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ファンタスマゴリア・オブ・ザ・ナイトメアact4
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「返事をしろ、リーファ!」
キツネ耳少女の必死の呼びかけにも関わらず、甚大な破壊力に蹂躪された少女は倒れ伏したまま身動きの一つすらない。
背中を斬りつけられても文句を言えない状況下、シンディーは真っすぐリーファへと駆け寄らずにはいられなかった。一切の躊躇なく自らの脇を駆け抜けるキツネ耳の少女をワイルドは無言で見送ると、敗者の倒れ伏す姿を前に独り言ちる。
「渾身の一撃をこうも防がれてしまうとは・・・」
その声は勝者とは思えぬほどに焦りをにじませていた。ワイルドにとって目下最大の泥岩武闘崩しであるティタノマキアがあろうことか目の前の少女に真っ向から受け止められてしまったのだ。
「これでは辛くも勝ちを拾ったにすぎぬ。」
うぬぼれはとうに戒めたつもりでいたのだが、まだまだ私も修行がたりぬようだ。
「そんな馬鹿な・・・」
「マイク、向こうはどうなった?」
重騎士と対峙するスアレスだが先ほどの衝撃が気になって仕方がない。後方のマイクに状況を尋ねた。
「リーファが弾き飛ばされたのが見えた。ありゃタダじゃ済まないぞ。」
「何ぃっ!」
だが困惑しているのはスアレスたちだけではなかった。重騎士たちはワイルドの決断に疑問を呈さざるを得ないほどに何があったのか理解できない様子だ。
「悪鬼ヴァイスを成敗する刃ですぞ。そのような小者などに」
「お前の目は節穴なのか」
小者との評価を聞きとがめたワイルドの言葉に、重騎士が不満気に聞き返す。
「今のお言葉、十騎長殿と言えど聞き捨てなりませぬ」
「ならば問おう」
「いかようにも」
説破せんと鼻息を荒くする部下にワイルドは端的な問をなげかけた。
「その小者とやらが五体満足でいられるものか?」
「ティタノマキアを防いだのですかっ!?」
そもそもティタノマキアが真に想定している敵は憎き泥岩武闘。その泥岩武闘ごとジェゼーモフを両断せしめ、過去の汚辱をすすがんとする大技だ。あの一撃を真正面に受けて消し飛ばぬわけは・・・
<ゴクリ>
およそあり得ない事態に部下が生唾を飲む。どうやら十騎長ワイルドは底知れぬ力をあの少女に見出していたようだ。
「奇跡の薬で部隊を救ったというあの少女が?」
「たしか商人という話ではなかったか・・・そんな戦闘力を秘めていたとは。」
「いかに十騎長殿と言えどあんな威力で振り下ろした大剣に繊細な加減を加えるなどできまい。だとすれば一体いかなる防御障壁であの解き放たれた力の奔流をやり過ごしたというのか・・・」
口々に驚きの声を上げる部下たちを前に、ワイルドは自らの受けた衝撃が十分共有されたであろうことを見て取る。
「小物を消し飛ばせぬ刃にて悪鬼を成敗なぞ古今聞いたためしはない。」
「し・・・失言でありました。」
ワイルドは非を認めた部下に対してわずかにうなずくと、他に異論がある者を待つかのように瞑目する。
だが誰一人としてワイルドに異を唱える者は現れなかった。
「存念無くば、かの勇敢なる強者を讃えよ。」
「はっ!」
重騎士たちは各々その場に直立すると身体の中心軸に沿って真っすぐ大剣を顔の高さに掲げる。
勝負は着いたとばかりに戦闘態勢を解いた重騎士たちからスアレスが目を転じると、リーファの傍にシンディーが寄り添っているのが見えた。ティナとマイクは呆然と立ち尽くしている。
「目を開けてくれよ・・・こんなになっちまって」
シンディーは震える手で地面に倒れ伏したまま起き上がらないリーファの冷たい手を取る。
目の前の悲惨な光景を否定し去る力を持たぬ己の卑小さに打ちのめされたシンディーは懇願するように声を絞り出すのがやっとだった。
うつむいたまま肩を震わせるシンディーに声をかけるべくワイルドが一歩前に足を出した瞬間だった。先ほどとは打って変わって、キツネ耳の少女は張り裂けんばかりの大声で何者かの名を叫んだのだ。
「ロードチャンセラー!!」
それまで信じられないといった面持ちで固まっていたティナがシンディーの絶叫で我に返る。
「そうなんだよ、リーファには」
リーファは強大な魔力を有する妖精を複数使役しているはず。今こそその力が必要な場面なのにその姿が見えないのはどういうことだ?
