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白昼の空騒ぎ
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勢いよく開かれた扉から何者かが姿を現す。逆光のコントラストが強すぎて輪郭しかうかがえなかった。目を細めて目を光に馴らして行くとようやく誰かが判別できたのだが・・・
「ゲッ!」
ツイてねえ・・・何でよりにもよってヴァイスみてえなクズが旧都冒険者ギルドに?・・・聞いてねえぞ
「おい誰だ~?いまゲッって言ったヤツ~・・・テメエかぁ?」
ちらほらと訪問者がヴァイスであることに気づいたのか、ギルドの酒場がざわつき始める。当のヴァイスは手近な場所でカードゲームに興じていた冒険者たちに近づいて行くと、背後から一人の男を適当に蹴り飛ばした。
「ギャア!俺じゃねえ。明らかに向こうから聞こえた」
「んなこたあどーでもいーんだよ・・・なっ!」
<ガチャン!パリンッ!>
「ぐああっ!」
「クソがぁっ!」
「テメエ何しやがる!」
今度は隣のテーブルごとひっくり返す。辺りに料理と酒が散乱し、他のテーブルにまで被害が及んだ。
「あっはっはっはっは!見ろよアイツらのツラぁ、無様そのものだぜ!」
ヴァイスが腹を抱えて笑うと、あまりの傍若無人ぶりに冒険者たちが椅子から立ち上がる。血の気の多い者たちが集まっている冒険者ギルドだ、一触即発の空気に包まれるのは当然の流れだ。抜き身の刃がチラチラと不気味に光を反射させる
「チクショー!」
「勘弁ならねえ」
「なんだーあ?やるの?」
へらへらと周囲を挑発するヴァイスに冒険者たちのボルテージが上がる。
「やめんか!」
冒険者ギルドの中二階から大きな声が響き渡る。ヴァイスを見下ろす形でたたずむのは上等な服に身を包んだ男だ。およそ冒険者ギルドにふさわしくない出で立ちながら、冒険者連中はその男に従って静まりかえる。
「ああ?」
「ヴァイス、ウチの冒険者に無茶をするのはやめてもらおうか。」
「なあに、ちょっとばかり親睦を深めてただけさ。」
そう言いつつヴァイスは床に唾を吐いて笑って見せた。
「ふざけやがって!」
ヴァイスの挑発に冒険者の一人が反応する。しかしヴァイスはあれだけの騒ぎを巻き起こしながら、もはや冒険者たちに興味を失っていた。いきり立った冒険者たちに目もくれず、上にいる男を意地悪く見据えている。
「やっぱりいるじゃんよお、ドミニク。」
「居留守を使った覚えなど無い。」
「ああ、たしかにまだ使ってねえなあ。どうせこうやって暴れて見せないと姿も拝めなかったんだろ、タヌキ野郎?」
多忙を理由に面会を断るのが常套手段のドミニク=ハウプクスだ。ジェゼーモフのような口うるさいお目付け役がいない今はそうは行かない。白昼の悪夢さながらヴァイスの独壇場になりつつあった。
「この私に何の用だ、ヴァイス?」
「せっかくシケたツラ拝みに来てやったのに、つれねえ野郎だなあ。」
「用件だけを簡潔に述べろ。」
眉一つ微動だにせずドミニクが言い放つ。
「ああ、そうそう。お前も知ってんだろ、特別任務。ほらぁ、ゴミカスの旧都冒険者ギルドにゃあ逆立ちしても回って来ないアレだよ。」
「それで?」
「ジェゼーモフとハウンドのヤツがしくじっちゃってさあ。路銀が足りねえのよ。だからはるばるカビ臭え旧都ギルドに調達に来てやったんだ。嬉しいだろ?」
