさなくても問題ないし。

 ちなみに今『スキル』はこんな感じ――

 ====

 【観察/Lv9 ↑1UP】【初級鍛冶術/Lv9】【初級裁縫術/Lv15】【初級錬金術/Lv1】【採取/Lv5 ↑1UP】
 【空】

 ====

 溜まっている『SP』は実は6もあったりする。
 『無印スキル』への派生進化は大体『SP』の消費が1か2で、『スキル』はLv10ごとに『SP』が1つもらえるので『無印スキル』以降は割と余裕が生まれるようになっている。
 ただ、進化を重ねると進化する際の『SP』消費がどんどん多くなっていくので先を見据えるなら今の余裕はそれほど大きいものではないはずだ。

 というわけでここで大量に『スキル』を取るのは些か早計。
 まぁ生産系『スキル』を取りまくって軒並みパワーレベリングしてしまうという方法も無きにしも非ずだけどね。

 そんなわけで増加した『スキル』枠用に新たに取得した『スキル』は【鍛冶】。
 またか、と思うだろうけど用があるのは派生進化先の『スキル』なのだ。
 今度は【初級鍛冶術】ではなく、【初級彫金術】を取得する。
 それにより武器や防具だけではなく、インゴットや鉱石を素材としたアクセサリーを作れるようになるのだ。
 これで素材不足で作れなかった双子のアクセサリー枠を埋めることが出来る。

「ボクは【初級彫金術】のために【鍛冶】にしたよ。2人はどんな『スキル』を取得したのかな?」
「私はお菓子作りのために【調理】と無双を続けやすくするために【索敵】ですわ」
「俺は防御範囲を広げるための【当たり判定増加】と……【錬金】を」
「ナツ……なんで【錬金】を取得しましたの? 兄様の腕を疑っているのかしら?」
「違う!」

 双子コンビに新たに取得した『スキル』を聞いたら何やらちょっと雲行きが怪しくなってきた。
 でもボクはすぐにピンときた。
 アキが言うようにナツがボクの生産に不満を持っている、ということはまずない。
 恐らく……というかボクの可愛い可愛い弟のことだから……きっと。

「アキ。ナツは戦闘以外でもボクの役に立ちたいから選んだんだと思うよ」
「兄様……あ、【合成錬金】目当てですの?」
「……あぁ」

 ちょっと恥ずかしそうにしている可愛い弟に優しい笑みが漏れる。
 アキが料理を担当することで戦闘以外でもボク達の役に立てるようになったのがナツは悔しかったみたいだ。
 だからボクがいずれは取ろうと思っていた【合成錬金】を代わりに取得してくれたみたいなのだ。
 ボクみたいなパワーレベリングは出来なくても地道にゆっくりやれば『スキル』はLvアップしていくし、【合成錬金】の場合はミニゲーム化しなくてもリアル志向の工程が非常に簡単なので必ずしもボクがやる必要はない。

「そうでしたの……。ナツ、ごめんなさい。2人で兄様のお役に立ちましょう!」
「あぁ! 俺の方こそ、その、ごめんな」
「いいんですのよ」

 美しき兄弟愛を目にしてボクも目頭が若干熱くなってしまうけれど、VR内で涙は流せない。
 そんなところで「あぁ、ゲームなんだなぁ」と実感してしまう。
 ……涙は第5世代に期待かな。

「さぁ2人共! 仲直りをしたところでさっそく生産やるよ!」
「「はい、兄上(兄様)!」」

 パワーレベリングが出来ない双子コンビはゆっくりと新たに取得した生産『スキル』を鍛え、ボクはボクでガンガンミニゲームのステージを積み上げてパワーレベリングを行っていく。
 そのおかげで2人がLvを2つ上げる間にあっという間に【鍛冶】がLvMAXにまでなってしまった。
 まったく大した速度だぜぇ。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「……普段通りに作っているのに全然おいしくありませんわ……おかしいですわ」
「……兄上レベルを望むのは無理があるとしてもせめてもうすこしこう……」
「2人共がんばれー。ボクがおかしいんであって、それが普通だからねー」
「「兄上(兄様)ー!」」
「よしよし、めげずにがんばるんだよー」

 リアルではプロ顔負けのお菓子を作っているアキでも使っている食材の品質や『スキル』、設備のグレードが低いからか、思ったような味が出ないらしい。
 ナツに至ってはボクがしょっぱなに作った『初級ヒーリングポーション』が根幹にあるためにどうしても見劣りしてしまっているみたいだ。
 だがこれがプレイヤーとしては普通なのだ。おかしいのはボクであり、2人が正しいのだ。

 でもそれとこれとは話が別で、しょげている双子コンビを慰めてあげるのも兄の大事な役目だ。
 抱きついてくる2人の頭をいい子いい子と撫でてあげればすぐにやる気を取り戻してLvアップ作業に戻っていく。
 まったく可愛い双子ちゃんだよね。

