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第二話

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 オタマジャクシになって、どれくらいの時間が経ったのだろう。
 人間だった時の感覚だと、すでに半日ほど経過しているはずなのだが、何かがおかしい。

 カエルは水辺や池などの水の豊富な場所に産卵するはず。
 だってオタマジャクシの俺たちは、エラ呼吸だしね。土の中とかに産まれたら、すぐに窒息して死んじゃうわけさ。

 ……というかすでに息苦しい。しかもめちゃくちゃお腹が空いた。

 みんなが食べてるのを真似て、俺たちが産まれてきたらしい卵の残骸みたいなゼリー状のを食べたけど、全然足りない。

 ……だいたい俺は何を食べるんだ? 藻とか水草……いや、そもそもカエルって一応肉食……ジュル。
 ハッ! いかんいかん。

 カエルが肉食であることを思い出すと、激しい空腹にも刺激されて、周りのオタマジャクシが美味しそうだという感情が沸き上がる。さすがに共食いなんてと、人間だった頃の倫理観で自分を抑えたのだが、他の連中は本能さんに忠実だったらしく……。

 いてぇっ!……てめえ、何てことしやがる。

 考えることは皆同じだったのだろう……ぬるぬるしたオタマジャクシ達に押されたり、ぶつかられるのはずっとなので、その辺の感覚は麻痺してきていて痛いとは感じないのだが、突然尾びれにそれとは異なる痛みが走る。
 身体をひねって見てみれば……おいおい、一匹かじりついてやがるよ。

 ……このまま喰われるなんて冗談じゃねえ!先に手を……いや、口か。まあいい。
 仕掛けて来たのはそっちだからな。覚悟してもらうぜ俺の餌共!

 自分が喰われるという人間の時にはあり得なかった状況が自らに襲いかかってきたことで、俺の中の倫理観さんがそっと目を閉じる。
 俺は身体を懸命にくねらせて尾びれの一部をちぎって脱出。追撃してきた個体の目を目掛けて尾びれを振るい、隙を見せたそいつの腹目掛けて喰らいついた。
 産まれたての柔らかい皮膚はすぐに破け、渦巻き状に収まっていた内臓がドプリと流れ出る。躊躇うことなくそれを喰い、そのままその身体の内側に潜り込んで中からそいつを食べ尽くした。

 ……美味いかって? いや、味覚がないのかそれはよくわからないな。だが、快感とも言える満足感が全身を駆け巡ったのは確かだ。これはいい! もっとだ、もっと欲しいぃぃっ!

『エクストラスキル大食漢を獲得しました』

 ピコンという間の抜けた通知音に続いて、無機質な女性の声がした。まるでゲームみたいだと感じたのも束の間、心の底から沸き上がってくる飢餓感に襲われ、たった今自分と同じ大きさの獲物を食べたばかりだというのに腹が減って腹が減って、空腹で気が狂いそうだ。

 ……お前らも喰わせろぉぉぉぉっ!

 そんな欲望のおもむくままに、すぐ近くの個体に喰らいついたところで、俺は正気を失った……。

 ◆◇

 えっと、なんだ。……その、何かすみません。
 さっきの謎のアナウンスも無関係とは思えないが、ともかく我に戻った俺は重なりあった同族の亡骸の山の頂きにいた。
 周囲に動く者がいない以上、これをやらかしたのは俺で間違いないだろう。
 文字通り、喰い散らかされた亡骸はズタズタでまともな原型を留めた者は一匹もいない。しかし、満腹感はあるのだが、これだけの量を食べて腹が異常に膨らんだりしていないのはおかしな話だ。これもさっきのスキルとかが関係してるのかな……。

 ん、あれは……。

 幸運だったとしか言いようがない。
 高く積み上げた亡骸のおかげで遠くが見え、自分の置かれている状況がやっとわかったのだ。
 どうやら俺は、沼地が少し干上がったために切り離されてしまった小さな水溜まりで産まれたらしい。だから仲間たちもそこから離れられず、結果息苦しさと空腹から共食いが始まったというわけだ。こうして見れば、ほんの少し我慢して移動すれば沼地の本体に辿り着けるはずだったのに、今は俺の腹の中か……南無……。

 じゃあ、気を取り直して……よいしょっと!

 俺は身体をくねらせ、反動をつけて亡骸の山の斜面を勢いよく下り始めた。目標は目の前の沼地、適度に湿った泥もよく滑る滑る。そして……

 ゴォォォール!

 両手を上げて歓喜を表したいが、そんなの生えて無いので心の中でそう叫んでおくことにする。
 とにかく俺は、こうして何とか沼地に到着することに成功したのだった。やったね。
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