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30 中庭の誓い
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「――というわけで、宮廷魔導士を目指そうと思ってますの」
クローディアが打ち明けると、ルーシーは「凄いですわ。クローディア様ってリーンハルト様と縁を切る方法についても真剣に考えてらっしゃるんですのね」と尊敬の眼差しを向けてきた。
「やっぱりいやだいやだと思っているだけじゃ何も変わりませんものね……」
「ルーシー様はエヴァンズ様との婚約を嫌だと思ってらっしゃるんですの?」
クローディアの率直な問いかけに、ルーシーは一瞬息をのんだ後、「ええ」と小さくうなずいた。
「長い間、私にはあの方を嫌う権利なんてないんだと思ってたんですけど……クローディア様にはっきり聞かれたあと、私なりに色々と考えてみましたの。それであの方と結婚する将来が、少しも楽しみではないことに気づいたのです」
「そのことをお父様には」
「言えばきっと勘当されてしまいます……」
「厳しいお父様ですのね」
クローディアは「それじゃ勘当されても大丈夫な方法を見つけましょう!」と言いたかったが、さすがに口にはしなかった。優しい父に甘やかされている身の上で、そんなことを口にするのはさすがに無責任すぎるだろう。
だけど何か励ます言葉を贈れないものかとあれこれ考えているうちに、予鈴が鳴って午前の授業が始まった。
午前の授業では予復習の甲斐あって、先日に続いて優等生ぶりを発揮することができた。魔法科のハロルド・モートンは相変わらず鬱陶しかったが、いずれ彼の鼻先から宮廷魔導士の地位をかっさらうことを思えば、多少の嫌味も涼しい顔でやり過ごせると言うものだ。
また数学の授業では自分から積極的に手を挙げて、担当教師を驚かせることができた。数学は前世とほぼ変わらないし、レベルもそう高くないので、今世では魔法実践と並ぶ得意科目になりそうだ。
やがて昼休みになり、クローディアたちはレポート課題の話し合いも兼ねて、ユージンやエドガーも含めた四人で昼食をとることになった。中庭の四阿に陣取って、四人でサンドウィッチを食べながら和気あいあいと語り合っているうちに、話は自然と魔力量のことになった。
クローディアが魔力量を生かして宮廷魔導士を目指す一件を打ち明けると、エドガーは「すごいな、そんな理由で宮廷魔導士目指す奴初めて見たわ」と爆笑し、ユージンは「それはいいな。宮廷魔導士は大変やりがいのある仕事だというし、ぜひ実現させてほしい」とさわやかな笑顔でエールを送った。
「励ましのお言葉ありがとうございます。ユージン殿下。もちろん頑張るつもりですわ。ただ宮廷魔導士を目指すに当たって、若干気になることがありますの」
「気になること?」
「ええ、宮廷魔導士になると国王陛下にお仕えすることになるでしょう? 私は頭がピンク色の方にお仕えするのはあまり気が進みませんのよ」
「君は……本当にはっきり言うんだな」
「あくまでここだけのお話ですわ。だってお二人とも外に漏らしたりはしないでしょう?」
クローディアがルーシーたちに視線を向けると、ルーシーが「ええ、もちろんですわ」と笑顔を浮かべ、エドガーも「当たり前だろ」と頷いた。
クローディアが再びユージンに視線を戻すと、ユージンは意を決したように口を開いた。
「……ラングレー嬢。そんなことにはならないように、私も最大限努力するつもりだ」
「頼もしいお言葉、嬉しい限りですわ。それではよりよい未来に向けて、お互い頑張りましょう、ユージン殿下」
「ああ、そうだな」
「あ、あの」
そこにルーシーが口をはさんだ。
「あの、私も……未来に向けて頑張ります!」
「え?」
「私もフィリップ様と婚約解消できるように……まずは父を説得して、駄目なら勘当されても大丈夫な道を見つけるために頑張ります!」
「まあルーシー、素晴らしいですわ! あの脳筋にルーシー様は勿体なさ過ぎますもの。それじゃ三人で頑張りましょう!」
「そうだな、ラングレー嬢、アンダーソン嬢、お互いに頑張ろう」
「はい!」
などと三人で盛り上がっていると、エドガーが「……なんか俺だけハブられてるみたいで寂しいんだけど」と拗ねたような声を上げた。
「まあ、ランスウェル様はランスウェル様で頑張ればよろしいじゃありませんの」
「具体的に、なにをだよ」
「それはまあ……いずれ分かりますわよ」
(彼もけっこう頑張らなきゃいけない立場なのよね。……具体的な回避方法はまだ分からないけど)