 ボクも派生進化させた【初級彫金術】のLv上げを兼ねて双子用のアクセサリーを作っていく。
 指が2つに耳と首がアクセサリーの装備枠だ。
 1人4つもつけられるアクセサリーだけど、防具と比べると1つ1つの性能はかなり低くなるみたいで4つ装備しても劇的には強くならないみたいだ。
 とはいってもそこはボクの作った装備、露店で見かけたプレイヤーメイドのアクセサリーとはやはり一線を画した性能だった。

 ====

 翠欠片石の耳飾
 耐久:C+

 総合品質:C

 追加効果:
 HP増加/C+ 斬撃耐性増加/C-

 ====

 アクセサリーは防具枠ではないので基本的に防御力は増加せず、追加効果で性能が決まるタイプだ。
 一応これもステージ数15のノーミスフルスコアの産物なのだけど、2つしか追加効果がついておらず、追加効果のランクも特筆すべきものはない。
 まぁ露店で見かけたアクセサリーは追加効果1つでランクもH+だったから十分といえば十分なんだけどね。

 ちなみに材料には拾ったよくわからない石を【初級彫金術】の『アーツ』である『簡易研磨』で磨いた結果得られた『翠欠片石』を使っている。たぶんエメラルドの欠片だと思うけど詳しくはしらない。
 最終的な外見は『グラフィックシード』依存だから材料の原型は色くらいしか残ってないしね。

 こんな感じでいくつかアクセサリーを作成しているうちに双子コンビのやる気がまた0になってしまったようだ。
 2人仲良く椅子に座ってボクの生産風景をキラキラした瞳で眺めている。
 ……涙は流せないくせにそういった部分には異常に力を入れてる『クロノス』に微妙な気持ちが沸いてくるけど、双子コンビが可愛いのでよしとしよう。

 双子の分のアクセサリー制作が終わったら自分の分だ。
 とはいっても今までアクセサリーについた追加効果から見て生産がメインのボクにはあまり役に立たないものしか出ていない。

 ……そういえば林フィールドで無双していたときに1つだけ『アビリティシード』が出ていたんだった。
 あれの追加効果は『器用増加/H』だったはずだ。
 ボクにとってはあまり意味がないかもしれないが、苦戦している双子にはいいかもしれない。
 リアル志向で生産している2人なので『器用増加/H』は地味に効果があるはずだ。βテストと掲示板でそんな話があがっていたのだ。
 ミニゲームでも難易度や判定が楽になるという効果があるみたいなことを言っていたけど、ボクとしては難易度に不満がある中でそんなことをされても楽しくない。

 ボクのアクセサリーを作るはずが結局は双子のアクセサリーを追加で作ることになったけど、何の問題もない。
 だって可愛い可愛いボクの双子ちゃん達のためだもの。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「出来たっと」
「「おめでとうございます、兄上(兄様)!」」

 ぴったりと息の合った双子コンビの言葉に笑顔を返して完成したアクセサリーの詳細を見てみる。
 『アビリティシード』を使ったのは初めてだったけれど、特にミニゲームに問題はなく難易度も急上昇することはなかった。
 掲示板には付与判定が発生する際には難易度が上昇するとあったのだが、まったくそんな感じはしなかった。
 元々高難易度なステージ数なために感じられなかっただけだろうか。
 まぁ何にせよ付与は成功しているのでよしとしよう。

 出来たアクセサリーはこんな感じだ――

 ====

 ツインリング(銅)
 耐久:D+

 総合品質:F+

 追加効果:
 器用増加/H MP増加/C 挑発補正/D-

 ====

 ナツに有用そうな『挑発補正/D-』がこのタイミングで発生するとか恨めしい。
 総合品質が低いのは『アビリティシード』の効果が低いのが原因だ。
 まぁ総合品質自体は追加効果に影響を与えるわけじゃないから別にいいんだけど。総合品質が影響を与えるのは別の対象だからね。

「じゃあジャンケンして」
「「え?」」
「これ『アビリティシード』を使ったやつなんだけど1個しかないからね。交代で使ってもいいけど、まずは順番を決めないとね」
「「わかりました(わ)」」

 入手していた『アビリティシード』の効果は説明してあったので納得した双子コンビはボクの言うとおりにすぐにジャンケンを始める。
 でも双子の力というか言動が一致する時が多いこの2人はジャンケンも似たようなもので……結局1分くらいで決まったのだけど、今回は短かった方だろう。
 でも長い付き合いでジャンケンが1番揉めずに公平に決められる方法だと理解しているボクは時間がかかってもジャンケンを選ぶんだけどね。

「っしゃぁ! ですわ!」
「じゃあアキが最初ね」
「ぐぬぬ……」
「ふふ……兄様の指輪は私のものですわ!」
「いやいや順番だからね」
「そうだそうだ! 順番だぞ!」
「負け犬の遠吠えにしか聞こえませんわ!」

 双子のじゃれあいを生温かい眼差しで眺めながらも『ラビリンス・シード』初の夜の時間はゆったりと流れていく。
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