幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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旧都への道行き

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「兵士みたいなん。」

「おやおや、一山いくらのザコどもがこんなところで何してんだ?」

馬車は山道を抜け、ようやく平地に差し掛かるところなのだが遠くに旗を掲げた一団があった。更に奥には巨大な城壁が広大な平地に広がっているのも見える。どうやらあれが旧都セント=クーンズで間違いないだろう。

さらに数十分かけて旗印が確認できる距離まで接近したところ、百名ほどの兵士が土塁の向こうに隊列を組んでいるではないか。こんなワケのわからない時期にいったい何を待ち構えているのだろう。訓練にしては妙な雰囲気だ。

「そこな馬車、止まれい!」

「おい、いまアイツ止まれっつたか?」

「そう聞こえましたん」

偉そうに命令しやがってクソが。ぶち殺してやろうか・・・

「このまま突っ込め」

「わかったのん」

馬たちを終始気にかけているアミルの嫌がる様子を見て楽しむつもりが真逆の反応を返されたことにヴァイスの興が削がれる。天邪鬼な人間ほどこういった素直な反応は苦手なのだ。

「チッ!止まれボケ。馬車がぶっ壊れちゃかなわねえ。」

アミルが徐々に馬車を減速すると、馬たちもホッと一息つけることに喜んでいるようだ。アミルも思わず表情が緩む。

おそらくヴァイスも目の前の兵士たちに目が行って、アミルへの注意もお留守になってるんな。少しの時間でもゴリさんたちをねぎらうチャンスなのん。でも今できることなんて・・・せめてお水くらいは飲ませて上げたいのんな。

「何奴だ、下車して姿を見せよ!」

「偉そうにしやがってパシリ野郎ども。ザコすぎてとうとう追いはぎに落ちぶれたか?」

「貴様・・・言わせておけば」

ヴァイスの悪態に兵士が憤る。普段このような侮辱を平民から受けようものなら相手をとことんリンチするところだが、相手は更にイカれた人間凶器だ。襲いかかったりはしない。

すると後方から兵士たちの統率者らしき男が歩み出て来た。

「ヴァイスだな。他の奴らも出てこい。」

他の奴らと言っても、目下のところ最も確認しておきたい凶敵はジェゼーモフだ。正直それ以外はどうでもよかったのだが、当のジェゼーモフがどこにもいないではないか。隠れようにも幌の中は丸見えだ。一体どうしたことかと衛兵隊長が訝しむ。

「ん?ジェゼーモフはどうした。3人だけか?」

「さあな。どこかで雪と戯れてるんじゃねーの。」

「いないだと?」

「見てわからねーのか?」

何度も同じことを問いかける隊長格の男にいら立ちをおぼえたヴァイスが地面に唾を吐く。もともと冒険者は人品卑しき者が多いにせよ、目に余る態度に兵士たちも激昂する。

「口の聞き方に気をつけろよ、冒険者風情が!」

「その冒険者風情が負け犬どものクソまみれのケツ拭ってやってることも忘れんなよ。」

「くっ、増長しおって!」

どうにも罵倒の才能はヴァイスには敵わないらしく、憤りの袋小路にぶち当たった兵士たちがあきれ返る。だがそのようなことに少しも頓着しない隊長格の男は何やらブツブツ言っているようだ。

「あの変態野郎ジェゼーモフはいないのか・・・」

「いねえっつってんだろ、何度も言わせんなボケ。」

「貴様あっ!」

「そうか、それは都合がいい。」

本当にいないことを確認できた隊長格の男の声は何やら上機嫌だった。罵倒の応酬にあってひとり奇妙なことを口走ったことにヴァイスも耳を疑った。

「あぁ、何か言ったか?」

「ああ言ったとも。悪いがここは通れなくなった。」

「は?もっぺん言ってみ。」

「ここで臨検を行っているのだ。何ぶん今は他国と戦争中ゆえ、身元のハッキリせぬ者を通す訳にはいかぬ。」

皇帝からの直接の依頼を受任している自らが身元不明の不審者とはどうにもスジが通らない。まして軍の人間がこのことを知らないなんてことがあり得るのかとヴァイスは理解ができないといった様子だ。

「おいおい、耳の穴かっぽじってよ~く聞けよボンクラ。ボクはお前らと違って皇帝陛下の勅許を奉じているんだぜ?」

「それも含めて真贋を検める。こちらとてスタンバッハ公爵より旧都の警固全権を預かっているのだからな。」

「通さねえってか?」

ヴァイスが苦々しい面持ちで隊長をにらみつける。
帝国で屈指の権門勢家であるスタンバッハ公爵家。セント=クーンズを治めるスタンバッハ家は家格だけで言えば現帝室に並び立つほどだ。そのためセント=クーンズは帝国内で選帝侯国と言われたりするほど特殊な地域である。その権威をバックに強く出られるとヴァイスの言い分もかなり微妙な相対的位置に格下げされてしまうだろう。

