俺を喚んだのは悪魔でした。

氷狐

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第二話

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 俺の名は田中伸一郎たなかしんいちろう
 ごくありふれた名前、何処にでもいそうなごくごく普通の高校生であった俺は、最早テンプレになった交通事故による死亡からの転生を果たし、これもラノベ等で使い古された辺境の貴族家の三男として新たな生を受けることとなった。
 だが、事故に遭った直後、俺が目を覚ましたのは定番の神々しい白い空間……ではなかったのだ。

「……えっと、すいません。もう一度いいですか? 」
『む、混乱しているのか? まあよかろう。おめでとう! 君は我ら悪魔・・に選ばれた。その身に我らが加護を与え異世界に転生させてやろう!』

 ……やっぱり、聞き間違いではなさそうだ。
 まあ、そりゃそうだよな。これだけ禍々しい空間に、そこに相応しい蝙蝠っぽい羽とか生やしちゃった方々がいるんだもん。
 定番の美しい女神様じゃないのはこの際我慢するとしてだ、いやいやいやいや……悪魔って何よ。
 俺魔王なの? 魔王街道まっしぐらなパターンなの?

『クックック。魔王になぞならなくてよい。貴様の好きに生きてもらえばいいのだ』
「しかも、心の声まで駄々漏れっ?」
『ウフフ。安心なさい、契約もしてない状態では流石に心は読めないわ。貴方の表情が解り易かっただけよ』

 ふう。心は読めないのか……よかった。
 今の悪魔の女性、かなり際どいところまで見えているからちょっとドキドキしてたんだよな。
 この場に居る悪魔は六人。ん、単位は人でいいのかな……まあいいか
 。男性っぽいのが一人、最初に話した偉そうな人ね。それ以外は女性っぽいのが四人に全くわからないのが一人。だって頭が三つあるし……。

『我らは本来、七柱でひとつの存在を成す。だが、不埒な一柱が姑息にも異界に逃げ出したのだ。追いたくても我らは神により封じられし身故ここを離れること叶わぬ』
「え? でも今逃げたって……」
『うむ。本来なれば不可能だ。だが、こともあろうに奴は己が肉体を捨て精神体アストラルボディとなって異界の魂に憑依しおったのだ。能力も魔力も全てが失われるかもしれぬリスクを負ってまでして……だ』
『かつて神に挑み、激戦の末破れた私たちは、七柱でこの場に封じられることを条件に消滅を免れたの。アイツの肉体がここに残っているとはいえ、いつ神にこの件がバレるかわからないわ。そうなれば私たちはこの空間ごと滅されてしまうのよ』

 うん。神に挑んだとか皆さんもろに最悪な感じの悪魔ですやん。その手伝いなんかして大丈夫か、俺?

『不安になるのも無理はないわね。でも安心して。貴方に与える加護に、ある術式を仕込ませてもらうだけよ。それは付近にアイツの魂が近付くと発動して強制的にここに転送するもの。もちろん貴方に害はないわ』
『我らの加護を受ければ屈強な身体と強大な魔力、そして特別な能力を得られよう。その力を用いて異世界を自由気儘に旅してくれればよい。我らの力は互いに引き合うのでな、きっと奴の元に辿り着こうぞ』
『クックック。ちなみに、断ってくれてもいいけど今のままの世界で輪廻転生すれば君の来世はミミズになる予定だけどね。クックック』
「……み、ミミズって」

 転生したらミミズだった件って……いやいやいやいや本当に俺、生前に何かやらかしたっけ?酷くない?

『ああ、神から見れば命は全て同じなのよ。そこに人もミミズも変わりはないわ。神々はただ淡々と新たな器へと命を廻していくだけなの』

 チートもらって悪魔の手伝いか、断ればミミズに転生って、なんて無茶苦茶な二択だよ。これじゃあ実質一択じゃないか……。

「……わかりました。やりますよ、やればいいんでしょ魂探し」
『大丈夫? 瞳に生気がないわよ』
「まあ、すでに死んでますから。ははははん……」

 ま、死んだあとにこんな無茶な展開が待っているなんて想像すらしてなかったけど……。

『まあ、そう悲願するな。我ら六柱が加護を与えるのだ。それこそ魔王になるのも夢ではないぞ』
「……これ全部夢だったらどれだけよかったことか」

 そう言って溜め息を吐くと、ふと足下から俺の身体が透けてきているのに気が付いた。

『あら、そろそろ限界みたいね。魂の輪廻に干渉するのは私達六柱に残された魔力を全て足してもかなりキツいのよ』
『クックック、よい旅を』
『ん……邪魔。さっさといく』
『…………』
『メェェーー』
『では我らの行く末、託したぞ』

 うん。やっと全員話したと思ったら各々ツッコミどころ満載だった。だが既に九割がた消えかけていた俺は、それらにツッコめずモヤモヤした気持ちのまま、意識を失った。

◆◆

 こうして俺が悪魔の力によって転生したのは、ライコネン聖王国のアルフォンソ辺境伯家。その三男として生まれた俺は、シン・アルフォンソと名付けられた。
 よくあるラノベのように、産まれてすぐに意識がある……なんてことは当然無く。極々普通の子供として育つ。
 そんな普通の毎日が突如終わりを告げたのは、俺が五歳になった時だった……。

 この国では不滅の聖女アナスタシア様を崇拝する聖光教が国教とされており、五歳になった子供は皆聖光教会にて祝福の儀を受けることを義務付けられている。
 つまりはテンプレのステータスを初めて見るってイベントだな。

「司祭様、シン・アルフォンソと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「うむ。では聖女アナスタシア様に祈りを捧げなさい」
「はい」

 父や母に付き添われて向かった教会で、俺は礼拝堂の奥にある小部屋に通された。天窓から射し込む幾筋もの光の線が祭壇に置かれた本堂のものより二回りほど小さな聖女像に降り注ぎ、神聖な雰囲気を演出している。
 俺が片膝をつき目を閉じて頭を垂れると、頭の上に司祭の手がそっと置かれた。

「新たなる聖徒シン・アルフォンソ。彼の者に聖女様のお導きを」
「……ぐぅっ!」

 司祭の言葉に続き、目に見えぬ何かが目の前の聖女像から発せられた。だが、それは俺の右目を襲った強い痛みと共に弾かれるようにして霧散する。

「な、なんということだ! 嘆かわしい。聖女様の祝福を弾くとは堕神に汚されし魔堕ちの子に違いない……ん、その目はどうしたことだ?」
「……え、目?」

 やや憤るような表情で慌てふためく司祭。その言葉に視線の先にある銀杯を覗くと、そこに映し出されたのは右目から紅い血の涙を流す俺の姿。

「誰ぞある? 聖騎士……いや、灰羽だ! 灰羽を今すぐこれへ!」

 いまいち状況の掴めない俺を残し、事態は最悪のルートを辿りつつあるようだ。司祭に呼ばれて入って来たのは灰色のローブを着た陰鬱な雰囲気の二人の男。彼らが灰羽なのだろう。

「おお、来たか。それなる魔堕ちを早う例の場所に連れていけ! アルフォンソ辺境伯には儂から伝えておこう。よいか、決して人目に触れるでないぞ」

 司祭の言葉が終わらぬうちに灰羽の一人が俺の背後に音もなく回り込むと、すぐに首筋が強い衝撃に襲われた。恐らくお決まりの首トンで意識を刈り取られたのだろう。

 そうして、次に意識が戻った時には見知らぬ深い森の中にいて、眼前には俺の全身よりはるかに大きな狼の顔があったのだ。
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