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15 リリアナ襲来
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「お久しぶりです、リリアナ殿下。この間は失礼いたしました」
クローディアはしとやかに淑女の礼をとった。
「もう身体は大丈夫なの? 私とアレクのことがショックでずっと休んでるって聞いて、とっても心配してたのよ」
「まあ殿下にまでご心配いただいたなんて恐縮ですわ。身体はもうすっかり回復して、前より体調がいいくらいですのよ。それにリーンハルト様と殿下のことはもう全く気にしておりませんから、殿下もどうか気になさらないでくださいな。お聞き及びかもしれませんが、あの方との婚約は解消する予定なんですの」
クローディアは朗らかに言い切ったが、対するリリアナはいかにも痛ましげな顔をして「やっぱりそこまで思いつめてしまったのね……」とため息をついた。
「本当にごめんなさい。私の存在がそこまで貴方を追い詰めてたなんてぜんぜん思わなかったのよ。ねぇクローディアさん、婚約解消なんて悲しいこと言わないで、考えなおしてくれないかしら」
「そうおっしゃられても、もう決めてしまったことですわ。私はもうあの方には全然未練はありませんの」
「そんなに意地を張らないで。10歳のころからあんなに好きだったんだもの、未練がないなんて、そんなはずないわ」
(このピンク、なにを考えてるのかしら)
親身な口調で言うリリアナを前に、クローディアは思わず首をひねった。
クローディアが髪を振り乱し目元に隈を作るくらいに嫉妬に狂っていた時も、リリアナは「なんで分かってくれないのかしら。私とアレクはただのお友達なのに」というばかりで、まともに取り合ってこなかった。それなのに今になって二人の仲を心配するようなことを言い出すとは、どういう風の吹き回しだろうか。
(このままじゃ自分が悪役になりかねないから? それともアレクサンダーの立場を慮ってのことかしら)
学院内において「リリアナとアレクサンダーの仲に嫉妬するヤンデレ令嬢クローディア」は一種の笑い話として扱われてきた。しかしその結果として婚約解消にまで至ってしまえばさすがに冗談では済まされないし、下手をすればリリアナが悪役になりかねない。
付け加えると、ラングレー家の援助が途絶えればアレクサンダーは厄介な立場に立たされるし、現時点では女王の未来が確定していないリリアナが彼を婿として引き受けるとも言えない状況だ。いやそれ以前に、今の彼女にそこまでの覚悟はおそらくない。
(イケメンたちに囲まれながら、みんな仲良くお友達! を楽しんでいる段階だものね)
むろん天真爛漫なリリアナ殿下は、そこまで具体的に考えているわけではないだろう。ただなんとなく、自分にとって心地よいぬるま湯が今まで通り続いてほしいと思っているだけ。そしてそのぬるま湯を構成する重要なピースであった「アレクサンダーに執着するクローディア」が消えてなくなりそうな展開を阻止しようとしているだけなのだ。
「それでね、私が責任を取って、アレクと貴方が仲直りするに協力しようと思っているの」
リリアナは気を取り直したように言葉を続けた。
「協力、ですか」
「ええ、とりあえず二人には話し合いが必要だわ。王宮庭園でお茶会を開くから、これから一緒に来てちょうだい。ああもちろん、そちらの方も一緒でいいわ。私はみんなと仲良くしたいと思っているの」
リリアナはちらりとルーシーに目をやった。リリアナはルーシーが誰であるのか把握していないようだった。
「いえ、私は……」
「大変申し訳ありませんが、私も彼女もお断りします。二人ともこれから大切な用事がありますの」
「そういわないで、ね? とにかく一緒にきてちょうだい。会って話し合えばきっと理解しあえるわ!」
リリアナに親し気に腕を取られて、クローディアは思わず顔をしかめた。さて、これを振り払っていいものだろうか。アレクサンダーならともかく仮にも相手は王族である。下手なことをすれば優しい父にも迷惑が掛からないとも限らない。
(本人は善意のつもりだから、なおさらたちが悪いのよね……)
クローディアがとまどっていると、ふいに冷然とした声が辺りに響いた。
