上 下
25 / 136
攻防

(3)

しおりを挟む
「滝本遅くなっちゃってごめ……」

部屋の扉を開けると滝本がソファに座って寝ていた。


昨日あまり寝られなかったみたいだし寝かせとくか。


今日は暖かいとはいえ身体を冷やして風邪でも引いたら大変だと思い、毛布をベッドから持ってきて滝本の上にかける。
大人一人が余裕で横になれそうな広さのソファである。
寝るのなら横になった方が良いだろう。
起こさないように細心の注意を払い、少しずつ滝本の身体を横に倒す。


「…できた…!」


なんとか横にならせることに成功した。

どうせなら枕もあった方がいいかな…。

一度気になるととことん気になるタイプだ。

滝本に快適な睡眠をしてもらうためにどうすればいいのだろうと真剣に考えていた。


……にしても本当に綺麗な顔してるよね。

寝ているのをいいことに滝本をじっと見つめる。
まつ毛は長く一つ一つのパーツが整っている。
髪は柔らかそうでいい匂いがする。


これはもう私負けてるわ。


予想していたことではあったがそれでも何故か敗北感はある。

好きな人をここまでしっかり見る機会なんて滅多にない。
しっかり堪能しようと決意したものの見る度に自分と比較してしまい心が削られた。
諦めて観察するのを止め、枕のことを再び考える。

ベッドの枕を使ってもいいんだけど、ソファの方がベッドより沈み込むから高さが気になるんだよね。
それで首が痛くなったら良くないし…。
 
正直あまり変わらないが、それでも最高の睡眠にしたいのだ。
どうしたものかと考えていると膝枕をするという案が頭に浮かぶ。
恋愛経験豊富な友達から普通の枕より膝枕の方が良いと言われていたのだ。


そんな根拠は勿論存在しない。その友達にからかわれたのに気づかず、真に受けてしまっているだけである。
そして恋愛経験が少ないため漫画や映画での恋人のやりとりに夢を見ていることも、膝枕をするという案を後押しした。


普通ならこんなことなど考えもしない。
そもそも好きな人と一緒に住むこと自体夢物語だと思っていたのだ。
その上相手が目の前でぐっすり寝ている。
少し触りたいと思う人は少なからずいるはずだ。

好きな人であろうとなかろうと、目の前で人が寝ていたら毛布をかけたり近くの物を片付けたりといった気遣いは普段からする。
だがそれだけだ。

好きな人と一緒に住むこと、そして昨日同じベッドで寝たことで距離感が完全にバグっていた。


雪その1「流石に現実的じゃなさすぎる」
雪その2「でもさっき滝本の身体を横にした時少しも反応しなかったよね…?」
雪その3「眠りは深そうだし、膝枕をしても目を覚ます前に止めればいけるよ!」

滝本が寝ていて動かないのをいいことに、好き勝手に脳内会議をしてしまう。

最終的に、目を覚ますまでは膝枕をするということで会議は終了した。


「失礼します…」

滝本の頭の横に座った後、ゆっくり頭を持ち上げて自分の太腿の上に置いた。


……膝枕、できちゃった…。

特に問題もなくすんなり成功したので気が抜けてしまった。
自分の太股の上で好きな人が寝ている。
その事実に恥ずかしさで死にそうになったがなんとか堪えた。

時間もあるしどうしようかと迷った結果、あまり場所を取らず動きも少ない用事や課題を済ませることにした。
途中で足が痺れたが、気持ちよさそうに眠っている滝本の顔を見たら我慢しようという気になれた。



そして二時間程してその状態でできる全ての作業が終わった。


どうしよう、食材を借りてご飯でも作ろうかな。
台所を好きに使ってくれて構わないとは言われているけど、一応使っても大丈夫そうなものを選ばないと…。


起こさないように気をつけながら、移動するために滝本の頭を手で支えて少し持ち上げる。
すると滝本が身じろぎして太腿に片手を置いた。
擽ったいのが大の苦手な身としては身体を触られるのには慣れていない。
触られて平気なのはせいぜい腕か頭くらいだ。
そんな中で太股を触られたのでビクッと反応してしまった。


あ…マズい…。


「…ん…」

急いで退くと確実に起こしてしまうが、今の揺れで滝本の目が覚めかけている。

絶体絶命の危機を迎え、固まってしまった。


「…あれ、清水…?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

処理中です...