幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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ローグパラディズム・イン・ザ・ダークact2

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<コンコン>

「ヴァイスさま。お耳に入れたいことがございます。ヴァイスさま」

「あぁ、何だよ?人が気持ちよく寝てたってのによお!」

ヴァイスは面倒くさそうにランプに火を入れる。辺りを見回したと思えば、じっとリアンを見つめているではないか。

「おい、ちょっと応対してくれよ。」

「そんなもの賞金首にさせるような話ではなかろう。」

「まだ言ってんのかよ?悪かったって、頼むから外のボケナスをだまらせて来てくれ。」

「まったくだらしない女だ。」

「へいへい、どうせだらしがないですよ~」

くだらない押し問答が続くよりはさっさと片付けてしまう方がマシだと判断したリアンは玄関の扉の方へ歩いて行く。無駄に遠い扉までたどり着くと用心の鎖をかけて扉を開けた。

「こんな時間に何用だ・・・っ!!」

「ご苦労。貴様が例の不逞エルフだな?」

「何奴だ!」

扉の外にいたのは支配人の男ではなく、優雅な高級スイートに似つかわしくない屈強な騎士だった。咄嗟に扉を閉めようとしたリアンだが、ありえない剛力で扉をこじ開けられた。鎖が糸のように引きちぎられる光景に戦慄が走る。

