幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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ローグパラディズム・イン・ザ・ダークact6

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店の明かり一つ無い旧都の往来で謎の遺体を前に対峙する。あの無駄にデカい声、やっぱりワイルドだ!

「いかにも。リーファはいったいこんな時間場所で何をしておるのだ?よもやそこなる男、不埒な考えで婦女子たちを暗がりに連れ込もうとしておるまいな?」

「言われてっぞ、ド変態ども」

「誰がド変態だ!シンディー、お前はこっち側の人間だろうが?」

・・・まあ、こんな時間に暗がりをうろついているのは妙だというのはわからなくもない。だが、いま気にすべきはそんなことじゃないだろう。もっと大きな問題が私たちの前に横たわっているんだが?

「ちょっと落ち着いてよマイク。シンディーの悪ふざけなんだから。」

「どうなんだ!返答次第では」

「待ってよワイルド。それは誤解だ。」

「そうか。ならば聞く。この惨劇は貴殿らの仕業ではなかろうな?」

そりゃあこっちのセリフだ。後から来た私たちからすれば遺体の傍にいたのがアンタたちだったんだから。

「私たちが来た時には既にこの有様だった。こちらからすれば物騒な出で立ちのアンタたちこそこの惨劇を引き起こした張本人に見えるが?」
 
「しかと見よリーファ、返り血など無かろう?」

「それを言うなら私たちも同じさ。」

「はっはっはっ、然り然り。これは一本取られてしまった。」

いや、笑いごとじゃないんよ。結構な惨劇だ、何でワイルドはこの状況で笑ってんだ?

笑い飛ばしているあたり、この惨劇を引き起こしたのがリーファたちではないと見抜いていたのだろう。どうやらリーファたちを勘ぐる部下たちを納得させるためにうった芝居にすぎないようだ。

その芝居が功を奏したか、相変わらず大きな声で笑うワイルドに部下の一人が近づく。こちらも事件だが、彼らが負っている任務からすれば些事にすぎない。

「十騎長殿、何にせよ急がねば。」

「そうであったな。悪いがリーファ、私は先を急がねばならぬ。貴殿らは即刻宿に戻るがよいぞ。」

「ワイルド、ひとつ聞かせてよ」

相互に疑いが晴れたとばかりに先を急ごうとするワイルドを呼び止めると、律儀にもワイルドが私の声に振り向いて見せた。

「何かな?」

「あのホテルにいたエルフと亜人の子を傷つけてないだろうな?」

「抜剣っ!」

ワイルドの部下の男が戦闘態勢を取るよう全体指示を出す。するとワイルドを除く全員が即座に背中の大剣を引き抜いて構えている。リーファたちを見逃すためにワイルドが敢えて芝居をうったにも関わらず、当のリーファ自身がそれを台無しにする発言をしたのだ。部下たちが聞き咎めないわけがない。
ただ襲い掛かって来ないのは最終的に攻撃の指示を下すことができるのはワイルドだということなのだろう。ワイルドは振り向いた姿勢のまま無言でリーファを見つめている。

「・・・」

しばしの沈黙。ワイルドはリーファに向き直るとようやく言葉を発した。と言うよりも部下たちの手前、ワイルドは追及の言葉を発せざるを得なかった。

「リーファ、どうして貴殿がそれを知っている?」

「先に質問したのはこちらなんだ。答えてよワイルド」

「やれやれ気が滅入るものだ。」

リアンを付け狙う軍が本日の会合で精鋭を仕向けると決議したというのはテオから聞いている。商業ギルドマスターのテオは懇意にしている貴族から状況について忠告を受けたそうなんだ。
しかし驚きだよね?それがまさかワイルドだったとは思わなかったよ。私が考えるよりも世間は狭いってことなのかな?どう思う?
でもワイルドが私に恩を感じているなら自ら退いてほしいところだけど、あの様子は一体どっちなんだ?

「どうなのさワイルド?それじゃあサッパリわかんないよ。」

「我々は任務中なのだ、リーファ。答えるべくもなかろう。私から言えるのはただただ残念ということだけだ。」

「さっきから聞いてりゃ気が滅入るだの残念だの、何なんだよ?」

「残念だとも、我らが恩人たる貴殿に力を行使せねばならぬのだからな。」

「言ってくれるじゃん」

どうやらワイルドは退く気など毛頭ないようだ。だがアンタたちがやる気なら叩き潰すまでだよ。バトラー、準備はできてる?

「もちろんです、リーファさま。今回は隠し玉も準備いたしました。これまでとは比べ物になりませんよ。」

さすがバトラーだね、本当頼りにしてるよ。さて、リアンには手を出させないからアンタたちは覚悟してもらうかんね。

「投降し、今すぐ旧都から立ち去ると言うのであれば一切を不問に付す。もちろん先の謝礼つきでだ。」

「十騎長殿、それはいくらなんでも」

お尋ね者の一味と思しき人間を野に放つと言うのだ。ワイルドの言葉と言えども聞き流すわけにはいかないとばかりに部下が食い下がる。

十騎長殿には甘いところがある、それが彼の人間的魅力の一つとはいえそれを正すのも部下の務めだ。

しかし部下の思いとは裏腹にワイルドも簡単には折れないようで・・・

「良いのだ。もとより私は主からエルフ捕縛以外の命令は受けておらぬ。私の指示が気に入らぬのならば上に報告すればよかろう。」

「いえ、そんなつもりなど」

「ワイルド!」

呼び声とともにリーファが何かを投げて寄越した。それをキャッチしたワイルドがその目で確認する。

「む!これは・・・」

「それのおかげで入城できたよ。もう用は済んだから返す。」

リーファの感謝の声にワイルドが安堵する。板ばさみのワイルドにとってはリーファから色よい返事を聞けるに十分な手ごたえだ。疑心暗鬼な部下の手前、自信をもってワイルドがリーファに問う。

「そうか。先の返答は如何」

「あんたの短剣で貸し借り無しってことさ。力づくで排除するから覚悟してねワイルド。」

皮肉にも自らの心遣いが絶縁の契機になろうとは思いもしなかったワイルドが心底残念な調子でうめく。

「良き旅路、良き再開とはいかなかったな。・・・何とも気の滅入る話だ。」

話合いは不調に終わった。目の前のワイルドはため息なんてついてるよ。不本意なら退いてほしいよね、まったく。

「戦う以上は容赦せぬ。覚悟してもらうぞリーファ!」

「そりゃあお互い様だ。やっちゃえシンディー!」

ワイルドとやりとりしている間、シンディーが私の背後で詠唱していたんだ。先手はこちらが取らせてもらうよ。

「準備できてるぜ、リーファ。フォックスファイア!」

暗闇の中、シンディーの目が蒼く輝く。すると次の瞬間、青炎の連弾が重騎士たちに襲いかかった。
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