腹に据えかねるってツラだぜ、ドミニク。ここでたっぷり恥かかせて、オメエの面子まる潰れにしてやんよ。古くてデカいだけしか取り柄がねえギルドのくせによお、バルナロキスの足を引っ張るクソ野郎にゃあお仕置きが必要だからなあ。
「要求はそれだけか?」
「ああ、あととびきりの宿を用意してくれよ。お前らギルド持ちで。」
「よかろう。」
ドミニクは側に控えている女性職員に手短に指示する。その言葉に面食らったのはドミニクの隣にいた筆頭冒険者のホルドだ。いくら何でも小娘ひとりに言われるがまま満額回答など他の冒険者ギルドに示しがつかない。
「ギルマス!」
「話がわかるねえ。バルナロキスにもよしなに取り次いでやるよ。今後とも帝都冒険者ギルドの意向に歯向かうようなマネは慎め。」
旧都冒険者ギルドは冒険者ギルドの中でも最古参の中の一つであり、帝都冒険者ギルドよりも権威と格式は圧倒的に上回る。旧都冒険者ギルドにとって帝都の風下に立つことなど受け入れがたい屈辱と言えるだろう。さすがのドミニクもヴァイスの侮辱には眉をしかめる。
「調子に乗るんじゃねえぞクソガキが!」
「よせホルド」
「だがドミニクさん、あれは・・・」
ヴァイスの挑発など今はどうでもいい。それよりも大切なことは実だ。
ドミニクが激高するホルドをいさめるタイミングで女性職員は金貨の詰まった革袋を持ってヴァイスの元へ馳せ参じていた。
「ヴァイスさま、どうぞお納めください。」
「入り用はこしらえてやった。それを持ってお引取り願おう。」
女性職員から革袋を受け取ったヴァイスは感触を楽しむかのように上下に振ると、ニヤついた顔でドミニクの表情を眺める。
「へっ、客に茶の一つも出ねえとはなあドミニクよぉ?まあ毒茶なんざすする気もねえや、あっはっはっは!」
「ドミニクさん。俺あ納得できないぞ。」
「ふふふ、アレで良いのだホルド。」
バルナロキスもジェゼーモフがいなくなる事態など想定しておるまい。お前たちの慢心が命取りになるのだ。
「それはどういう?」
「直にわかるさ・・・」
「ゲッ!」
ツイてねえ・・・何でよりにもよってヴァイスみてえなクズが旧都冒険者ギルドに?・・・聞いてねえぞ
「おい誰だ~?いまゲッって言ったヤツ~・・・テメエかぁ?」
ちらほらと訪問者がヴァイスであることに気づいたのか、ギルドの酒場がざわつき始める。当のヴァイスは手近な場所でカードゲームに興じていた冒険者たちに近づいて行くと、背後から一人の男を適当に蹴り飛ばした。
「ギャア!俺じゃねえ。明らかに向こうから聞こえた」
「んなこたあどーでもいーんだよ・・・なっ!」
<ガチャン!パリンッ!>
「ぐああっ!」
「クソがぁっ!」
「テメエ何しやがる!」
今度は隣のテーブルごとひっくり返す。辺りに料理と酒が散乱し、他のテーブルにまで被害が及んだ。
「あっはっはっはっは!見ろよアイツらのツラぁ、無様そのものだぜ!」
ヴァイスが腹を抱えて笑うと、あまりの傍若無人ぶりに冒険者たちが椅子から立ち上がる。血の気の多い者たちが集まっている冒険者ギルドだ、一触即発の空気に包まれるのは当然の流れだ。抜き身の刃がチラチラと不気味に光を反射させる
「チクショー!」
「勘弁ならねえ」
「なんだーあ?やるの?」
へらへらと周囲を挑発するヴァイスに冒険者たちのボルテージが上がる。
「やめんか!」
冒険者ギルドの中二階から大きな声が響き渡る。ヴァイスを見下ろす形でたたずむのは上等な服に身を包んだ男だ。およそ冒険者ギルドにふさわしくない出で立ちながら、冒険者連中はその男に従って静まりかえる。
「ああ?」
「ヴァイス、ウチの冒険者に無茶をするのはやめてもらおうか。」