「そ、そうだ。バトラー・・・いるんだろ、バトラー!」
しかしマイクが必死に呼びかけるも声は虚空へとかき消えるばかり。妖精はいかなる反応も示さない事態にマイクの表情が青ざめて行く。
「何でだよ?何で出て来ない!?」
シンディーたちの様子にワイルドがいぶかしげな眼差しを向ける。
「他に何者かが潜んでいたとでも言うのか?」
だがそんなはずはない。隠蔽の魔術など魔封じの鐘を前に存続を許されぬ。一度行使したからにはあの場で暴露しておらねばおかしいのだ。
仮に声の届く範囲に隠れたとて私が第三者の横槍に気づかぬとも思えん。たしかにノータイムで魔術を連続行使するリーファには度肝を抜かれたが、アレを隠蔽者が放ったとでも?それが本当だとしても一体どこから放ったと言うのだ?
<ズズーン>
「十騎長殿!かしこより騒音が」
突然の轟音にワイルドが西の方角へ視線を移すと大体の距離を推し測る。あの大きな騒音から鑑みて、ここから5分ほど走った先ではなかろうかとあたりを付けた。
「何かが崩落したか?このようなことができるのはヴァイスにほかなるまい。」
だがそれがヴァイスによるものだとして一体何のためにそのようなことをするのか意味がわからない。
「我々から逃亡している者が何故そのような愚かな真似を・・・」
「なあに、簡単なことだ。我ら以外にヴァイスは何者かと交戦しているのだろう。」
交戦と言っても相手は軍人すら手玉に取るヴァイスだ。こんな大げさなことをせずとも音もなく敵を葬るなど朝飯前であろう。むしろ敵は死なない程度に痛めつけられた挙げ句に戦意喪失して交戦にもならないというのがオチだ。
それが理解できないほどワイルドが愚かなわけがないのだが、エドマンドは敢えて確認せずにはいられなかった。烏金の魔鎧を纏った自分たちならばともかく、無謀にもヴァイスに立ち向かう者がいるなどとは到底思えない。
「十騎長殿、相手はAランクの冒険者ですぞ。それとも何か心当たりがおありで?」
「忘れたわけではあるまいエドマンド。」
「はて、何のことでしょうや?」
「ここにあの惨殺死体を残置した輩だ。」
キツネ耳少女の必死の呼びかけにも関わらず、甚大な破壊力に蹂躪された少女は倒れ伏したまま身動きの一つすらない。
背中を斬りつけられても文句を言えない状況下、シンディーは真っすぐリーファへと駆け寄らずにはいられなかった。一切の躊躇なく自らの脇を駆け抜けるキツネ耳の少女をワイルドは無言で見送ると、敗者の倒れ伏す姿を前に独り言ちる。
「渾身の一撃をこうも防がれてしまうとは・・・」
その声は勝者とは思えぬほどに焦りをにじませていた。ワイルドにとって目下最大の泥岩武闘崩しであるティタノマキアがあろうことか目の前の少女に真っ向から受け止められてしまったのだ。
「これでは辛くも勝ちを拾ったにすぎぬ。」
うぬぼれはとうに戒めたつもりでいたのだが、まだまだ私も修行がたりぬようだ。
「そんな馬鹿な・・・」
「マイク、向こうはどうなった?」
重騎士と対峙するスアレスだが先ほどの衝撃が気になって仕方がない。後方のマイクに状況を尋ねた。
「リーファが弾き飛ばされたのが見えた。ありゃタダじゃ済まないぞ。」
「何ぃっ!」
だが困惑しているのはスアレスたちだけではなかった。重騎士たちはワイルドの決断に疑問を呈さざるを得ないほどに何があったのか理解できない様子だ。
「悪鬼ヴァイスを成敗する刃ですぞ。そのような小者などに」
「お前の目は節穴なのか」
小者との評価を聞きとがめたワイルドの言葉に、重騎士が不満気に聞き返す。
「今のお言葉、十騎長殿と言えど聞き捨てなりませぬ」
「ならば問おう」
「いかようにも」
説破せんと鼻息を荒くする部下にワイルドは端的な問をなげかけた。
「その小者とやらが五体満足でいられるものか?」
「ティタノマキアを防いだのですかっ!?」
そもそもティタノマキアが真に想定している敵は憎き泥岩武闘。その泥岩武闘ごとジェゼーモフを両断せしめ、過去の汚辱をすすがんとする大技だ。あの一撃を真正面に受けて消し飛ばぬわけは・・・
<ゴクリ>
およそあり得ない事態に部下が生唾を飲む。どうやら十騎長ワイルドは底知れぬ力をあの少女に見出していたようだ。
「奇跡の薬で部隊を救ったというあの少女が?」
「たしか商人という話ではなかったか・・・そんな戦闘力を秘めていたとは。」
