30 / 34
30 中庭の誓い
しおりを挟む
「――というわけで、宮廷魔導士を目指そうと思ってますの」
クローディアが打ち明けると、ルーシーは「凄いですわ。クローディア様ってリーンハルト様と縁を切る方法についても真剣に考えてらっしゃるんですのね」と尊敬の眼差しを向けてきた。
「やっぱりいやだいやだと思っているだけじゃ何も変わりませんものね……」
「ルーシー様はエヴァンズ様との婚約を嫌だと思ってらっしゃるんですの?」
クローディアの率直な問いかけに、ルーシーは一瞬息をのんだ後、「ええ」と小さくうなずいた。
「長い間、私にはあの方を嫌う権利なんてないんだと思ってたんですけど……クローディア様にはっきり聞かれたあと、私なりに色々と考えてみましたの。それであの方と結婚する将来が、少しも楽しみではないことに気づいたのです」
「そのことをお父様には」
「言えばきっと勘当されてしまいます……」
「厳しいお父様ですのね」
クローディアは「それじゃ勘当されても大丈夫な方法を見つけましょう!」と言いたかったが、さすがに口にはしなかった。優しい父に甘やかされている身の上で、そんなことを口にするのはさすがに無責任すぎるだろう。
だけど何か励ます言葉を贈れないものかとあれこれ考えているうちに、予鈴が鳴って午前の授業が始まった。
午前の授業では予復習の甲斐あって、先日に続いて優等生ぶりを発揮することができた。魔法科のハロルド・モートンは相変わらず鬱陶しかったが、いずれ彼の鼻先から宮廷魔導士の地位をかっさらうことを思えば、多少の嫌味も涼しい顔でやり過ごせると言うものだ。
また数学の授業では自分から積極的に手を挙げて、担当教師を驚かせることができた。数学は前世とほぼ変わらないし、レベルもそう高くないので、今世では魔法実践と並ぶ得意科目になりそうだ。
やがて昼休みになり、クローディアたちはレポート課題の話し合いも兼ねて、ユージンやエドガーも含めた四人で昼食をとることになった。中庭の四阿に陣取って、四人でサンドウィッチを食べながら和気あいあいと語り合っているうちに、話は自然と魔力量のことになった。
クローディアが魔力量を生かして宮廷魔導士を目指す一件を打ち明けると、エドガーは「すごいな、そんな理由で宮廷魔導士目指す奴初めて見たわ」と爆笑し、ユージンは「それはいいな。宮廷魔導士は大変やりがいのある仕事だというし、ぜひ実現させてほしい」とさわやかな笑顔でエールを送った。
「励ましのお言葉ありがとうございます。ユージン殿下。もちろん頑張るつもりですわ。ただ宮廷魔導士を目指すに当たって、若干気になることがありますの」
「気になること?」
「ええ、宮廷魔導士になると国王陛下にお仕えすることになるでしょう? 私は頭がピンク色の方にお仕えするのはあまり気が進みませんのよ」
「君は……本当にはっきり言うんだな」
「あくまでここだけのお話ですわ。だってお二人とも外に漏らしたりはしないでしょう?」
クローディアがルーシーたちに視線を向けると、ルーシーが「ええ、もちろんですわ」と笑顔を浮かべ、エドガーも「当たり前だろ」と頷いた。
クローディアが再びユージンに視線を戻すと、ユージンは意を決したように口を開いた。
「……ラングレー嬢。そんなことにはならないように、私も最大限努力するつもりだ」
「頼もしいお言葉、嬉しい限りですわ。それではよりよい未来に向けて、お互い頑張りましょう、ユージン殿下」
「ああ、そうだな」
「あ、あの」
そこにルーシーが口をはさんだ。
「あの、私も……未来に向けて頑張ります!」
「え?」
「私もフィリップ様と婚約解消できるように……まずは父を説得して、駄目なら勘当されても大丈夫な道を見つけるために頑張ります!」
「まあルーシー、素晴らしいですわ! あの脳筋にルーシー様は勿体なさ過ぎますもの。それじゃ三人で頑張りましょう!」
「そうだな、ラングレー嬢、アンダーソン嬢、お互いに頑張ろう」
「はい!」
などと三人で盛り上がっていると、エドガーが「……なんか俺だけハブられてるみたいで寂しいんだけど」と拗ねたような声を上げた。
「まあ、ランスウェル様はランスウェル様で頑張ればよろしいじゃありませんの」
「具体的に、なにをだよ」
「それはまあ……いずれ分かりますわよ」
(彼もけっこう頑張らなきゃいけない立場なのよね。……具体的な回避方法はまだ分からないけど)
少女漫画『リリアナ王女はくじけない!』における宰相家の運命を思いつつ、さてどうやって警告したものかとクローディアは頭を悩ませた。
クローディアが打ち明けると、ルーシーは「凄いですわ。クローディア様ってリーンハルト様と縁を切る方法についても真剣に考えてらっしゃるんですのね」と尊敬の眼差しを向けてきた。
「やっぱりいやだいやだと思っているだけじゃ何も変わりませんものね……」
「ルーシー様はエヴァンズ様との婚約を嫌だと思ってらっしゃるんですの?」
クローディアの率直な問いかけに、ルーシーは一瞬息をのんだ後、「ええ」と小さくうなずいた。
「長い間、私にはあの方を嫌う権利なんてないんだと思ってたんですけど……クローディア様にはっきり聞かれたあと、私なりに色々と考えてみましたの。それであの方と結婚する将来が、少しも楽しみではないことに気づいたのです」
「そのことをお父様には」
「言えばきっと勘当されてしまいます……」
「厳しいお父様ですのね」
クローディアは「それじゃ勘当されても大丈夫な方法を見つけましょう!」と言いたかったが、さすがに口にはしなかった。優しい父に甘やかされている身の上で、そんなことを口にするのはさすがに無責任すぎるだろう。
だけど何か励ます言葉を贈れないものかとあれこれ考えているうちに、予鈴が鳴って午前の授業が始まった。