「何人たりと臨検を素通りさせることなどあり得ん。」

「笑わせてくれるじゃないの。お前らなんぞにボクが止められるとでも?」

「ジェゼーモフはいない。虎の威を借る狐に誰が怯えようか?」

どうやらジェゼーモフさえいなければAランクのボクをねじ伏せることができると考えてるみたいだ。こりゃあたまげた・・・実に気に入らないぜビチクソどもが。いざとなりゃあこっちだって皇帝の後ろ盾があるんだ、やってやんよ。

「上等上等。いいぜ、後悔させてやる・・・たっぷりな」

***

「ロミアたちが近くにいてくれて助かったよ。」

「シンディーが心配だからしばらくこの近辺に残ろうってマリンが」

ロミアたちが近くにいることが判明したから、ホーネットのカーネルを通じて馬車を呼び寄せたんだ。朝早くに来てもらうのも大変だろうけど、今は一刻を争うからね。一か八かだったけど、遠くに行ってなくて良かったよ。

「それは言わん約束やんかロミア。」

「ヘヘ、さすがマリンだ。」

「バラされるとほんま恥ずいわ。シンディー姉もやめて~や。」

あまり面と向かって褒められるのが苦手な狸娘のマリンが両耳を押さえて顔を赤くしている。シンディーの様子がおかしかったことからマリンは不測の事態に備えていたようだ。

マリンたちがワイワイやっている隣ではジェゼーモフがスアレスとマイクにアドバイスをしていた。どうも彼らは朝早くからジェゼーモフを捕まえて教えを乞うたのだそうだ。

「だからスアちゃんもマイキーもあんまり無茶しちゃダメよ。」

「ああ、もちろんさ。なあマイク?」

「おう!安心してくれよジェゼーモフ。」

「たぶんわかっちゃいないわね。別れる前に一つ大事なことを言っておくけど、真正面からぶち当たることだけが戦いじゃない。引き際の見定めも肝心よ。チャンスは一度じゃないって」

「ったく、説教ばっかじゃねえかジェゼーモフ?」

何か難しい話をしていそうだったので割って入るチャンスが無かったシンディーがここぞとばかりにジェゼーモフに絡みに行く。そういえばシンディーも昨晩はジェゼーモフと大いに会話が盛り上がっていた。どうやらシンディーもジェゼーモフを気に入ったらしい。

「こう見えてもアンタたちが心配なのよ。」

「このシンディーちゃんがヘマこくわきゃねえっつうの。」

「私はアンタが一番心配だっつうの。」

「ジェゼーモフ~、シンディーに言い聞かせてほしいんだよ。何なら今日も雪にダイブさせちゃいなよ~」

「ウソ、やめろジェゼーモフ!」

「そんな警戒しなくとも理由もなくそんなマネしないわ。ティナも仲間を売るようなヒドいこと言っちゃダメよ。」

「エヘヘ、冗談なんだよ~」

冗談と言う割には何やら邪悪な微笑みのように見えるんだが・・・

「オメエはジェゼーモフを利用してシンディーちゃんを謀殺しようとした。つまりは殺人教唆チビッコ犯。いくらシンディーちゃんが可憐な雪の妖精といえども許しません。いかがでしょうか裁判長の代理の親類のご友人?」

「何やわかれへんけどダイブ雪か雪ダイブの好きな方選んでエエで。悪人はなんとなく成敗や。」

「あらまぁ、それじゃあ仕方ないわねえ。」

即決裁判手続き、秒で判決が下ったらしい。あっ、ティナがジェゼーモフに捕まった・・・

「ちょっ、待っ!」

<ズボッ!>

「ウギャー、冷たいー!」

「おーい、こんなとこにティナドラゴラが生えてるぞ~」

首から下が雪に埋もれた状態のティナが泣き叫んでいる。シンディーは大喜びだ、まったくどうしよーもねー。

「ギャース!」

「ったくもー何遊んでんだアイツら。しょうがないなー」

引っこ抜かれる前から派手に叫びまくるマンドラゴラっぽい何かにリーファが近づくと、不意にマリンから包み込むように抱きとめられた。

ポカンとするリーファがマリンの顔を見上げると、彼女は半笑いの表情でなんとなくそれっぽい言葉を絞り出した。

「あんま近づくと魂抜かれてまうでリーファ?」

「お前もエグいなマリン。」

「にひひ・・・言いっこなしやでリーファたん。」

何やら楽しげにもう一度ギュッと私を抱きしめてニコニコしてるや・・・こういうところはマリンもシンディーそっくりだな。

「誰でもいいから早く引っこ抜いてほしいんだよー」

「大丈夫~ティナ?すぐ引っ張り出すからね~」

「ロミア~・・・ちょっ、首持つのぐるじ~」

「よ~いしょ」

「待ってロミア。ティナの首が締まってるってば!」
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