幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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ローグパラディズム・イン・ザ・ダークact3

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とりあえず絶体絶命の状況は脱したものの、回り込まれては意味がない。先を急ぐヴァイスがリアンに告げる。

「おい、さっさと降りるぞ!」

「ふざけるな!まだアミルが残っている!」

インヴィジブル=スパイダーで壁を垂直に歩けるようにしているにも関わらずリアンが降りるのを渋っていた。どうにか鎧男どもを回避しつつアミルの下までたどり着けないものかと思案しているようだ。

「毛玉なんぞ捨て置け!奴らの狙いはボクらだ。」

「無理矢理連れて来たのならアミルの安全に責任を持て!それもできぬお前が漫然と亜人を見下すなど、はるかにケダモノ以下ではないか!」

「毛玉の生き死になんざクソほどの意味もねえよ。それはヤツらにとっても同じだ。」

それは少しもアミルの安全を担保しない。情報を聞き出すため捕らえて拷問にかけたり、気慰みに殺したりもあり得る。ヴァイスの子供だましな論点のすり替えにリアンが納得するはずもなかった。

「目を覚ませヴァイス。アミルが危険な状況に変わりはない。お前と私ならばアミルを救い出せる。」

「こんなのでいちいち消耗してらんねえんだよ!」

「何故だ!入城する前は兵士相手にさんざん大太刀まわりを繰り広げたお前が」

すっかり勝ち気を失ったヴァイスに喝を入れるリアンだったが、ヴァイスの表情がどんどん陰鬱になって行くことに言葉を失う。すると今度は自分の番だとばかりにヴァイスが口を開いた。

「・・・予感だ」

「何?」

「嫌な予感がするっつってんだ。それもとびきりのな・・・」

「愚にもつかぬことを」

リアンが切って捨てるもヴァイスは自らの予感に囚われていた。

「これが何故か当たるんだよ。むしろ一緒にいない方が毛玉にとっちゃ幸せかもしれないぜ?」

***

「むふふ・・・」

「むひょひょひょ・・・」

「うぴっ??」

心地よい眠りが突然の痙攣に妨げられるや、羊娘のまどろみが彼方に吹き飛んだ。おそらく幸せな夢だったのではないだろうか?
目を白黒させながら辺りを見回すのは羊娘のアミルだ。ハニカムパントリーから準備してもらったベッドの上でいつの間にか眠りに落ちていたようだ。

「・・・」

あまりの出来事にしばしの沈黙。アミルが完全に意識を取り戻したその場所は、本人曰くアミルが拭き拭きまくりまくりすてぃな小部屋の片隅だった。

「いつの間にか寝てしまってしましま。」

言葉にできないニュアンスの余剰にアミルの頭上で蜜蜂が痙攣する。アミルの意志解釈に余力を使い果たした蜜蜂だが、負けじと必死に食らいついている。何故かわからないが、アミルのお付きも死にものぐるいだ。

「掃除すればなかなかの居心地なんな。このコンパクトさはまさにアミル時空ですん。」

「アミル時空・・・言語明瞭意味不明」

「いま開かれるアミルの世界なん・・・う~ん、アミルダム」

ハニービーのぼやきもアミルには聞こえない。すると何やら気づかぬうちにアミルの眉がハの字になっているようだ。もしかして今の聞こえちゃった?

「あっ、しまったのん」

ややっ、アミルが困っている?どうしたのかとハニービーに緊張が走る

「ゴリさんたちにお休みを言うのを忘れましたん。」

やっぱりアミルだった・・・それほど大したことでもない。ハニービーの気が一気に緩む。

「おかげで明日はみぽりんのご機嫌がななめかもしれないのん。ドンマイ」

<ドンドン!>

「むむ、こんな時間にいったい?」

<ガコッ!ガコガコッ!・・・バンバンバン>

乱暴に扉を開けようとしたが開かないことに激昂したのか激しく扉を叩く。さすがにこれにはびっくりしたアミルが声を上げる。

「なっ!扉が壊れてしまいますん。」

「壊してんだよこの畜生め!」

<バキン!>

扉に何かが打ちつけられたようだ。尋常ではない音と衝撃が伝わって来た。

「うひぃっ!もしかして斧なのでは?」

「大当たりだぁ」

「薪が無くて困ってるならアミルに暖房はいらないん。」

明らかにこれはルームサービスの類ではない。繰り返す、断じてルームサービスではない。

「だぁらーっクソガキぃ!」

「へひっ!」

「俺さま自慢のホテルをぶち壊しやがって。テメエなんざぶち殺してやるるるーっ!」

アナゴさんもビックリの巻き舌で怒り狂う男の言い分にアミルが首をかしげる。

「ぶち壊してるんはおっちゃんの方なんな。ちょっと落ち着いてほしいのん。」

「ばゔぁらゔぃやあぁーっ!」

「ひいいっ!」

支配人はよだれ鼻水お構いなしに意味不明な雄叫びを上げて渾身の一振りを扉に加えた。いざという時に戦うスキルのないアミルとハニービーがビクビクと震え上がる。

無常にも扉はバラバラにされてしまった。

<ズバンッ!>

「ほーら、開ーいた。ふぇふぇふぇふぇ・・・」

「ちょ、タンマなん。キュイ!」

支配人の男は部屋に足を踏み入れるなり、アミル目がけて斧をフルスイングしたではないか。アミルは紙一重で斧を避けるも、脚がもつれて床に転んでしまった。

「外しちゃったよ~、俺さまとしたことが」

「ひ、人殺し~」

「アミルへの敵対的行動を確認・・・あわわ、どうしよう?」

無力なハニービーがどれだけうろたえようとどうにもならない力の差に絶望する。

「だえれうしゅらばあーっ!」

「うわーっ、助けてくだしゃい!」

涙目で命乞いするアミルを前にして支配人の男が笑みを浮かべている。だがその目は一つも笑ってなどいなかった。

「ダメだ。」

「そ、そこをなんとか。ひとつ長~い目でアミルを・・・へひひ」

今できる精一杯の愛想笑いを浮かべて懇願するアミル。だが支配人は何を思ったかアミルの鼻に人差し指を押し付けて嬉しそうに言い放つ。

「テメエはバラバラにして犬のエサにしてやる。でなけりゃ俺さまの気が収まらねえ」

「そんなぁ~」

腰が抜けてすぐには立ち上がれないアミルに支配人はゆっくりと斧を振り上げる。

「しゅちぇじぇこぼどりゃあ~じぇらばらばんば~っ!」

迫り来る凶刃に恐怖が最高潮に達したアミルももはや何だかわからない断末魔の悲鳴を上げた。

「うわらば~!」

<ザクッ!>
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