<ドガン!>

「ちっ!」

「ああっ、最高級スイートの扉がぁっ!」

「おお、思った以上に脆くていかんな。最高級というなら強度もなくてはなあ支配人?」

まるで悪びれる素振りの無いあたりを見るに、本心なのだろう。もげた扉を手に騎士が首をかしげている。おそらく目の前の扉は欠陥によって壊れたとしか思っていないようだ。

「ああ、騎士さま方をご案内申し上げたのですからこれ以上のご無体はお許しを」

「それは我らではなく其方どもに申せ」

「貴様、我らを売ったな!」

アミルへの仕打ちといいロクな男ではないと思っていたが、まさかこうまで卑劣とは

「ひ、ひいいっ。だ・・・黙れ!お尋ね者の分際で」

「何だよ~、面倒くさそうなヤツらを招き入れやがって・・・」

さすがにこれだけ大騒ぎしていれば気づかないわけはない。しかし相変わらずヴァイスはベッドにゴロンと寝っ転がっている始末だ。

「ふざけている場合なのかヴァイス?」

リアンが冷たくつき放つように告げる。

それに呼応するかのごとく赤銅色のフルプレートアーマーの男たちがスイートルームになだれ込んだ。チェスならばまさに詰みの配置だ。

「さあ、大人しく出頭してもらおうか。」

「はあ、出頭だあ?そんなもんに従う義務はねえや。ボクを誰だと思っているのかねえ・・・」

心地よいベッドの抱擁に後ろ髪を引かれながらヴァイスはしぶしぶ戦闘態勢に入る。この状況で斬りかからない辺りは騎士の矜持か、はたまた貴族の傲慢か。

「ふむ・・・出頭は嫌か。ではそこのエルフを引き渡せ。さすれば特別に見逃してやろう。」

「寝言ぬかしてんじゃねえぞバーカ。痛い目見る前にとっとと失せろ」

「致し方なし。」

隊長らしき男が剣をかざすと騎士たちが次々に背負っている大剣を抜いた。

スイートルームの天井は高く、振り回すには十分な広さもある。だが目の前にいる相手はAランク冒険者だ。本当に通用するのだろうか。

「お待ち下さい、ここで暴れるのは・・・」

「かかれ!」

どうやら最初から刃を収めるつもりなど無かったのだろう。支配人の懇願むなしく、あっさりと交渉は決裂した。大柄な騎士の一人が先鋒としてヴァイスに打ちかかっていく。

「真っ二つにしてくれる!」

「そりゃあ楽しみだ。ってことでお前から死にな!」

勢いよく名乗りを上げた騎士に見えない糸が絡みつくや、ヴァイスは勢いよく縛り上げた。

<ジャリリリ・・・!>

ヴァイスの先制攻撃は不快な金属音と火花の内にかき消える。普段なら普通の金属など紙のように引き裂かれるはずが、軽いひっかき傷程度で留まった。

先制攻撃を受けた鎧男が声高らかに宣言する。

「いつまでもそのような子供だましが通じるものかよ!」

「何が起きた!?」

ヴァイスが目を丸くして驚愕している。こんなことを想像だにしなかったと言わんばかりだ。

「はっはっはっ!お得意の不意討ちも失敗すれば惨めなものよ。」

「・・・ひょっとしてお前らその鎧」

「そうとも。察しの通りミスリルアダマン合金だ。」

「クソがぁっ!」

自らの攻撃はひとまず通用しないことが明らかとなった今、ヴァイスはあわてて対応を考える。ジェゼーモフが日頃口を酸っぱくして戦闘中の腹案を常に持っておけと言っていた意味をヴァイスはようやく理解した。土壇場になってから考えたところで何も浮かばないのが凡人たる者の相場だ。

「借りは返してやろう。利子も弾むぞ」

「喰らえボケナスども!」

<ドガッシャン!>

ヴァイスがインヴィジブル=スパイダーで手当り次第に重量物をぶん投げると、その一つが騎士に直撃した。

「ぐおぉっ!」

「気を抜くな、愚か者。きぃぃぇぇぇっ!」

<バキバキ>

隊長格の男が猿叫を伴って大剣を横薙ぎにすると巨大な鏡台が粉々に弾け飛ぶ。下敷きになっていた騎士が申し訳なさげに身を起こした。

「申し訳ありません。十騎長殿。」

「無事ならば良し。続け!」

今度は十騎長ワイルドみずからヴァイスに近づいて行く。一度痛めつけた相手の顔などいちいち覚えていないヴァイスは目の前の男の圧に思わず後ずさりした。

「どうするのだ?」

冷静なリアンに対してヴァイスは明らかに浮き足立っている。彼女の問いかけにヴァイスがたじろいだ。

「仲良しゴリラのお遊戯会に付き合ってられるか!」

「はっはっはっ、逃げ道など無いぞ!」

「無えなら作るんだよ!」

<ズガーン!>

ヴァイスはベッドを窓に向けて叩きつけると壁にぽっかりと大穴が開いた。脱出するつもりならば狙いは通路のある逆方向にするべきところだが

「血迷ったか!ここは5階ぞ?」

「吹っ飛べクソゴリラ野郎!」

「ぐはあっ!なんのなんの」

ヴァイスは重厚な大理石のテーブルを騎士たちに叩きつけるが、彼らをいくらふっ飛ばしたところで多少の時間を稼ぐのが関の山だった。

「どれだけモノをぶつけようがダメージなど無い。悪あがきはよせ!」

桁違いの防御性能にヴァイスの攻撃はまるで歯が立たない。こんなことはほとんど経験がないヴァイスに焦りの色が見える。騎士の言う通り悪あがきに過ぎなかった。

「何とでも言ってろ。飛ぶぞ、高慢ちきエルフ」

「この封印を解け。加勢してやる。」

さんざん手の内を見せちまったんだ。今さらお前の封印解除なんてできるわけがねえだろうが。今のでこいつは気づいたはずだ。

「いいから来い!」

「愚か者め。後悔するぞ!」

この期におよんでリアンの言葉に耳を貸そうとしないヴァイスはもはや周りが見えていなかった。リアンの意図はアミルの救出のみなのだが、今のヴァイスにそれを読み取る余裕などない。

「待てえっ!」

「おのれ・・・本当に飛び降りよった。」

壁に空いた大穴から下をのぞきこむ男が叫んだ。

「む?あれを見ろ!」

「壁に垂直に立っているだと?」

ワイルドは往生際の悪い敵に思わず顔をしかめた。呆気にとられた一同に対し、このまま逃がすなど許さないとばかりに次の行動を命令する。

「忌々しい童だ。追うぞ!」
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