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ローグパラディズム・イン・ザ・ダークact8

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「あっちもやってるなあ。」

先に戦端を開いたティナたちを見やりつつリーファがつぶやいた。その落ち着き払った様子にワイルドも思わず苦笑いする。

こちらは精鋭の騎士ともなれば総がかりで立ち向かって来るものと思っていたが・・・やれやれ、ずいぶんとゆったり構えられたものだ。

「貴殿は高みの見物かな?」

「まあこちらもボチボチ始めようか。先に言っとくけど覚悟した方がいいよ、ワイルド?」

ニヤリとした私を見てワイルドが目を丸くしている・・・んじゃないかなあ?どうにも表情があんまし読み取れないんだよね~あの兜だと。

「はて、何を覚悟すればよいのかな?」

その自信はどこからわき出るのか?たしかに動きだけを見れば戦いなれた者たちではある・・・が、状況を打開するだけの力があるとも見えぬ。

<ガギンッ!>

「なんっ!?」

<ズガーン>

ワイルドは突如右肩をつかまれて力まかせにぶん投げられたような錯覚に陥った。思い出せるのはせいぜい何か火花のようなものが視界の隅に見えた気がするということだけだ。
まことに信じがたき事実ながら彼の巨体ははるか後方、建物の壁に叩きつけられているではないか。

「くはあっ!」

「おっ、これが通らないのか?」

初撃にて決着をつけるつもりで命じたホーネット=ランサーだったが、リーファの思惑に反して結果は芳しいものではなかった。ギガントサーベルタイガーですらも一撃で葬り去る威力をもってしても弾き飛ばすのがやっとの状況にリーファが衝撃を受ける。

「リーファさま。ランサーが接触の瞬間に分散させられるようです。」

うん、どうやらガノフの言ってた何たらまがいらしいね・・・まがいモノじゃなかったってことか?だけど一体どんな硬さしてんだ、ありゃ?

「ランサーも数は限られております。いかがいたしましょう?」

う~ん、これが効かないとなると困ったねえバトラー?

もしもランサーが通ればワイルドもタダじゃ済まないってんで、敢えて肩を狙ってみたんだけど・・・必要ないどころか余計なことしちまったなあ。

鳥金の魔鎧うきんのまがいにヘコみができるか・・・あの童よりも一撃の重さが大きいとは恐れ入った。貴殿は何者なのだ、リーファ?」

帝国につけ狙われても面倒だから素性なんて明かすもんか!

「荒事も辞さない遍歴商人ってことでよろしく。」

「はっはっはっ、これほどの業前わざまえ。なおも商人とは面白い冗談だ。」

「う~ん、あながち冗談でもないんだけど?まあそれはいいとして・・・ワイルド、ものは相談なんだけど」

「何だね?」

「いっそこの件から手を引いてくれない?」

貸し借りなしとは言ったものの、ワンチャンお願いが通るかもしれないし?言ってみるのも手だよね?・・・どうよ?
おや、何かアゴの辺りに手を当てて考え始めたぞ?行けるかもしれない。

「・・・このワイルド、生来人の頼みは断れぬタチなのだ。」

「おっ、じゃあ決まりだね!」

「だが、その頼みは聞けぬ。」

「やっぱそう来るかー。」

思わせぶりな返事して期待させんなし。
バルトロメオとはまったくタイプが違うけど、絶対に聞き入れない頑固さは同じと見た。任務に忠実な筋金入りの軍人だね。これ以上は何言ってもムダって感じがする。

「加減など無用であるな。行くぞ!」

ワイルドは魔鎧の重量をものともしない速さでリーファに突進する。

「まさか私の場所にたどり着くまで待ってもらえるなんて思ってないよね?」

「むっ、今度は・・・酸かっ!?」

どこからともなく浴びせられた酸にワイルドも仰天する。

少し視界に制約があるとはいえ、先ほどからあり得ない方向とタイミングでクリーンヒットをもらい続けているのだ。烏金の魔鎧が無ければすぐにもやられていただろう。
そうであればこそ魔鎧の使用につき公爵を説き伏せた甲斐があったというものよ!

「これで商人とはとんだ食わせ者ではないか!」

「ふふふ、ニオイでバレちゃうね。早く落とさないと溶けちゃうよワイルド?」

「教えてやろうリーファ。この鎧は硬いだけの金属などではない。この数百年、サビ一つつかぬのだからな。」

「何それ?」

金属も余裕で溶かす強酸だぞ?気にも留めないなんてヤツがいるのか!?ヤバい、どんどんこっちに近づいて来てる・・・もっかいランサーで吹っ飛ばすか?でもまた同じことになるだけだし・・・

突進の勢いやまぬワイルドにリーファが焦り始める。ランサーを無駄撃ちするのは悪手、リーファの判断が鈍ったところでバトラーが前に出た。

「エンプレスメリッサの御前である。頭が高い。這いつくばれ、エーテル=ウィンド!」

酸が通用しない以上、足止めもままならない。ならばワイルドそのものを別の手段で吹き飛ばすまでとハニービー=シルフィード=バトラーが風魔術で暴風を巻き起こした。

「ぐぬっ!小癪な魔術を。だがこの魔鎧はこのような使い方もできるのだ・・・」

<カウィーン>

ただの奇抜な装飾の兜と思いきや頭上のアレに何か意味でもあるのだろうか、ワイルドが上部を小突いて鐘のように音を鳴らす。
その一見謎の行動がリーファとバトラーの注意をひきつけたのはせいぜい一瞬に過ぎなかったのだが、その尋常ならざる効果たるや彼女らの度肝を抜いた。

「何っ!?風が・・・」

「え?・・・ま、魔術がかき消されたって言うの!?そんな馬鹿なっ!」

「魔術こそ多彩であるが、戦とは己が身一つでぶつかるもの。才におぼれたな、リーファよ。」

風魔術を無効化したワイルドがリーファを捉える範囲にまで踏み込むと大剣を振り下ろす。

「なんのっ!」

ここはハニカムウォールに頼るまでもなくリーファも巧みにかわして見せた。ティナが得意とする敵を蹴りつけた反動で距離をとる体術を繰り出す。これほどの近距離で刃とまみえるのもグラムス市街戦以来ではなかろうか。

窮地に陥るリーファに追い討ちをかけるかのように、バトラーの魔術が無効化された影響は他にも及んだようだ。今度は乱戦続く鉄火場から驚愕の声がリーファの耳に届いた。

「ややっ?貴様、獣人であるな!姑息なヤツめ、化けておったとは」

「あれ?バレてらあ。何で?」

気づけばシンディーの耳と尻尾が元通りになっている。今まで幻術を無効にされた経験なんてありゃしないぞ?

「ヤバ、幻術まで?」

「奴隷風情が首輪なしで闊歩するとは不届き千万!」

「まあなんだ、バレちまったら仕方ねえ。アタシの正体を見たからにゃあ生かしちゃおけん。お前たち、やっておしまい!」

「やっておしまいじゃないんだよ。いまやってんだってば。うひゃっ!?」

シンディーにツッコミを入れるティナだったが、気をそらした瞬間に目の前を大剣がかすめる。

「何やってんだアホ。死ぬぞ!」

「アンタが言うなっての、バカシンディー!」

なかなか魔術無効範囲も広いと来たか。いやでも肉弾戦が物を言う状況に引きずり込まれたってことだね。やってくれるなあ本当・・・
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