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ファンタスマゴリア・オブ・ザ・ナイトメアact1

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眼のない蛇のようなバケモノがニールの腕や背中から複数姿を現すやヴァイスの糸がことごとく食いちぎられる。
延々と続くこの状況に形勢不利を察したヴァイスが思わず苦々しくうめいた。

「クソっ!」

「さっきまでの威勢はどこなんなら?」

男は両腕を大きく開くと薄ら笑いを浮かべながらヴァイスを見下ろす。

「黙れ!」

「弱え犬ほどよく吠えるちゅうなホンマじゃの。」

「くっ・・・」

小さな音とともにおし黙ってしまったヴァイスを見たニールは嬉しそうにたずねた。

「おうおうおう、今度は涙でもこぼしよるんか?」

「ぷっ・・・あっはっはっは」

ヴァイスがうつむいたのは笑いをこらえるためだったようだ。だが笑える状況などどこにもないことに異様な不気味さがただよう。

「何じゃ?気でも触れたか、気っ色悪ぃ・・・」

「ちょっとした笑い話を思い出したんだよ。」

あろうことかヴァイスはしかめっ面のニールをからかうような表情を浮かべている。だがニールはもはや怒りを通り越してあきれてしまった。

「はあ?」

阿呆かこのガキ。強がっとるつもりじゃろうが子供だましもここまで来るとただただ不細工じゃのー

「弱え犬は吠えねえんだ。」

「何じゃと?」

何やら妙なことを口走りはじめたヴァイスにニールがキョトンとする。こちらを油断させて奇襲をかけるような素振りも無いとなると、いよいよこの雑談の意図もまったくつかめない。

「媚びたらしいぜ。」

「はぁん?」

このボケ、性懲りもなくさっきっから何をほざきよんなら?・・・ん、まさか!?

「バルナロキスにコテンパンにされて命からがら逃げのび」

「じゃかあしーわクソガキ!あがあな偽善者ぶったチート野郎は」

ヴァイスの言葉をさえぎるようにニールが声を荒げる。しかし今度は逆にニールの声をさえぎるようにヴァイスが何かを口にした。

「後生じゃけえ、見逃してくれえや。」

ヴァイスの下手なモノマネがさらに滑稽さを増す。これにはニールも顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。どうやらニールにも心当たりがあるようだ。ヴァイスの口ぶりはニールそのもののようだが?

「ほざけぇっ!!ここでクソ野郎の話なんぞすなぁっ!」

「へえー、こっからが面白えのによお。」

「ぶちおかすくれえじゃ済まさんぞクソがぁっ。簡単にゃくたばれん思うとけ・・・」

ニールの身辺から例のバケモノが顔をのぞかせる。目は無くともヴァイスをしっかり捕捉しているのだろう、不気味な口蓋を上機嫌にゆがめて見せた。

「ミミズ野郎が大口たたきやがって」

「プレデターなめくさっとるのぉ」

接近なんざしたかねえがアイツをぶち殺すにはコレしか・・・

間合いを詰めるなど一度も無かったヴァイスが今度はプレデターを展開したニールへと襲いかかる。

「お?破れかぶれか。接近戦で勝てる思いなや」

「フシャー!!!」

プレデターが耳障りな絶叫を張り上げて跡形もなく姿を消す。どうやらあのバケモノも戦闘態勢に入ったらしい。

「虫酸が走るんだよ!」

「とって食うたらあーっ!」

鉄のカギ爪を装着したニールのストレートをヴァイスが傘状のダイアモンドコクーンで弾くと今度は反対の手でウェブを展開する。

「何を狙うとるんじゃこんガキャア!無駄無駄ぁっ」

すると死角からプレデターがヴァイスの土手っ腹目がけて突っ込んで来る。

「触んな!」

プレデターの側頭部を蹴り飛ばしバランスを崩したヴァイスが地面に倒れ伏す寸前、右手を引き寄せるとワイヤーアクションのように後方へと吹っ飛んだ。

カギ爪での追い撃ちモーションを盛大に空振ったニールがニヤリと笑う。

「消耗しよるのお。わりゃあスキル使いまくりで魔力が尽きるんも近えでこら」

よろけながら何とか着地するもヴァイスの身体は緊急離脱の衝撃に全力の悲鳴を上げている。このままではニールが指摘した魔力枯渇よりも先に身体が限界を迎えるだろう。保険として掛けておいた手だがそう何度も使えるような代物では無い。

「来いよミミズ野郎。エサちらつかせてんだろうが?」

「つれねえ女郎じゃのお。今度はこっちからド詰めしたるけえ」

ニールがヴァイスに接近して攻撃を仕掛ける。

「大振りなんざ食らうかボケ!」

ニールの繰り出した右腕をかわしたヴァイスだが、ニールの左肩と背中からプレデターが襲いかかって来た。目立つカギ爪で注意を引きつつ、本命はプレデターという戦闘スタイルなのだろう。

「もろうたで」

「ざけんな!」

マスエーカー=ストリングスで応戦するヴァイスをあざ笑うかのようにプレデターが食いちぎって行く。
プレデターによってヴァイスのスキルを強引に無視できるニールはそのカギ爪でヴァイスの左肩をわずかに引き裂いた。

「ぐあっ!」

痛みを食いしばって耐えたヴァイスは再びワイヤーアクションで後退し、ニールから距離をとる。

「へへへ、エエぞそのツラぁ。ゾクゾクするのおー」

血のついたカギ爪をチラつかせたニールは自らの興奮を紛らすように舌なめずりする。

一方ヴァイスは肩の衣服が裂け、痛々しい傷跡からは血が流れていた。もう少し深ければ左腕が使いものにならなくなっていただろう。

「そろそろ地べたに組み敷いたらんとこらえ切れんがや。」

「珍しく意見が合うじゃねえかクソ猿?」

「オメエはよぉ、俺がこれからボロ雑巾みてえにグチャグチャにしちゃるんじゃ。いろんなところをよぉ」

無造作に近づいて来るニールに対して逃げるでもなくヴァイスはその場に佇んでいる。

「これで最期か・・・」

「観念しよったか女郎?」

するとヴァイスは右手を高く上げる。

「何のつもりじゃ?」

ヴァイスの動作にプレデターを展開したニールだが、何やら天辺に銅像を戴いた石塔が基礎部分を断ち切られて倒れつつあるのが遠くに見えただけだった。どう考えてもこの状況を打開するような策には思われない。

「さあな、これからわかるんじゃねえの?」

「ハッタリかましよって。そげなもん時間稼ぎにもならんけえのぉ!」

鼻息荒くヴァイスに突進するニールに怯えるでもなく、ヴァイスは右手を袈裟がけに振り抜いた。

「ふがっ、何じゃこらあ!?」

「あっはっは、クソ猿は地べたに這いつくばってテメエで慰めてろ」

ニールが気づくと身体が宙に浮き、とんでもない速度でどこかへ引き込まれているではないか。

「あのガキ!クソみてえなマネしよって」

どうやらヴァイスはあの接近戦でワイヤーアクションをニールに仕込んでいたようだ。それはかつてリアンが格上のAランク冒険者ハウンドに仕込んだ一部始終を見て思いついた奇策だった。

「許さんぞー・・・ぐはぁっ!」

<ズガン>

石塔の倒壊地点に滑り込むように叩きつけられたニールにドンピシャのタイミングで石塔が落着する。
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