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家政婦じゃないけど見た

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「またリーファに助けられちゃったなあ・・・」

再開の嬉しさと情けない姿をさらしてしまった恥ずかしさ悔しさがないまぜのガノフははにかむのがやっとだった。だが当のリーファは何とも思ってないようだ。

「ん?何言ってんだガノフ。お前をやっつけたことはあるけど助けたことなんかないぞ?」

「そんなことないよ。」

「そうだったっけ?知らないなあ。」

あの事件からガノフはリーファに何も言えずにセントクーンズへ送られたのだ。本当は伝えたいことだってあった。今がその時だとガノフはリーファを見つめる。

「リーファの店を乗っ取りに行ったのに、そんな僕とパパがやり直すチャンスをくれたんだ。おかげで僕らはこうして助かったんじゃないか。」

「お前の思考ってあのオッサンそのものだなあ。」

「パパをオッサン呼ばわりするな、シンディー。あっ、イタタタ!は、離せ。」

生意気なガキはしつけてやるという具合にシンディーがガノフのほっぺたをつねっている。基本いじめっ子仕草なんだよなシンディーって。私は知ってるからいいんだけど、知らないヤツ相手にそんなことしたら恨まれるぞ?

「あんましイジメちゃダメなんだよ~、ボーネランドさんにはお世話になってるんだから。」

それを言われるとシンディーでも気が引けるのかあっさり手を放す。ガノフ=ボーネランドの父であるトマソン=ボーネランドには日頃世話になっているのは確かなのだ。

「今日はこの程度で勘弁してやらあ。優しさが服を着て歩いているシンディーちゃんに感謝しろよ。」

「お前なんかに誰が感謝なんてするもんか。あイタタタ!」

「ほれー、尊いシンディーちゃん様の8割は優しさでできていますと言えー」

「逆に残りの2割は何なんだ、ウギャー!」

ガノフは一言多いのが災いし、シンディーからサブミッションをきめられている。これがシンディー流可愛がりだ。ハイ、ここ試験に出ます。

「酷い目に会いまくる日だなあガノフ。」

「なにのんきにイモなんて食べてるんだ、ロウイさん。僕を助け、あんぎゃー!」

「おらおら、尊いシンディーちゃん様の半分は天賦の才でできていますと言えー」

ミシミシとガノフの背骨が悲鳴を上げている。だがこの期におよんでなお口が減らない。

「ハア・・・ハア、計算がおかしいぞバカギツネぐぎゃー!」

シンディーは流れるように体勢を変えるとタワーブリッジに移行しているじゃないか。えらく鮮やかなもんだ~、意外な特技だね~。

「力で劣るヤツには滅法強いな、シンディー。ガノフに落ち度はないんだからそのくらいにしとけよ。」

「ちぇー、甘えなあリーファはよお。金持ち生まれボンボン育ちはこんくらいしたって構いやしねーよ。」

「いや、まあまあやり過ぎなんよ。」

「チクショー、暴力が服を着て歩いているような野蛮人め。」

涙目のガノフが吐き捨てるようにつぶやくと、シンディーがニンマリとする。

「ニヒヒ、今のは覚えとくぜガノフ」

「ひいいっ!」

「大丈夫か、ガノフ?」

「あなたは口だけじゃなく少しは僕のことを助けてくださいよ、ロウイさん。」

「人と争うのは苦手なんだ」

あまりの無関心ぶりにガノフは口をとがらせてロウイを責めるものの、あい変わらずふかしイモをほおばるのをやめないロウイにガノフも呆れかえるほかなかった。

「まったくもう。リーファの前で恥をかかせないでくれ。」

「何でリーファが出て来るの?」

「そりゃあ僕と」

恋バナに目がないティナがガノフに食らいつく瞬間をリーファが果敢にブロックする。

別にガノフとは何でも無いんだが、ティナに知られてしまうと絶対にややこしくなる。既にマルティナの時にいろいろ見てるから私にはわかるんだ。お前も余計なこと言うなよガノフ。

「ああそうそう、ガノフはセント=クーンズへ奉公に出てるんだったよね?」

「いや、それよりも」

お預けを食らったティナの目がバッキバキに血走っている。まるで血に飢えた野リスのようだ。怖いからその目をやめろ

「ティナは薄情なヤツだなあ。遠くガノフが親元を離れて頑張ってるんだ。」

「私たちだってそうじゃない。何なら既に親すらいないんだよ~」

「うんうん、わかるよティナの気持ち。だからこそガノフともわかり合えるってもんじゃないか~」

私の態度がおかしいことに気が付いたのかティナが見たことのない顔でドン引きしているじゃないか。くそ面倒くせー!

「何か急にリーファが気持ち悪いんだよ~」

「道ばたに落ちているもんを闇雲に食うなってシンディーちゃんがいつも言ってんだろ、リーファ。メッ!魔物のウ◯コかもしれねえんだから。」

「ざっけんな!そもそも落ちているもんなんか食わんわっ!」

まったくシンディーはおふざけが過ぎる。んもー、でもおかげでうやむやになった気がしないでもない。ある意味ナイスだと言わざるを得ない。

***

ガノフは私たちの馬車に同乗してセント=クーンズを案内してくれているんだけど、まだ1年も経ってないのにかなり詳しく知っているようだ。何やら貧しい身なりの子供がガノフを見かけると、ガノフのみがわかる程度の会釈をするのが見えた。一人二人の話じゃなくて、それこそ何人も。少し前まで甘えきったお坊ちゃんでしかなかったのに、今は見知らぬ街で顔が広いようなんだ。意外だよね。人って変わるんだなあ。

「見てくれよリーファ!あれが僕の奉公している商会さ。」

「これはまたデカいなあ。」

グラムスのボーネランド商会もかなり大きいのに、ここはまたさらに大きい。それなのに何故か誇らしげなのは私の知ってるガノフからはとても想像できないなあ。

「ああ。パパの商会より大きいのはちょっと悔しいけど、上に目標があったほうがやり甲斐があるってもんさ。」

「へえー、ガノフって意外と前向きなんだなあ。」

「えっ!ひょっとして僕のこと見直してくれたかいリーファ?」

ものすごく嬉しそうな顔をしているガノフの頭の上にずっしりと肘が乗っかった。誰の肘かは聞くまでもない、例によって例のごとくシンディーのものだ。

「な~に鼻の下伸ばしてんだゴボウ。」

「ご・・・ゴボウ?誰がゴボウだ、アホ狐!」

「ゴボウみてえにひょろっちいガノフのことだよ~ん」

「まあまあ。落ち着けって」

「怪しい・・・何かあるんだよあの二人。」

ティナは隠れてガノフとリーファの様子を眺めている。家政婦じゃないけどコッテリ見るわよ
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