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ローグパラディズム・イン・ザ・ダークact1

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そこは地下へと下る階段。その昔、牢獄として使われていたというこの場所も今は旧都冒険者ギルドが管轄している。

「ドミニクさん、あんたこんな場所に何の用があるってんだ?」

誰も立ち入らないその場所を訪れたのはドミニク=ハウプクスと筆頭冒険者のホルドだ。ついて来いと言われてついて来たもののホルドはドミニクの意図を図りかねていた。

「ホルド、軍の一部が起こしたクーデターは覚えているかね?」

「いきなり何の話だ、ドミニクさん?こんなところであんたと昔話なんざごめんだぜ。」

ホルドがライティングで周囲を照らし出す。すると目の前には朽ち果てた戸がだらしなく開け放たれている。日頃からこんな場所を管理する物好きなどいるはずもあるまい。

「まあそう言わずについて来い。」

「別に構いやしねえが、それこそ内密の話ならギルドで高い酒でもやりながら話したって」

「それも悪くないがね。」

ドミニクの気のない返答に無駄なあがきと悟ったホルドは先程振られた話を思い出す。ホルドの陰鬱な気分に共鳴するように暗く頼りない魔術光がゆらめいていた。

「何だかなあ・・・そういやあそのクーデターは冒険者も連座しなかったか?ほら、Aランクのニール=ハイダー。たしか4位の男だ。」

「お前も知っての通り、順位など帝国への貢献度で実力とは異なる尺度だ。たいして意味など無い。」

「まあな。癪だがAランクにゃ序列なんざ関係ねえよ。どいつも凶悪な力を持ってやがる。」

そう言ってかぶりを振るホルドを見たドミニクは引きつったような笑みを浮かべる。

「手も足も出ないと白旗でも振るかね?」

「バカ言ってもらっちゃ困るぜドミニクさん。要は戦い方だ!」

激高するホルドに満足気なドミニクは大仰な仕草でまくし立てる。

「そうとも、勝てる条件を作り出す者が真の強者だ。力をたのみとする者ほど生き残れないのが冒険者というものだからな。」

「俺はそれを嫌というほど目の当たりにしてきた。俺は無敵の力にも英雄的最期にも憧れは無い。あるのは生存へのこだわりだけだ。」

「ああ、その結果はどうだ。今や栄えある旧都冒険者ギルドの筆頭じゃないか。自己保存の意志こそが唯一愚かな人間を理性的にするのだ。」

「全てあんたの言う通りだったってことだ。駆け出しの頃から忘れもしないぜ。」

「では聞こう、ホルド。お前はヴァイスを許せるか?」

「許すだと?許せるわけがねえ。あいつは必ずぶち殺す!」

ヴァイスの横暴を思い浮かべたホルドが苦虫を噛み潰したような表情になる。恥をかかされたのはギルドマスターのみならず、その場に居合わせた筆頭冒険者の自らも同様なのだ。

「ホルド、まさに今が絶好の機会だ。」

「何か考えがあるって言ってたっけなあ?そろそろ聞かせてくれよドミニクさん。」

「お前に会わせたい者がいる。」

「俺に?・・・おい、何だココは!誰か住んでいるのか?」

気付くとホルドは自らのライティングが不要なほど明るい空間にいた。見れば何か住居の扉らしきものまである。
ホルドがあっけにとられていると、ドミニクは勝手知ったるかのごとく気安く扉を開けた。

「入るぞ。」

「おいおい、何だこりゃあ?」

扉を開けて中に入ると甘い香を焚きしめた大きな部屋の真ん中にベッドがしつらえてあった。するとそこに鎮座する男が陽気に手を上げる。

「おう、兄弟!何だあ、今日は妙な野郎まで一緒か?」

「あまり派手にやってくれるなといつも言っているだろうニール。」

「ひでえことしやがる・・・」

ホルドの目の前にはおそらく娼婦であろう、一糸まとわぬ女が顔を血に染めてぐったりと床に倒れていた。よく見ると巨大なベッドの上にも二人いるようだ。

「その女が使えねえからのしてやっただけだ。んなことでいちいち目くじら立てんなやフニャチン小僧!」

「何だと・・・っておい!ドミニクさん、あんたさっき」

「ああ、コイツか?さっき話題にのぼったニール=ハイダーだよ。私がココに匿っている。」

「何だと!?」

何だってこんな野郎を?連座ってこと以外は何も知らねえが、こいつが犯罪者なのは動かしようのない事実だ。ギルドマスターとしてはマズいんじゃねえのか?いったい何を考えているんだドミニクさんは・・・

「こんな時間に来るなんざ珍しいじゃねえの。今日はどうしたい?」

「仕事だよニール。お前の力を借りたい。」

「ふはっはっはっは、どけ売女!」

「げぶっ!」

ドミニクの言葉に大はしゃぎのニールはベッドの上の娼婦の一人を蹴り飛ばすと、女はそのまま壁にぶち当たって床に叩きつけられた。

その暴挙を目の当たりにしたホルドの顔が不快に歪む。

「ちっ、とんだゲス野郎だぜ。」

「ゲスにはゲスをぶつけようじゃないか。ニールを使いこなせるかね、ホルド?」

「そういうことか・・・面白え、やってやる!」

***

「いやあ疲れたぜえ。」

重厚感のあるカウチソファに沈み込むように身体をあずけて一息をついたのは、Aランク冒険者のヴァイスだ。

「・・・」

「そんなむくれんじゃねえや。スイートルームに毛玉は入れねえって聞かねえんだもんよー。」

意地悪なヤツめ。お前がゴネれば無茶も押し通しただろうに。アミルが気の毒だとは思わないのか。
何を言ったところで聞く耳を持たないヴァイスを相手にするのも馬鹿馬鹿しいとリアンは言葉を発しなかった。

「ふうー、ダンマリかよ。根に持つ女って嫌だねえ。」

「・・・」

「はあ、賞金首さまは気位のお高いこって。」

自分の言葉を終始無視するエルフにいら立ったヴァイスは起き上がるや否や乱暴にリアンの胸倉をつかんで自らの元に引き寄せる。

「くっ!」

「だがよーく覚えておけ。お前らなんざボクの気分次第でどうとでもできるんだ。」

「殺せ!」

「ちっ、口を開けばそれか?つまんねー、あの毛玉にゃあ部屋を用意させただろうが?」

まったく会話にならないことにガッカリしたヴァイスはリアンから手を放し、再びカウチソファに身をあずける。

「何が部屋なものか。どう見ても物置ではないか。」

「ここいらじゃあアレでも破格の扱いさ。普通なら毛玉は馬小屋行きなんだぜ。」

リアンがホテルの支配人の言葉に激怒し、アミルの部屋を用意するよう要求すると相手がしぶしぶ差し出したのはホコリだらけの狭い部屋だった。
リアンの怒りが頂点に達したところ、「ここで大丈夫だ」と割って入ったのがアミル本人だ。これ以上は迷惑をかけられないと言われてしまってはリアンも引き下がらないわけにはいかなかった。

「度量の狭い俗物どもめ。くだらぬ偏見に囚われるなど己の恥を知れ。」

「選民主義者が言ってくれるじゃねえの?そっくりそのまま返してやるぜドルイドよお。」
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