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苦悩
(27)
しおりを挟む「じゃあ美咲おつかれ」
「おつかれさま」
八月になってから一週間が経ち、その間はずっと家と学校を往復していた。
美咲は砂川くんと一緒に帰っているらしく、たまに二人でいるところを見かけるようになった。
部室を出て下駄箱に向かう。
靴を履き替えようとしていると砂川くんに会った。
「あ…砂川くん…」
「えっと…清水さんだっけ?」
「うん、この前はごめんね」
「なにが?」
「委員会の話って嘘ついたり、美咲への伝言を頼んだり…」
「まああの状況だと話しづらかっただろうし別にいいよ。
それに桐谷とも久しぶりにちゃんと話せたから」
「ありがとう…」
美咲も砂川くんもいい人だな…。
「ていうか清水さんって、普段は彰達と一緒にいる人だよな?」
「え?まあ…うん」
「今日廉が部活中に倒れたんだよ。
その前から顔色悪かったし清水さん何か知らない?」
「え…」
滝本が倒れた…?
体調が悪かったっていつから…?
「西野は何か知ってるみたいだけど何も言わないし、清水さんも知ってるかなって」
「いや…知らないけど…」
「そっか。じゃあ俺そろそろ行くな」
慌てて砂川くんを呼び止める。
「え、待って、滝本今どこにいるの?」
「今は保健室にいるけど…」
「分かった、ありがとね」
砂川くんにお礼を言い、急いで保健室に向かった。
ガラッ
保健室のドアを開けると、一番奥のベッドのカーテンが閉まっていた。
違う人だったらどうしようかと思いつつ、カーテンを手で少し開ける。
すると滝本がベッドに横になって寝ていた。
目の下には隈ができており、一週間前と比べて遥かに痩せている。
顔色が悪いな…。
そう思いながら滝本の髪を撫でる。
以前と同じ感触にどこかほっとした。
水とか近くに置いておいた方がいいかな。
財布を持って自販機に行き、水を一本買って保健室に戻る。
滝本を起こさないようにカーテンを少し開け、そこから腕を伸ばして枕元の台の上にペットボトルを置いた。
そのまま静かに腕を引こうとすると、滝本に腕を掴まれる。
「ゆ、き…?」
カーテン越しに声をかけられた。
寝ぼけているのか呂律があまり回っていない。
「…大丈夫?」
「なんで俺…ここに…」
「まだ寝てた方がいいよ。
部活中に倒れたって聞いた」
「そうか…」
「…体調悪かったの…?」
「………」
滝本は黙り込んでしまって口を開かない。
「…何か必要なものとかってある?」
「…雪」
「どうしたの?」
「必要なもの」
「え?」
「頼むから…行かないで…」
あまりにも弱々しい声で懇願され、断ることができなかった。
「雪…顔見たいからカーテン開けて」
「………分かった」
ゆっくりとカーテンを開けると滝本と目が合う。
滝本と会うの久しぶりだな…。
ふとそんなことを思っていると、滝本が優しげに目を細めた。
「久しぶりに雪のこと見た」
「…私も」
滝本からの視線と沈黙に耐えられず、誤魔化すように口を開く。
「滝本は休んだ後は帰るの?」
「………」
まあ先生も倒れた生徒を帰らせないわけにはいかないか。
「着替えもまだだし…荷物は部室?」
「……うん」
「じゃあ取ってくるから待ってて」
そう告げて去ろうとするが、滝本が腕を離してくれない。
「滝本…?」
「…なんで…」
滝本が何か言っているが、声が小さくて聞き取れなかった。
「え?」
「…なんで、いつもみたいに名前で呼んでくれないの?」
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