「いかに十騎長殿と言えどあんな威力で振り下ろした大剣に繊細な加減を加えるなどできまい。だとすれば一体いかなる防御障壁であの解き放たれた力の奔流をやり過ごしたというのか・・・」
口々に驚きの声を上げる部下たちを前に、ワイルドは自らの受けた衝撃が十分共有されたであろうことを見て取る。
「小物を消し飛ばせぬ刃にて悪鬼を成敗なぞ古今聞いたためしはない。」
「し・・・失言でありました。」
ワイルドは非を認めた部下に対してわずかにうなずくと、他に異論がある者を待つかのように瞑目する。
だが誰一人としてワイルドに異を唱える者は現れなかった。
「存念無くば、かの勇敢なる強者を讃えよ。」
「はっ!」
重騎士たちは各々その場に直立すると身体の中心軸に沿って真っすぐ大剣を顔の高さに掲げる。
勝負は着いたとばかりに戦闘態勢を解いた重騎士たちからスアレスが目を転じると、リーファの傍にシンディーが寄り添っているのが見えた。ティナとマイクは呆然と立ち尽くしている。
「目を開けてくれよ・・・こんなになっちまって」
シンディーは震える手で地面に倒れ伏したまま起き上がらないリーファの冷たい手を取る。
目の前の悲惨な光景を否定し去る力を持たぬ己の卑小さに打ちのめされたシンディーは懇願するように声を絞り出すのがやっとだった。
うつむいたまま肩を震わせるシンディーに声をかけるべくワイルドが一歩前に足を出した瞬間だった。先ほどとは打って変わって、キツネ耳の少女は張り裂けんばかりの大声で何者かの名を叫んだのだ。
「ロードチャンセラー!!」
それまで信じられないといった面持ちで固まっていたティナがシンディーの絶叫で我に返る。
「そうなんだよ、リーファには」
リーファは強大な魔力を有する妖精を複数使役しているはず。今こそその力が必要な場面なのにその姿が見えないのはどういうことだ?
「そ、そうだ。バトラー・・・いるんだろ、バトラー!」
しかしマイクが必死に呼びかけるも声は虚空へとかき消えるばかり。妖精はいかなる反応も示さない事態にマイクの表情が青ざめて行く。
「何でだよ?何で出て来ない!?」
シンディーたちの様子にワイルドがいぶかしげな眼差しを向ける。
「他に何者かが潜んでいたとでも言うのか?」
だがそんなはずはない。隠蔽の魔術など魔封じの鐘を前に存続を許されぬ。一度行使したからにはあの場で暴露しておらねばおかしいのだ。
仮に声の届く範囲に隠れたとて私が第三者の横槍に気づかぬとも思えん。たしかにノータイムで魔術を連続行使するリーファには度肝を抜かれたが、アレを隠蔽者が放ったとでも?それが本当だとしても一体どこから放ったと言うのだ?
<ズズーン>
「十騎長殿!かしこより騒音が」
突然の轟音にワイルドが西の方角へ視線を移すと大体の距離を推し測る。あの大きな騒音から鑑みて、ここから5分ほど走った先ではなかろうかとあたりを付けた。
「何かが崩落したか?このようなことができるのはヴァイスにほかなるまい。」
だがそれがヴァイスによるものだとして一体何のためにそのようなことをするのか意味がわからない。
「我々から逃亡している者が何故そのような愚かな真似を・・・」
「なあに、簡単なことだ。我ら以外にヴァイスは何者かと交戦しているのだろう。」
交戦と言っても相手は軍人すら手玉に取るヴァイスだ。こんな大げさなことをせずとも音もなく敵を葬るなど朝飯前であろう。むしろ敵は死なない程度に痛めつけられた挙げ句に戦意喪失して交戦にもならないというのがオチだ。
それが理解できないほどワイルドが愚かなわけがないのだが、エドマンドは敢えて確認せずにはいられなかった。烏金の魔鎧を纏った自分たちならばともかく、無謀にもヴァイスに立ち向かう者がいるなどとは到底思えない。
「十騎長殿、相手はAランクの冒険者ですぞ。それとも何か心当たりがおありで?」
「忘れたわけではあるまいエドマンド。」
「はて、何のことでしょうや?」
「ここにあの惨殺死体を残置した輩だ。」
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まだ読み始めたばかりですがとても面白いです!
アミル:「りんごはお目が高いのんな~。」
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
感想ありがとうございます。最近は次の話を書いては削除するのループに陥っていたので、とても励みになります。