午前の授業では予復習の甲斐あって、先日に続いて優等生ぶりを発揮することができた。魔法科のハロルド・モートンは相変わらず鬱陶しかったが、いずれ彼の鼻先から宮廷魔導士の地位をかっさらうことを思えば、多少の嫌味も涼しい顔でやり過ごせると言うものだ。
また数学の授業では自分から積極的に手を挙げて、担当教師を驚かせることができた。数学は前世とほぼ変わらないし、レベルもそう高くないので、今世では魔法実践と並ぶ得意科目になりそうだ。
やがて昼休みになり、クローディアたちはレポート課題の話し合いも兼ねて、ユージンやエドガーも含めた四人で昼食をとることになった。中庭の四阿に陣取って、四人でサンドウィッチを食べながら和気あいあいと語り合っているうちに、話は自然と魔力量のことになった。
クローディアが魔力量を生かして宮廷魔導士を目指す一件を打ち明けると、エドガーは「すごいな、そんな理由で宮廷魔導士目指す奴初めて見たわ」と爆笑し、ユージンは「それはいいな。宮廷魔導士は大変やりがいのある仕事だというし、ぜひ実現させてほしい」とさわやかな笑顔でエールを送った。
「励ましのお言葉ありがとうございます。ユージン殿下。もちろん頑張るつもりですわ。ただ宮廷魔導士を目指すに当たって、若干気になることがありますの」
「気になること?」
「ええ、宮廷魔導士になると国王陛下にお仕えすることになるでしょう? 私は頭がピンク色の方にお仕えするのはあまり気が進みませんのよ」
「君は……本当にはっきり言うんだな」
「あくまでここだけのお話ですわ。だってお二人とも外に漏らしたりはしないでしょう?」
クローディアがルーシーたちに視線を向けると、ルーシーが「ええ、もちろんですわ」と笑顔を浮かべ、エドガーも「当たり前だろ」と頷いた。
クローディアが再びユージンに視線を戻すと、ユージンは意を決したように口を開いた。
「……ラングレー嬢。そんなことにはならないように、私も最大限努力するつもりだ」
「頼もしいお言葉、嬉しい限りですわ。それではよりよい未来に向けて、お互い頑張りましょう、ユージン殿下」
「ああ、そうだな」
「あ、あの」
そこにルーシーが口をはさんだ。
「あの、私も……未来に向けて頑張ります!」
「え?」
「私もフィリップ様と婚約解消できるように……まずは父を説得して、駄目なら勘当されても大丈夫な道を見つけるために頑張ります!」
「まあルーシー、素晴らしいですわ! あの脳筋にルーシー様は勿体なさ過ぎますもの。それじゃ三人で頑張りましょう!」
「そうだな、ラングレー嬢、アンダーソン嬢、お互いに頑張ろう」
「はい!」
などと三人で盛り上がっていると、エドガーが「……なんか俺だけハブられてるみたいで寂しいんだけど」と拗ねたような声を上げた。
「まあ、ランスウェル様はランスウェル様で頑張ればよろしいじゃありませんの」
「具体的に、なにをだよ」
「それはまあ……いずれ分かりますわよ」
(彼もけっこう頑張らなきゃいけない立場なのよね。……具体的な回避方法はまだ分からないけど)
少女漫画『リリアナ王女はくじけない!』における宰相家の運命を思いつつ、さてどうやって警告したものかとクローディアは頭を悩ませた。
363
お気に入りに追加
11,458
あなたにおすすめの小説
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◆エールありがとうございます!
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆なろうにも載せ始めました
◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

もう、あなたを愛することはないでしょう
春野オカリナ
恋愛
第一章 完結番外編更新中
異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。
実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。
第二章
ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。
フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。
護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。
一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。
第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。
ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!
※印は回帰前の物語です。
婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?
ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。
13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。
16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。
そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか?
ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯
婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。
恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる