幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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ローグパラディズム・イン・ザ・ダークact12

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追って来ないところを見るとうまくまいたのだろうか?
僕がばら撒いたトラッカーウェブにも敵を引っかけた手応えは無い・・・

「どういうことだ・・・何で追って来ない?」

暗闇に包まれた石造りの街を二人の女が駆ける。

風のない城壁の内部は冷たく澱んだ空気に包まれていた。肌を切り裂くような寒さにまぎれて後ろを走るエルフの声が耳にとどく。

「これからどうするつもりだ?」

「知るか!」

ヴァイスはリアンの問いかけを一蹴する。もっとも当のヴァイス自身に皆目見当もつかないのだからどうにも答えようがない。

旧都に留まる選択肢は無い。ひとまずここを退散するのが先決だ。あとはなるようになる他ない・・・

逃走という必然性にからめ取られてそれ以上の思考も浮かばないヴァイスが突然上を見上げる。
その様子にリアンが即座に状況を理解した。

「闇討ちか!」

「おうおうおうおう、そがーにいてどーこ行くんなら?」

小馬鹿にしたような声色にヴァイスがいきり立つ。

「クソが・・・ぶち殺されてえのか」

見上げた先には8名ほどの人影が見えるが、他にも隠れている恐れがある。どいつもこいつも何やら物騒な得物を持っているようだ。

「いかにもトッポさ漂うチンピラ野郎がよお。そこから引きずり落として血だるまに」

「うわおうー、いびせーいびせー!」

屋根の上に陣取るふざけた覆面男は両手の人差し指をヴァイスに差し向けて首を振っている。

「あの野郎!へばりつくような猿の鳴きマネなんかしやがって。耳が腐る」

「ちっ!ぶちイラつっこと抜かしよおわ。おう、お前ら!お客さんじゃけえ相手したれ」

ニールが手をペラペラ振ったのを合図に、ほうぼうの建物の屋根に陣取っていた覆面の男たちが石畳の上に飛び降りる。

そろって覆面姿の様子を見るに殺し屋か何かだろう。先ほどの重騎士たちとのつながりがあるようにも見えない。

「死ね」

乾いた呪詛とともに斬りかかる覆面にヴァイスが右手を肩の高さから地面へと振り抜く。

「死ぬなあテメエだ!」

<ブワアッ!>

ヴァイスの展開した対物防御用スキル・ダイアモンドコクーンに覆面の一人が何かを投げつけると、たちまち煙が爆散した。

「くっ!ちまちまと小細工を・・・ん?」

煙にまぎれて覆面男が突っ込んだ瞬間、苦しげな叫び声がヴァイスの耳に飛び込む。

「うぶおぁぁぁっ!」

どうやら自身ではなくリアンの側に仕掛けたトラップが作動したようだ。

なるほど・・・この目くらましのお目当てはアビムリンデってわけだ。まったくクソ雑魚どもがナメたマネしやがって

「僕を無視して素通りできるなんざ甘いんだよボケ!」

ヴァイスが左手を押し込むような素振りを見せると、煙に紛れてヴァイスを通り越そうと試みた他の覆面が糸にからめ取られてバラバラに弾け飛んだ。

重騎士たちはエルフを生きたまま確保しようとしていたよなあ。だとするとそれぞれの黒幕は異なるんだろう。一体誰が・・・

「はっはっはっ!誰か知らんが派手に爆ぜたのお。」

高みの見物を決め込む覆面にイラつくヴァイスが地面にツバを吐く。

「目くらましで不利になるのはテメエらだってことを教えてやんよ。皆殺しだ!」

「と、届かない・・・はっ!げべぇ」

途中で身動きが取れなくなった覆面が砕け散る。上からその様子を眺めるニールも頬杖をついたまま溜息を吐いた。あまりに不甲斐ない結果ばかり目の当たりにして飽き飽きし始めたようだ。そろそろ笑ってばかりもいられまい。

「また爆ぜよったのお。なぁにが腕っこきのアサシンなんじゃ?もっと漢を見せんかいやぁ、ったく女なんぞに殺されよってからに。そぉら、もっとジャンジャンバリバリ行け」

「テメエもバラすってんだよ!」

「余裕じゃのお、俺にかまけとるヒマがあるんか?」

ニールの言葉通りヴァイスの周囲にはまだまだ厄介な殺し屋がうろついている。油断していると足もとをすくわれかねないのは確かだ。煙にまぎれて放たれる毒矢を弾きつつ、地上のトラップを張りなおす。

「ちっ!」

あのクソ野郎は糸を自在に操ることのできる範囲外の絶妙なポジションにいる。まるでこちらの手の内を知っているみたいだ。

この場を離れるにしたところで頭を押さえつけられているのは気にいらねえ。魔力を封じたエルフがいる以上、圧倒的に不利なのは僕だ。

「いい加減気に食わねえんだよっ!」

「そがあなもんきかん。」

試しに石を投げつけてみたが何かに阻まれたな。となるとアイツも厄介なスキル持ちだろう・・・クソ!嫌な予感の本命はコイツか。・・・しまった!

ヴァイスが上のニールに気を取られたすきを突いて殺し屋がトラップをすり抜ける。つい先ほど上から見下ろす覆面男がにおわせた経験値の高い腕利きがいるという話は嘘ではないようだ。

「おい、一人そっち行ったぞアビ公!」

<キンッ!>

暗闇と煙幕の中で火花が散った。すれ違いざまの斬撃を弾き返したリアンは神経を研ぎ澄まして敵の気配を察知する。

へへ、Aランクと聞いた時ゃあ驚いたがいざやってみりゃあちょろい仕事だぜ。

リアンの背に回り込むのに成功した暗殺者が満を持してトドメの一撃を見舞う。誰もが疑いようもないほどドンピシャのシチュエーションに男の笑みがこぼれる。

「愚か者め、それだけ殺気をこめれば見つけてくれと叫んでいるようなものだ。」

急所への刺突が紙一重でかわされた光景に一転、殺し屋の目が見開かれた。急ぎ体勢を立て直そうとするが万事休す。

「コイツ、まさか見えているのか?」

ヴァイスから護身用に渡された短剣は暗殺者の喉目がけて勢いよく放たれる。

「この俺が・・・ぐあぁっ!」

ついに暗殺者の下まで因果は巡り、自らの首に短剣が奥深く突き立てられる一部始終を見届けた末の絶命を遂げるのだった。
剣術の心得もあるリアン相手に近接戦闘を挑むのは相当な腕前と覚悟を要する。

「なんじゃあ?またやられたんかい。バチクソ使えんのぉ」

しかし片手で顔を覆うワイルドがボヤいた次の瞬間、事態は急転する。突き殺された暗殺者に隠れて接近したもう一人の男がリアンの利き手をつかみ、後ろ手にひねり上げた。

「動くな。」

「うっ!」

「どうしたアビ公!?」
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