幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

文字の大きさ
上 下
150 / 167

ローグパラディズム・イン・ザ・ダークact3

しおりを挟む
とりあえず絶体絶命の状況は脱したものの、回り込まれては意味がない。先を急ぐヴァイスがリアンに告げる。

「おい、さっさと降りるぞ!」

「ふざけるな!まだアミルが残っている!」

インヴィジブル=スパイダーで壁を垂直に歩けるようにしているにも関わらずリアンが降りるのを渋っていた。どうにか鎧男どもを回避しつつアミルの下までたどり着けないものかと思案しているようだ。

「毛玉なんぞ捨て置け!奴らの狙いはボクらだ。」

「無理矢理連れて来たのならアミルの安全に責任を持て!それもできぬお前が漫然と亜人を見下すなど、はるかにケダモノ以下ではないか!」

「毛玉の生き死になんざクソほどの意味もねえよ。それはヤツらにとっても同じだ。」

それは少しもアミルの安全を担保しない。情報を聞き出すため捕らえて拷問にかけたり、気慰みに殺したりもあり得る。ヴァイスの子供だましな論点のすり替えにリアンが納得するはずもなかった。

「目を覚ませヴァイス。アミルが危険な状況に変わりはない。お前と私ならばアミルを救い出せる。」

「こんなのでいちいち消耗してらんねえんだよ!」

「何故だ!入城する前は兵士相手にさんざん大太刀まわりを繰り広げたお前が」

すっかり勝ち気を失ったヴァイスに喝を入れるリアンだったが、ヴァイスの表情がどんどん陰鬱になって行くことに言葉を失う。すると今度は自分の番だとばかりにヴァイスが口を開いた。

「・・・予感だ」

「何?」

「嫌な予感がするっつってんだ。それもとびきりのな・・・」

「愚にもつかぬことを」

リアンが切って捨てるもヴァイスは自らの予感に囚われていた。

「これが何故か当たるんだよ。むしろ一緒にいない方が毛玉にとっちゃ幸せかもしれないぜ?」

***

「むふふ・・・」

「むひょひょひょ・・・」

「うぴっ??」

心地よい眠りが突然の痙攣に妨げられるや、羊娘のまどろみが彼方に吹き飛んだ。おそらく幸せな夢だったのではないだろうか?
目を白黒させながら辺りを見回すのは羊娘のアミルだ。ハニカムパントリーから準備してもらったベッドの上でいつの間にか眠りに落ちていたようだ。

「・・・」

あまりの出来事にしばしの沈黙。アミルが完全に意識を取り戻したその場所は、本人曰くアミルが拭き拭きまくりまくりすてぃな小部屋の片隅だった。

「いつの間にか寝てしまってしましま。」

言葉にできないニュアンスの余剰にアミルの頭上で蜜蜂が痙攣する。アミルの意志解釈に余力を使い果たした蜜蜂だが、負けじと必死に食らいついている。何故かわからないが、アミルのお付きも死にものぐるいだ。

「掃除すればなかなかの居心地なんな。このコンパクトさはまさにアミル時空ですん。」

「アミル時空・・・言語明瞭意味不明」

「いま開かれるアミルの世界なん・・・う~ん、アミルダム」

ハニービーのぼやきもアミルには聞こえない。すると何やら気づかぬうちにアミルの眉がハの字になっているようだ。もしかして今の聞こえちゃった?

「あっ、しまったのん」

ややっ、アミルが困っている?どうしたのかとハニービーに緊張が走る

「ゴリさんたちにお休みを言うのを忘れましたん。」

やっぱりアミルだった・・・それほど大したことでもない。ハニービーの気が一気に緩む。

「おかげで明日はみぽりんのご機嫌がななめかもしれないのん。ドンマイ」

<ドンドン!>

「むむ、こんな時間にいったい?」

<ガコッ!ガコガコッ!・・・バンバンバン>

乱暴に扉を開けようとしたが開かないことに激昂したのか激しく扉を叩く。さすがにこれにはびっくりしたアミルが声を上げる。

「なっ!扉が壊れてしまいますん。」

「壊してんだよこの畜生め!」

<バキン!>

扉に何かが打ちつけられたようだ。尋常ではない音と衝撃が伝わって来た。

「うひぃっ!もしかして斧なのでは?」

「大当たりだぁ」

「薪が無くて困ってるならアミルに暖房はいらないん。」

明らかにこれはルームサービスの類ではない。繰り返す、断じてルームサービスではない。

「だぁらーっクソガキぃ!」

「へひっ!」

「俺さま自慢のホテルをぶち壊しやがって。テメエなんざぶち殺してやるるるーっ!」

アナゴさんもビックリの巻き舌で怒り狂う男の言い分にアミルが首をかしげる。

「ぶち壊してるんはおっちゃんの方なんな。ちょっと落ち着いてほしいのん。」

「ばゔぁらゔぃやあぁーっ!」

「ひいいっ!」

支配人はよだれ鼻水お構いなしに意味不明な雄叫びを上げて渾身の一振りを扉に加えた。いざという時に戦うスキルのないアミルとハニービーがビクビクと震え上がる。

無常にも扉はバラバラにされてしまった。

<ズバンッ!>

「ほーら、開ーいた。ふぇふぇふぇふぇ・・・」

「ちょ、タンマなん。キュイ!」

支配人の男は部屋に足を踏み入れるなり、アミル目がけて斧をフルスイングしたではないか。アミルは紙一重で斧を避けるも、脚がもつれて床に転んでしまった。

「外しちゃったよ~、俺さまとしたことが」

「ひ、人殺し~」

「アミルへの敵対的行動を確認・・・あわわ、どうしよう?」

無力なハニービーがどれだけうろたえようとどうにもならない力の差に絶望する。

「だえれうしゅらばあーっ!」

「うわーっ、助けてくだしゃい!」

涙目で命乞いするアミルを前にして支配人の男が笑みを浮かべている。だがその目は一つも笑ってなどいなかった。

「ダメだ。」

「そ、そこをなんとか。ひとつ長~い目でアミルを・・・へひひ」

今できる精一杯の愛想笑いを浮かべて懇願するアミル。だが支配人は何を思ったかアミルの鼻に人差し指を押し付けて嬉しそうに言い放つ。

「テメエはバラバラにして犬のエサにしてやる。でなけりゃ俺さまの気が収まらねえ」

「そんなぁ~」

腰が抜けてすぐには立ち上がれないアミルに支配人はゆっくりと斧を振り上げる。

「しゅちぇじぇこぼどりゃあ~じぇらばらばんば~っ!」

迫り来る凶刃に恐怖が最高潮に達したアミルももはや何だかわからない断末魔の悲鳴を上げた。

「うわらば~!」

<ザクッ!>
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

処理中です...