「リリアナ、何をやっているんだ」
声の主を見た瞬間、リリアナはさっと顔を曇らせた。
クローディアはしとやかに淑女の礼をとった。
「もう身体は大丈夫なの? 私とアレクのことがショックでずっと休んでるって聞いて、とっても心配してたのよ」
「まあ殿下にまでご心配いただいたなんて恐縮ですわ。身体はもうすっかり回復して、前より体調がいいくらいですのよ。それにリーンハルト様と殿下のことはもう全く気にしておりませんから、殿下もどうか気になさらないでくださいな。お聞き及びかもしれませんが、あの方との婚約は解消する予定なんですの」
クローディアは朗らかに言い切ったが、対するリリアナはいかにも痛ましげな顔をして「やっぱりそこまで思いつめてしまったのね……」とため息をついた。
「本当にごめんなさい。私の存在がそこまで貴方を追い詰めてたなんてぜんぜん思わなかったのよ。ねぇクローディアさん、婚約解消なんて悲しいこと言わないで、考えなおしてくれないかしら」
「そうおっしゃられても、もう決めてしまったことですわ。私はもうあの方には全然未練はありませんの」
「そんなに意地を張らないで。10歳のころからあんなに好きだったんだもの、未練がないなんて、そんなはずないわ」
(このピンク、なにを考えてるのかしら)
親身な口調で言うリリアナを前に、クローディアは思わず首をひねった。
クローディアが髪を振り乱し目元に隈を作るくらいに嫉妬に狂っていた時も、リリアナは「なんで分かってくれないのかしら。私とアレクはただのお友達なのに」というばかりで、まともに取り合ってこなかった。それなのに今になって二人の仲を心配するようなことを言い出すとは、どういう風の吹き回しだろうか。
(このままじゃ自分が悪役になりかねないから? それともアレクサンダーの立場を慮ってのことかしら)
学院内において「リリアナとアレクサンダーの仲に嫉妬するヤンデレ令嬢クローディア」は一種の笑い話として扱われてきた。しかしその結果として婚約解消にまで至ってしまえばさすがに冗談では済まされないし、下手をすればリリアナが悪役になりかねない。
付け加えると、ラングレー家の援助が途絶えればアレクサンダーは厄介な立場に立たされるし、現時点では女王の未来が確定していないリリアナが彼を婿として引き受けるとも言えない状況だ。いやそれ以前に、今の彼女にそこまでの覚悟はおそらくない。
(イケメンたちに囲まれながら、みんな仲良くお友達! を楽しんでいる段階だものね)
むろん天真爛漫なリリアナ殿下は、そこまで具体的に考えているわけではないだろう。ただなんとなく、自分にとって心地よいぬるま湯が今まで通り続いてほしいと思っているだけ。そしてそのぬるま湯を構成する重要なピースであった「アレクサンダーに執着するクローディア」が消えてなくなりそうな展開を阻止しようとしているだけなのだ。
「それでね、私が責任を取って、アレクと貴方が仲直りするに協力しようと思っているの」
リリアナは気を取り直したように言葉を続けた。
「協力、ですか」
「ええ、とりあえず二人には話し合いが必要だわ。王宮庭園でお茶会を開くから、これから一緒に来てちょうだい。ああもちろん、そちらの方も一緒でいいわ。私はみんなと仲良くしたいと思っているの」
リリアナはちらりとルーシーに目をやった。リリアナはルーシーが誰であるのか把握していないようだった。
「いえ、私は……」
「大変申し訳ありませんが、私も彼女もお断りします。二人ともこれから大切な用事がありますの」
「そういわないで、ね? とにかく一緒にきてちょうだい。会って話し合えばきっと理解しあえるわ!」
リリアナに親し気に腕を取られて、クローディアは思わず顔をしかめた。さて、これを振り払っていいものだろうか。アレクサンダーならともかく仮にも相手は王族である。下手なことをすれば優しい父にも迷惑が掛からないとも限らない。
(本人は善意のつもりだから、なおさらたちが悪いのよね……)
クローディアがとまどっていると、ふいに冷然とした声が辺りに響いた。
「リリアナ、何をやっているんだ」
声の主を見た瞬間、リリアナはさっと顔を曇らせた。
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