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014 夜時間と投擲
しおりを挟む最終的に個別スペースを出たのはゲーム内時間が夜になって少し経ったくらいだった。
つまりは延長しました。いえい。
本当は延長するつもりはなかったんだけど、色々作っていたらやっぱり時間が足りなくて仕方なかったのだ。うん、仕方なかったのだ。
まぁ延長しても双子は文句なんて言わない。むしろキラキラした瞳でボクの生産風景を見ているくらいだ。
そんなわけで予定よりはちょっとだけ遅くなったけど、初めての夜時間の狩りだ。
夜時間のフィールドは難易度が1段階上昇する。
戦闘系の『スキル』Lvを上げるのには絶好の機会ではあるものの、しっかりと対策を立てないと割ときつめの狩りになるらしい。
難易度が上昇するのは何もMOBの強さだけではなく、その攻撃パターンなんかも変化するからだ。
もちろん昼時間のMOBとは違うMOBが出てくるので攻撃パターンが変化するのは当然なんだが、昼時間のMOBのほとんどが物理的な直接攻撃しかしてこないのに対して、夜時間のMOBは間接的な攻撃や暗闇、物陰――つまりは環境を利用して攻撃してくるようになる。
例えば、草原フィールドでは月明かりだけの草の海に隠れて奇襲を仕掛けてくるようになる。
昼時間ではノンアクティブのMOBしかいなかった草原フィールドも夜時間ではノンアクティブのMOBの方が少なくなる。
奇襲を受けないためにも周囲の索敵は必須事項だし、月明かりしかない環境での光源の確保など色々と対策が必要となるのだ。
草原フィールドを抜けた先にある林フィールドは更に難易度が高くなる。
ここからは樹上からの強襲や遠距離攻撃、木々を隠れ蓑にした奇襲でガンガン攻めてくる。
そう、遠距離攻撃持ちが登場するのだ。
昼時間には林フィールドの先の森フィールドですら、遠距離攻撃持ちはいなかった。
だが夜時間では林フィールドに遠距離攻撃持ちが出始める。
だが魔法攻撃というわけではなく、列記とした物理攻撃であり打撃属性でもあるため、打撃耐性を高めておけば奇襲を受けても早々簡単には沈まないようになる。
林フィールドを越えると次は森フィールドだ。
ボク達の今回の狩り場は当然こことなる。
『ビッグうさたん』の居た場所から少し戻ったところの広場には石碑があり、登録も済んでいるので転移できたのだが、夜時間は初めてということもありここまで徒歩でMOBを多少倒しながらやってきた。
多少なのは当然『うさたんキグルミパジャマ』を装備しているため、『認識阻害/C+』が働いていたからだ。
進行方向にいるMOBだけを倒してきたので数は少ないものの狩場に到着するまでに夜時間のMOBを狩れたのはいい経験になった。
やはり昼時間と夜時間では聞いていた以上に難易度が異なる。
遠距離や環境を使った攻撃パターンが増えると思った以上にMOBは強く感じる。
直線的に向かってきて足を止めて物理攻撃オンリーしかしてこない昼時間のMOBはやはり序盤も序盤の雑魚でしかないのだ。
まぁそうはいっても双子コンビにはボクの作った装備がある。
奇襲を成功させるどころか、まず見つからない。なので基本的にボク達が有利な状況で戦える。
さらには火力が平均よりも恐らく8,9段階以上は高いと予想されるのでほとんどが1撃で倒せてしまう。
そんな状況なので奇襲や環境を使った攻撃パターンなんかは他のプレイヤーの戦闘風景を目撃したものだ。
現状での平均的プレイヤーには夜時間のフィールドはかなり大変なのは見ていてよくわかった。
ちなみに今回の狩りからボクも戦闘に参加している。
『ビッグうさたん』戦でわかったことではあるが、ボク達は3人しかいないのでボス戦などはかなり厳しい。
その上3分の1が足手まといではこれから先が思いやられる。
初めは生産だけしていればいいや、と思っていたがそうも言ってはいられない状況だ。
別に戦闘が嫌というわけではない。
ただ双子コンビのように戦闘系『スキル』で固めてまではガッツリやるつもりはないというだけだ。
なのでボクが今回の狩り用に取得した戦闘系『スキル』は1つだけだ。
それにボクの生産能力を活かさない手はない。なのでそういった諸々を考慮した結果、ボクの『スキル』構成はこうなった。
====
【初級物品鑑定術/Lv36 ↑33UP】【初級鍛冶術/Lv27 ↑10UP】【初級裁縫術/Lv20 ↑2UP】【初級錬金術/Lv31 ↑12UP】【採取/Lv8】
【投擲/Lv6】
控え
【初級彫金術/Lv24】【初級符術/Lv22】【初級魔宝石細工術/Lv28】【初級呪術/Lv19】【初級木工細工術/Lv12】【初級陣術/Lv25】
====
まぁ色々増えているけれど、その辺は戦闘系『スキル』――【投擲】でボクの生産能力を有効活用するために必要なものだからだ。
さらに【投擲】のためにボクは武器まで作ってしまった。
それがこれ!