少女漫画『リリアナ王女はくじけない!』における宰相家の運命を思いつつ、さてどうやって警告したものかとクローディアは頭を悩ませた。
クローディアが打ち明けると、ルーシーは「凄いですわ。クローディア様ってリーンハルト様と縁を切る方法についても真剣に考えてらっしゃるんですのね」と尊敬の眼差しを向けてきた。
「やっぱりいやだいやだと思っているだけじゃ何も変わりませんものね……」
「ルーシー様はエヴァンズ様との婚約を嫌だと思ってらっしゃるんですの?」
クローディアの率直な問いかけに、ルーシーは一瞬息をのんだ後、「ええ」と小さくうなずいた。
「長い間、私にはあの方を嫌う権利なんてないんだと思ってたんですけど……クローディア様にはっきり聞かれたあと、私なりに色々と考えてみましたの。それであの方と結婚する将来が、少しも楽しみではないことに気づいたのです」
「そのことをお父様には」
「言えばきっと勘当されてしまいます……」
「厳しいお父様ですのね」
クローディアは「それじゃ勘当されても大丈夫な方法を見つけましょう!」と言いたかったが、さすがに口にはしなかった。優しい父に甘やかされている身の上で、そんなことを口にするのはさすがに無責任すぎるだろう。
だけど何か励ます言葉を贈れないものかとあれこれ考えているうちに、予鈴が鳴って午前の授業が始まった。
午前の授業では予復習の甲斐あって、先日に続いて優等生ぶりを発揮することができた。魔法科のハロルド・モートンは相変わらず鬱陶しかったが、いずれ彼の鼻先から宮廷魔導士の地位をかっさらうことを思えば、多少の嫌味も涼しい顔でやり過ごせると言うものだ。
また数学の授業では自分から積極的に手を挙げて、担当教師を驚かせることができた。数学は前世とほぼ変わらないし、レベルもそう高くないので、今世では魔法実践と並ぶ得意科目になりそうだ。
やがて昼休みになり、クローディアたちはレポート課題の話し合いも兼ねて、ユージンやエドガーも含めた四人で昼食をとることになった。中庭の四阿に陣取って、四人でサンドウィッチを食べながら和気あいあいと語り合っているうちに、話は自然と魔力量のことになった。
クローディアが魔力量を生かして宮廷魔導士を目指す一件を打ち明けると、エドガーは「すごいな、そんな理由で宮廷魔導士目指す奴初めて見たわ」と爆笑し、ユージンは「それはいいな。宮廷魔導士は大変やりがいのある仕事だというし、ぜひ実現させてほしい」とさわやかな笑顔でエールを送った。
「励ましのお言葉ありがとうございます。ユージン殿下。もちろん頑張るつもりですわ。ただ宮廷魔導士を目指すに当たって、若干気になることがありますの」
「気になること?」
「ええ、宮廷魔導士になると国王陛下にお仕えすることになるでしょう? 私は頭がピンク色の方にお仕えするのはあまり気が進みませんのよ」
「君は……本当にはっきり言うんだな」
「あくまでここだけのお話ですわ。だってお二人とも外に漏らしたりはしないでしょう?」
クローディアがルーシーたちに視線を向けると、ルーシーが「ええ、もちろんですわ」と笑顔を浮かべ、エドガーも「当たり前だろ」と頷いた。
クローディアが再びユージンに視線を戻すと、ユージンは意を決したように口を開いた。
「……ラングレー嬢。そんなことにはならないように、私も最大限努力するつもりだ」
「頼もしいお言葉、嬉しい限りですわ。それではよりよい未来に向けて、お互い頑張りましょう、ユージン殿下」
「ああ、そうだな」
「あ、あの」
そこにルーシーが口をはさんだ。
「あの、私も……未来に向けて頑張ります!」
「え?」
「私もフィリップ様と婚約解消できるように……まずは父を説得して、駄目なら勘当されても大丈夫な道を見つけるために頑張ります!」
「まあルーシー、素晴らしいですわ! あの脳筋にルーシー様は勿体なさ過ぎますもの。それじゃ三人で頑張りましょう!」
「そうだな、ラングレー嬢、アンダーソン嬢、お互いに頑張ろう」
「はい!」
などと三人で盛り上がっていると、エドガーが「……なんか俺だけハブられてるみたいで寂しいんだけど」と拗ねたような声を上げた。
「まあ、ランスウェル様はランスウェル様で頑張ればよろしいじゃありませんの」
「具体的に、なにをだよ」
「それはまあ……いずれ分かりますわよ」
(彼もけっこう頑張らなきゃいけない立場なのよね。……具体的な回避方法はまだ分からないけど)
少女漫画『リリアナ王女はくじけない!』における宰相家の運命を思いつつ、さてどうやって警告したものかとクローディアは頭を悩ませた。
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