上 下
135 / 167

琥珀色の猜疑2

しおりを挟む
「どう?聞きたくなったでしょ。」

馴れ馴れしいのが無性に忌々しい。そんなんでこちらを懐柔できるなんて思うなよ。
リーファは胡散臭いと言わんばかりの視線をジェゼーモフに向ける。

「誘拐犯の言う事なんて当てになるものか。」

「言い訳でも何でもないんだけど、私がここにいる本当の理由は誘拐のためではないのよ。」

「はっ!そんなのウソだね。お前はリアンを解放しようとする私たちの邪魔をしたじゃないか!」

「そうなの、心ならずもね~」

「のらりくらりと言い訳しやがって、よくもぬけぬけと」

顔を真っ赤にして怒りの感情をあらわにするリーファに対し、あろうことかジェゼーモフは心外とばかりに口をとがらせてブツブツ言いだす。

「だって私が出張らないと、アンタたちヴァイスに殺されてたわよ?あの子、敵対する相手にはホント容赦ないから。」

「お前だって私たちを殺そうとしたじゃないか。自分のしでかしたことを都合よく改竄すんな!」

「いや、ジェゼーモフの言ったことはウソとも言い切れない。」

リーファは煮えきらないことばかり言うスアレスをにらみつける。いろいろなことが積み重なった結果、そろそろリーファの我慢も限界に来ていた。あまりに不穏な空気にティナがあわてて割って入る。

「私もまったく納得行かないけど、全部聞いて見よう?怒るのはきっとそれからでも良いと思うんだよリーファ」

「私だってわかってる、スアレスは誰よりも信頼できる仲間だってことくらい。」

スアレスとマイクは私なんかと違って、一切の制止を振り切った上に迷わずセンダルタを飛び出したんだ。誰よりも早く救出に駆けつけた彼らと私の思いが違うなんてことあり得ない。
アイツの言葉に耳を傾けるのだって何か理由があるに違いないんだ。そもそも怒りを向けるべきは他にいる。いったん落ち着こう、仲間割れしてる場合じゃないよ。

「ジェゼーモフは一度俺たちを打ち負かしている。もしもリーファの言うことが正しいのなら、そこで俺たちを殺していたはずなんだ。」

「何だって!そんなこと・・・」

「まぁリーファは見てないもんな。知らなくたって無理ねえよ。このシンディーちゃんはスアレスとマイクがボコられてキャインキャイン負け犬してきたところに鉢合わせしたんだ。」

「シンディー・・・言い方」

あまりの言いぐさにスアレスとマイクが絶句している。

「アタシも耳を疑ったんだが、スアレスの言ったことはたぶん真実だろうな。」

しかし実際にハニカムウォールでは打撃を跳ね返すどころか逸らすことしかできなかった事実を踏まえると、あれに殺意が無かったなどとは到底リーファには信じられなかった。誰よりも仲間を守ることに気を配るリーファだからこそ、そのような結論にいたるのも無理はない。

「だってあんなゴーレムで襲いかかって」

「俺はあのゴーレムにぶん殴られたんだが・・・衝突の瞬間に巨大な拳が粉々に分解するのを見た。」

「普通はあの岩石をモロに食らったらミンチになっちまう。アタシもあのゴーレムを目の当たりにして思ったが、何でマイクは骨折だけで済んだのか首をかしげたぜ。なるほどな、そういう訳だったのかよ。」

リーファもティナも驚きのあまり言葉が出なかった。あの死闘を目の当たりにして、スアレスたちの事情を聞いた今も信じられないという気持ちでいっぱいだ。どうにも得心がいかず、ポカンとするしかない。

「そう、聞いての通り私は殺人はしない主義なのよ。人が死ぬのを見るのはまっぴら御免だわ~。」

「スアレスたちがそう言ってるんだ。私たちを殺すつもりがなかったってのは・・・あながちウソじゃないのかもな。」

「誤解が解けたようで嬉しい」

ジェゼーモフが私たちを殺そうとしたわけじゃないってのは釈然としないけど飲んでやるしかないみたいだ。

「でもまだ誘拐の件について納得のいく説明は聞かされてない。」

「そうよね、でもそんな恐い顔しちゃイヤ。」

「良いから話せよおっさん。先に進まねーだろーが」

殺意など無いと否定したばかりのジェゼーモフが殺意の波動をみなぎらせた悪鬼羅刹のような表情でシンディーを見る。

「全ワタシアンケートでブッチギリのおブス・オブ・ザ・イヤーに輝いたわ小娘。後でたっぷり可愛がってあげるから首を洗って待っていなさい。これが~天下一美容界のぉ~、おブスビューティー化宣告じゃい!」

「つくづくいらねえ情報だらけだなぁ。ロから始まる粗忽妖精ロードチャンセラーを思い出すぜ。」

「キツネなんてあのオーガもどきにやられちまえなの。」

ロードチャンセラーがシンディーの肩からひょっこり顔を出す。ジェゼーモフの目が尋常じゃなかったので捨て台詞とともにリーファのもとに避難してしまった。

「も~シンディーは黙っててほしいんだよ~」

「とにかく話を続けて」

すぐ話が横道にそれる。緊張感を緩めないように気を付けないとコイツもすぐ調子に乗るみたいだ。こちらの雰囲気に溶け込んでうやむやにされたら困る。

「ほらリーファってば、また恐い顔する~。ハイハイ、じゃあ話しますー。私は誘拐そのものには一切手を貸さない、誘拐の成否にも一切関知しないって条件で参加しているわ。」

相変わらずリーファが心を開く様子がないことにジェゼーモフはがっかりする。しかし何かおかしなことを口走っているジェゼーモフにリーファがガッツリ食いついた。

「は?じゃあ何もしないのに、ただついて来ただけってこと?」

「何もしないわけじゃなくて、役割が違うと言った方が正しいかしら?ほら、あなたたちとも戦ったし?」

ん?どういうことか理解できん。私に頭使わせるなよ。自慢じゃないがそこまで頭がよくないんだ。

「ねえ、今のどういうことティナ?」

「私にもまだわからないんだよ~」

何やら目の前の小娘二人はヒソヒソと内緒話をしている。あまりもったいぶって話すのも相手を選ぶべきなのだろう。一つ一つ丁寧に話そうとジェゼーモフはスタンスを変えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...