====
パチンコ
基本攻撃力:1
耐久:A+
総合品質:S
追加効果:
基本値低下/C+ 耐久増加/A 命中補正増加/A+ 効果範囲増加/S+ 暗闇耐性増加/S
====
『ラビリンス・シード』で生産活動を初めて、ついに出てしまった低下系の追加効果。
だがボクはこれが決して悪いものだとは思っていない。
むしろこれはこれでボクの戦闘スタイルの確立の一助になってくれるかもしれないとさえ思っている。
なぜなら――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほいっとな」
パチンコのゴム紐を手から離すと【命中補正増加/A+】のおかげか、結構適当なボクの腕でもMOBに向かってまっすぐと飛んでいってくれる。
ボクの放った弾がMOBに接触すると、一瞬にして黒い蔦がMOBの足に絡み付きその効果を発揮する。
動きを制限された一瞬で、MOBの首から上が孤を描くアキの蹴り――『円月蹴り』で切り離され、砕け散る。
ボクが放った弾は【初級呪術】で作った『呪石:足止』というそのまんまなネーミングの消費型アイテムだ。
その効果はアイテム名そのままに接触した相手の足に黒い蔦が纏わり付き動きを封じるという状態異常――『足止め』にするデバフアイテムだ。
「兄上、こちらをどうぞ!」
「さんきゅー」
ナツが挑発でヘイトを稼いで引き付けているMOBには『呪石:足止』同様に【初級呪術】で作った『呪石:痺』をぶつけて『麻痺』状態にする。
でもやっぱりアキの『円月蹴り』ですぐに首から上を切り飛ばされて砕け散るんだけどね。
さらに襲い掛かってくるMOBに消費型のアイテムを『パチンコ』で投擲し、アキに止めを刺してもらう。
ナツが挑発で動きを止め、ボクが投擲し、アキが止めを刺しているが一連の戦闘でボクの役目は基本的に必要ない。
でもこれはボクの【初級誘導術】のLv上げもかねているので特に問題ない。
あ、ちなみに【初級誘導術】は【投擲】が派生進化した『スキル』だ。
【投擲】系統の『スキル』は基本的にアイテムを消費して攻撃する。
そのためメイン武器とするにはコストの嵩みっぷりがかなり懐に痛い。
ほとんどの人がサブウェポンか手数を増やすために使っていたりする程度だ。
だがボクはこの【投擲】系統『スキル』をメインウェポンとして使っていく。
とはいっても基本的にボクがやるのは『足止め』や『麻痺』なんかをメインとした補助だけどね。
しかもアイテムを消費して攻撃する【投擲】系統『スキル』は経験値の割合が消費するアイテム《・・・・・・・・》|の総合品質に依存している。
つまりはボクが作るアイテムならばパワーレベリングが行えてしまうというわけだ。
しかも『パチンコ』自体の攻撃力が1でも問題ないと思っているように、【投擲】系統『スキル』は消費するアイテム自体の効果を目的としている。
『パチンコ』の攻撃力が高くなっても当たった時に受けるダメージが増えるだけなので、総合品質が高いアイテムの効果を目的とした場合はダメージに固執する必要性はないということなのだ。
ダメージディーラーはアキが担ってくれてるしね。
それにボクはデバフアイテムばかりを投擲しているわけではない。
新規で取得した様々な『スキル』で作れるバフ――味方を強化したりする――アイテムを投擲したりもするのだ。
なのでむしろ『パチンコ』の攻撃力は邪魔だったりする。
双子コンビに投擲したときにダメージが発生したりするのは無意味どころか邪魔だからね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
戦闘にボクも参加するようになって多少効率は落ちたとはいっても、そこは双子コンビの装備と夜時間というMOBの難易度が上がった時間だ。どんどん『スキル』Lvは上昇していく。
でもやっぱり最初にやっていたようなボクがデバフアイテムを投擲するのは非効率過ぎたので、ちょっとだけ作った攻撃用消費型アイテムを投擲したり、バフアイテムを双子コンビに投擲して強化したりするようにだんだんとシフトしていった。
それでも対ボス戦を想定した連携の練習とか、色々な戦闘方法を模索していった結果、ボクの【初級誘導術】はなんとこの夜時間の狩りだけでボクの取得した『スキル』の中でも最も高いLvであるLv38まで上がってしまった。
まぁおかげで作ってきた消費型アイテムはほとんど底をついたのだけどね。
ナツも【初級挑発術/Lv38】が最高で、アキも【初級格闘術/Lv39】が最高だ。
2人共今回の狩りでは最も成長している『スキル』がこの2つだが、これまでの蓄積も当然ある。
ボクは狩りの前に取得した『スキル』でもあるので、この成長速度はちょっとすごすぎる。
いくら総合品質に依存した経験値といっても驚きの早さだ。
……でも、今回ボクが狩り中に使用したバフデバフアイテムを市場に流したら10分の1くらいでも恐らくひと財産になっていただろう。
何せ総合品質は軒並みAかBなのだ。未だにDを作ったら称賛されるような状況でこんなランクのものを出せばどうなるかは想像に難くない。
まぁ今まで通りにボクが作ったアイテムはボク達で使うから関係ない事ではあるんだけどね。
こうして夜時間の狩りをたっぷり楽しんで『ピタ』へと帰還した。
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