「なあに、ちょっとばかり親睦を深めてただけさ。」
そう言いつつヴァイスは床に唾を吐いて笑って見せた。
「ふざけやがって!」
ヴァイスの挑発に冒険者の一人が反応する。しかしヴァイスはあれだけの騒ぎを巻き起こしながら、もはや冒険者たちに興味を失っていた。いきり立った冒険者たちに目もくれず、上にいる男を意地悪く見据えている。
「やっぱりいるじゃんよお、ドミニク。」
「居留守を使った覚えなど無い。」
「ああ、たしかにまだ使ってねえなあ。どうせこうやって暴れて見せないと姿も拝めなかったんだろ、タヌキ野郎?」
多忙を理由に面会を断るのが常套手段のドミニク=ハウプクスだ。ジェゼーモフのような口うるさいお目付け役がいない今はそうは行かない。白昼の悪夢さながらヴァイスの独壇場になりつつあった。
「この私に何の用だ、ヴァイス?」
「せっかくシケたツラ拝みに来てやったのに、つれねえ野郎だなあ。」
「用件だけを簡潔に述べろ。」
眉一つ微動だにせずドミニクが言い放つ。
「ああ、そうそう。お前も知ってんだろ、特別任務。ほらぁ、ゴミカスの旧都冒険者ギルドにゃあ逆立ちしても回って来ないアレだよ。」
「それで?」
「ジェゼーモフとハウンドのヤツがしくじっちゃってさあ。路銀が足りねえのよ。だからはるばるカビ臭え旧都ギルドに調達に来てやったんだ。嬉しいだろ?」
腹に据えかねるってツラだぜ、ドミニク。ここでたっぷり恥かかせて、オメエの面子まる潰れにしてやんよ。古くてデカいだけしか取り柄がねえギルドのくせによお、バルナロキスの足を引っ張るクソ野郎にゃあお仕置きが必要だからなあ。
「要求はそれだけか?」
「ああ、あととびきりの宿を用意してくれよ。お前らギルド持ちで。」
「よかろう。」
ドミニクは側に控えている女性職員に手短に指示する。その言葉に面食らったのはドミニクの隣にいた筆頭冒険者のホルドだ。いくら何でも小娘ひとりに言われるがまま満額回答など他の冒険者ギルドに示しがつかない。
「ギルマス!」
「話がわかるねえ。バルナロキスにもよしなに取り次いでやるよ。今後とも帝都冒険者ギルドの意向に歯向かうようなマネは慎め。」
旧都冒険者ギルドは冒険者ギルドの中でも最古参の中の一つであり、帝都冒険者ギルドよりも権威と格式は圧倒的に上回る。旧都冒険者ギルドにとって帝都の風下に立つことなど受け入れがたい屈辱と言えるだろう。さすがのドミニクもヴァイスの侮辱には眉をしかめる。
「調子に乗るんじゃねえぞクソガキが!」
「よせホルド」
「だがドミニクさん、あれは・・・」
ヴァイスの挑発など今はどうでもいい。それよりも大切なことは実だ。
ドミニクが激高するホルドをいさめるタイミングで女性職員は金貨の詰まった革袋を持ってヴァイスの元へ馳せ参じていた。
「ヴァイスさま、どうぞお納めください。」
「入り用はこしらえてやった。それを持ってお引取り願おう。」
女性職員から革袋を受け取ったヴァイスは感触を楽しむかのように上下に振ると、ニヤついた顔でドミニクの表情を眺める。
「へっ、客に茶の一つも出ねえとはなあドミニクよぉ?まあ毒茶なんざすする気もねえや、あっはっはっは!」
「ドミニクさん。俺あ納得できないぞ。」
「ふふふ、アレで良いのだホルド。」
バルナロキスもジェゼーモフがいなくなる事態など想定しておるまい。お前たちの慢心が命取りになるのだ。
「それはどういう?」
「直にわかるさ・・・」
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