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16 王子様の助け

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 この学院でリリアナを呼び捨てにできる人物は一人しかいない。案の定、リリアナが視線を向けた先には白皙の美青年がいた。艶やかなプラチナブロンドに紫の瞳。その立ち姿には、どこか辺りを払う威厳すら感じられる。

(この人、邪神騒動に巻き込まれて死んでしまう王子様よね……?)

 リリアナの異母兄に当たるユージン殿下は『リリアナ王女はくじけない!』においてはさほど重要な人物ではなく、作中の見せ場は少なかった。というか唯一の大ゴマが死体になったときくらいなので、あまり記憶に残っていないが、こうして本物を前にすると実に印象的な青年である。

「人に強要するのはやめなさい。彼女らは迷惑がっているんじゃないのか?」

 ユージンはたしなめるように言葉を続けた。対するリリアナは一瞬顔を強張らせたものの、すぐにいつもの屈託のない笑顔に戻った。

「まあお兄様ったら何言ってるの。私は強要なんてしてないわ。お友達をお茶会に誘っているだけよ」
「私には相手が困っているように見えたよ。そもそも彼女らはお前の友達なのか?」
「もちろん私のお友達よ。だってクローディアさんはお友達の大切な婚約者だもの。お友達の大切な人はお友達みたいなものでしょう?」

 ユージンはリリアナの謎理論に答えることなく、クローディアに向かって問いかけた。

「失礼だが、君たちはリリアナの友達なのか?」
「いいえ、滅相もありません。リリアナ殿下とお友達だなんてそんな恐れ多いこと、考えたこともありませんし、考えたくもありませんわ!」

 クローディアが間髪入れずに返答すると、ユージンは「分かった」と頷いて、再びリリアナの方に向き直った。

「やはりお前の独りよがりのようだな。お前はまだ市井の娘でいるつもりなのかもしれないが、今のお前は王族だ。お前が誘えばすなわち命令となる。そのことをよく自覚して、慎重に行動するように」
「私、そんなつもりじゃ……」
「そんなつもりがなくても、結果としてそうなれば同じことだ」

 ユージンの言葉に、リリアナは無言で目を潤ませた。傍から見ると、まるで意地悪な兄にいじめられる可憐な妹そのものだ。ユージンは小さくため息をついた。

「――君たちには妹が迷惑をかけたようですまなかったな」
「まあ勿体ないお言葉です。困っているところを助けて下さって、本当にありがとうございました」

 クローディアはさりげなく「リリアナのせいで困っていた」ことを強調しつつ、ユージンに恭しく頭を下げた。
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