幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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ローグパラディズム・イン・ザ・ダークact5

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アミル・ジ・エンド・・・後世の人はこの事件をそう名付けて巨星の最期を悼むのかもしれない。

「痛ってーっ!ちくしょー、誰だこんな低い梁を作りやがったなあ」

聞こえて来たのは男の高笑いではなく、無様な怒声だった。

頭を必死に抱えていたアミルが恐る恐る目を開けると、男は手を抱えて痛みに打ち震えている。

「チャンスなんっ!」

どっこい生きてるド根性アミルは必死に手足をバタつかせて這い出ると、ようやく足腰も言うことを聞き始めた。出口へ向けて一目散に駆け出す。

「さ、サイナラっ!」

「あっ、このっ!待て畜生!ぬ、抜けねえ。待てえっ!」

「待てと言われて待つわけなっしんぐ~」

アミルを取り押さえるべく支配人の男がタックルを試みる。男の手がアミルの脚に届こうとしていた。なりふり構わぬ男の執念にハニービーももはや策を選んでいる場合ではなくなったようだ。何とかなあれ大作戦を大決行なわけよ。

「ええいっ、ままよっ!」

「逃がすかよっ・・・うべぇっ!」

必死に逃げ出すアミルの後方で喚き声が轟く。振り返ると凶暴な支配人はハニービーが今まで収納していたガラクタの山に押し潰されているではないか。その光景にアミルが歓喜の声を上げる。

「ナイスですん、妖精さま~」

アミルは守った。次どうしよう、教えてリーファさま~

アミル付きのハニービーはトーチとポーターの能力しかなく、キュアやディフェンダーの能力を持たない。守るには守ったものの・・・ハニービーが途方に暮れる。

だがこれで安全になったわけではないようだ。支配人の叫び声を無視してアミルが抜け出した先に待ち受けていたのは従業員たちの怨嗟の声だった

「何てこったあ。どうしてこうなった?」

「5階のスイートルームがズタズタだ。」

従業員たちが頭を抱えてうめいている。後片付けが恐ろしいレベルなんじゃなかろうか。こんな状態で鉢合わせた日にはどうなることだろう。しかし5階と言えばリアンとヴァイスがいたはずだ。

「これは何かあったに違いないのん。まずはべーやんたちを確保して・・・ヴァイスとリアン。いやいや、心配せずともあの二人は無事に決まってるんな。」

アミルが思案していると聞きたくない喚き声が聞こえて来た。どうやら立ち止まって考えている時間などハナからなかったようだ。

「どこ行った、あのクソチビめ?」

「ひいぃっ、復活してるのん。早くもっさんのところに行かな行かにゃいかんのん。」

そろそろそろ・・・

「ん、何かいま??」

「どうした?」

「・・・気のせいか。なんでもない。」

「くっ!少しは油断してほしいのん。アミルでなければ尻隠れ頭隠さずなんな。ふうー危ない」

衣擦れ程度の物音に反応した従業員に戦慄が走る。何にせよこんな場所で見つかってしまっては即フクロ叩きになってしまう。アミルの額から大粒の汗が流れ落ちた。

「ぁんの野郎。」

「うわあっ!・・・支配人?どうされたのですか、ホコリまみれではないですか。」

下の階段から上がって来たホコリまみれの男に仰天した従業員が後ずさりする。あまりの小汚い姿に支配人と認識するまでに数秒かかった。

「クソ!あの羊のガキに不覚をとった。まだ内部にいるはずだ。お前らも見つけたら引っ捕らえて俺のもとに連れて来い。」

「承知しました。おい、支配人のお召し物をお持ちしろ!」

ハニービーがパントリーから取り出した樽にスッポリと収まったアミルは背筋が寒くなる。

「うひーん、アミルのことはお構いなく~」

***

「ぬうぅ・・・不覚。まさか取り逃がした上に見失うとは・・・」

「十騎長殿!」

「どうしたマクシア?」

ワイルドが呼ばれた先にたどり着くとそこにはいくつかの惨殺死体が残されていた。

「これは・・・」

「おのれ毒婦め!」

「むう・・・ん!?これは」

何か手がかりが残されていないか探っていたワイルドが何かに行き当たったようだ。

「いかがなされました?」

「よく見てみろ、これはあの童の仕業にあらず。」

ワイルドが断言するも部下の重騎士たちはその珍説に首を傾げている。その空気を感じ取ったワイルドが根拠を述べるべく言葉を続けた。

「はらわたをぶちまけるのは童のスタイルではなさそうだ。お前たちもセントクーンズの外と中で何度となく目にしたであろう?」

「これはしたり。これは切断したというよりはぶち抜いたといった具合ですなあ。では・・・まさかあのエルフが?」

「それも無かろう。あ奴は魔術封印を施されておった。これを為すに能う腕力などもあるまい。」

ヴァイスたちが逃走経路上で犯した殺人ではないとすれば犯人は誰なのか。しかし彼女らとはまったく無関係に同時多発的に起きたとも断言できない。そこに何か意味が込められていそうだが・・・

「では別の者が?しかし何のためにこのような」

「おそらくこちらに童が向かったと思わせるためのデコイだろう。それにしてはえらく仕事は雑だがなあ。・・・となると我ら以外に何者かが動いておるかもしれぬ。」

「奴ばらの一味でしょうや。」

「あらかじめ申し合わせておくなどあるだろうか?仲間と言うならばこのような通り魔殺人など下策だ。むしろ敵対者のような気がする。」

部下の言い分も筋が通らぬわけではない。ただ己の勘にすぎないことも自覚してはいるのだが

「しかし一体どこの誰が?Aランク相手に命知らずにも程がありましょうや・・・」

「キャアー!」

「ぬっ!」

悲鳴の上がった先に目を向けると複数の若い男女が立っている。しかしこの暗がりでは相手の姿などよく見えない。

「何だよこりゃあ?」

「お前らがやったのか!」

「曲者め!よくもぬけぬけと。」

暗闇の中、互いに人殺しの罪をなすり合っても不毛と考えた重騎士の一人が手をかざす。

「光明よ!」

「何、貴殿は!」

ライティングで照らし出した先にいたのは瀕死の重傷を負った兵士たちを救ってくれた大恩人の少女だった。

「何だリーファ、あいつと知り合いなのか?」

「いや、知らないよマイク。」

「だよなあ。」

「私だ!」

しかし目の前のピカピカフルプレートが知り合いアピールしてくる。あんなゴツイ奴らなんて今までに会ったことなんてないぞ?誰かと勘違いしてるんじゃないか?

「いや、わからねえよ!」

「十騎長殿、フルフェイスの兜ではお顔がわかりませんぞ。」

「そうであった。」

「何やってんだアレ?」

何か既視感がぬぐえない。この感じ、どこかで

「何となくスアレス感があるな。」

「それな。さすがシンディー。」

「その点、俺はスアレス感で言うとまるでスアレスそのもの・・・ん?俺は何を言っているんだ?」

スアレスが何やら自己完結的にドツボ入りしているのは珍しくもない。それはそれとして、妙に聞き覚えのある単語が耳に入って来たなあ。

「十騎長?もしかしてワイルドなのか?」
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