「彼を殺して私も死ぬわ!」と叫んだ瞬間、前世を思い出しました~あれ? こんな人別にどうでも良くない? ~

雨野六月(まるめろ)

文字の大きさ
上 下
32 / 34

32 続・義母と妹

しおりを挟む
 お茶会はその後も和やかに行われた。
 この日のためにコックも気合を入れていたらしく、菓子はどれも素晴らしい出来栄えだったし、こぼさずに食べようと真剣に頑張っているソフィアがなんとも可愛らしかった。むろん手つきはまだ拙いものの、四歳にしてはマナーも上々の部類だろう。
 
 義母との会話はまずは無難に髪飾りのことから始まり、過去のあれこれに対する互いの謝罪を経て、やがてこの間のクローディアの提案の話になった。

「ですが、クローディア様は本当にそれでよろしいのですか?」

 義母は困ったような表情で言った。

「ええ。リーンハルト様のことを抜きにしても、私は領地経営よりも魔法の方が向いていますから、そちらで身を立てたいと思っているんですの。ソフィアというしっかりした妹がいて良かったですわ。――ね、ソフィア、いずれ貴方がこの家の跡取りになるのよ」

「お菓子をこぼさずきれいに食べる」ミッションに取り組んでいたソフィアは二人の会話を聞いていなかったらしく、きょとんとした顔でクローディアを見上げた。

「でも、お姉様はどうするのですか?」
「私は魔法が得意だから、魔法が使えるお仕事につこうと思っているの」
「お姉様は魔法が得意なのですか?」
「ええ、宮廷魔導士って言うすごい魔法使いを目指してるのよ」

 クローディアが言うと、ソフィアは何故かすごい勢いで食いついてきた。

「すごい魔法使いですか。すごいです。お姉様の魔法、見たいです!」
「駄目よソフィア、そんな我が儘を言わないの。申し訳ありません、クローディア様。この子は最近魔法を習い始めたばかりなものですから」
「いえ、構いませんわ、お義母様。それじゃソフィア、ちょっとだけね?」

 そこでクローディアが植物魔法でまだ蕾の花を咲かせたり、風魔法で花びらをフワフワと浮かせたり、水魔法で紅茶を水球にして浮かせたりしたところ、そのたびにソフィアに大うけだった。

「お姉様すごい! すごいです!」

 目を輝かせてはしゃぐソフィアにクローディアもついつい調子に乗ってしまい、しまいには闇魔法で室内を暗くして、光魔法で蛍のような光の玉を部屋中に飛ばすと言う大技を披露して見せた。
 ソフィアはきゃあきゃあとはしゃぎながら光の玉を追いかけて行き、義母に「お行儀が悪いわよ」とたしなめられてしゅんとして席に戻ってきた。

「お姉様、私もいつかできるようになりますか?」
「そうね、お勉強をうんと頑張ったら、きっとできるようになると思うわ」
「じゃあうんと頑張ります!」
「本当に素晴らしかったですわ。クローディア様は光魔法がお得意なんですの?」
「いえ、光魔法はどちらかといえば苦手な部類なんです。でも魔力量があればなんとかごり押しできてしまうことに気づきましたの」

 クローディアはにっこり微笑んだ。前世には「レベルを上げて物理で殴れ」という言葉があった。多少相性が悪かろうとパワー(魔力量)があればごり押せるというのはこちらの世界でも真理のようだ。

「属性的に相性がいいのはむしろ闇魔法なんですの」

 闇魔法が得意というのは、世間的にはあまり良いイメージを持たれていない。とはいえいずれ家族になるつもりなら、避けて通れぬ問題だろう。
 さてどんな反応をするかと義母を見やれば、意外なことに「闇魔法、まあそうですの」と嬉しそうに目を細めた。

「そういえば、先ほど部屋を暗くしたのは闇魔法でしたわね。懐かしいですわ。私が以前親しくさせていただいた方も、闇魔法が得意でしたの。気高くて優しくて、とても尊敬していた方でした」
「その方のお名前をうかがってもよろしいでしょうか」
「先代王妃のヴェロニカ様です」

 義母はしみじみした口調で言った。

「昔、私はその方の侍女をしていたのです」
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 223

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...